これは未来に続く婚約破棄

茂栖 もす

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7日目④

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 さてさて、深い所に沈んでしまったレオナードが浮上するのは、あとどれぐらい時間が必要なのだろうか。

 ショック療法で、もう一度心臓が止まりそうな事でも言えば良いのだろうか。けれど、それにはリスクが伴う。本当に、彼が臨終したらシャレにならない。うん、まぁ………仕方が無い。放っておこう。

 そんなことより私は、レオナードに苦言を呈する事を言わなければならない。

 ちょっとこのタイミングで言うのは酷じゃね?と思うけれど、鮮度が大事な時もあるのだ。

「あと、余計なお世話だと思うけれど、好きな人がいるのに、異性にこういう贈り物をしようとしない方が良いわよ。もし仮に、アイリーンさんが、あなたが私と宝石店に居たなんて知ったら、気分が良くないと思うわ」
「そんなものなのか?」

 さすが一途と豪語するレオナードだ。彼女の名前を出した途端、一気に浮上してくれた。それは何よりだ。でも、彼の質問については私も首を捻ってしまう。

「そりゃ、まぁ………そういうもんじゃないの?女心って複雑だから」

 私も一応、女心というものを持っているけれど、使用したことが一度もないので良く分からない。でも、これは世間一般の考えから逸れてはいないはず。

 そして、苦言を呈されたレオナードも、納得はしてないが、そういうものかと受け止めている。まぁ要は、次から気を付ければ良いという案件なので、これでこの話は終わりにしよう。

 ということで、私は、はいおしまい!という感じに両手をパンッと軽く打ち鳴らして口を開いた。

「じゃあ私、今日は帰るわね。あ、送ってもらわなくて大丈夫。ちゃんと辻馬車を拾って帰るから」

 そう言って、中腰で椅子から立ち、扉を開けようとした。けれど───。

「ちょっと待て、屋敷に君の為のスウィーツを用意してあるんだ」

 と、慌てた様子で、レオナードが私を引き留めた。

 お菓子で釣るという選択は間違っていない。でも、今日はさすがに、このまま一緒に居るのは気まずい。一応、毎日顔を会わせるという契約は守ったので、このままお暇させてもらおう。

「悪いけど、それ、明日に回してちょうだい。万が一、捨てたら、あなたを地中に埋めるからね」
「………君の為のスウィーツをどうするかなんて、私にはそんな権限はない。でも本当に良いのかミリア嬢。今日のスウィーツは、異国の素材を使った新作だ」

 最後の一文に、扉を開けようとする手が止まった。

「な、なんですと?」

 真相を探るように硬い口調で問いかければ、レオナードは足を組み替えながら、ニヤリと笑みを浮かべた。

「ふっ、我が家のシェフも、やりおるのだ、ミリア嬢。君の舌を唸らせる為に、毎日毎晩、試行錯誤を繰り返している。もうその姿は、パティシエと呼んでもおかしくないくらいだ。いやシェフティエと呼ばせてもらおう。そして、そのシェフティエが作った新作スウィーツは、東洋の緑のお茶を使用したシフォンケーキだ」
「………ほう」

 シェフティエという言葉に、思わずダサッと言いたくなるが、何とか喉の奥に押し込める。

 それにしても、その新作ものすごく魅力的だ。もう少し詳しく聞きたい。

 ただ、ついさっき、お灸をすえた側からすると、急に甘いものに食いつくのは、きまりが悪い。という訳で、ちょっと高飛車な態度で続きを促す。

「シェフ曰く、一口、食べればオリエンタルな独特の香りと、鼻に抜け。一拍遅れて、あっさりとした甘みとほんのりと大人の苦みが口に広がり、そしてふわふわの触感がたまらない。だそうだ」

 その説明だけで、その緑のお茶の菓子が絶品だということが用意に想像がつく。食べたい…………是が非でも、食べたい。

「ミリア嬢、我が家に寄っていくか?」

 まるで私の心を見透かしたかのように、レオナードが絶妙なタイミングで問うてくる。

 それに、頷くことはしなかった。けれど、今日もまた、じゅるりと唾を飲みこめば、レオナードはそれを答えだと受け取ったようで、窓を叩き、御者に合図を送る。

 そして私達を乗せた馬車は、新作スウィーツが待つ、彼の屋敷を目指して、静かに走り出した。
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初めまして、茂栖もすです。このお話は10:10に更新しています。時々20:20にも更新するので、良かったら覗いてみてください٩( ''ω'' )و
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