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22日目②
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「は?────…………ちょ、ちょっとレオナード待ってっ」
慌ててつま先をスカートに隠した私は、そのままレオナードの肩を強く揺さぶった。
「あなた、今、自分が何をしようとしたかわかっているの!?」
信じられないと驚愕する私とは対照的に、レオナードはきょとんとした顔をしている。駄目だ…………これは、懇切丁寧に教えなければ、彼の人生がおかしなことになってしまう。
「よく聞いてレオナード。跪いて足を舐める行為は、初級の変態がすることなのよ。なんであなたが、そんなことをするの?…………もしかしてレオナード、私と会っていない2日間で何かあったの!?」
最後は悲鳴のような声になってしまった私に、レオナードは、ゆっくりと瞬きを3回してから静かに口を開いた。
「つま先への口付けは、尊敬し敬う気持ちからするものだ。そして私はミリア嬢に対して、尊敬の念を抱いている。ということで別段、可笑しなことではないし、変態行為ではないだろう。それに、ミリア嬢、君が私に望んだのではないか」
「…………そりゃそうだけど…………そういう意味じゃないわ」
「じゃあ、どんな意味があったんだ?」
形勢逆転したかのように、レオナードは不機嫌な顔になってしまった。そして物凄い眼力で、私に詰め寄ってくる。.........逃げられるわけもなく、私は、しぶしぶこう答えた。
「嫌がらせ………の、つもりだったのよ」
悪戯の類を自分から暴露する程、恥ずかしいことはない。もじもじとスカートの裾をいじりながらそう白状すれば、レオナードは膝を付いたままこう言った。
「なるほど。だが、今回はそうは取れなかった」
私にとって噴水にダイブ、いやそれ以上の無茶振りだと思っていたのに。真顔でそんなことを言うレオナードが、ちょっと遠く感じてしまった。
「ところでミリア嬢、この手はどうしたんだ?」
「え?」
急に話題が変わって、短い言葉を吐いた後、目をぱちくりさせてしまう。けれど、レオナードは表情を険しいものに変え、再び問い掛けた。
「手首に包帯が巻いてある。ずっとこちらの手を庇っているから、間違いなく怪我をしてるんだろう。………ミリア嬢、誰にされた?」
そう言いながら包帯の巻かれた手首に触れようとレオナードは手を伸ばしたが、寸前のところでピタリと止めた。どうやら彼は、ちょっとでも触れたら私が痛がると思っているようだ。もうそんなには痛くないというのに。
「ちょっと兄達とぶつかっただけよ」
「痛むか?」
「もう痛くないわ。…………ふふっ」
まるで自分が怪我を負ったかのように痛みを堪えるような顔をするレオナードが可笑しくて思わず笑みが零れてしまった。アイリーンさんの時もそうだった。どうもこの人は、誰かが病気や怪我をすると、シンクロしてしまうようだ。
「笑い事じゃない、ミリア嬢。もう少し詳しく…………」
「詳しく話すことじゃないわ。ただ単に我が家が狭かったから起こった事故よ。それに、この怪我のお掛けで、私また、あなたとこうしていられるの。だからもう良いの。さ、こんなお話は終わりにしましょう」
そう。そしてそんな会話をしていても、デリックは少し離れたところから、じっとこちらの様子を伺っているし、アルバードに至っては、じわりじわりと間合いを詰めてくる。
結局、私は、今回も不本意ながら、レオナードの要求を甘んじて受けて入れてしまうようだ。
「お待たせして申し訳ないですわね、デリックさん」
一ミクロも申し訳ないとは思っていないけれど、最初の言葉が見つからないので、とりあえずそう口にしてみた。
そうすればデリックは、とんでもないといった感じで激しく首を横に振った。
「こちらこそ、お呼び立てして申し訳ありません。ミリア嬢、早速ですが聞いて欲しい話があります」
「…………な、なんでしょう」
まずは当たり障り無い世間話から入ると思いきや、いきなり本題を切り出され、不覚にも動揺が隠せない。そして、眼前の弟君も、ものっすごく動揺しているご様子。目が泳いでいるし、額の汗がハンパない。
そして、同時にごくりと唾を飲んだ瞬間、デリックは意を決したかのように、ぎゅっと拳を握りしめて、こう言った。
「実は…………父上に、あなたとレオナードの婚約の件をチクったのは、この私です」
犯人、お前かよっ。
思わず締め上げそうになる。けれど、幸い(?)私は手首を捻挫していたお陰で、デリックが絞殺死体に変ることはなかった。デリック、私の兄に感謝しろ。私は感謝しないけど。
慌ててつま先をスカートに隠した私は、そのままレオナードの肩を強く揺さぶった。
「あなた、今、自分が何をしようとしたかわかっているの!?」
信じられないと驚愕する私とは対照的に、レオナードはきょとんとした顔をしている。駄目だ…………これは、懇切丁寧に教えなければ、彼の人生がおかしなことになってしまう。
「よく聞いてレオナード。跪いて足を舐める行為は、初級の変態がすることなのよ。なんであなたが、そんなことをするの?…………もしかしてレオナード、私と会っていない2日間で何かあったの!?」
最後は悲鳴のような声になってしまった私に、レオナードは、ゆっくりと瞬きを3回してから静かに口を開いた。
「つま先への口付けは、尊敬し敬う気持ちからするものだ。そして私はミリア嬢に対して、尊敬の念を抱いている。ということで別段、可笑しなことではないし、変態行為ではないだろう。それに、ミリア嬢、君が私に望んだのではないか」
「…………そりゃそうだけど…………そういう意味じゃないわ」
「じゃあ、どんな意味があったんだ?」
形勢逆転したかのように、レオナードは不機嫌な顔になってしまった。そして物凄い眼力で、私に詰め寄ってくる。.........逃げられるわけもなく、私は、しぶしぶこう答えた。
「嫌がらせ………の、つもりだったのよ」
悪戯の類を自分から暴露する程、恥ずかしいことはない。もじもじとスカートの裾をいじりながらそう白状すれば、レオナードは膝を付いたままこう言った。
「なるほど。だが、今回はそうは取れなかった」
私にとって噴水にダイブ、いやそれ以上の無茶振りだと思っていたのに。真顔でそんなことを言うレオナードが、ちょっと遠く感じてしまった。
「ところでミリア嬢、この手はどうしたんだ?」
「え?」
急に話題が変わって、短い言葉を吐いた後、目をぱちくりさせてしまう。けれど、レオナードは表情を険しいものに変え、再び問い掛けた。
「手首に包帯が巻いてある。ずっとこちらの手を庇っているから、間違いなく怪我をしてるんだろう。………ミリア嬢、誰にされた?」
そう言いながら包帯の巻かれた手首に触れようとレオナードは手を伸ばしたが、寸前のところでピタリと止めた。どうやら彼は、ちょっとでも触れたら私が痛がると思っているようだ。もうそんなには痛くないというのに。
「ちょっと兄達とぶつかっただけよ」
「痛むか?」
「もう痛くないわ。…………ふふっ」
まるで自分が怪我を負ったかのように痛みを堪えるような顔をするレオナードが可笑しくて思わず笑みが零れてしまった。アイリーンさんの時もそうだった。どうもこの人は、誰かが病気や怪我をすると、シンクロしてしまうようだ。
「笑い事じゃない、ミリア嬢。もう少し詳しく…………」
「詳しく話すことじゃないわ。ただ単に我が家が狭かったから起こった事故よ。それに、この怪我のお掛けで、私また、あなたとこうしていられるの。だからもう良いの。さ、こんなお話は終わりにしましょう」
そう。そしてそんな会話をしていても、デリックは少し離れたところから、じっとこちらの様子を伺っているし、アルバードに至っては、じわりじわりと間合いを詰めてくる。
結局、私は、今回も不本意ながら、レオナードの要求を甘んじて受けて入れてしまうようだ。
「お待たせして申し訳ないですわね、デリックさん」
一ミクロも申し訳ないとは思っていないけれど、最初の言葉が見つからないので、とりあえずそう口にしてみた。
そうすればデリックは、とんでもないといった感じで激しく首を横に振った。
「こちらこそ、お呼び立てして申し訳ありません。ミリア嬢、早速ですが聞いて欲しい話があります」
「…………な、なんでしょう」
まずは当たり障り無い世間話から入ると思いきや、いきなり本題を切り出され、不覚にも動揺が隠せない。そして、眼前の弟君も、ものっすごく動揺しているご様子。目が泳いでいるし、額の汗がハンパない。
そして、同時にごくりと唾を飲んだ瞬間、デリックは意を決したかのように、ぎゅっと拳を握りしめて、こう言った。
「実は…………父上に、あなたとレオナードの婚約の件をチクったのは、この私です」
犯人、お前かよっ。
思わず締め上げそうになる。けれど、幸い(?)私は手首を捻挫していたお陰で、デリックが絞殺死体に変ることはなかった。デリック、私の兄に感謝しろ。私は感謝しないけど。
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初めまして、茂栖もすです。このお話は10:10に更新しています。時々20:20にも更新するので、良かったら覗いてみてください٩( ''ω'' )و
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