34 / 114
9日目①
しおりを挟む
.。*゚+.*.。 9日目 ゚+..。*゚+
「不躾な質問を許してくれ」
「前置きがあるってことは、ロクなもんじゃないわね。きっと」
「反論の余地はない。が、質問させてもらう」
「………ど、どうぞ」
「君はダンスはできるのか?」
「勇気を出して、聞いた事は褒めてあげるわ」
「……………………そうか。で、どうなんだ?」
「できるわけないじゃない」
「胸を張って言うことじゃないだろう」
「それもそうね」
誰がどう見ても、恬として恥じない態度をとっていることを誤魔化すように、にこりと笑みを浮かべて見たけれど、今日のレオナードは笑顔を返してはくれない。…………ま、それは当然だろう。
とうとうバレたか。
ふてぶてしい態度を取っている私だけれど内心は、やべぇと冷や汗をかいている。
そんな私の胸の内を見透かしているのか、レオナードは更に目力を強めて私を見つめてくる。そんな射貫くような視線に耐えられず、私はつぃーっと視線を横にずらした。もちろん、彼も逃すまじと追いかけてくる。
いつかはバレる。でもバレる前に自分から伝えよう。そう思っていたのに、ここ数日のバタバタで、なんとなくこのことをレオナードに言うタイミングを見付けることができなかったのだ。
そして、今日とうとうレオナードからこの質問が飛んできてしまったのだ。
ちなみに私たちがいる場所は晴天なのに、庭の東屋ではない。ちなみにサンルームでも、昨日過ごした図書室でもない。屋敷の中にある、とある部屋にいる。まぁ、あれだ………巷で言うボールルームと呼ばれるところ。
ぶっちゃけレオナードの屋敷に到着して館内に通された瞬間、嫌な予感はした。そして図書室とは正反対の方向に案内されればその予感は徐々に色濃くなり、だだっ広く部屋に必要な家具が一切無い場所に通されれば、それは確信へと変わった。
というこれまでの経緯を思い出しながら視線だけで追いかけっこをしていたけれど、根を上げたのは私だった。
「…………ねえ、レオナード。本当は私が踊れないこと知ってたんじゃないの?」
そう、あの聞き方は、どう見ても質問ではなく確認だった。
ちらっと彼の顔を見てそう言えば、言われた本人は深い溜息をついた。
「………………なんとなく予感はしていた」
「あら、預言ができるなんてすごいわね、レオナード。新しい特技ができたじゃない」
すかさず斜め上の話題をぶっこんで、お茶を濁そうとしたけれど、今日のレオナードはそうは問屋が卸さなかった。
「残念ながら預言ではない。これまでの知識と経験に基づいて予測しただけだ」
「頭も良いなんてすごいわね、レオナード。だったらこの状況を打開できる案もすでに思いついているんじゃないの?」
「……………………」
小首を傾げて無邪気な演技をした私を見つめるレオナードの手は、小刻みに震えている。でも、私のふてぶてしい態度に怒りを覚えて言葉を失っているわけでもない。もちろん呆れてモノが言えないという訳でもなさそうだ。
何ていうかそれを口にした後、私がどう出るかが怖い…………ということなのだろう。でも今の私は、彼が口を開くのをじっと待つしかない。
「一つ、ある」
少しの間の後、レオナードは絞り出すような声でそう言った。でも、すぐにそこで言葉を区切って私から視線を逸らした。
よっぽど言いにくいことなのだろう。けれど、小さく首を横に振る。ああ、やっぱり言わなければならないと自分に言い聞かせているのだ、絶対。ってことは、次に放つ彼の言葉は間違いなく、コレだろう。
そう予感ではなく確信した私は、思わず後ずさりするけれど、レオナードは待てと私を引き留めこう言った。
「この数日で、君が完璧にダンスをマスターする。もうこれ一択しか方法は無い」
…………やっぱりそうなったか。
「不躾な質問を許してくれ」
「前置きがあるってことは、ロクなもんじゃないわね。きっと」
「反論の余地はない。が、質問させてもらう」
「………ど、どうぞ」
「君はダンスはできるのか?」
「勇気を出して、聞いた事は褒めてあげるわ」
「……………………そうか。で、どうなんだ?」
「できるわけないじゃない」
「胸を張って言うことじゃないだろう」
「それもそうね」
誰がどう見ても、恬として恥じない態度をとっていることを誤魔化すように、にこりと笑みを浮かべて見たけれど、今日のレオナードは笑顔を返してはくれない。…………ま、それは当然だろう。
とうとうバレたか。
ふてぶてしい態度を取っている私だけれど内心は、やべぇと冷や汗をかいている。
そんな私の胸の内を見透かしているのか、レオナードは更に目力を強めて私を見つめてくる。そんな射貫くような視線に耐えられず、私はつぃーっと視線を横にずらした。もちろん、彼も逃すまじと追いかけてくる。
いつかはバレる。でもバレる前に自分から伝えよう。そう思っていたのに、ここ数日のバタバタで、なんとなくこのことをレオナードに言うタイミングを見付けることができなかったのだ。
そして、今日とうとうレオナードからこの質問が飛んできてしまったのだ。
ちなみに私たちがいる場所は晴天なのに、庭の東屋ではない。ちなみにサンルームでも、昨日過ごした図書室でもない。屋敷の中にある、とある部屋にいる。まぁ、あれだ………巷で言うボールルームと呼ばれるところ。
ぶっちゃけレオナードの屋敷に到着して館内に通された瞬間、嫌な予感はした。そして図書室とは正反対の方向に案内されればその予感は徐々に色濃くなり、だだっ広く部屋に必要な家具が一切無い場所に通されれば、それは確信へと変わった。
というこれまでの経緯を思い出しながら視線だけで追いかけっこをしていたけれど、根を上げたのは私だった。
「…………ねえ、レオナード。本当は私が踊れないこと知ってたんじゃないの?」
そう、あの聞き方は、どう見ても質問ではなく確認だった。
ちらっと彼の顔を見てそう言えば、言われた本人は深い溜息をついた。
「………………なんとなく予感はしていた」
「あら、預言ができるなんてすごいわね、レオナード。新しい特技ができたじゃない」
すかさず斜め上の話題をぶっこんで、お茶を濁そうとしたけれど、今日のレオナードはそうは問屋が卸さなかった。
「残念ながら預言ではない。これまでの知識と経験に基づいて予測しただけだ」
「頭も良いなんてすごいわね、レオナード。だったらこの状況を打開できる案もすでに思いついているんじゃないの?」
「……………………」
小首を傾げて無邪気な演技をした私を見つめるレオナードの手は、小刻みに震えている。でも、私のふてぶてしい態度に怒りを覚えて言葉を失っているわけでもない。もちろん呆れてモノが言えないという訳でもなさそうだ。
何ていうかそれを口にした後、私がどう出るかが怖い…………ということなのだろう。でも今の私は、彼が口を開くのをじっと待つしかない。
「一つ、ある」
少しの間の後、レオナードは絞り出すような声でそう言った。でも、すぐにそこで言葉を区切って私から視線を逸らした。
よっぽど言いにくいことなのだろう。けれど、小さく首を横に振る。ああ、やっぱり言わなければならないと自分に言い聞かせているのだ、絶対。ってことは、次に放つ彼の言葉は間違いなく、コレだろう。
そう予感ではなく確信した私は、思わず後ずさりするけれど、レオナードは待てと私を引き留めこう言った。
「この数日で、君が完璧にダンスをマスターする。もうこれ一択しか方法は無い」
…………やっぱりそうなったか。
0
初めまして、茂栖もすです。このお話は10:10に更新しています。時々20:20にも更新するので、良かったら覗いてみてください٩( ''ω'' )و
お気に入りに追加
961
あなたにおすすめの小説

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです
じじ
恋愛
「あんな女、金だけのためさ」
アリアナ=ゾーイはその日、初めて婚約者のハンゼ公爵の本音を知った。
金銭だけが目的の結婚。それを知った私が泣いて暮らすとでも?おあいにくさま。あなたに恋した少女は、あなたの本音を聞いた瞬間消え去ったわ。
私が金づるにしか見えないのなら、お望み通りあなたのためにお金を用意しますわ…ただし、利子付きで。

婚約解消は君の方から
みなせ
恋愛
私、リオンは“真実の愛”を見つけてしまった。
しかし、私には産まれた時からの婚約者・ミアがいる。
私が愛するカレンに嫌がらせをするミアに、
嫌がらせをやめるよう呼び出したのに……
どうしてこうなったんだろう?
2020.2.17より、カレンの話を始めました。
小説家になろうさんにも掲載しています。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる