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17日目②
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痙攣したのか頷いたのかわからないまま、レオナードは片手で顔を覆って動かなくなってしまった。…………きっと、私の拳を受け止める覚悟を決めているのだろう。そっとしておこう。
というわけで、彼の心が固まるまでの間、私は自分の身支度をこっそりとチェックする。
今日の私はデリックに会うため一張羅である水色のドレスを着ている。そう、レオナードとお見合いをした時のあのドレスだ。
出来上がった当初、こんなもの無用の長物と悪態付いたわたしだったけれど、まさかこんな風に役に立つとは思わなかった。でもクローゼットの肥やしにならなくて何よりだ。
ちなみにパラソルは、今日は曇天なので、持って来ていない。実は出掛ける直前まで悩んだけれど、置いてきて正解だった。
だってパラソルはれっきとした武器になるもの。今後の展開次第ではレオナードは弟の代わりに、私の拳と剣と化したパラソルまで受けなければならなかったのだ。曇天に感謝、感謝だ。
という、とりめもないことを考えながらドレスの胸元のリボンを結び直した私は、次いで髪に手をやる。
普段、レオナードと会う時は、髪を結うのが嫌いな私は、櫛を通しただけでおろしたままのだ。でも、今日は耳横の髪をくるりと髪飾りでまとめて、令嬢らしい髪型にしている。そして、この髪飾りは昨日、レオナードから受け取ったあの、髪飾りだったりもする。
一応私は、妙齢の女性というのに属しているけれど、リボンとか髪飾りといった、お洒落アイテムはほとんど持っていない。
なので、受け取って早々使うのはどうよ?と思ったけれど、これしかなかったので、致し方ないのだ。…………っというのは、嘘。本当は少しは持っている。でも、何となく付けてみたかったのだ。
こんな些末なことに言い訳をするなんて私らしくない。けれど、まぁ、レオナードは気づいていないようなので、こんな言い訳を使う必要も機会も無いようなので、ちょっと安心だ。
「…………そろそろ時間だけど、レオナード、大丈夫?」
一通り身支度のチェックを終えた私は、恐る恐るレオナードに問いかけた。
「ああ、大丈夫だ」
はっと我に返ったレオナードは、私に向かってゆったりと微笑んだ。良かった。どうやら、レオナードは私の拳を受け止める覚悟を決めてくれたようだ。諸々不安がある中、一つ懸念事項が減ってほっと安堵の息を漏らしてしまう。
でも、パラソルを持参していたらこうはいかなかったかもしれない。イベント事には晴天が望ましいと言われる昨今、そうでもないこともある。私はまた一つ賢くなった。
と、そんなことを考えているうちに、レオナードはアルバードと視線だけで何やら会話をしている。多分、デリックの到着の有無を確認しているのだろう。そしてその読みは正解だったようで、レオナードは一つ頷くと私に向かって声をかけた。
「弟が到着したようだ。移動しよう」
「ええ、わかったわ」
私も頷き、よしっやるかと、気合を入れるために肩をぐるりと回す。
「…………ミリア嬢、私が精一杯フォローを入れるから、そこまで気負う必要はない」
微妙な顔つきのレオナードは、きっと弟の目の前で殴られる自分の姿を想像しているのだろう。
「ふふっ、ありがとうレオナード。でもね、さっきはあんなこと言っちゃったけど、私、こう見えてそんなに短気じゃないのよ。だから安心して、レオナード」
そう言ってレオナードの不安を少しでも和らげようとしたけれど、反対に、彼はものすごく変な顔をしてしまった。
というわけで、彼の心が固まるまでの間、私は自分の身支度をこっそりとチェックする。
今日の私はデリックに会うため一張羅である水色のドレスを着ている。そう、レオナードとお見合いをした時のあのドレスだ。
出来上がった当初、こんなもの無用の長物と悪態付いたわたしだったけれど、まさかこんな風に役に立つとは思わなかった。でもクローゼットの肥やしにならなくて何よりだ。
ちなみにパラソルは、今日は曇天なので、持って来ていない。実は出掛ける直前まで悩んだけれど、置いてきて正解だった。
だってパラソルはれっきとした武器になるもの。今後の展開次第ではレオナードは弟の代わりに、私の拳と剣と化したパラソルまで受けなければならなかったのだ。曇天に感謝、感謝だ。
という、とりめもないことを考えながらドレスの胸元のリボンを結び直した私は、次いで髪に手をやる。
普段、レオナードと会う時は、髪を結うのが嫌いな私は、櫛を通しただけでおろしたままのだ。でも、今日は耳横の髪をくるりと髪飾りでまとめて、令嬢らしい髪型にしている。そして、この髪飾りは昨日、レオナードから受け取ったあの、髪飾りだったりもする。
一応私は、妙齢の女性というのに属しているけれど、リボンとか髪飾りといった、お洒落アイテムはほとんど持っていない。
なので、受け取って早々使うのはどうよ?と思ったけれど、これしかなかったので、致し方ないのだ。…………っというのは、嘘。本当は少しは持っている。でも、何となく付けてみたかったのだ。
こんな些末なことに言い訳をするなんて私らしくない。けれど、まぁ、レオナードは気づいていないようなので、こんな言い訳を使う必要も機会も無いようなので、ちょっと安心だ。
「…………そろそろ時間だけど、レオナード、大丈夫?」
一通り身支度のチェックを終えた私は、恐る恐るレオナードに問いかけた。
「ああ、大丈夫だ」
はっと我に返ったレオナードは、私に向かってゆったりと微笑んだ。良かった。どうやら、レオナードは私の拳を受け止める覚悟を決めてくれたようだ。諸々不安がある中、一つ懸念事項が減ってほっと安堵の息を漏らしてしまう。
でも、パラソルを持参していたらこうはいかなかったかもしれない。イベント事には晴天が望ましいと言われる昨今、そうでもないこともある。私はまた一つ賢くなった。
と、そんなことを考えているうちに、レオナードはアルバードと視線だけで何やら会話をしている。多分、デリックの到着の有無を確認しているのだろう。そしてその読みは正解だったようで、レオナードは一つ頷くと私に向かって声をかけた。
「弟が到着したようだ。移動しよう」
「ええ、わかったわ」
私も頷き、よしっやるかと、気合を入れるために肩をぐるりと回す。
「…………ミリア嬢、私が精一杯フォローを入れるから、そこまで気負う必要はない」
微妙な顔つきのレオナードは、きっと弟の目の前で殴られる自分の姿を想像しているのだろう。
「ふふっ、ありがとうレオナード。でもね、さっきはあんなこと言っちゃったけど、私、こう見えてそんなに短気じゃないのよ。だから安心して、レオナード」
そう言ってレオナードの不安を少しでも和らげようとしたけれど、反対に、彼はものすごく変な顔をしてしまった。
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