これは未来に続く婚約破棄

茂栖 もす

文字の大きさ
上 下
50 / 114

14日目①

しおりを挟む
.。*゚+.*.。 14日目  ゚+..。*゚+

「目の前に男女一人ずついる」
「は?」
「いいから聞いてくれ」
「…………………はぁ」
「このどちらかと君は契りを結ばなければならない。そうしなければ、君は八つ裂きにされる」
「何勝手に、私を窮地に追い込んでるの?」
「いいから聞いてくれ」
「…………………はぁ」
「そうなった時、君はどちらを選ぶ。あ、八つ裂きにする相手と戦うという選択肢は省いてくれ」
「まぁ……男を選ぶかしらね」
「そうか」
「で、何が言いたかったの?」
「君が同性愛者かどうか確認したかっただけだ」
「随分遠回しな質問だったわね。で、私があなたを八つ裂きにして良い?」
「………………すまなかった」



 そんな謝罪で水に流せると思っているのだろうか。

 私は豪快に指の間接を鳴らして、足首もぐりぐりと回す。ついでに肩も回して、軽くその場で2、3回跳ねたあと、レオナードに向かって顎で庭を示した。まぁ言葉にするなら『表に出ろや』という意味で。

 けれど、レオナードは、自分の左胸を押さえながら、もう一度謝罪の言葉を紡ぐだけだった。でも、その顔色は棺桶が似合うものだった。.........ちょっと、やり過ぎたかもしれない。

「ふふっ、冗談よ、レオナード。相変わらず、すぐに本気にしちゃうのね」
 
 口元に手を当てて、くすくすと笑みを向ければ、レオナードの頬にわずかに赤みが差す。けれど、表情はまだ死んだままだった。そんな彼に構わず、私は言葉を続けた。

「あんな馬鹿の極みと言われるような質問をしたのは、本当はこう言いたかったんでしょ?…………私には色気が皆無だって」

 こてんと無邪気に首を倒して言い切れば、レオナードの首が僅かに動いた。けれど、縦なのか横なのか判定が微妙な動きだった。いつのまにそんな小汚い手を覚えたのだろう。

 でも、まぁレオナードを問い詰めなくてもわかる。私は本当にダンスに向いていない人間だったのだ。運動神経云々ではなく、根本的なアレで。

 昨日、契約書の見直しをした私達は、最終仕上げをしようと意気込んでダンスを始めた。

 ステップは完璧にマスターした。そしてどの曲でどのステップを使うかという案件も、二人だけにしかわからない合図を決めたおかげで、難無くクリアすることができた。
 
 けれど一つだけ問題があることに気付いてしまったのだ。

 もともと体術や剣術の足運びを応用してマスターしたこのステップ、踊り続けているうちに、ついつい組み手のような錯覚を起こしてしまい…………そのぉ、レオナードをぶん投げたくなってしまうのだ。

 もちろんレオナードだって、自称だけれど、剣に憶えがある。だから投げ飛ばされないよう頑張って踏ん張ってくれるので、まだ、彼を大理石の床に叩きつけてはいない。

 いないけれど、傍から見た私達は、どう映るのだろうという疑問にぶち当たり、昨日、急遽会議を開いたけれど、やっぱりこれを打破する案は浮かんでこなかったのだ。

 という経緯があったので、一晩経った今日、レオナードが私にこんな質問をしたのは、致し方無い。ただこんな遠回しな質問にしないで、ストレートに聞いて欲しかったというのが私の本音だったりもする。
 
「ま、ドレスアップすれは気分も変わるでしょ?それに賭けましょうレオナード」

 私だって一応、妙齢の女子なのだ。きっと夜会という雰囲気に呑まれれば、それなりにダンスを踊れるはず………………多分、きっと。
しおりを挟む
初めまして、茂栖もすです。このお話は10:10に更新しています。時々20:20にも更新するので、良かったら覗いてみてください٩( ''ω'' )و
感想 44

あなたにおすすめの小説

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです

じじ
恋愛
「あんな女、金だけのためさ」 アリアナ=ゾーイはその日、初めて婚約者のハンゼ公爵の本音を知った。 金銭だけが目的の結婚。それを知った私が泣いて暮らすとでも?おあいにくさま。あなたに恋した少女は、あなたの本音を聞いた瞬間消え去ったわ。 私が金づるにしか見えないのなら、お望み通りあなたのためにお金を用意しますわ…ただし、利子付きで。

大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた

黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」 幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

処理中です...