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28日目①
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.。*゚+.*.。 28日目 ゚+..。*゚+
「単刀直入に聞きます。兄が昨日から戻ってきません。お心当たりは?」
「あら、わたくしのところには、いませんわ。お友達のところにでも行かれたのでは?」
「いいえ、手当たり次第に探しましたが、消息は掴めていません」
「あらあら、怖いですわね。何かあったのかしらぁ。警察にでも通報されたらいかがですか?」
「すでに手配済み…………と、言いたいところですが、父に止められました」
「まぁ、そうなんですか。なら、きっといつか戻ってくるでしょうね。わたくしたちはそれを信じて待ちましょう。デリックさん」
「待つ?悠長なことおっしゃいますね。婚約者が居なくなったとうのに、年頃の淑女がそんなふうに言うと思いますか?」
「あ゛?」
「いっいえ。なんでもありません。…………と、言いたいところですが。はっきり申し上げます。婚約者が行方不明になったのに、あなたは、まったく動揺してませんね。あと、演技下手過ぎます」
「……………………」
「茶番はやめましょう。ミリア殿。あなたは、こうなることを全て知っていた。これは計画的なことなんですよね」
「……………………」
さてここで問題です。私は今、何に一番腹を立てているでしょう?
① 往生際悪く、ぐだぐだと私を問い詰めるデリックに。
② 渾身の演技を下手過ぎと言われたことに。
③ 一番厄介な弟の後処理を押し付けられたことに。
答えは、④の『二度と足を向けることはないと思っていたロフィ家に居る』ことです。
え?選択は3までしかなかった?いやいや、与えられた選択肢の中から選べとは、一言も申しておりません。
人間いつ如何なる時も、視野を広く持ち、どんな状況においても冷静に判断しなければならないのです。そして私も現在進行形で、このよくわからない状況を打破しようと必死に模索している状況なのであります。
……………おわかりいただけましたでしょうか?東屋の天使さん。
だからお願いです。どうか私を『どのツラ下げて』的な目で見るのは、やめて下さい。私だっておセンチ気分全開で別れを告げたのに、何事もなかったかのようにこの場所に居るのはとっても辛いのです。いたたまれないこと、この上ないのです。
そう必死こいて東屋の天使さん達に訴えてみる。けれど、天使さん達の表情は動かなかった。ああ、そういえば天使さん達は人間じゃなかった。なら、仕方がない。
「───聞いておられますか?ミリア殿」
「………聞いてますわよ。デリックさん」
BGM程度にはね。
という最後の言葉は口にしなかった。けれど、だだくさに返事をしてしまったせいで、彼にはしっかり伝わってしまったようだ。眼前の弟君は、あからさまに眉間に皺を刻んだ。
「とにかく、兄の居場所を教えてください」
「いや、だから知りませんよ」
「………………………………」
今度はジト目で睨まれてしまった。
でも、そんな顔をされても困る。だって、本当に私はレオナードの行き先を知らないのだ。ふんわりとしか。でも、ふんわりとしか知らないのは、ほぼほぼ知らないと同じなので、私は嘘は付いていない。
「睨まれようが、怒鳴られようが、知らないものは知らないんです。あっ、殴りたければどうぞ。ただ、あなたが屍になる勇気があるなら、ね?っていうか、知ったところで、どうするんですか?デリックさん」
「大変失礼な態度をとってしまい申し訳ありません。お詫びの言葉も見つかりません。そして、兄の行方がわかったら、連れ戻すだけです」
あれ?私、質問を2つしたつもりだったけど、1個はスルー?
なんていう疑問が浮かんだけれど、コロッと態度を変えたデリックを見て、それが返答だったのかと結論付ける。ただ、下の句の弟君の答えに対しては、少々思うところがある。
「あのですね、デリックさん。レオナードはもう立派な大人ですよ?そして、これはその大人が選んだこと。それ相応の覚悟を持って行動に移したというのがわからないの?おたんちんね。ったく、それをとやかく言ったところでどうなるんです?もっと言うなら、強引に連れ戻したところで、レオナードはまた同じことを繰り返すんじゃないの?っていうか、デリックさん、あなたレオナードから、ガチで絶交されますよ?良いんですか?二度と兄と呼べなくなりますよ?っていうことを、ちょっとは考えたらいかがでしょうか?」
「…………………すごい肺活量ですね」
そこは兄と変わらないツッコミを入れるのかと、思わず私がツッコミを入れたくなってしまう。
けれど、そこはぐっと堪えて、子供を言い含める親のように、にこりと笑ってみる。そうすれば、デリックは深いため息をついた。それは、どうにもならないことを諦めようとする、口惜しさを含んだものだった。
「わかっています。あなたの言う通りです。でも………」
そこでデリックは言葉を止め、ちらっと私に視線を向けた。
私といえば、既に淑女の演技を放棄しているので、顎で続きを促す。そうすれば、デリックはぎゅっと拳を握りしめて、再び口を開いた。
「私は…………あなたと兄が婚約してくれたことを心から喜んでいました。あなたが兄の妻になることを嬉しいと思っていました。そしてあなたを義姉と呼ぶことを心待ちにしていました」
「……………………」
「ミリア殿、教えてください。あなたは、一度だって兄と歩む未来を想像したことはなかったのですか?」
「……………………」
無言でいる私だったけれど、内心、いやそれ、絶対に聞いちゃダメなやつじゃん!!と、心の中で舌打ちをする。
ああ、もうっ、本当にもうっ、まったくもって、この弟はどうしてこう聞いてはいけないことばかり口にするのだろう。
「単刀直入に聞きます。兄が昨日から戻ってきません。お心当たりは?」
「あら、わたくしのところには、いませんわ。お友達のところにでも行かれたのでは?」
「いいえ、手当たり次第に探しましたが、消息は掴めていません」
「あらあら、怖いですわね。何かあったのかしらぁ。警察にでも通報されたらいかがですか?」
「すでに手配済み…………と、言いたいところですが、父に止められました」
「まぁ、そうなんですか。なら、きっといつか戻ってくるでしょうね。わたくしたちはそれを信じて待ちましょう。デリックさん」
「待つ?悠長なことおっしゃいますね。婚約者が居なくなったとうのに、年頃の淑女がそんなふうに言うと思いますか?」
「あ゛?」
「いっいえ。なんでもありません。…………と、言いたいところですが。はっきり申し上げます。婚約者が行方不明になったのに、あなたは、まったく動揺してませんね。あと、演技下手過ぎます」
「……………………」
「茶番はやめましょう。ミリア殿。あなたは、こうなることを全て知っていた。これは計画的なことなんですよね」
「……………………」
さてここで問題です。私は今、何に一番腹を立てているでしょう?
