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15日目⑦
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その後、シェナンドからの追撃も無く、無事に馬車に乗り込んだ私たちは、同時にやれやれと安堵と疲労の息を吐いた。
「本当に、夜会って碌なもんじゃないわね」
「ああ、同感だ」
深く頷くレオナードは、ついさっきまでの荒々しい口調も粗暴な態度も感じさせない、品のある公爵家のご長男の姿だった。
それについても私はこっそり安堵の息を吐く。次いで、居住まいを正して私は向かい側に座っているレオナードに頭を下げた。
「改めて、さっきはありがとう、レオナード。助かったわ」
「いや、私こそ、君を一人にしてしまい、申し訳なかった。…………それに、こちらとしては手間が省けた」
「は?」
「いや、なんでもない」
なんだか小声で呟いたレオナードの言葉が気になったけれど、それよりも大事なことがある。
「あのね、お願いなんだけど……………今日のこと、誰にもいわないでおいてあげて」
『あげて』という私の言葉で、今しがたの一件に緘口令を引くのは、シェナンドの為のものだと気づいたレオナードは、あからさまにむっとした表情を浮かべた。
「あいつの肩を持つ気なのか?」
「いいえ、違うわ。………っていうのも、嘘になるわね。でも、人道的に公にしてあげてほしくないのよ」
そこで、ちらりとレオナードを伺い見る。表情はむっとしたまま変化なし。どうやらレオナードは彼の性癖に気づいていないようだ。なら、はっきり口に出すしかない。私だって、妙齢の女性だからこんなこと言いたくないけれど。
「あのね、シェナンドは、その………変態だったのよ」
「……………どういう種類のだ?」
「所謂、ドМってやつ」
声を潜めてそう伝えれば、レオナードは眉間を揉んで、そうだったのかと呟いた。そんな彼に、私は更に言葉を続ける。
「そういうのって、やっぱり個人の趣味趣向だし、隠したいものじゃないの?私はよくわからないけれど。あなたはわかる?レオナード」
「わかるわけないだろうっ」
食い気味に否定されてしまった。まぁ私だって逆の立場なら、即効で否定するので、これは別に気にしない。
それから、レオナードはこほんと小さく咳払いをして、私のお願いを承諾してくれた。
「まあ、そういうことなら、彼の性癖については公言しないと約束する」
「そう、ありがとう」
ぶっちゃけ、あそこまで大胆な行動に出るシェナンドのことだ。きっと私達が胸に収めたところで、彼の性癖が世間にばれるのは時間の問題だろう。でも、それは致し方ない。要は自分たちがトリガーにならなければ良いだけの話だ。
とそんなことを考えていたら、馬車の速度が緩やかになった。どうやら自宅に到着したらしい。
「ああ、もう到着したようね。わざわざ送ってくれてありがとう」
「いや、当然だろう」
そんな会話をしながら私は手早く宝石の付いたネックレスと、髪飾りを外すと、レオナードの手にねじ込んだ。
「これはさすがに返すわ。私には過ぎたるものだし。でも、ドレスとか諸々はありがたくいただいて、家宝にでもするわ。行きがけにも伝えたけれど、お母様によろしくお伝えしてね」
「ちょっと、まってくれミリア嬢」
レオナードは慌てた様子で、手にあるそれらを私につき返そうとする。いやいや、これは高価すぎる。さすがに受け取ることはできない。
そしてタイミング良く、馬車が停まったのを良いことに、私は強引に扉を開け飛び降りると、難なく地面に着地した。そして振り返って、レオナードに向かって笑みを浮かべた。
「ふふっ、今日は色々あったけれど楽しかったわ、レオナード。人生最初で最後のダンスがあなたとで、良かったって私思ってるわ」
そう、少々のトラブルがあったにせよ、楽しい一日だった。そしてレオナードも私と同じ気持ちでいてくれたらうれしい。
でも、レオナードは無言で私をじっと見つめるだけ。なんだかその視線が無性にこそばゆい。
…………ああ、そうか。そんなふうに思うのは、きっと、これも夜会の余韻せいだ。そんなことを頭の隅で思いながら、私はレオナードに向かって軽く手を上げた。
「じゃあ、おやすみなさい。あなたも疲れていると思うから早く休んでちょうだいね」
まるで捨て台詞のように一気に言い切った私は、くるりとレオナードに背を向けると一目散に自宅へと戻った。この余韻が少しでも長く続きますようにと祈りながら。
