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25日目①
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.。*゚+.*.。 25日目 ゚+..。*゚+
「ミリア、ちょっと来い」
「なあに、お兄様?お話ならここで聞きますわ」
「………お前、まだロフィ家の長男との婚約を破棄をしていないのか?」
「あら、女性は物事を決めるのには時間を要するものということをお忘れですか?ドレスしかり、髪型しかり。紳士たるもの、例え世界の終わりまでそれをじっと待つのが勤めでは?そんなこともわからないお兄様は、馬鹿ですか?阿呆ですか?愚か者ですか?敢えて言わせてください。短気は損気ですわよ」
「…………ミリア、女性を主張したいならその肺活量を前面に出すな。嘘でも良いから小分けで息継ぎをしろ。───…………くそっ。そうではないっ。ったく、お前はいつもいつも、減らず口を叩くなっ。いいか、即刻、破棄しろ。あの男は曲者だ」
「何を偉そうに…………あの方は、お兄様ほど、曲がった性格はしてませんわ」
「さらりと毒を吐くな。良いか、良く聞け、あいつは他に女がいる。しかも身分の低い市井の女だ」
「そうですね」
「そうですねって、お前、わかっているのか!?結婚前から浮気するような男なんだぞ。そして、お前は結婚前から、浮気しても良いと思われているんだぞっ」
「あらそうですが。で、だから何なんですか?」
「…………お前、この婚約破棄を何だかんだと引き延ばしているのかもしれないが、父上だってあの男が浮気しているのを知っている」
「……………………っ」
「この婚約は、破棄するぞ」
「………………………」
一方的にそう言い捨てた兄その1であるフィリップは、くるりと背を向けて去って行こうとした。
けれど、私が背後から襲いかかると思ったのだろう。じわりじわりと、すり足で距離を取る。そして角を曲がった瞬間に、脱兎のごとく逃げ出していった。
そんな兄を視界から消え失せるまで、殺気の籠った視線で睨みつけていた私だったけれど、一人になった途端、やり場のない悔しさで、ぎゅっとスカートを握りしめた。
ったく、このタイミングで部屋を出るなんて失敗だった。鬱陶しいこと極まりない兄と鉢合わせするなんて、とてつもなく運が悪かった。こんなことなら、もう少し部屋でダラダラしておくべきだった。
でも、少しでも早くレオナードに会いたい私は、周りの状況を確認せず部屋を飛び出してしまったのだ。…………自業自得?いやいやいや、責任転嫁と言われても、やっぱり兄が悪い。
そんなことを頭の隅で考える。でも、すぐにこれから、どうしようと途方に暮れてしまう。
昨日私は、レオナードの前でみっともなく、わんわん泣いた。契約期間を笑って過ごすために。こっぱずかしい気持ちなどかなぐり捨てて。
そしてレオナードも、私を屋敷に送り届けてくれて、そして去り際にこう言ってくれたのだ。『明日は、今日の埋め合わせも兼ねて、豪華なスウィーツを用意する』と。
私が泣いたのはシェフティエのスウィーツが食べれなかったわけじゃないのを知っているはずなのに、敢えてそう言ったのだ。そしてしっかり言葉にして『だから、明日も会ってくれ。待っている』とも言った。
だから気まずさはあるけれど、ちゃんと笑って会おうと思っていた矢先に、これだ。
本当に、なんであと数日待ってくれないのだろう。っていうか、兄…………いや、この屋敷の男連中は、いつだってそうだ。
女を自分達と同じ人種だなんて思っていないんだ。自分の思うように動かせる人形かなにかだと思っているんだ。だから『どうして?』なんてことを、微塵も考えないのだ。
………………そんなふうだから、私はレオナードと手を組んだのだ。
きっと私たちの企ては、傍から見たら馬鹿々々しいものでしかないのかもしれない。でも、私達はがんじがらめのこの貴族社会から抜け出そうと足掻いていたのだ。いわば、これは未来に続く婚約破棄なのだ。
そんなことを考えていたら、いつの間にか唇を噛み締めすぎていた。じわっと口の中に鉄さびの味が滲む。でも、その不快な味と、ピリッとした痛みは、私を良い感じに冷静にしてくれた。
「はっ、何が婚約破棄するぞ、だ。たわけた事を、言ってるんじゃないわよっ」
自分でもびっくりするくらいの低い声で吐き捨てる。
「良いわよ。やってやろうじゃない。婚約破棄を…………」
だけど、兄の手で終わらすなんて、絶対にお断りだ。
これは私の人生。誰にも干渉なんてさせない。そして、この幕引きは、自分の手で────そう思った時には、私は身支度もそこそこに、屋敷を飛び出していた。
「ミリア、ちょっと来い」
「なあに、お兄様?お話ならここで聞きますわ」
「………お前、まだロフィ家の長男との婚約を破棄をしていないのか?」
「あら、女性は物事を決めるのには時間を要するものということをお忘れですか?ドレスしかり、髪型しかり。紳士たるもの、例え世界の終わりまでそれをじっと待つのが勤めでは?そんなこともわからないお兄様は、馬鹿ですか?阿呆ですか?愚か者ですか?敢えて言わせてください。短気は損気ですわよ」
「…………ミリア、女性を主張したいならその肺活量を前面に出すな。嘘でも良いから小分けで息継ぎをしろ。───…………くそっ。そうではないっ。ったく、お前はいつもいつも、減らず口を叩くなっ。いいか、即刻、破棄しろ。あの男は曲者だ」
「何を偉そうに…………あの方は、お兄様ほど、曲がった性格はしてませんわ」
「さらりと毒を吐くな。良いか、良く聞け、あいつは他に女がいる。しかも身分の低い市井の女だ」
「そうですね」
「そうですねって、お前、わかっているのか!?結婚前から浮気するような男なんだぞ。そして、お前は結婚前から、浮気しても良いと思われているんだぞっ」
「あらそうですが。で、だから何なんですか?」
「…………お前、この婚約破棄を何だかんだと引き延ばしているのかもしれないが、父上だってあの男が浮気しているのを知っている」
「……………………っ」
「この婚約は、破棄するぞ」
「………………………」
一方的にそう言い捨てた兄その1であるフィリップは、くるりと背を向けて去って行こうとした。
けれど、私が背後から襲いかかると思ったのだろう。じわりじわりと、すり足で距離を取る。そして角を曲がった瞬間に、脱兎のごとく逃げ出していった。
そんな兄を視界から消え失せるまで、殺気の籠った視線で睨みつけていた私だったけれど、一人になった途端、やり場のない悔しさで、ぎゅっとスカートを握りしめた。
ったく、このタイミングで部屋を出るなんて失敗だった。鬱陶しいこと極まりない兄と鉢合わせするなんて、とてつもなく運が悪かった。こんなことなら、もう少し部屋でダラダラしておくべきだった。
でも、少しでも早くレオナードに会いたい私は、周りの状況を確認せず部屋を飛び出してしまったのだ。…………自業自得?いやいやいや、責任転嫁と言われても、やっぱり兄が悪い。
そんなことを頭の隅で考える。でも、すぐにこれから、どうしようと途方に暮れてしまう。
昨日私は、レオナードの前でみっともなく、わんわん泣いた。契約期間を笑って過ごすために。こっぱずかしい気持ちなどかなぐり捨てて。
そしてレオナードも、私を屋敷に送り届けてくれて、そして去り際にこう言ってくれたのだ。『明日は、今日の埋め合わせも兼ねて、豪華なスウィーツを用意する』と。
私が泣いたのはシェフティエのスウィーツが食べれなかったわけじゃないのを知っているはずなのに、敢えてそう言ったのだ。そしてしっかり言葉にして『だから、明日も会ってくれ。待っている』とも言った。
だから気まずさはあるけれど、ちゃんと笑って会おうと思っていた矢先に、これだ。
本当に、なんであと数日待ってくれないのだろう。っていうか、兄…………いや、この屋敷の男連中は、いつだってそうだ。
女を自分達と同じ人種だなんて思っていないんだ。自分の思うように動かせる人形かなにかだと思っているんだ。だから『どうして?』なんてことを、微塵も考えないのだ。
………………そんなふうだから、私はレオナードと手を組んだのだ。
きっと私たちの企ては、傍から見たら馬鹿々々しいものでしかないのかもしれない。でも、私達はがんじがらめのこの貴族社会から抜け出そうと足掻いていたのだ。いわば、これは未来に続く婚約破棄なのだ。
そんなことを考えていたら、いつの間にか唇を噛み締めすぎていた。じわっと口の中に鉄さびの味が滲む。でも、その不快な味と、ピリッとした痛みは、私を良い感じに冷静にしてくれた。
「はっ、何が婚約破棄するぞ、だ。たわけた事を、言ってるんじゃないわよっ」
自分でもびっくりするくらいの低い声で吐き捨てる。
「良いわよ。やってやろうじゃない。婚約破棄を…………」
だけど、兄の手で終わらすなんて、絶対にお断りだ。
これは私の人生。誰にも干渉なんてさせない。そして、この幕引きは、自分の手で────そう思った時には、私は身支度もそこそこに、屋敷を飛び出していた。
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初めまして、茂栖もすです。このお話は10:10に更新しています。時々20:20にも更新するので、良かったら覗いてみてください٩( ''ω'' )و
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