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13日目②
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これからは始まるであろう説教に備えて私は、喉を潤す為に、カップ注がれたプアール茶を時間をかけて飲み干す。次いで、カップをソーサーに戻すと、こてんと首を横に倒して、レオナードに向かって口を開いた。
「ごちそうさまでした。さて、契約書、持っているんでしょ?出して、レオナード」
「………………あいにく今日は、持っていない」
「ほんと?」
「ああ、本当だ」
そう言ったレオナードは、わずかに視線をずらした。…………はい、所持決定。
「ぅわぁぁぁぁあっ。何をするんだミリア嬢!!」
「お黙りなさいっ」
ボールルームにレオナードの悲鳴が響いた瞬間、私はそれよりも3倍大きな声量で、一喝した。
「さっさと契約書を出さないあなたが悪いんでしょ!?」
「だからと言って、追い剥ぎをする令嬢がどこにいるんだ!?」
「ここにいるでしょ」
追い剥ぎなど、失礼千万だ。
上着の内ポケットに契約書があると睨んだ私は、テーブルを飛び越えて、レオナードの上着をむしり取ろうとしただけだ。
それにしても、上着をむしり取られたレオナードの顔が妙に赤くて、目が潤んでいるのはどういうことなのだろうか。その仕草は、まるで純潔を奪われそうになった乙女のそれだ。
自分の名誉の為に言っておくけれど、私は今の流れでは一切、レオナードの皮膚に接触していない。そして彼は上着の下にシャツも着ている。素肌が露わになったわけでもない。
それに、そもそも出し惜しみしたレオナードに問題がある。そんな気持ちもあって、ギロリと睨みつければ、レオナードは呻くように口を開いた。
「…………ミリア嬢、今の君の気持ちを聞かせてくれ」
「は?」
「男の服を剥ぎ取った心境を聞いているんだ。答えてくれ」
「…………手こずらせやがって…………ぐらいかしら?」
素直に自分の気持ちを吐露すれば、レオナードは不満げに口元を歪めた。そして『それだけか?他はないのか?』と問いを重ねてくる。
どれだけミルクレープのように重ねられても、答えは変らないので、力強く頷くことにする。そうすればレオナードは、諦めたようなちょっと残念そうな顔をして、一歩私に近づいた。
「契約書は君の読み通り、上着の中にある。でも、悪いが自分の手で出させてくれ。私は自分の持ち物を探られるのは好きではないんだ」
「その気持ちわかるわ。強引なことをしてごめんなさいね、レオナード」
要は契約の見直しができれば良いので、ここは穏便に上着を彼に返すことにする。そして、私達は無言でテーブルに着いた。
ボールルームにあるテーブルは簡易的なものなので、小ぶりのもの。
だから空いたガラスの器とか、ティータイムに花を添える為の花瓶に生けられた本当の切り花とかで、契約書を広げるスペースがない。なのでそれらを端に避けて、契約書を広げる場所を作れば、それを横目にレオナードは懐に手を入れて契約書を取り出した。
「……………さっきも言ったが、私はこの契約を見直す必要はないと思っている」
「そう、では今日はそこから話し合いましょうか」
しぶしぶと言った感じで契約書を広げるレオナード。そして、これから始まる交渉について、長丁場になることを予測して気合を入れる私。
ちなみに目の前に広げられた契約書は、一体何があったのかと心配になる程、ボロボロの状態だった。
「ごちそうさまでした。さて、契約書、持っているんでしょ?出して、レオナード」
「………………あいにく今日は、持っていない」
「ほんと?」
「ああ、本当だ」
そう言ったレオナードは、わずかに視線をずらした。…………はい、所持決定。
「ぅわぁぁぁぁあっ。何をするんだミリア嬢!!」
「お黙りなさいっ」
ボールルームにレオナードの悲鳴が響いた瞬間、私はそれよりも3倍大きな声量で、一喝した。
「さっさと契約書を出さないあなたが悪いんでしょ!?」
「だからと言って、追い剥ぎをする令嬢がどこにいるんだ!?」
「ここにいるでしょ」
追い剥ぎなど、失礼千万だ。
上着の内ポケットに契約書があると睨んだ私は、テーブルを飛び越えて、レオナードの上着をむしり取ろうとしただけだ。
それにしても、上着をむしり取られたレオナードの顔が妙に赤くて、目が潤んでいるのはどういうことなのだろうか。その仕草は、まるで純潔を奪われそうになった乙女のそれだ。
自分の名誉の為に言っておくけれど、私は今の流れでは一切、レオナードの皮膚に接触していない。そして彼は上着の下にシャツも着ている。素肌が露わになったわけでもない。
それに、そもそも出し惜しみしたレオナードに問題がある。そんな気持ちもあって、ギロリと睨みつければ、レオナードは呻くように口を開いた。
「…………ミリア嬢、今の君の気持ちを聞かせてくれ」
「は?」
「男の服を剥ぎ取った心境を聞いているんだ。答えてくれ」
「…………手こずらせやがって…………ぐらいかしら?」
素直に自分の気持ちを吐露すれば、レオナードは不満げに口元を歪めた。そして『それだけか?他はないのか?』と問いを重ねてくる。
どれだけミルクレープのように重ねられても、答えは変らないので、力強く頷くことにする。そうすればレオナードは、諦めたようなちょっと残念そうな顔をして、一歩私に近づいた。
「契約書は君の読み通り、上着の中にある。でも、悪いが自分の手で出させてくれ。私は自分の持ち物を探られるのは好きではないんだ」
「その気持ちわかるわ。強引なことをしてごめんなさいね、レオナード」
要は契約の見直しができれば良いので、ここは穏便に上着を彼に返すことにする。そして、私達は無言でテーブルに着いた。
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だから空いたガラスの器とか、ティータイムに花を添える為の花瓶に生けられた本当の切り花とかで、契約書を広げるスペースがない。なのでそれらを端に避けて、契約書を広げる場所を作れば、それを横目にレオナードは懐に手を入れて契約書を取り出した。
「……………さっきも言ったが、私はこの契約を見直す必要はないと思っている」
「そう、では今日はそこから話し合いましょうか」
しぶしぶと言った感じで契約書を広げるレオナード。そして、これから始まる交渉について、長丁場になることを予測して気合を入れる私。
ちなみに目の前に広げられた契約書は、一体何があったのかと心配になる程、ボロボロの状態だった。
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初めまして、茂栖もすです。このお話は10:10に更新しています。時々20:20にも更新するので、良かったら覗いてみてください٩( ''ω'' )و
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