これは未来に続く婚約破棄

茂栖 もす

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19日目③

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 馬鹿呼ばわりされたレオナードはあからさまに、むっとした表情を浮かべるけれど、私はその言葉を訂正する気はない。だって、本当に心からレオナードのことを馬鹿だと思っているから。

 なぜかというと、私が頭に浮かんだ人物というのは、何を隠そうレオナード、本人だったりする。

 それに私は、あからさまにレオナードの特徴を語っていたのだから、てっきり彼は気づいていると思っていた。なのに、どうしてここでアルバードの名前が出てくるのだろう。わからない。どう考えてもわからない。わかるのことは、ただ一つ、レオナードが鈍感で馬鹿だということだけ。

「ミリア嬢…………確認だが、今、私のことを馬鹿と言ったか?」

 現実を認められない眼前のお坊ちゃまは、往生際悪く私にそんなことを問いかける。

「ええ、間違いなく馬鹿と言ったわ。そして私、現在進行形であなたのことを馬鹿だと思っているわ。過去形にしないで」
「なに?」

 呆れた半分、不機嫌半分でそう答えた私に、レオナードは更にむっとした表情を浮かべた。…………そんな顔をされたら、私だってムキになってしまう。

「だって、どうして今の会話の中でアルバードが出てくるのかわからないんだもの。それに、どうして私がアルバードのことを好きっていうことになるの?っていうか、やっぱりって何?あなたずっと、私がアルバードのことを好きだと思っていたの?何を根拠に?そっちこそ、私が納得できるように答えてっ」

 キッとレオナード睨みつけてそう言えば、彼は今度は不貞腐れた表情を浮かべて、こう言った。

「…………言えるかよ。そんなこと」
「じゃあ、最初っから馬鹿なことを口にしないでっ」

 ダンッとテーブルをたたき付けて立ち上がってみたけれど、これは売り言葉に買い言葉から 取ってしまった行動。

 そして、レオナードは同じ土俵に上がってはくれず、まぁ落ち着きたまえと、余裕こいた事を言う。.........なんか、それズルイ。

 それに最近レオナードは、ちょっとおかしい。急に不機嫌になったりふて腐れたりする。なんでだろう。

 そんなことを考えながらじっとレオナードを見つめれば、彼は、私の思考を読んだかのように、こう言った。とても言いにくそうに。

  「ミリア嬢、男の行動には全て意味がある。逆を言うと、意味の無い行動はしない生き物だ。それを踏まえて、良く考えてみたまえ。最近の私の行動を」
  「..........................................」

 レオナードに言われた通り、彼の最近の不可解な言動に付いて考えてみた。
 
 そして、考えてみた結果一つわかった。

 認めたくない。本っ当に認めたくないけれど、レオナードは相談と言いながら、私に胸の内を晒す気が無いということを。

 だって今までだったら、聞いてもいないのに、無駄な語彙をぎゅうぎゅう詰め込んで喋り散らかしていたというのに。最近のレオナードは遠回しな言い方ばかり。これだけ一緒に居るというのに.........。

 私達は、一体何を、何処で、すれ違ってしまったのだろう。 

「.........悪いけど、今日は帰るわね」 

 この件、すぐには答えが出ない。一旦、自宅に戻って考えよう。なにせ私は、解決できない問題を明日に持ち越すことはしない人種だから。これは時間との戦いだ。

 そう決めた私は、床に落ちたままのバターナイフを取り上げると、静かに席を立った。すると突然、レオナードが血相を変えて私の方へと回り込んで、腕を強く掴んだ。

「ミリア嬢、ケーキはどうする気だ!?」

 え?ちょっと待って。ここで引き留める理由がケーキだなんて、どうよ?…………ああ、そっか。私ケーキにつられてレオナードの相談を受けることにしたのだった。

「い…………要らなくはないけれど。あ、明日食べるわ。だから、取っておいて。良いわね?まかり間違って、捨てたりしたら、あなたをスウィーツとは一生無縁の世界に連れて行くからね」

 勢いに任せてそう言い放ったら、レオナードは若干、怯えた表情をしながらも大きく頷いてくれた。でもすぐに、こんなくだらないことを聞いてきた。

「ミリア嬢、明日は会って────」
「会うに決まっているでしょ!?っていうか、毎日会うわよ。そんなこと、イチイチ聞かないでっ」

 捨て台詞なのか何なのかわからない言葉を吐いて、去って行く私の背に、レオナードから『今日は悪かった』と意味不明な謝罪が飛んできた。

 まったくもう、中身の無い謝罪なんか要らないっ。私が欲しいのは............ん?何なのだろう。っていうか、私、レオナードに何か求めても良い立場だったっけ?

 ふと沸いた疑問は結局すぐには答えが出ず、これも持ち帰りの案件となってしまった。





 さて、勢い良く明日も会うと豪語した私だったけれど…………その約束は守れない事態となった。

 言っておくが、そうなったのは不可抗力だ。私はこの契約期間中は雨が降ろうと、槍が降ろうと、少々体調が悪くたって、レオナードに会うつもりだった。

 でも、我が家の真打、もとい、父上が領地から急遽、帰還することになれば、それはまた別の話だったりもする。
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初めまして、茂栖もすです。このお話は10:10に更新しています。時々20:20にも更新するので、良かったら覗いてみてください٩( ''ω'' )و
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