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11日目①
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.。*゚+.*.。 12日目 ゚+..。*゚+
「君に会って欲しい人がいる」
「あいにく私は誰とも会いたくないわ。というか、目の前にいるレオナード、あなたとも会いたくないわ」
「ダンスのレッスンが厳しすぎたことは謝る。だがどうしても会って欲しい人が居る」
「一応聞くけど、どなた?」
「母上だ」
「謹んでお断り申し上げます」
そうきっぱりと言い切った私は、お見合いを断られた日と同様…………いや、それ以上に丁寧な所作で一礼すると扉に手を掛け、部屋を出ようとした。けれど────。
「待ってくれミリア嬢。ただでとは言わない」
というレオナードのうめき声にも似たその一言に、ぴたりと足が止まった。
「具体的には?つまらないものなら、あなた、庭の花壇の養分になるわよ」
振り返ってそう問いかければ、レオナードはうぅっと眉間に皺を刻みながら声にならない声を上げて、数歩後ろに後退した。
そんな彼を私は眼力だけで捉えて、早く話せと訴える。そうすれば、レオナードはなまじりを決して口を開いた。
「夜会のドレス一式と君の望むスウィーツ及び、渡航の際のチケットをこちらで用意する」
「まぁ.........」
随分太っ腹なことだ。でも夜会のドレスなど貰っても、その後の置き場所に困るので必要ない。ただ、スウィーツとチケットはかなり惹かれる。特に異国への渡航となると、手続きが何かと面倒なのだ。きっとレオナードなら金に物を言わせて、簡単に入手してくれるだろう。
ぶっちゃけ会う人が知人程度のことなら、この願い私は二つ返事で引き受けていた。けれど、家族、しかも母親となれば、どんなに金品を積まれても、そう簡単にうなずけるわけがない。というか、レオナードは何を思ってこんな死に急ぐようなことを言い出したのだろう。
「あのね、一旦お母様に会う会わないは置いといて、ちょっと聞くけど、自分の息子が懇意にしている女性と対面する母親の気持ちがおわかり?」
「…………わからない。がしかし、きっと歓迎してくれると思う」
「ふぅ………とても残念な思考ね。レオナード」
ため息と共にそう言い捨てれば、目の前のお坊ちゃまは、てっきりむっとした表情に変わるかと思いきや、真っすぐに私を見つめるだけだった。
以前の宝石事件のこともある。もしかしたらレオナードは筋の通った主張をしているのかもしれないという考えがよぎった。これは、念のため確認してみたほうがよさそうだ。
「ねえ、レオナード、どうして私があなたのお母様に会わないといけないのかしら?というか、どうしてそんなに距離を取るの?こんなに離れていたら会話ができないわ。もう少しそばに来てちょうだい」
今日も私たちはボールルームにいる。そしてこの部屋はとても広い。なのに、私たちは部屋の隅と隅、つまり対角線上にいる。これでは込み入った話などできやしない。というか、ついさっきまで彼は部屋の中央にいた筈なのに、一体いつの間に移動したのだろう。
「…………私だって、内密に事を進めたいから、できれば至近距離で会話をしたい。ただ、足が竦んで歩けないんだ。君を顎で使うようなマネをするのは、心臓が痛むが、君のほうからこちらに来てもらえないだろうか?」
普通に胸が痛いと言えば良いだけだし、そこまで謙るようなことでもない。それに、近くにいればレオナードがふざけた発言をした際、すぐに鉄拳制裁できるのだから、こちら側としては好都合だ。
というこちらの都合もあり、私は大股でレオナードの元へ足を向けた。
「お望みどおり来てあげたわ。さ、理由を説明して頂戴」
腰に手を当て、レオナードを覗き込んだら、彼は尋常じゃない汗をかいていた。けれど、私が眉を少し持ち上げれば、彼は震える声で説明を始めた。
「チェフ家との縁談が破綻していないというのは、覚えているか?」
「ええ、もちろんよ」
だからこうして生涯役に立つとは思えないダンスのレッスンを続けているのだ。何を今更と言いたくなる。思いっきり顔を顰めて同意すれば、レオナードは私からぎこちなく視線を逸らしてこう呟いたのだ。
「実は、この縁談を一番強く進めているのが母上なんだ」
「………………なるほど。そういうことなのね」
レオナードから夜会の出席を頼まれたとき、チェフ家の令嬢の縁談を断れない事情があると言っていた。結局それはうやむやのまま、聞けずじまいだったけれど、なるほどと妙に納得してしまう。
つまり、最大の敵は身内にあり状態だったのだ。
「君に会って欲しい人がいる」
