これは未来に続く婚約破棄

茂栖 もす

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3日目②

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 ロフィ家の馬車は、乗り心地が良いし、座り心地も良い。まったく揺れを感じないのは、御者の腕も良いのだろう。我が家の馬車とは雲泥の差だ。

 どうでもいいけど、我が家には馬車が一台しかない。貴族が馬車を一台しか所有していないなんて、貧乏を通り越して憐憫の目を向けられる案件だ。だが、我が家は財政難で馬車が一台しかないのではなく、ただ単に一台でこと足りるのであった。

 まず、父と兄二人は馬車に乗らない。移動の際は、直接馬に乗るか、駆け足だ。これは父上の教育方針から来ているもの。でも、兄たちは別段不満などなく日々を過ごしている。父は自分が言い出したことなので、もちろん不平不満など口にする訳がない。

 そんな訳で、我が家の馬車は、ほぼ母さま専用として使われている。といっても、母さまもあまり外出しないので、我が家で馬車が足りなくて困った、という事態には未だかつてなったことがない。

 ちなみに、現在領地を視察中の父は、単身馬で乗り付けている。馬車の窓からちらりと見える父の姿ですら怖いのに、領地の皆さんには、がっつり父の姿を目にしている訳で、それは少々申し訳ない気持ちになる。

 と、まぁそんなどうでもいいことをつらつらと考えているのには訳がある。

 目の前の、婚約者………もとい、共犯者が気持ち悪いのだ。

 さっきから、窓に映る自分の姿を確認して、何度も髪の毛を直したり、胸元のタイを締めなおしている。時折私に向かって【どう?】【変じゃない?】と聞いてくる。お前の行動が変だ、など素直に口にしたいところだが、ここは無難に【別に】【普通】と返してあげている。それでもレオタードは不満そうであるが、ご機嫌取りは契約外なので無視をさせてもらっている。

「───そろそろ、街に到着するが、君は適当に買い物をして帰ってくれ」

 見た目は何一つ変わってないけれど、やっとレオナードは気が済んだのだろう。

 椅子に置いていた彼女さんへの贈り物であろうバラの花束を膝に置き、私に向かって口を開いた。

 就業時間は短いことに越したことがない私は、素直に了解と頷いてみせる。そうすればレオナードは、にこりと笑みを浮かべ再び口を開いた。

「店で気に入ったものがあれば、私の名前を出せば良い」
「へぇー、ツケ払いできるのね、さすがロフィ家様ね」
「………褒められているのか、けなされているのか、わかりかねるが、まぁ、気にしないでおく。君も一応貴族令嬢なんだ。侍女もつれず、気軽に街に足を向けることができないだろう?今日は、楽しく過ごしてくれ」
「………………」

 無言でいるのは、別にレオナードの物言いに腹を立てているからではない。生活環境の違いに驚きすぎて言葉を失ってしまったからだ。

 だって、私、貴族令嬢かもしれないけれど、普通に買い物に来てるよ?侍女いるけど、気にせず一人で買い物しちゃうよ!?っていうか、うちの侍女、出無精だから基本屋敷にずっといるよ?

 …………なんてことを赤裸々に口にしたら、レオナードはどういう反応をするのだろうか。

 まぁ我が家の方が常軌を逸脱しているのはわかっているので、それを押し付けるのは間違っているだろう。うん、世の中には知らなくても良いことが沢山ある。これはそのカテゴリに含まれるものだから、黙って頷いておこう。

「レオナード、お気遣いありがとう。私も楽しく過ごさせてもらうわ。あなたにとっても、素敵な時間になることを祈っているわ」

 無難な言葉とともにそう微笑んでみれば、レオナードは信じられないといった風に目を丸くした。

「息が詰まるような毒舌か、三日三晩うなされそうな嫌味が飛んでくるかと思いきや、君からそんなまともなことを言われると、かえって恐ろしく感じるのはどうしてだろう」

 邪気の無い表情でそう言われ、彼の眼に映る自分は一体どんな怪物に映っているんだろうと首を捻る。

「言っておくけれど、私、至って普通の人間よ。レオナード」
「………………………」

 そう言えば、彼はもう目的地まで私と目を合わせることなく、ずっと窓に映る景色を眺めていた。
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初めまして、茂栖もすです。このお話は10:10に更新しています。時々20:20にも更新するので、良かったら覗いてみてください٩( ''ω'' )و
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