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お遣いの章
お遣い中のサプライズはご遠慮願います②
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強引にナギの腕を掴んで脇道に逸れた私は立ち止まって、力いっぱい睨みつけた。
「ちょっと、ナギさん、この状況を説明して下さい」
小声だけど、しっかり不機嫌な声で伝えてみる。けれど、ナギはキョトンと、目をぱちくりさせて口を開いた。
「どうもこうも見たままですよ」
「その見たままが納得できないから、こうしてわざわざ聞いてるんですっ」
「そう言われましても………主君であるシュウト様が、あなたに付いていくなら、私はそれに従うまでのことです」
「………………………………………………」
口には出さないけれど、どいつもこいつもと心の中で悪態をついてみる。とぼけるのも大概にして欲しい、と。
随分昔に感じてしまうけどつい最近の出来事である、あの桃丘からの帰り道、私はシュウトの屋敷に留まることを条件付きでナギと約束したのだ。
【シュウトの屋敷に居るのは、お迎えが来るまで。そしてお迎えが来たら、私は屋敷を出ていきます。その時は、絶対に邪魔しないでくださいね】と。
もちろんナギは承諾してくれた。だからお迎えが来たら、それはシュウトとナギとお別れする時だと思い込んでいた。そして風神さんが言った通り、あの後すぐにタツミとヒノエが私を迎えに来た。
……そういえば、今思えばここからおかしかったのだ。
お遣いを再開する意思をみせたのだから、直ぐに出発すると思っていた。でも、出発は翌日に延びたのだ。
あれだけ殺気バンバンで武器を構えていた4人が、その数時間後に、仲良く同じ屋根の下で一晩明かすなど、冷静に考えれば有り得ないことだった。
でも胸の痛みに耐えていた私は自分のことでいっぱいいっぱいで、そこまで考える余裕がないまま、あの日の夜は更けていった。
然して翌日、シュウトとナギは私が別れの言葉を言い終えるや否や、すちゃっと荷物一式を担ぎ、二人揃って私の後をついて来ているのだ。
今更ながら、こんな事態になるとは露知れず……シュウトとナギの手を握ってお別れの言葉を言った私は、とことん間抜けである。
あの時のことを思い出し、騙された怒りで震える私に、ナギは困ったように、眉を下げ口を開いた。
「瑠璃殿、そんなに私達が同行するのが、お嫌ですか?」
「・・・え?」
「瑠璃殿、厩で言っていたではありませんか。一緒について来て欲しいと」
「・・・うっ」
「私達は、瑠璃殿の望み通り、同行しているだけですよ」
「・・・・・・」
ナギは涼しい顔で、ああ言えば、こう言う。減らず口を叩くなと言いたいところだけど、ナギは嘘は付いてない。全部事実だけに、言い返すことができない。でも、これは言っておきたい。
「………あの……ナギさん、盗み聞きは良くないですよ」
「おや、私は盗み聞きしたなどとは言ってないですよ。カザハから聞いたかも、とは?」
「そんなわけないでしょっ」
しれっとシュウトの愛馬に責任を押し付けるナギを食い気味に否定してみる。
カザハは神馬で人の言葉がわかるらしい。それはきっと間違いない。でも、人語を話すなどとは聞いていないし、実際、カザハが人語をしゃべったことなど見たことはない。
最後に約束通り邪魔などしてないですかと、ニヤニヤ意地悪く笑顔で締めくくるナギに、舌打ちしたい気分だ。もちろんシュウトにも。だって厩での会話を盗み聞きしておきながら、何食わぬ顔で私に抱きしめれたいなどと言うなんて、人をコケにするのも程がある。
でもわかっている。二人は私をからかった訳ではないということを。
タツミとヒノエが迎えに来てくれた瞬間、シュウトがついて行くと言っても私は首を縦に振ることはなかっただろう。
そんな頑固な私を除け者にして、あの夜、4人が何を話し合ったのかはわからないし、そこを詳しく聞こうとは思わない。ただ、タツミとヒノエは追加された同行者が邪魔さえしなければ特に構わないということだけは間違いなさそうだ。
あぁ、もう・・・シュウトとナギは、どうしてこう、私の覚悟を嬉しく裏切ってくれるのだろう。私が欲しかったものをあれだけ沢山くれて、もう充分だと思っていたのに、更にお遣いに同行してくれるなんて嬉しい。
