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18日目②
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アイリーンさんのお見舞い品を選ぶために街に出た私が最初に購入したのは、大きな蓋つきのバスケットだった。
そしてその中に次々とお見舞いに相応しい品々を購入しては、放り込んでいく。もちろん支払いはレオナード。なので、値札など見ずに、どんどん購入していく。
喉の痛みを和らげるシロップ。身体を温める作用のある薬膳茶。栄養価の高い果実に、新品のリネン一式。そして最後の仕上げに可愛らしいピンク色のリボンをバスケットの取っ手に括り付ければ、非の打ち所のないお見舞い品の完成。思わず『へい!おまちっ』と威勢よくレオナードに手渡してしまった。
…………けれど、レオナードは何故だか微妙な顔をしている。いや、はっきり言って、不機嫌な顔をしているのだ。
ガタゴトと揺れる車内。普段物音などしないけれど、積み上げられた贈り物の数が数だけに、僅かな揺れでも普段より物音がするのは致し方ない。
そして、そんな少々狭い車内で向き合っているレオナードは、ぶすっとした顔のまま、私に問いかけた。
「…………ミリア嬢。君はこの状況を目にして何も思わないのか?」
「そうね、ぶっちゃけ狭いわ。これも全てあなたの贈り物のセンスが皆無だったせいね」
おもむろに問いかけられてしまい、うっかり本音が漏れる。そうすればレオナード露骨にむっとした表情を浮かべた。
「そうじゃない。今、私が婚約者である君をダシに、他の女性と会いに行こうとしている。この状況について聞いているのだ」
「は?」
てっきり、無能呼ばわりされたことについて、不満をぶつけられると思いきや、そんな的外れな質問が飛んできて、思わず間の抜けた返事をしてしまった。
「は?ではなく、きちんと言葉にしてくれ」
不機嫌さを更に滲ませてレオナードは私に答えを急いてくる。いや、そんなこと言われても…………。
「アイリーンさんが、私の選んだお見舞い品を気に入ってもらえたら嬉しいなって思っているわ」
「そうじゃないっ」
「じゃあ、何なのよ!?」
的を得ない質問と、どんどん不機嫌になっていくレオナードに理不尽さを感じた私は我慢の限界を超えて声を張り上げた。
「一体、さっきから何なの?私の選んだお見舞い品がしみったれていて、ご不満なわけ!?」
思わず胸の内を吐露してしまったけれど、その勢いは止まらなかった。
「それとも、私がピンクのリボンを選んだのが気に食わないの!?ああ、まさかこのバスケットの蓋が開いているのがご不満?言っておくけれど、これは敢えて開けているのよ。チラ見せってやつよ!?それに、選んだ品はしみったれているかもしれないけれど、そのジャンルの中で一番の高価なものを選んだんだからねっ」
そこまで言って、レオナードの表情が不機嫌さから、少し寂しそうなものに変わった。ああ、勢いに任せていってしまったけれど、この馬車にある贈り物はレオナードがアイリーンさんの為を思って、ちゃんと選んだものなのだ。
私は、TPOを考えなかったことに対しては残念だと思うけれど、レオナードの気持ちを踏み荒らすつもりはなかった。
「そりゃ…………あなたの選んだ贈り物の中にコレが紛れ込んでいたら異彩を放っているわよ。わかっているわよ、それぐらい。でも、体調を崩していたら、ラッピングを開けるのだって億劫に感じるのよ。もちろん、あなたが選んだ贈り物はきっと素敵な品だと思うわ。そう思うからこそ、私、早く元気になって開けて欲しいと思ったのよ。それなのに…………」
「ミリア嬢、違うっ」
自己弁護なのか彼をフォローしているのかイマイチわからない言葉を吐いていたら、突然、レオナードの大声に遮られてしまった。
彼はもう、私と会話すらしたくないのだろうか。
「酷い.........酷いわ。レオナード............」
強い憤りと、拒絶された衝撃でこれ以上言葉が見つからず唇を噛み締める。でも、堪えきれない気持ちが溢れて、じわっと目の端に涙が滲んでしまった。
「っち、違う。そうじゃないっ」
ぐすっと鼻をすすった瞬間、レオナードは弾かれたように席を立つと、私の肩を両手で掴んだ。
「本当に…………そうじゃないんだ。君を泣かせるつもりなんて、これっぽっちもなかったんだ」
膝を付いて覗き込むレオナードは、今にも泣きそうな顔をしている。
