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26日目②※レオナード視点
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ミリアに背を向け、すたすたと歩き出したレオナードだった。けれど、向かう先は馬車ではなく彼の自室。
今回も彼の名誉の為に言っておくが、『やっぱナシ』的な感情で自室に逃げ帰るなどという逃亡行為ではない。身支度を整えるためだ。────元軍人家系らしく、それなりのものを身に付ける為に。
「ったく、今日もマジ可愛かった」
素の自分に戻ったレオナードは、上着を脱いでタイを外す。ミリアの前では、見た目の好感度をあげるために、チャラチャラした装飾の多い貴族の衣装を意識的に身に付けている。
が、実はレオナードは、こんな衣装、大の苦手であった。実用的な機能は皆無。見栄えに特化したコレは動きにくいことありゃしない。年中、稽古着で過ごしたいというのが本音であった。
…………ぶっちゃけ、その気持ちを素直に伝え、稽古着のままミリアの前に現れたなら、好感度はぐっと上がるだろう。ただそれを教えてくれるものは、残念ながらレオナードの周りには誰も居なかった。
という話は置いといて、レオナードはあっという間に元軍人家系らしい、それなりのものを身にまとった。『ミリア、マジ可愛い』を連呼しながら。
皺一つない濃紺の上着に同色のタイ。片側の肩には金の飾り緒。反対の肩にはサッシュを襷掛けにしている。ただ通常の軍服より丈が長いのは、ロフィ家オリジナル仕様ということで。
そしてこれがロフィ家の正装。いわゆる勝負服というものになる。
「さて、行くか」
そう言いながらレオナードは最後の仕上げにと、前髪を後ろに撫で付ける。そして、新品の白い手袋をはめれば、お上品な公爵家のお坊ちゃまから、凛々しい軍人に姿を変えた。
その姿は気品を残しつつも、勇ましい。ただ、これを身に付けた当の本人の心情は少々複雑なものであった。
「好きな人の父親に会うのに、この服って…………どうよ?」
確かにレオナードの言うことはどもっとも。
通常、勝負服とは、男女交際において、ここぞという場面で意中の相手の気を引くために着る服。
なのに、意中の女性に見せるどころか、本当の勝負の為に着るなんて…………という複雑な気持ちをレオナードが持つのは致し方なかった。
場所は変って、ここはホーレンス家。そしてレオナードはこの家の家長であるマークイヤーの私室に居る。
あっさりとここまで通して貰えたのはありがたい。けれど、ここまでは余興のようなもの。本番はこれからだ。
「初めまして、レオナード・ロフィです」
家長の私室に入室を許されたレオナードだが、着席の許可は与えられなかった。ちなみにこの部屋には、今現在『お前何しに来たの?』的なニュアンスを匂わす空気が充満している。
けれどこれも想定の範囲内。レオナードは『来ましたけれど、なにか?』的な空気を醸しながら、軍人の礼を取った。
「……………………」
部屋の主であるマークイヤーは、執務机に腰かけて指を組み、じっと無言のままである。
ただその顔は鬼の形相を通り越して、ラスボスにしか見えないそれ。そして、そこいらの人間なら卒倒するであろう眼力でレオナードを睨みつけたまま、おもむろに机の引き出しをあけた。
その手には、一通の手紙があった。
「ここまで来たことは褒めてやる。だが、ここへ来たということは、それ相応の覚悟を持っての事だな?」
「もちろんです」
今度はレオナードはにこりと笑みを浮かべた。まるで、相手を挑発するかのように。
ちなみに手紙の内容は、こうだった。
【貴殿のご息女の未来についてお話があります。明日、お時間を頂きたく存じます】
………………随分と簡素で、曖昧な内容である。
だが、回りくどいことを好まないマークイヤーにとっては、これで十分であった。なぜなら、マークイヤーは話し合いのテーブルに着く気など、さらさらなかったから。要は、娘を弄んだ、憎たらしい男を成敗できる絶好の機会を貰えたという認識なのだ。
