これは未来に続く婚約破棄

茂栖 もす

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21日目①

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.。*゚+.*.。 21日目  ゚+..。*゚+

「ミリア、勝手に婚約を決めたと聞いたが本当か?」
「ごめんなさい、お父様。どうしても彼が良かったんです」
「家同士の繋がりがどれだけ大事かも知らないくせに、勝手な真似をするな」
「本当に申し訳ありません。………でも、相手は公爵家。それに彼も私を望んでくださっているのです。もちろん私もですわ、お父様」
「それ程までにか?」
「ええ、素敵な方ですわ」
「どこに惹かれた?」
「お父様に何一つ似ているところがないからです」
「…………………」

 

 父上帰宅2日目。早速私は、レオナードとの婚約について呼び出しを受けてしまった。いや、呼び出しなんていう可愛らしいものではない。これはもう尋問だ。いや裁判と呼んでも過言ではない。

 ただその裁判官は、父上。我が家の法であり秩序でもある。父上の気分次第で、私のこの先の人生が左右されてしまうのだ。

 いや、それだけならまだしも、レオナードの生死すら左右されてしまう状況なのだ。という理由から私は角が立つ言葉を避け、さらっと尋問を終わらせようとした。けれど…………。

「ミリア、そんな理由で、この私がお前の婚約を承諾すると思ったのか?馬鹿者め」

 と、再び父上から質問が飛んできた。しかも最後にイラっとさせる言葉までおまけされて。

 もちろん、こんなことで涙を浮かべたり、自分から白旗を上げる気などない私は、すかさず心の中で、馬鹿はお前だと、言い返す。

 それにしても、これだけ納得しそうな理由を並べてみたのに、承諾しないなんてまったく頑固で融通がきなないクソジジイだ。

 ああ、もういっそ『この婚約、あと10日で終わるのだからほっといて』と言ってしまいたい。いや、もちろんそんなことは言えない。言ってしまえば、全てが終わる。

 だから父上の言葉に同意は見せず、でも強くは反論せず、でもでもしっかり自分の主張はさせてもらう。という難易度マックスレベルのミッションを粛々とこなしている。

 ただごっそり体力と精神力を削られるのは致し方ないこと。そんな気持ちから、ちょっとだけ父上から視線を逸らして辺りを見回す。

 滅多に足を踏み入れることのない父上の執務室は、ぶっちゃけ武器庫のような場所だった。壁紙など貼られていない木目が剥き出しの壁には、父上の愛用の剣はもちろん、槍や弓までもが所狭しと立てかけられている。ちなみに片側の壁には刀掛けが備え付けられている。が、そこにもしっかり剣が納められている。

 なぜ愛用の武器だけが壁に立てかけたままなのかというと、すぐに手に取れるように………だ、そうだ。これも戦争の名残なのだろうか。でも平和な時代しか知らない私は、ただ聞いて呆れること。

 そんなふうによそに意識を向けた途端、父上は尖った声で私の名を呼んだ。

「ミリア、ロフィ卿からお前の婚約を聞いた途端、父は通りがかりのイノシシを素手で殴り殺した。これが、どういう意味かわかるか?」
「………害獣とはいえ、そのイノシシが大変運が悪かったこと以外、何もわかりませんわ」

 『…………』の間に『んなこと知るか』と吐き捨てる。でも、この状況で私には黙秘権など存在しない。ひとまず当たり障りのない答えを返すことにする。そうすれば、父上の眉間に皺が寄った。

「確かに、あのイノシシは運が悪かった。だが、そうではない」

 でしょうね。

 適当に言っただけなのに、ご丁寧に返してくる父上のこういうところも嫌いだ。露骨に溜息を付きたいところだが、そんな私の気持ちを無視して父上は言葉を続けた。

「私がなぜ、通りがかりのイノシシを殺したかというと、その理由は2つある。まず一つ目は、ロフィ卿への忠告だ。今すぐこの婚約話が嘘だと言わなければ、お前の息子もこうなるぞ。と、行動で表した。そして二つ目は、ただ単に腹が立ったからだ」
「………………」

 思わず息を呑んだ。そして、そんな理由で天に召されたイノシシに、そっと黙祷をささげる。けれど、私は父上の言葉を聞いて確認しなければならないことがある。

「お父様、ロフィ卿はその後、なんとおっしゃいましたか?」

 普段、私の質問など答えることがない父上でも、今回だけは答えてくれた。

「ロフィ卿は私の牽制に気付いてこう言った。『これからは、若者の時代です。私達年配者がどうこう口を挟むことではないでしょう。未来ある二人に祝福を』だ」

 ここで一旦言葉を止めた父上は、ぞっとするほど冷血な笑みを浮かべてこう言った。

「ミリア、お前の気持ちは良く分かった。が、しかし、私は祝福などする気はない。なぜなら、ロフィ卿の息子、レオナードの未来はないからだ」

 その言葉が指し示すのは、レオナードもイノシシと同じ運命を辿ることになる、ということ。

 ………………どうしよう。このままレオナードは仮病を貫いて生きながらえることができるのだろうか。 
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初めまして、茂栖もすです。このお話は10:10に更新しています。時々20:20にも更新するので、良かったら覗いてみてください٩( ''ω'' )و
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