① 往生際悪く、ぐだぐだと私を問い詰めるデリックに。
② 渾身の演技を下手過ぎと言われたことに。
③ 一番厄介な弟の後処理を押し付けられたことに。
答えは、④の『二度と足を向けることはないと思っていたロフィ家に居る』ことです。
え?選択は3までしかなかった?いやいや、与えられた選択肢の中から選べとは、一言も申しておりません。
人間いつ如何なる時も、視野を広く持ち、どんな状況においても冷静に判断しなければならないのです。そして私も現在進行形で、このよくわからない状況を打破しようと必死に模索している状況なのであります。
……………おわかりいただけましたでしょうか?東屋の天使さん。
だからお願いです。どうか私を『どのツラ下げて』的な目で見るのは、やめて下さい。私だっておセンチ気分全開で別れを告げたのに、何事もなかったかのようにこの場所に居るのはとっても辛いのです。いたたまれないこと、この上ないのです。
そう必死こいて東屋の天使さん達に訴えてみる。けれど、天使さん達の表情は動かなかった。ああ、そういえば天使さん達は人間じゃなかった。なら、仕方がない。
「───聞いておられますか?ミリア殿」
「………聞いてますわよ。デリックさん」
BGM程度にはね。
という最後の言葉は口にしなかった。けれど、だだくさに返事をしてしまったせいで、彼にはしっかり伝わってしまったようだ。眼前の弟君は、あからさまに眉間に皺を刻んだ。
「とにかく、兄の居場所を教えてください」
「いや、だから知りませんよ」
「………………………………」
今度はジト目で睨まれてしまった。
でも、そんな顔をされても困る。だって、本当に私はレオナードの行き先を知らないのだ。ふんわりとしか。でも、ふんわりとしか知らないのは、ほぼほぼ知らないと同じなので、私は嘘は付いていない。
「睨まれようが、怒鳴られようが、知らないものは知らないんです。あっ、殴りたければどうぞ。ただ、あなたが屍になる勇気があるなら、ね?っていうか、知ったところで、どうするんですか?デリックさん」
「大変失礼な態度をとってしまい申し訳ありません。お詫びの言葉も見つかりません。そして、兄の行方がわかったら、連れ戻すだけです」
あれ?私、質問を2つしたつもりだったけど、1個はスルー?
なんていう疑問が浮かんだけれど、コロッと態度を変えたデリックを見て、それが返答だったのかと結論付ける。ただ、下の句の弟君の答えに対しては、少々思うところがある。
「あのですね、デリックさん。レオナードはもう立派な大人ですよ?そして、これはその大人が選んだこと。それ相応の覚悟を持って行動に移したというのがわからないの?おたんちんね。ったく、それをとやかく言ったところでどうなるんです?もっと言うなら、強引に連れ戻したところで、レオナードはまた同じことを繰り返すんじゃないの?っていうか、デリックさん、あなたレオナードから、ガチで絶交されますよ?良いんですか?二度と兄と呼べなくなりますよ?っていうことを、ちょっとは考えたらいかがでしょうか?」
「…………………すごい肺活量ですね」
そこは兄と変わらないツッコミを入れるのかと、思わず私がツッコミを入れたくなってしまう。
けれど、そこはぐっと堪えて、子供を言い含める親のように、にこりと笑ってみる。そうすれば、デリックは深いため息をついた。それは、どうにもならないことを諦めようとする、口惜しさを含んだものだった。
「わかっています。あなたの言う通りです。でも………」
そこでデリックは言葉を止め、ちらっと私に視線を向けた。
私といえば、既に淑女の演技を放棄しているので、顎で続きを促す。そうすれば、デリックはぎゅっと拳を握りしめて、再び口を開いた。
「私は…………あなたと兄が婚約してくれたことを心から喜んでいました。あなたが兄の妻になることを嬉しいと思っていました。そしてあなたを義姉と呼ぶことを心待ちにしていました」
「……………………」
「ミリア殿、教えてください。あなたは、一度だって兄と歩む未来を想像したことはなかったのですか?」
「……………………」
無言でいる私だったけれど、内心、いやそれ、絶対に聞いちゃダメなやつじゃん!!と、心の中で舌打ちをする。
ああ、もうっ、本当にもうっ、まったくもって、この弟はどうしてこう聞いてはいけないことばかり口にするのだろう。
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初めまして、茂栖もすです。このお話は10:10に更新しています。時々20:20にも更新するので、良かったら覗いてみてください٩( ''ω'' )و
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