ただ、マークイヤーも一応、血の通った人間。そして、軍人魂は細胞レベルで刻まれている。弱者をいたぶるのは、ポリシーに反することだった。
「一つ、確認しておくが、貴様のこの服装、見かけ倒しではないな?」
違ったら別の意味でぶっ飛ばす。
そんなニュアンスでレオナードに問いかければ、問われた方は、間髪入れずに頷いた。
「もちろんです。我が家も少し遡れは、一介の軍人であります。……………と、いっても言葉で説明するより、そちらで確認いただいたほうが早いでしょう」
そう言って、レオナードは執務机に立てかけてある剣に視線を移した。
「なるほど。自信はそこそこあるようだな………………上等だ」
ここでやっとマークイヤーは微かに微笑んだ。その微笑みは、害獣と言う名の熊を駆除する時に浮かべるもの。
ということなど知らなくても、かなりの、いや相当迫力のあるものだったが、レオナードはそよ風を受けたかのようにふわりと笑い、身体の向きを扉の方へと変えながら口を開いた。
「それでは場所を変えましょう。軍人らしい話し合いをするために」
「望むところだ」
これがお前の未来だぞと言わんばかりに、手にしていた手紙を握りつぶしたマークイヤーは、愛用の剣を手にして立ち上がった。
そして大股で廊下に出ると、付いてこいとレオナードを促す。その口元には、変わらずうっすらと笑みを浮かべてはいる。が、眼光は殺気に満ちていた。
さて、その後どうなったかというと、まず、このお話のヒーロー(?)という立ち位置にいるレオナードが死ぬことはない。もちろん、ミリアにぞっこんの彼が、彼女の父親を殺害するということもない。
と、いう訳でレオナードは当初の目的を達成することができたのだ。───それは、とある書面にサインをしてもらうということ。
それが何の書類なのかは………………このお話の核心に迫ることなので、ご想像にお任せするとしよう。
今回も彼の名誉の為に言っておくが、『やっぱナシ』的な感情で自室に逃げ帰るなどという逃亡行為ではない。身支度を整えるためだ。────元軍人家系らしく、それなりのものを身に付ける為に。
「ったく、今日もマジ可愛かった」
素の自分に戻ったレオナードは、上着を脱いでタイを外す。ミリアの前では、見た目の好感度をあげるために、チャラチャラした装飾の多い貴族の衣装を意識的に身に付けている。
が、実はレオナードは、こんな衣装、大の苦手であった。実用的な機能は皆無。見栄えに特化したコレは動きにくいことありゃしない。年中、稽古着で過ごしたいというのが本音であった。
…………ぶっちゃけ、その気持ちを素直に伝え、稽古着のままミリアの前に現れたなら、好感度はぐっと上がるだろう。ただそれを教えてくれるものは、残念ながらレオナードの周りには誰も居なかった。
という話は置いといて、レオナードはあっという間に元軍人家系らしい、それなりのものを身にまとった。『ミリア、マジ可愛い』を連呼しながら。
皺一つない濃紺の上着に同色のタイ。片側の肩には金の飾り緒。反対の肩にはサッシュを襷掛けにしている。ただ通常の軍服より丈が長いのは、ロフィ家オリジナル仕様ということで。
そしてこれがロフィ家の正装。いわゆる勝負服というものになる。
「さて、行くか」
そう言いながらレオナードは最後の仕上げにと、前髪を後ろに撫で付ける。そして、新品の白い手袋をはめれば、お上品な公爵家のお坊ちゃまから、凛々しい軍人に姿を変えた。
その姿は気品を残しつつも、勇ましい。ただ、これを身に付けた当の本人の心情は少々複雑なものであった。
「好きな人の父親に会うのに、この服って…………どうよ?」
確かにレオナードの言うことはどもっとも。
通常、勝負服とは、男女交際において、ここぞという場面で意中の相手の気を引くために着る服。
なのに、意中の女性に見せるどころか、本当の勝負の為に着るなんて…………という複雑な気持ちをレオナードが持つのは致し方なかった。