ん?おかしい。チェフ家のご令嬢が涙したときは、あれ程冷たい視線を投げつけていたというのに。
そしてその中に次々とお見舞いに相応しい品々を購入しては、放り込んでいく。もちろん支払いはレオナード。なので、値札など見ずに、どんどん購入していく。
喉の痛みを和らげるシロップ。身体を温める作用のある薬膳茶。栄養価の高い果実に、新品のリネン一式。そして最後の仕上げに可愛らしいピンク色のリボンをバスケットの取っ手に括り付ければ、非の打ち所のないお見舞い品の完成。思わず『へい!おまちっ』と威勢よくレオナードに手渡してしまった。
…………けれど、レオナードは何故だか微妙な顔をしている。いや、はっきり言って、不機嫌な顔をしているのだ。
ガタゴトと揺れる車内。普段物音などしないけれど、積み上げられた贈り物の数が数だけに、僅かな揺れでも普段より物音がするのは致し方ない。
そして、そんな少々狭い車内で向き合っているレオナードは、ぶすっとした顔のまま、私に問いかけた。
「…………ミリア嬢。君はこの状況を目にして何も思わないのか?」
「そうね、ぶっちゃけ狭いわ。これも全てあなたの贈り物のセンスが皆無だったせいね」
おもむろに問いかけられてしまい、うっかり本音が漏れる。そうすればレオナード露骨にむっとした表情を浮かべた。
「そうじゃない。今、私が婚約者である君をダシに、他の女性と会いに行こうとしている。この状況について聞いているのだ」
「は?」
てっきり、無能呼ばわりされたことについて、不満をぶつけられると思いきや、そんな的外れな質問が飛んできて、思わず間の抜けた返事をしてしまった。
「は?ではなく、きちんと言葉にしてくれ」
不機嫌さを更に滲ませてレオナードは私に答えを急いてくる。いや、そんなこと言われても…………。
「アイリーンさんが、私の選んだお見舞い品を気に入ってもらえたら嬉しいなって思っているわ」
「そうじゃないっ」
「じゃあ、何なのよ!?」
的を得ない質問と、どんどん不機嫌になっていくレオナードに理不尽さを感じた私は我慢の限界を超えて声を張り上げた。
「一体、さっきから何なの?私の選んだお見舞い品がしみったれていて、ご不満なわけ!?」
思わず胸の内を吐露してしまったけれど、その勢いは止まらなかった。
「それとも、私がピンクのリボンを選んだのが気に食わないの!?ああ、まさかこのバスケットの蓋が開いているのがご不満?言っておくけれど、これは敢えて開けているのよ。チラ見せってやつよ!?それに、選んだ品はしみったれているかもしれないけれど、そのジャンルの中で一番の高価なものを選んだんだからねっ」
そこまで言って、レオナードの表情が不機嫌さから、少し寂しそうなものに変わった。ああ、勢いに任せていってしまったけれど、この馬車にある贈り物はレオナードがアイリーンさんの為を思って、ちゃんと選んだものなのだ。
私は、TPOを考えなかったことに対しては残念だと思うけれど、レオナードの気持ちを踏み荒らすつもりはなかった。
「そりゃ…………あなたの選んだ贈り物の中にコレが紛れ込んでいたら異彩を放っているわよ。わかっているわよ、それぐらい。でも、体調を崩していたら、ラッピングを開けるのだって億劫に感じるのよ。もちろん、あなたが選んだ贈り物はきっと素敵な品だと思うわ。そう思うからこそ、私、早く元気になって開けて欲しいと思ったのよ。それなのに…………」
「ミリア嬢、違うっ」
自己弁護なのか彼をフォローしているのかイマイチわからない言葉を吐いていたら、突然、レオナードの大声に遮られてしまった。
彼はもう、私と会話すらしたくないのだろうか。
「酷い.........酷いわ。レオナード............」
強い憤りと、拒絶された衝撃でこれ以上言葉が見つからず唇を噛み締める。でも、堪えきれない気持ちが溢れて、じわっと目の端に涙が滲んでしまった。
「っち、違う。そうじゃないっ」
ぐすっと鼻をすすった瞬間、レオナードは弾かれたように席を立つと、私の肩を両手で掴んだ。
「本当に…………そうじゃないんだ。君を泣かせるつもりなんて、これっぽっちもなかったんだ」
膝を付いて覗き込むレオナードは、今にも泣きそうな顔をしている。
ん?おかしい。チェフ家のご令嬢が涙したときは、あれ程冷たい視線を投げつけていたというのに。
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