これは未来に続く婚約破棄

茂栖 もす

文字の大きさ
上 下
4 / 114

1日目①

しおりを挟む
.。*゚+.*.。 1日目  ゚+..。*゚+

「今朝、あなたからお手紙を頂いたんですが、この内容は何かの間違いですよね?」
「ん?君と婚約する。ついては詳しい話をしたいから、我が家に来い、という内容のことか?」
「ええ、そうです。一字一句間違えずに言えてお利口さんですが、こんな手紙を朝早く受け取り、誰にもバレないようにこっそり屋敷を抜け出して来た私の気持ちを察して下さい」
「ああ、君はまだ就寝中だったか。それはすまなかったな」
「………違います。私が耄碌していなければのお話ですが、私はあなたからお見合いを断られました。まぁぶっちゃけ婚約破棄といっても過言ではないでしょう。そんな私は、あなたからの婚約破棄をを笑顔で承諾したはずです」
「安心してくれ、その通りだ。君は耄碌していない」
「そうですか。では、話を元に戻しますが、婚約破棄の破棄は間違いですよね?」
「いや、そこは間違いない」
「はぁ!?気でも触れましたか?」
「いや、気が変わった」
「………もう一回、気が変わるように致しましょうか?」




 ぐっと拳を突き出した私に、先日、最高の笑顔でお見合いを断った男はぶるりと身を震わせながら、口を開いた。

「ずいぶんと噂とは違うようだな、ミリア嬢」
「何が言いたいのですか?レオナード様」

 拳はそのままにして、片眉を吊り上げれば、目の前の優男は、そっと私から視線を外した。まったくもって情けない、これでも剣を手にする男なのだろうか。

「家柄だけは、ご立派ですが、中身はなんともひ弱なお坊ちゃまですわね。はっきり言って宜しいですわよ。わたくしが、口より先に拳が出る荒くれ物で、家柄はあなたより格下の成り上がりの男爵令嬢または、インチキ令嬢。そんなわたくしが、あなた様のような格式ある公爵家からの婚約破棄を承諾するわけがない。ゴネるなり、泣くなりすべきところを、あっさりと承諾した腹いせにこうして呼び出しをしていらっしゃるんでしょ?」
「息継ぎもなしに、一気に言い切ったが、君の肺活量はどうなっているんだ!?」
「気にするところ、そこですか!?」

 くわっと目を見開いて、指の関節を曲げて、ぽきりと音を立てれば、レオナードは違う違うと大降りに両手を振って口を開いた。

「ミリア嬢、君は貴族の男連中から、幻想の花って言われてるんだよ」
「いや、幻って………ここに居ますけど………」
「そうじゃなくって、滅多に夜会に姿を現さない。ごくごく稀に出席したとしても、一瞬で消えてしまうから、そう呼ばれているんだ」
「あー………」
「加えて君のその容姿、母君から受け継いだ漆黒の髪に、紫色の瞳はミステリアスで、男どもの妄想を更にかきたてる。………余計なお世話だが、本当に父君に似なくて良かったな」
「最後の一文、父上に伝えて良いかしら?」
「………失言だった、すまない。忘れてくれ」

 父の名を出した途端、ものすごい早さで頭を下げた公爵家のご長男様を見て、自分の父親がどれほど恐れられている人物なのかを知りちょっと複雑な気持ちになる。まぁ、それは置いといて………。

 ここは、ロフィ家の庭。そう、昨日お見合いをしたあの無駄に広い庭に、私とレオナードは居る。ちなみに今日は歩いている訳ではない。庭の奥にある東屋で、テーブルを挟んで対峙している。 

 目の前のテーブルには、上品で高そうなティーカップとポット。そしてスコーンにケーキにジャムにクッキーにショコラに果実に………と、所狭しと並べられている。

 っていうか、昨日のお見合いより歓迎ムードって何それ?

 再び微妙な気持ちになってしまった私だけれど、一先ずこの昨日から始まった茶番の理由を聞きたくて口を開いた。ま、事と次第によったら、東屋でボコボコにされた公爵家のご長男様が発見されることになるかもしれないけれど。

「ぶっちゃけ、あなた何をしたいんですか?」
「………怒らずに聞いてもらえるか?」
「無理………と言いたいけれど、私もそこは知りたいところだし、百歩譲って善処するわ」
「いや、確約してくれ」
「ぅるっさいわね、さっさと話しなさいっ」

 バンッとテーブルを叩きつければ、レオナードは小さく胸に十字を切ってから口を開いた。
しおりを挟む
初めまして、茂栖もすです。このお話は10:10に更新しています。時々20:20にも更新するので、良かったら覗いてみてください٩( ''ω'' )و
感想 44

あなたにおすすめの小説

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです

じじ
恋愛
「あんな女、金だけのためさ」 アリアナ=ゾーイはその日、初めて婚約者のハンゼ公爵の本音を知った。 金銭だけが目的の結婚。それを知った私が泣いて暮らすとでも?おあいにくさま。あなたに恋した少女は、あなたの本音を聞いた瞬間消え去ったわ。 私が金づるにしか見えないのなら、お望み通りあなたのためにお金を用意しますわ…ただし、利子付きで。

婚約解消は君の方から

みなせ
恋愛
私、リオンは“真実の愛”を見つけてしまった。 しかし、私には産まれた時からの婚約者・ミアがいる。 私が愛するカレンに嫌がらせをするミアに、 嫌がらせをやめるよう呼び出したのに…… どうしてこうなったんだろう? 2020.2.17より、カレンの話を始めました。 小説家になろうさんにも掲載しています。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

処理中です...