18 / 114
5日目①
しおりを挟む
.。*゚+.*.。 5日目 ゚+..。*゚+
「頼み事がある」
「ごめんなさい。私にはできそうにも無いわ」
「………ミリア嬢、せめて、聞いてから断ってくれないか?」
「それもそうね。で、何でしょう?」
「夜会に一緒に出席をして欲しい。婚約者として」
「ごめんなさい。私にはできそうにも無いわ」
「……………………」
にこりと笑みを浮かべて私は、差し出された夜会の招待状を片手で握り潰………そうとしたけれど、その前にレオナードに奪い返されてしまった。
隠すことなくちっと舌打ちをすれば、レオナードは若干怯みながらも、絶対に奪われてなるものかと両手でぎゅっとそれを握りしめながら、首を横に振った。
両者一歩も引かないで対峙する私たち。ちなみに本日は晴天に恵まれたので、ロフィ家の庭の東屋でテーブルを挟んで向かい合っている。
それにしても、会って早々、こんな無理難題を押し付けられるとは思わなかった。ということを伝えるために、テーブルに肘をついて大仰に溜息を付いてみせる。けれど、今日のレオナードは気丈に顔を上げたままだ。
「君が夜会嫌いだというのは、何となく察している。そんな君にこんなお願い事をするのは、無謀なことだとわかってる。そうさ、私だって死に急ぐマネはしたくない。アイリー……いや、彼女とのバラ色の未来が待っているんだからな。が、しかし、その輝かしい未来の為にも、敢えてここは死を覚悟して君にこうして頭を下げているんだ」
「へぇー、頭を下げる、ねぇ」
頬杖をついて、ぎろりとレオナードを睨みつけてみる。どうも今日の彼は何かがおかしい。
どことなく何故か踏ん反り返っているようにも見えるその態度に『どうした?おい。もしかして、昨日、図書室で変な自己啓発本でも読んだのか?ああいう類の本は、真に受けたらヤバいぞ』なんてことを、心の中で呟いてみる。
が、一先ず私は有言実行しない人間には容赦しない主義なので、頭を下げると言いながら一向にそうしないレオナードにひらりと指先を揃えて庭の建造物を指しながら口を開いた。
「死ななくても良いし、頭を下げなくてもいいから、ちょっとあそこで、釣りでもしてきてくださいな」
そう言えばレオナードの顔は見事に引きつった。ちなみに私が指し示したのは、庭にあるちょっと小ぶりの噴水。そして予想通りレオナードは高速で首を横に振った。
「………………君は私を余程、入院させたいようだな」
「あら、冗談よ、レオナード。今日も素直に引っかかってくれてチョロ………いえ、可愛らしいわ」
「ミリア嬢、今、チョロイと言いかけなかったか?」
「まさか。公爵家のご長男様にそんな大それたこと言わないわよ」
「………………そうか」
レオナードは頷いてはいるが、納得いかない様子で今日も私をジト目で睨んでいる。そんな彼に向かい私はしおらしく頭を下げた。
「噴水で釣りをしてって言ったのは、本当に冗談よ。でも、過ぎた冗談だったわね。ごめんなさい」
「は!?君が素直に謝るなんてどういう風の吹き回しだっ。また昨日のような雷雨はお断りだぞ」
「ったく、妙齢の女性に対してなんていう言い草なの?でも、今日はそれについても、何も言わないわ。ただ…………」
「ただ、何だ」
「夜会には出席したくない、ではなくて、出席できない理由があるの」
そう言って私は、レオナードの手から夜会の招待状を奪い取ると、ひっくり返して差出人に指を向けた。
「この差出人を良く見て。チェフ家と書いてあるわよね。でね私、その息子さんであるシェナンド様をボコボコにしたことがあるの」
瞬間、レオナードは強い緊迫と驚愕でひゅっと声にならない悲鳴を上げて天を仰いだ。意味はないけれど私も同じように天を仰いでみる。…………この東屋、天井にも彫刻がされている。誰が見るんだ?ああ、私、見てるわ。
でも、金持ちの考えることは良く分からない。そこにお金をかけてどうするの?と庶民全開のことを考えていたら───。
「ど、どういった経緯でそうなったのか………聞かせてもらっても良いだろうか」
と、一足先に顔を正面に戻したバルドゥールから、そんな要望が飛んできた。その声で私も視線をレオナードに戻して口を開いた。
「まぁ別に良いけれど、そんな大した話じゃないわよ」
「………それは、聞いてから判断させてもらおう」
「あら、そ」
季節外れの怪談話を聞くように、ごくりと唾を飲んだバルドゥールに、そこまで気負わなくてもと内心思う。
けれど、この話で円満に夜会の話を無しにしてもらえることを祈って、私はあの日の悪夢を静かに語り出した。
「頼み事がある」
「ごめんなさい。私にはできそうにも無いわ」
「………ミリア嬢、せめて、聞いてから断ってくれないか?」
「それもそうね。で、何でしょう?」
「夜会に一緒に出席をして欲しい。婚約者として」
「ごめんなさい。私にはできそうにも無いわ」
「……………………」
にこりと笑みを浮かべて私は、差し出された夜会の招待状を片手で握り潰………そうとしたけれど、その前にレオナードに奪い返されてしまった。
隠すことなくちっと舌打ちをすれば、レオナードは若干怯みながらも、絶対に奪われてなるものかと両手でぎゅっとそれを握りしめながら、首を横に振った。
両者一歩も引かないで対峙する私たち。ちなみに本日は晴天に恵まれたので、ロフィ家の庭の東屋でテーブルを挟んで向かい合っている。
それにしても、会って早々、こんな無理難題を押し付けられるとは思わなかった。ということを伝えるために、テーブルに肘をついて大仰に溜息を付いてみせる。けれど、今日のレオナードは気丈に顔を上げたままだ。
「君が夜会嫌いだというのは、何となく察している。そんな君にこんなお願い事をするのは、無謀なことだとわかってる。そうさ、私だって死に急ぐマネはしたくない。アイリー……いや、彼女とのバラ色の未来が待っているんだからな。が、しかし、その輝かしい未来の為にも、敢えてここは死を覚悟して君にこうして頭を下げているんだ」
「へぇー、頭を下げる、ねぇ」
頬杖をついて、ぎろりとレオナードを睨みつけてみる。どうも今日の彼は何かがおかしい。
どことなく何故か踏ん反り返っているようにも見えるその態度に『どうした?おい。もしかして、昨日、図書室で変な自己啓発本でも読んだのか?ああいう類の本は、真に受けたらヤバいぞ』なんてことを、心の中で呟いてみる。
が、一先ず私は有言実行しない人間には容赦しない主義なので、頭を下げると言いながら一向にそうしないレオナードにひらりと指先を揃えて庭の建造物を指しながら口を開いた。
「死ななくても良いし、頭を下げなくてもいいから、ちょっとあそこで、釣りでもしてきてくださいな」
そう言えばレオナードの顔は見事に引きつった。ちなみに私が指し示したのは、庭にあるちょっと小ぶりの噴水。そして予想通りレオナードは高速で首を横に振った。
「………………君は私を余程、入院させたいようだな」
「あら、冗談よ、レオナード。今日も素直に引っかかってくれてチョロ………いえ、可愛らしいわ」
「ミリア嬢、今、チョロイと言いかけなかったか?」
「まさか。公爵家のご長男様にそんな大それたこと言わないわよ」
「………………そうか」
レオナードは頷いてはいるが、納得いかない様子で今日も私をジト目で睨んでいる。そんな彼に向かい私はしおらしく頭を下げた。
「噴水で釣りをしてって言ったのは、本当に冗談よ。でも、過ぎた冗談だったわね。ごめんなさい」
「は!?君が素直に謝るなんてどういう風の吹き回しだっ。また昨日のような雷雨はお断りだぞ」
「ったく、妙齢の女性に対してなんていう言い草なの?でも、今日はそれについても、何も言わないわ。ただ…………」
「ただ、何だ」
「夜会には出席したくない、ではなくて、出席できない理由があるの」
そう言って私は、レオナードの手から夜会の招待状を奪い取ると、ひっくり返して差出人に指を向けた。
「この差出人を良く見て。チェフ家と書いてあるわよね。でね私、その息子さんであるシェナンド様をボコボコにしたことがあるの」
瞬間、レオナードは強い緊迫と驚愕でひゅっと声にならない悲鳴を上げて天を仰いだ。意味はないけれど私も同じように天を仰いでみる。…………この東屋、天井にも彫刻がされている。誰が見るんだ?ああ、私、見てるわ。
でも、金持ちの考えることは良く分からない。そこにお金をかけてどうするの?と庶民全開のことを考えていたら───。
「ど、どういった経緯でそうなったのか………聞かせてもらっても良いだろうか」
と、一足先に顔を正面に戻したバルドゥールから、そんな要望が飛んできた。その声で私も視線をレオナードに戻して口を開いた。
「まぁ別に良いけれど、そんな大した話じゃないわよ」
「………それは、聞いてから判断させてもらおう」
「あら、そ」
季節外れの怪談話を聞くように、ごくりと唾を飲んだバルドゥールに、そこまで気負わなくてもと内心思う。
けれど、この話で円満に夜会の話を無しにしてもらえることを祈って、私はあの日の悪夢を静かに語り出した。
0
初めまして、茂栖もすです。このお話は10:10に更新しています。時々20:20にも更新するので、良かったら覗いてみてください٩( ''ω'' )و
お気に入りに追加
961
あなたにおすすめの小説

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです
じじ
恋愛
「あんな女、金だけのためさ」
アリアナ=ゾーイはその日、初めて婚約者のハンゼ公爵の本音を知った。
金銭だけが目的の結婚。それを知った私が泣いて暮らすとでも?おあいにくさま。あなたに恋した少女は、あなたの本音を聞いた瞬間消え去ったわ。
私が金づるにしか見えないのなら、お望み通りあなたのためにお金を用意しますわ…ただし、利子付きで。

大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた
黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」
幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。
夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども
神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」
と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。
大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。
文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる