これは未来に続く婚約破棄

茂栖 もす

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5日目①

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.。*゚+.*.。 5日目  ゚+..。*゚+

「頼み事がある」
「ごめんなさい。私にはできそうにも無いわ」
「………ミリア嬢、せめて、聞いてから断ってくれないか?」
「それもそうね。で、何でしょう?」
「夜会に一緒に出席をして欲しい。婚約者として」
「ごめんなさい。私にはできそうにも無いわ」
「……………………」

 

 にこりと笑みを浮かべて私は、差し出された夜会の招待状を片手で握り潰………そうとしたけれど、その前にレオナードに奪い返されてしまった。

 隠すことなくちっと舌打ちをすれば、レオナードは若干怯みながらも、絶対に奪われてなるものかと両手でぎゅっとそれを握りしめながら、首を横に振った。

 両者一歩も引かないで対峙する私たち。ちなみに本日は晴天に恵まれたので、ロフィ家の庭の東屋でテーブルを挟んで向かい合っている。

 それにしても、会って早々、こんな無理難題を押し付けられるとは思わなかった。ということを伝えるために、テーブルに肘をついて大仰に溜息を付いてみせる。けれど、今日のレオナードは気丈に顔を上げたままだ。

「君が夜会嫌いだというのは、何となく察している。そんな君にこんなお願い事をするのは、無謀なことだとわかってる。そうさ、私だって死に急ぐマネはしたくない。アイリー……いや、彼女とのバラ色の未来が待っているんだからな。が、しかし、その輝かしい未来の為にも、敢えてここは死を覚悟して君にこうして頭を下げているんだ」
「へぇー、頭を下げる、ねぇ」

 頬杖をついて、ぎろりとレオナードを睨みつけてみる。どうも今日の彼は何かがおかしい。

 どことなく何故か踏ん反り返っているようにも見えるその態度に『どうした?おい。もしかして、昨日、図書室で変な自己啓発本でも読んだのか?ああいう類の本は、真に受けたらヤバいぞ』なんてことを、心の中で呟いてみる。

 が、一先ず私は有言実行しない人間には容赦しない主義なので、頭を下げると言いながら一向にそうしないレオナードにひらりと指先を揃えて庭の建造物を指しながら口を開いた。

「死ななくても良いし、頭を下げなくてもいいから、ちょっとあそこで、釣りでもしてきてくださいな」

 そう言えばレオナードの顔は見事に引きつった。ちなみに私が指し示したのは、庭にあるちょっと小ぶりの噴水。そして予想通りレオナードは高速で首を横に振った。

「………………君は私を余程、入院させたいようだな」
「あら、冗談よ、レオナード。今日も素直に引っかかってくれてチョロ………いえ、可愛らしいわ」
「ミリア嬢、今、チョロイと言いかけなかったか?」
「まさか。公爵家のご長男様にそんな大それたこと言わないわよ」
「………………そうか」

 レオナードは頷いてはいるが、納得いかない様子で今日も私をジト目で睨んでいる。そんな彼に向かい私はしおらしく頭を下げた。

「噴水で釣りをしてって言ったのは、本当に冗談よ。でも、過ぎた冗談だったわね。ごめんなさい」
「は!?君が素直に謝るなんてどういう風の吹き回しだっ。また昨日のような雷雨はお断りだぞ」
「ったく、妙齢の女性に対してなんていう言い草なの?でも、今日はそれについても、何も言わないわ。ただ…………」
「ただ、何だ」
「夜会には出席したくない、ではなくて、出席できない理由があるの」
  
 そう言って私は、レオナードの手から夜会の招待状を奪い取ると、ひっくり返して差出人に指を向けた。

「この差出人を良く見て。チェフ家と書いてあるわよね。でね私、その息子さんであるシェナンド様をボコボコにしたことがあるの」

 瞬間、レオナードは強い緊迫と驚愕でひゅっと声にならない悲鳴を上げて天を仰いだ。意味はないけれど私も同じように天を仰いでみる。…………この東屋、天井にも彫刻がされている。誰が見るんだ?ああ、私、見てるわ。

 でも、金持ちの考えることは良く分からない。そこにお金をかけてどうするの?と庶民全開のことを考えていたら───。

「ど、どういった経緯でそうなったのか………聞かせてもらっても良いだろうか」

 と、一足先に顔を正面に戻したバルドゥールから、そんな要望が飛んできた。その声で私も視線をレオナードに戻して口を開いた。

「まぁ別に良いけれど、そんな大した話じゃないわよ」
「………それは、聞いてから判断させてもらおう」
「あら、そ」

 季節外れの怪談話を聞くように、ごくりと唾を飲んだバルドゥールに、そこまで気負わなくてもと内心思う。

 けれど、この話で円満に夜会の話を無しにしてもらえることを祈って、私はあの日の悪夢を静かに語り出した。
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初めまして、茂栖もすです。このお話は10:10に更新しています。時々20:20にも更新するので、良かったら覗いてみてください٩( ''ω'' )و
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