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7日目①
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.。*゚+.*.。 7日目 ゚+..。*゚+
「好きなものを選んでくれ」
「..............................」
「ミリア嬢、何をしている?さぁ、早く選ぶんだ」
「..............................」
「もしかして遠慮しているのか?ああ、そんな訳ないか。ずかずか人の心を土足で踏み荒らす君が、そんな繊細な神経を持ち合わせているわけないな。そうかそうか、腹でも減っているのか?」
「レオナード様?」
「ん?どうした?」
「ちょっと、お外でお話ししましょうか」
そう言うが早いが、人前で堂々と私をディスってくれた公爵家のご長男様の襟首を掴んで席を立つ。でも身長差があるせいで、彼を立たせることはできず思わず舌打ち………が出来なかった。
なぜかと言えば、今、私はレオナードの屋敷ではなく、街の宝石店にいるからだ。言う必要はないかもしれないが、文具店ではなく宝石店だ。しかも、一見さんアンド平民さんお断りと言わんばかりの超が付く高級店に。
え?どうした?何かに目覚めたか?なんて聞かないで欲しいし、じゃあ、なぜこんなところにいるんだとも聞かないで欲しい。なにせ、私が聞きたいぐらいなのだから。唯一わかることといえば、現在のこの状況を茶番だと思っているのは、私だけ…………ということ。
そして、この一連の不可解な理由を知っているのは、当事者であるレオナードだけ。
「…………あの、お取り込み中、大変申し訳ありませんが、お連れ様に似合う商品を幾つかお持ちしました」
おずおずと切り出してはいるが、目はがっちり『太客になること間違いないっ。こやつら逃がすまじ』と商人根性丸出しの店主が、宝石の乗ったトレーを恭しくこちらに差し出してきた。
「結構です」
「ほう、なかなかの一品だ」
どちらがどの台詞を吐いたかは、言わずもがな。
そして私は、彼の一言でプツンと何かが切れた。何がなにやらさっぱりわからない状態で、こんなセレブ御用達のお店にいるなんて、いいかげんうんざりだし、もう、余所行きの顔を作るのも限界だった。
という訳で、未だに席を立つ気配すらなく、しかも暢気に宝石を覗き込むレオナードの襟首をさらに引っ張った。けれど───。
「ま、待ってくれ、ミリア嬢。気に入らなかったのか!?なら、せめて好きなデザインだけでも教えてくれ」
散歩が足りなかった犬のように、両足を踏ん張ってレオナードは的外れなことをほざいてくれる。
「おだまりなさい、レオナード。さっさと席を立って」
店主には聞こえない声量で、そう耳元でささやいても、彼は頑なに席を立とうとしない。
「しかし、ミリア嬢───」
「四の五、うるさいわね。公衆の面前で張り倒されたいの?」
声量はそのまま、でもドスを聞かした声でそう言えば、レオナードはようやっと席を立つ。そして私は、彼を引きずるようにして、店の外へと足を向けた。
けれど扉を空けた途端、店主から『これお気に召していただけたようなので、全部、取り置きさせて頂きます』という商魂厚かましい発言が飛んできた。
その気概には賛辞を贈りたい。が、これが野菜やパンなら『おじさん、もう一声!』といきたいところ。けれど、取り扱うものがモノだけに、私は眼力だけで黙らせるしかなく、ついでに、絶対に買わないという意思を込めて、首を強く横に振った。
そして店前で待機している馬車に、ハウスと言いながらレオナードを押し込むと、御者よりも早く扉を閉めた。取り敢えず、これで周囲の目を気にする必要がなくなった私は、ほっと肩の力を抜く。そして───。
「で、これは何の茶番?」
溜まり溜まった鬱憤を吐き出すかのように、レオナードを睨みつければ、彼はきょとんと眼を丸くした。
…………よろしい。ならば、教育的指導も含めて、この拉致監禁の理由を納得いくまで説明してもらおう。
「好きなものを選んでくれ」
