32 / 114
8日目④
しおりを挟む
顎に手を当てながら小さくうーんと悩み声を上げるレオナードに、私は苛つきを通り越して溜息を付いてしまった。
「レオナード、あなた、まだ心配事があるの?きちんと説明したつもりだったけれど、これでも納得できないなら、もうそれは強迫性障害の疑いがあるわよ。一回診察受けてみたら?独りで行くのが不安なら、私、付き合ってあげるわよ。それに、チップによって口の堅さが変わる医者を紹介するわ。あなた程の身分の人間が渡すチップなら、その医者、間違いなく爪を剥がされても、足の指を潰されても、きっと口を割ることはないわ。安心して」
「相変わらずの肺活量だな。ついでに言えば、なぜ励ましから物騒な内容に変わるんだ?というか、なぜ私が要診察扱いになっているんだ?………いや、今はそれは良い。まず私の方は問題ない。このまま粛々とことを進めさせてもらう。ただ……………」
「ただ?」
「なぜ、ミリア嬢は憂いているんだ?私達と同様、君も父上の帰還前に渡航するなら、こんな手紙、気にしなければ良いだけの話ではないか?」
思わぬ正論に、うっと言葉が詰まる。レオナードの言うことはもっともだ。
そう、こんなもの無視すればいいだけの話だ。でも、たかが手紙、されど手紙だったりもする。
長年、父上の支配下で生活していると、文字を見ただけでも、面と向かって命令されているような気分になってしまうのだ。だから破り捨てたい手紙でも、握りつぶすまでしかできなかったりもする。
これは理屈で説明できるものではない。卑屈になってしまった私の性格に問題がある。
「それはそうなんだけどね…………まぁ、なんていうか………その………」
「条件反射と長年の習慣による思い込み、か?」
珍しく言葉を濁す私に、レオナードが伺うように手助けする。ドンピシャとまでは言えないけれど、なかなか的を得た言葉に、私は素直に頷いた。
「なるほど。つまりミリア嬢が落ち込んでいるのは、ただ単に父君からの手紙をもらって、テンションが落ちているだけなのか?」
『だけ』と、聞かれると、なぜか素直に認めたくはない。けれど、反論しない私を見て、レオナードは是と認識したようだ。そして、表情を一変させると、爽やかな笑顔を私に向けた。
「なら、君が元気を取り戻す、良い方法がある」
「え?」
長い間、父上への苛立ちを解消する方法を見つけられなかったというのに、出会って10日そこらしか経っていないレオナードは、いとも簡単に見つけたというのか。舐めんなよと言いたいけれど………ま、まぁ………聞くだけは聞いてみよう。っていうか知りたい
「教えて、レオナード」
「簡単なことだ。私に思う存分、愚痴を吐けばいい」
「ん?」
ちょっと間抜けな声を出した私に、レオナードは嫌な顔をせず説明を始めた。
「どうにもならない、且つ、時間を置けば解決する問題なら、溜まったイライラを口に出せばスッキリする。知らないのか?愚痴を吐くというのは一種のセラピーだ。普段ミリア嬢には、何かと世話になっているからな。今日は私に向かって愚痴を存分に吐き出したまえ」
「………………」
あんぐりと口を開けて固まってしまった。
だって【女の愚痴は長くて、うんざりするもの】が世の常識だ。なのに、目の前のお貴族様は、それを知っていて、どうぞと言ってくれている。何なのこの人………。
蟻のような狭小の心の持ち主だと思っていたけれど、レオナードは私の想像の500倍、包容力のある人だった。
「レオナード、あなた、まだ心配事があるの?きちんと説明したつもりだったけれど、これでも納得できないなら、もうそれは強迫性障害の疑いがあるわよ。一回診察受けてみたら?独りで行くのが不安なら、私、付き合ってあげるわよ。それに、チップによって口の堅さが変わる医者を紹介するわ。あなた程の身分の人間が渡すチップなら、その医者、間違いなく爪を剥がされても、足の指を潰されても、きっと口を割ることはないわ。安心して」
「相変わらずの肺活量だな。ついでに言えば、なぜ励ましから物騒な内容に変わるんだ?というか、なぜ私が要診察扱いになっているんだ?………いや、今はそれは良い。まず私の方は問題ない。このまま粛々とことを進めさせてもらう。ただ……………」
「ただ?」
「なぜ、ミリア嬢は憂いているんだ?私達と同様、君も父上の帰還前に渡航するなら、こんな手紙、気にしなければ良いだけの話ではないか?」
思わぬ正論に、うっと言葉が詰まる。レオナードの言うことはもっともだ。
そう、こんなもの無視すればいいだけの話だ。でも、たかが手紙、されど手紙だったりもする。
長年、父上の支配下で生活していると、文字を見ただけでも、面と向かって命令されているような気分になってしまうのだ。だから破り捨てたい手紙でも、握りつぶすまでしかできなかったりもする。
これは理屈で説明できるものではない。卑屈になってしまった私の性格に問題がある。
「それはそうなんだけどね…………まぁ、なんていうか………その………」
「条件反射と長年の習慣による思い込み、か?」
珍しく言葉を濁す私に、レオナードが伺うように手助けする。ドンピシャとまでは言えないけれど、なかなか的を得た言葉に、私は素直に頷いた。
「なるほど。つまりミリア嬢が落ち込んでいるのは、ただ単に父君からの手紙をもらって、テンションが落ちているだけなのか?」
『だけ』と、聞かれると、なぜか素直に認めたくはない。けれど、反論しない私を見て、レオナードは是と認識したようだ。そして、表情を一変させると、爽やかな笑顔を私に向けた。
「なら、君が元気を取り戻す、良い方法がある」
「え?」
長い間、父上への苛立ちを解消する方法を見つけられなかったというのに、出会って10日そこらしか経っていないレオナードは、いとも簡単に見つけたというのか。舐めんなよと言いたいけれど………ま、まぁ………聞くだけは聞いてみよう。っていうか知りたい
「教えて、レオナード」
「簡単なことだ。私に思う存分、愚痴を吐けばいい」
「ん?」
ちょっと間抜けな声を出した私に、レオナードは嫌な顔をせず説明を始めた。
「どうにもならない、且つ、時間を置けば解決する問題なら、溜まったイライラを口に出せばスッキリする。知らないのか?愚痴を吐くというのは一種のセラピーだ。普段ミリア嬢には、何かと世話になっているからな。今日は私に向かって愚痴を存分に吐き出したまえ」
「………………」
あんぐりと口を開けて固まってしまった。
だって【女の愚痴は長くて、うんざりするもの】が世の常識だ。なのに、目の前のお貴族様は、それを知っていて、どうぞと言ってくれている。何なのこの人………。
蟻のような狭小の心の持ち主だと思っていたけれど、レオナードは私の想像の500倍、包容力のある人だった。
0
初めまして、茂栖もすです。このお話は10:10に更新しています。時々20:20にも更新するので、良かったら覗いてみてください٩( ''ω'' )و
お気に入りに追加
961
あなたにおすすめの小説

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです
じじ
恋愛
「あんな女、金だけのためさ」
アリアナ=ゾーイはその日、初めて婚約者のハンゼ公爵の本音を知った。
金銭だけが目的の結婚。それを知った私が泣いて暮らすとでも?おあいにくさま。あなたに恋した少女は、あなたの本音を聞いた瞬間消え去ったわ。
私が金づるにしか見えないのなら、お望み通りあなたのためにお金を用意しますわ…ただし、利子付きで。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる