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1日目④
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「わかったわ。人助けもたまにはした方が良いわよね」
まかり間違っても、スウィーツに惹かれたなど気付かれてはいけない。けれど、じゅるりと唾を飲みこんだのをしっかりと見られてしまい、レオナードに君も所詮は女の子なんだな、などどいう屈辱的なことを言われてしまった。
………………別に粋がって女性であることを否定して生きたいわけではない。ただ、目の前の男のほうがよっぽど乙女であり、そんな、なよなよした人間に馬鹿にされたのが許せないだけだ。
「では、あなたの誠意とやらを見せてくださいませ」
意趣返しに、私はにこりと笑みを向けて、手のひらで庭にある建造物を指した。
「あそこで、軽く泳いできてください。幸い気候は暖かいので、風邪を引く心配はありませんわ」
あそことは、庭にある大きな噴水のこと。我が家にも一応噴水らしきものはあるが、兄二人が、鍛錬の後にシャワー代わりに飛び込むので、噴水として用をなしたことは一度もない。毎朝、豪快な水しぶきは目にするけど、優美さとはかけ離れたものだ。
………という、そんなどうでもいいことは置いといて、これは意趣返しでもあるけれど、公爵家のご長男が噴水に飛び込む姿を純粋に見てみたいという私のお願いでもあったりする。が、しかし、レオナードは綺麗な所作で、私に頭を下げた。
「周りの目もある、それだけは勘弁してくれ。君と偽装婚約をする前に、私は病院に強制入院させられてしまう」
ああ、それはちょっと私も困る。せっかくの資金調達の目途がたったというのに、おじゃんにするには、もったいない。
「冗談よ、レオナードさま。真に受けるなんて、可愛らしいわね」
青ざめるレオナードに可憐にウィンクをすれば、彼はこの世の終わりのような溜息を付いた。けれど、すぐ軽く頭を振って、気持ちを切り替えた。
「では、君から承諾を得た事だし、一気に話を詰めていこう」
そう言いながら自分の懐に手を入れて、紙とペンを取り出した。どうやら、契約書でも作成するらしい。
「用意周到だし、何だか計画的ね」
思わず呟けば、レオナードはふんっと鼻で笑った。
「当たり前だ。何事も段取り8分という言葉があるだろう?君と違って、僕は頭を使う人間なんだ」
コイツ、なぜこうも息をするように私を苛立たせることを言うのだろう。この調子で1ヶ月毎日顔を会わせるのは少々きつい。
「ねぇレオナード様、契約書の最初の一文は私に決めさせてくださいな」
「どういった内容かまずは聞かせてくれ」
「ええ。レオナードさま。あのね、今からお互い身分の差を失くして、タメ口にしましょう。これが最低条件。文句ないよね?」
「あ………ああ、もちろんだ。ミリア嬢」
「でもね、レオナード、あなたが勝手に私のことを敬うのは全然アリだからっ」
「………………そうか」
途中からタメ口になった私に、何か言いたげだったレオナードだが、それを声に出すことはせず、黙々とペンを走らせた。
【契約事項】
・契約期間中は、互いの身分に関係なく対等なものとする。従って言葉使いには特に制限をもつことはしない。
・互いに偽装婚約であることについては他言無用とする。万が一、吐露した場合、罰則又は社会的制裁を加えるものとする。
・互いに恋愛感情を持つことなく、定められた期間において婚約者のように振舞うこと。
・期間は一ヶ月。場合によって短縮される場合もある。延長は無し。ただし、契約期間が短縮されたとしても、報酬は満額支払うことにする。
・勤務に関しては、基本的に毎日顔を会わせることにする。病気、怪我、天災においてやむを得ず欠席する場合は、侍女又は執事を使い文にて連絡すること。
・婚約期間中の出費に関しては全てロフィ家が負担するものとする。
・婚約期間中、互いの家族との接触は一切行わないことにする。侍女又は執事、お呼びロフィ家の次男は例外とする。
・上記の補足として、互いの友人との接触もしないことを追記する。双方、相手の負担とならぬよう、且つ友人関係に軋轢が産まないよう対処すること。
「こんなもんでどうだ?」
一気に書き連ねた手書きの契約書を私に突き出したレオナードは、一仕事終えたような顔をして額の汗を拭った。
「まぁ………いいんじゃないって、ちょっと待って。7行目のここ、なぜあなたの弟は例外に含まれているの?」
手渡された契約書をひっくり返して、レオナードに突き付ければ、彼の眉がちょっと上がった。
「弟のデリックは、私の彼女の仲を引き裂こうとしているんだ。だから、一度くらい君を私の婚約者だと紹介する必要がある」
「なるほどね」
毎日顔を会わせながらスウィーツ三昧はさすがに気が引けるので、これぐらいは承諾しなければならないだろう。
あとは、堅苦しい文面だけれど、要は毎日レオナードと顔を会わせれば、渡航費諸々の工面ができるという話。うん、本当に超が付くほど楽な仕事だ。
そして私は、今日にでもナナリーに渡航する予定の目途が立ったと手紙を出せば、来月の今頃には昨日口にしたグッバイ貴族社会のセリフを再び吐けるわけだ。
うんうん、悪くない話。いや、かなり棚ぼた的な良い話だ。