「..............................」
「ミリア嬢、何をしている?さぁ、早く選ぶんだ」
「..............................」
「もしかして遠慮しているのか?ああ、そんな訳ないか。ずかずか人の心を土足で踏み荒らす君が、そんな繊細な神経を持ち合わせているわけないな。そうかそうか、腹でも減っているのか?」
「レオナード様?」
「ん?どうした?」
「ちょっと、お外でお話ししましょうか」
そう言うが早いが、人前で堂々と私をディスってくれた公爵家のご長男様の襟首を掴んで席を立つ。でも身長差があるせいで、彼を立たせることはできず思わず舌打ち………が出来なかった。
なぜかと言えば、今、私はレオナードの屋敷ではなく、街の宝石店にいるからだ。言う必要はないかもしれないが、文具店ではなく宝石店だ。しかも、一見さんアンド平民さんお断りと言わんばかりの超が付く高級店に。
え?どうした?何かに目覚めたか?なんて聞かないで欲しいし、じゃあ、なぜこんなところにいるんだとも聞かないで欲しい。なにせ、私が聞きたいぐらいなのだから。唯一わかることといえば、現在のこの状況を茶番だと思っているのは、私だけ…………ということ。
そして、この一連の不可解な理由を知っているのは、当事者であるレオナードだけ。
「…………あの、お取り込み中、大変申し訳ありませんが、お連れ様に似合う商品を幾つかお持ちしました」
おずおずと切り出してはいるが、目はがっちり『太客になること間違いないっ。こやつら逃がすまじ』と商人根性丸出しの店主が、宝石の乗ったトレーを恭しくこちらに差し出してきた。
「結構です」
「ほう、なかなかの一品だ」
どちらがどの台詞を吐いたかは、言わずもがな。
そして私は、彼の一言でプツンと何かが切れた。何がなにやらさっぱりわからない状態で、こんなセレブ御用達のお店にいるなんて、いいかげんうんざりだし、もう、余所行きの顔を作るのも限界だった。
という訳で、未だに席を立つ気配すらなく、しかも暢気に宝石を覗き込むレオナードの襟首をさらに引っ張った。けれど───。
「ま、待ってくれ、ミリア嬢。気に入らなかったのか!?なら、せめて好きなデザインだけでも教えてくれ」
散歩が足りなかった犬のように、両足を踏ん張ってレオナードは的外れなことをほざいてくれる。
「おだまりなさい、レオナード。さっさと席を立って」
店主には聞こえない声量で、そう耳元でささやいても、彼は頑なに席を立とうとしない。
「しかし、ミリア嬢───」
「四の五、うるさいわね。公衆の面前で張り倒されたいの?」
声量はそのまま、でもドスを聞かした声でそう言えば、レオナードはようやっと席を立つ。そして私は、彼を引きずるようにして、店の外へと足を向けた。
けれど扉を空けた途端、店主から『これお気に召していただけたようなので、全部、取り置きさせて頂きます』という商魂厚かましい発言が飛んできた。
その気概には賛辞を贈りたい。が、これが野菜やパンなら『おじさん、もう一声!』といきたいところ。けれど、取り扱うものがモノだけに、私は眼力だけで黙らせるしかなく、ついでに、絶対に買わないという意思を込めて、首を強く横に振った。
そして店前で待機している馬車に、ハウスと言いながらレオナードを押し込むと、御者よりも早く扉を閉めた。取り敢えず、これで周囲の目を気にする必要がなくなった私は、ほっと肩の力を抜く。そして───。
「で、これは何の茶番?」
溜まり溜まった鬱憤を吐き出すかのように、レオナードを睨みつければ、彼はきょとんと眼を丸くした。
…………よろしい。ならば、教育的指導も含めて、この拉致監禁の理由を納得いくまで説明してもらおう。
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初めまして、茂栖もすです。このお話は10:10に更新しています。時々20:20にも更新するので、良かったら覗いてみてください٩( ''ω'' )و
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