場所は変って、ここはホーレンス家。そしてレオナードはこの家の家長であるマークイヤーの私室に居る。
あっさりとここまで通して貰えたのはありがたい。けれど、ここまでは余興のようなもの。本番はこれからだ。
「初めまして、レオナード・ロフィです」
家長の私室に入室を許されたレオナードだが、着席の許可は与えられなかった。ちなみにこの部屋には、今現在『お前何しに来たの?』的なニュアンスを匂わす空気が充満している。
けれどこれも想定の範囲内。レオナードは『来ましたけれど、なにか?』的な空気を醸しながら、軍人の礼を取った。
「……………………」
部屋の主であるマークイヤーは、執務机に腰かけて指を組み、じっと無言のままである。
ただその顔は鬼の形相を通り越して、ラスボスにしか見えないそれ。そして、そこいらの人間なら卒倒するであろう眼力でレオナードを睨みつけたまま、おもむろに机の引き出しをあけた。
その手には、一通の手紙があった。
「ここまで来たことは褒めてやる。だが、ここへ来たということは、それ相応の覚悟を持っての事だな?」
「もちろんです」
今度はレオナードはにこりと笑みを浮かべた。まるで、相手を挑発するかのように。
ちなみに手紙の内容は、こうだった。
【貴殿のご息女の未来についてお話があります。明日、お時間を頂きたく存じます】
………………随分と簡素で、曖昧な内容である。
だが、回りくどいことを好まないマークイヤーにとっては、これで十分であった。なぜなら、マークイヤーは話し合いのテーブルに着く気など、さらさらなかったから。要は、娘を弄んだ、憎たらしい男を成敗できる絶好の機会を貰えたという認識なのだ。
ただ、マークイヤーも一応、血の通った人間。そして、軍人魂は細胞レベルで刻まれている。弱者をいたぶるのは、ポリシーに反することだった。
「一つ、確認しておくが、貴様のこの服装、見かけ倒しではないな?」
違ったら別の意味でぶっ飛ばす。
そんなニュアンスでレオナードに問いかければ、問われた方は、間髪入れずに頷いた。
「もちろんです。我が家も少し遡れは、一介の軍人であります。……………と、いっても言葉で説明するより、そちらで確認いただいたほうが早いでしょう」
そう言って、レオナードは執務机に立てかけてある剣に視線を移した。
「なるほど。自信はそこそこあるようだな………………上等だ」
ここでやっとマークイヤーは微かに微笑んだ。その微笑みは、害獣と言う名の熊を駆除する時に浮かべるもの。
ということなど知らなくても、かなりの、いや相当迫力のあるものだったが、レオナードはそよ風を受けたかのようにふわりと笑い、身体の向きを扉の方へと変えながら口を開いた。
「それでは場所を変えましょう。軍人らしい話し合いをするために」
「望むところだ」
これがお前の未来だぞと言わんばかりに、手にしていた手紙を握りつぶしたマークイヤーは、愛用の剣を手にして立ち上がった。
そして大股で廊下に出ると、付いてこいとレオナードを促す。その口元には、変わらずうっすらと笑みを浮かべてはいる。が、眼光は殺気に満ちていた。
さて、その後どうなったかというと、まず、このお話のヒーロー(?)という立ち位置にいるレオナードが死ぬことはない。もちろん、ミリアにぞっこんの彼が、彼女の父親を殺害するということもない。
と、いう訳でレオナードは当初の目的を達成することができたのだ。───それは、とある書面にサインをしてもらうということ。
それが何の書類なのかは………………このお話の核心に迫ることなので、ご想像にお任せするとしよう。
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初めまして、茂栖もすです。このお話は10:10に更新しています。時々20:20にも更新するので、良かったら覗いてみてください٩( ''ω'' )و
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