「あいにく私は誰とも会いたくないわ。というか、目の前にいるレオナード、あなたとも会いたくないわ」
「ダンスのレッスンが厳しすぎたことは謝る。だがどうしても会って欲しい人が居る」
「一応聞くけど、どなた?」
「母上だ」
「謹んでお断り申し上げます」
そうきっぱりと言い切った私は、お見合いを断られた日と同様…………いや、それ以上に丁寧な所作で一礼すると扉に手を掛け、部屋を出ようとした。けれど────。
「待ってくれミリア嬢。ただでとは言わない」
というレオナードのうめき声にも似たその一言に、ぴたりと足が止まった。
「具体的には?つまらないものなら、あなた、庭の花壇の養分になるわよ」
振り返ってそう問いかければ、レオナードはうぅっと眉間に皺を刻みながら声にならない声を上げて、数歩後ろに後退した。
そんな彼を私は眼力だけで捉えて、早く話せと訴える。そうすれば、レオナードはなまじりを決して口を開いた。
「夜会のドレス一式と君の望むスウィーツ及び、渡航の際のチケットをこちらで用意する」
「まぁ.........」
随分太っ腹なことだ。でも夜会のドレスなど貰っても、その後の置き場所に困るので必要ない。ただ、スウィーツとチケットはかなり惹かれる。特に異国への渡航となると、手続きが何かと面倒なのだ。きっとレオナードなら金に物を言わせて、簡単に入手してくれるだろう。
ぶっちゃけ会う人が知人程度のことなら、この願い私は二つ返事で引き受けていた。けれど、家族、しかも母親となれば、どんなに金品を積まれても、そう簡単にうなずけるわけがない。というか、レオナードは何を思ってこんな死に急ぐようなことを言い出したのだろう。
「あのね、一旦お母様に会う会わないは置いといて、ちょっと聞くけど、自分の息子が懇意にしている女性と対面する母親の気持ちがおわかり?」
「…………わからない。がしかし、きっと歓迎してくれると思う」
「ふぅ………とても残念な思考ね。レオナード」
ため息と共にそう言い捨てれば、目の前のお坊ちゃまは、てっきりむっとした表情に変わるかと思いきや、真っすぐに私を見つめるだけだった。
以前の宝石事件のこともある。もしかしたらレオナードは筋の通った主張をしているのかもしれないという考えがよぎった。これは、念のため確認してみたほうがよさそうだ。
「ねえ、レオナード、どうして私があなたのお母様に会わないといけないのかしら?というか、どうしてそんなに距離を取るの?こんなに離れていたら会話ができないわ。もう少しそばに来てちょうだい」
今日も私たちはボールルームにいる。そしてこの部屋はとても広い。なのに、私たちは部屋の隅と隅、つまり対角線上にいる。これでは込み入った話などできやしない。というか、ついさっきまで彼は部屋の中央にいた筈なのに、一体いつの間に移動したのだろう。
「…………私だって、内密に事を進めたいから、できれば至近距離で会話をしたい。ただ、足が竦んで歩けないんだ。君を顎で使うようなマネをするのは、心臓が痛むが、君のほうからこちらに来てもらえないだろうか?」
普通に胸が痛いと言えば良いだけだし、そこまで謙るようなことでもない。それに、近くにいればレオナードがふざけた発言をした際、すぐに鉄拳制裁できるのだから、こちら側としては好都合だ。
というこちらの都合もあり、私は大股でレオナードの元へ足を向けた。
「お望みどおり来てあげたわ。さ、理由を説明して頂戴」
腰に手を当て、レオナードを覗き込んだら、彼は尋常じゃない汗をかいていた。けれど、私が眉を少し持ち上げれば、彼は震える声で説明を始めた。
「チェフ家との縁談が破綻していないというのは、覚えているか?」
「ええ、もちろんよ」
だからこうして生涯役に立つとは思えないダンスのレッスンを続けているのだ。何を今更と言いたくなる。思いっきり顔を顰めて同意すれば、レオナードは私からぎこちなく視線を逸らしてこう呟いたのだ。
「実は、この縁談を一番強く進めているのが母上なんだ」
「………………なるほど。そういうことなのね」
レオナードから夜会の出席を頼まれたとき、チェフ家の令嬢の縁談を断れない事情があると言っていた。結局それはうやむやのまま、聞けずじまいだったけれど、なるほどと妙に納得してしまう。
つまり、最大の敵は身内にあり状態だったのだ。
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初めまして、茂栖もすです。このお話は10:10に更新しています。時々20:20にも更新するので、良かったら覗いてみてください٩( ''ω'' )و
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