まかり間違っても、スウィーツに惹かれたなど気付かれてはいけない。けれど、じゅるりと唾を飲みこんだのをしっかりと見られてしまい、レオナードに君も所詮は女の子なんだな、などどいう屈辱的なことを言われてしまった。
………………別に粋がって女性であることを否定して生きたいわけではない。ただ、目の前の男のほうがよっぽど乙女であり、そんな、なよなよした人間に馬鹿にされたのが許せないだけだ。
「では、あなたの誠意とやらを見せてくださいませ」
意趣返しに、私はにこりと笑みを向けて、手のひらで庭にある建造物を指した。
「あそこで、軽く泳いできてください。幸い気候は暖かいので、風邪を引く心配はありませんわ」
あそことは、庭にある大きな噴水のこと。我が家にも一応噴水らしきものはあるが、兄二人が、鍛錬の後にシャワー代わりに飛び込むので、噴水として用をなしたことは一度もない。毎朝、豪快な水しぶきは目にするけど、優美さとはかけ離れたものだ。
………という、そんなどうでもいいことは置いといて、これは意趣返しでもあるけれど、公爵家のご長男が噴水に飛び込む姿を純粋に見てみたいという私のお願いでもあったりする。が、しかし、レオナードは綺麗な所作で、私に頭を下げた。
「周りの目もある、それだけは勘弁してくれ。君と偽装婚約をする前に、私は病院に強制入院させられてしまう」
ああ、それはちょっと私も困る。せっかくの資金調達の目途がたったというのに、おじゃんにするには、もったいない。
「冗談よ、レオナードさま。真に受けるなんて、可愛らしいわね」
青ざめるレオナードに可憐にウィンクをすれば、彼はこの世の終わりのような溜息を付いた。けれど、すぐ軽く頭を振って、気持ちを切り替えた。
「では、君から承諾を得た事だし、一気に話を詰めていこう」
そう言いながら自分の懐に手を入れて、紙とペンを取り出した。どうやら、契約書でも作成するらしい。
「用意周到だし、何だか計画的ね」
思わず呟けば、レオナードはふんっと鼻で笑った。
「当たり前だ。何事も段取り8分という言葉があるだろう?君と違って、僕は頭を使う人間なんだ」
コイツ、なぜこうも息をするように私を苛立たせることを言うのだろう。この調子で1ヶ月毎日顔を会わせるのは少々きつい。
「ねぇレオナード様、契約書の最初の一文は私に決めさせてくださいな」
「どういった内容かまずは聞かせてくれ」
「ええ。レオナードさま。あのね、今からお互い身分の差を失くして、タメ口にしましょう。これが最低条件。文句ないよね?」
「あ………ああ、もちろんだ。ミリア嬢」
「でもね、レオナード、あなたが勝手に私のことを敬うのは全然アリだからっ」
「………………そうか」
途中からタメ口になった私に、何か言いたげだったレオナードだが、それを声に出すことはせず、黙々とペンを走らせた。
【契約事項】
・契約期間中は、互いの身分に関係なく対等なものとする。従って言葉使いには特に制限をもつことはしない。
・互いに偽装婚約であることについては他言無用とする。万が一、吐露した場合、罰則又は社会的制裁を加えるものとする。
・互いに恋愛感情を持つことなく、定められた期間において婚約者のように振舞うこと。
・期間は一ヶ月。場合によって短縮される場合もある。延長は無し。ただし、契約期間が短縮されたとしても、報酬は満額支払うことにする。
・勤務に関しては、基本的に毎日顔を会わせることにする。病気、怪我、天災においてやむを得ず欠席する場合は、侍女又は執事を使い文にて連絡すること。
・婚約期間中の出費に関しては全てロフィ家が負担するものとする。
・婚約期間中、互いの家族との接触は一切行わないことにする。侍女又は執事、お呼びロフィ家の次男は例外とする。
・上記の補足として、互いの友人との接触もしないことを追記する。双方、相手の負担とならぬよう、且つ友人関係に軋轢が産まないよう対処すること。
「こんなもんでどうだ?」
一気に書き連ねた手書きの契約書を私に突き出したレオナードは、一仕事終えたような顔をして額の汗を拭った。
「まぁ………いいんじゃないって、ちょっと待って。7行目のここ、なぜあなたの弟は例外に含まれているの?」
手渡された契約書をひっくり返して、レオナードに突き付ければ、彼の眉がちょっと上がった。
「弟のデリックは、私の彼女の仲を引き裂こうとしているんだ。だから、一度くらい君を私の婚約者だと紹介する必要がある」
「なるほどね」
毎日顔を会わせながらスウィーツ三昧はさすがに気が引けるので、これぐらいは承諾しなければならないだろう。
あとは、堅苦しい文面だけれど、要は毎日レオナードと顔を会わせれば、渡航費諸々の工面ができるという話。うん、本当に超が付くほど楽な仕事だ。
そして私は、今日にでもナナリーに渡航する予定の目途が立ったと手紙を出せば、来月の今頃には昨日口にしたグッバイ貴族社会のセリフを再び吐けるわけだ。
うんうん、悪くない話。いや、かなり棚ぼた的な良い話だ。
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初めまして、茂栖もすです。このお話は10:10に更新しています。時々20:20にも更新するので、良かったら覗いてみてください٩( ''ω'' )و
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