「本当に、夜会って碌なもんじゃないわね」
「ああ、同感だ」
深く頷くレオナードは、ついさっきまでの荒々しい口調も粗暴な態度も感じさせない、品のある公爵家のご長男の姿だった。
それについても私はこっそり安堵の息を吐く。次いで、居住まいを正して私は向かい側に座っているレオナードに頭を下げた。
「改めて、さっきはありがとう、レオナード。助かったわ」
「いや、私こそ、君を一人にしてしまい、申し訳なかった。…………それに、こちらとしては手間が省けた」
「は?」
「いや、なんでもない」
なんだか小声で呟いたレオナードの言葉が気になったけれど、それよりも大事なことがある。
「あのね、お願いなんだけど……………今日のこと、誰にもいわないでおいてあげて」
『あげて』という私の言葉で、今しがたの一件に緘口令を引くのは、シェナンドの為のものだと気づいたレオナードは、あからさまにむっとした表情を浮かべた。
「あいつの肩を持つ気なのか?」
「いいえ、違うわ。………っていうのも、嘘になるわね。でも、人道的に公にしてあげてほしくないのよ」
そこで、ちらりとレオナードを伺い見る。表情はむっとしたまま変化なし。どうやらレオナードは彼の性癖に気づいていないようだ。なら、はっきり口に出すしかない。私だって、妙齢の女性だからこんなこと言いたくないけれど。
「あのね、シェナンドは、その………変態だったのよ」
「……………どういう種類のだ?」
「所謂、ドМってやつ」
声を潜めてそう伝えれば、レオナードは眉間を揉んで、そうだったのかと呟いた。そんな彼に、私は更に言葉を続ける。
「そういうのって、やっぱり個人の趣味趣向だし、隠したいものじゃないの?私はよくわからないけれど。あなたはわかる?レオナード」
「わかるわけないだろうっ」
食い気味に否定されてしまった。まぁ私だって逆の立場なら、即効で否定するので、これは別に気にしない。
それから、レオナードはこほんと小さく咳払いをして、私のお願いを承諾してくれた。
「まあ、そういうことなら、彼の性癖については公言しないと約束する」
「そう、ありがとう」
ぶっちゃけ、あそこまで大胆な行動に出るシェナンドのことだ。きっと私達が胸に収めたところで、彼の性癖が世間にばれるのは時間の問題だろう。でも、それは致し方ない。要は自分たちがトリガーにならなければ良いだけの話だ。
とそんなことを考えていたら、馬車の速度が緩やかになった。どうやら自宅に到着したらしい。
「ああ、もう到着したようね。わざわざ送ってくれてありがとう」
「いや、当然だろう」
そんな会話をしながら私は手早く宝石の付いたネックレスと、髪飾りを外すと、レオナードの手にねじ込んだ。
「これはさすがに返すわ。私には過ぎたるものだし。でも、ドレスとか諸々はありがたくいただいて、家宝にでもするわ。行きがけにも伝えたけれど、お母様によろしくお伝えしてね」
「ちょっと、まってくれミリア嬢」
レオナードは慌てた様子で、手にあるそれらを私につき返そうとする。いやいや、これは高価すぎる。さすがに受け取ることはできない。
そしてタイミング良く、馬車が停まったのを良いことに、私は強引に扉を開け飛び降りると、難なく地面に着地した。そして振り返って、レオナードに向かって笑みを浮かべた。
「ふふっ、今日は色々あったけれど楽しかったわ、レオナード。人生最初で最後のダンスがあなたとで、良かったって私思ってるわ」
そう、少々のトラブルがあったにせよ、楽しい一日だった。そしてレオナードも私と同じ気持ちでいてくれたらうれしい。
でも、レオナードは無言で私をじっと見つめるだけ。なんだかその視線が無性にこそばゆい。
…………ああ、そうか。そんなふうに思うのは、きっと、これも夜会の余韻せいだ。そんなことを頭の隅で思いながら、私はレオナードに向かって軽く手を上げた。
「じゃあ、おやすみなさい。あなたも疲れていると思うから早く休んでちょうだいね」
まるで捨て台詞のように一気に言い切った私は、くるりとレオナードに背を向けると一目散に自宅へと戻った。この余韻が少しでも長く続きますようにと祈りながら。
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初めまして、茂栖もすです。このお話は10:10に更新しています。時々20:20にも更新するので、良かったら覗いてみてください٩( ''ω'' )و
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