幸せ過ぎて目眩がしそうだ───でも、やっぱり腹立だしい。多分この感情は怒りではなくて拗ねているというもの。言葉にするなら【何で言ってくれなかったの?】だ。
もしかしてこれは日本でいうサプライズ的なものかもしれないけれど、人との関わりを避けてきた私にいきなりそれはハードルが高すぎる。
そしてこの感情はちょっと厄介で、嬉しさと怒りと不満とが入り混じり、どうしたって素直に喜べない。
そんな自分に対しての怒りや苛立ちは、どこかにぶつけて良い訳がなく、でも、自分の中で折り合いをつけるのも難しく……結果、黙々と歩くしかできなかった。
【でも】とか【だって】とか湧きあがる不満を踏みつぶすように、交互に足を動かしながら澄み切った春の空を仰ぎ見る。この澄んだ青空とは正反対に、私の心情は曇り空だ。なぜなら、風神さんは、多分このことを知っているから。
えっと先に謝っておきます。
ごめんなさい、再開したお遣いは珍道中になりそうです。聞いてないかもしれないけど、言わせて下さいっ。これは、不可抗力なんです。
だから怒らずに、もう少し待ってて下さいね。
「ちょっと、ナギさん、この状況を説明して下さい」
小声だけど、しっかり不機嫌な声で伝えてみる。けれど、ナギはキョトンと、目をぱちくりさせて口を開いた。
「どうもこうも見たままですよ」
「その見たままが納得できないから、こうしてわざわざ聞いてるんですっ」
「そう言われましても………主君であるシュウト様が、あなたに付いていくなら、私はそれに従うまでのことです」
「………………………………………………」
口には出さないけれど、どいつもこいつもと心の中で悪態をついてみる。とぼけるのも大概にして欲しい、と。
随分昔に感じてしまうけどつい最近の出来事である、あの桃丘からの帰り道、私はシュウトの屋敷に留まることを条件付きでナギと約束したのだ。
【シュウトの屋敷に居るのは、お迎えが来るまで。そしてお迎えが来たら、私は屋敷を出ていきます。その時は、絶対に邪魔しないでくださいね】と。
もちろんナギは承諾してくれた。だからお迎えが来たら、それはシュウトとナギとお別れする時だと思い込んでいた。そして風神さんが言った通り、あの後すぐにタツミとヒノエが私を迎えに来た。
……そういえば、今思えばここからおかしかったのだ。
お遣いを再開する意思をみせたのだから、直ぐに出発すると思っていた。でも、出発は翌日に延びたのだ。
あれだけ殺気バンバンで武器を構えていた4人が、その数時間後に、仲良く同じ屋根の下で一晩明かすなど、冷静に考えれば有り得ないことだった。
でも胸の痛みに耐えていた私は自分のことでいっぱいいっぱいで、そこまで考える余裕がないまま、あの日の夜は更けていった。
然して翌日、シュウトとナギは私が別れの言葉を言い終えるや否や、すちゃっと荷物一式を担ぎ、二人揃って私の後をついて来ているのだ。
今更ながら、こんな事態になるとは露知れず……シュウトとナギの手を握ってお別れの言葉を言った私は、とことん間抜けである。
あの時のことを思い出し、騙された怒りで震える私に、ナギは困ったように、眉を下げ口を開いた。
「瑠璃殿、そんなに私達が同行するのが、お嫌ですか?」
「・・・え?」
「瑠璃殿、厩で言っていたではありませんか。一緒について来て欲しいと」
「・・・うっ」
「私達は、瑠璃殿の望み通り、同行しているだけですよ」
「・・・・・・」
ナギは涼しい顔で、ああ言えば、こう言う。減らず口を叩くなと言いたいところだけど、ナギは嘘は付いてない。全部事実だけに、言い返すことができない。でも、これは言っておきたい。
「………あの……ナギさん、盗み聞きは良くないですよ」
「おや、私は盗み聞きしたなどとは言ってないですよ。カザハから聞いたかも、とは?」
「そんなわけないでしょっ」
しれっとシュウトの愛馬に責任を押し付けるナギを食い気味に否定してみる。
カザハは神馬で人の言葉がわかるらしい。それはきっと間違いない。でも、人語を話すなどとは聞いていないし、実際、カザハが人語をしゃべったことなど見たことはない。
最後に約束通り邪魔などしてないですかと、ニヤニヤ意地悪く笑顔で締めくくるナギに、舌打ちしたい気分だ。もちろんシュウトにも。だって厩での会話を盗み聞きしておきながら、何食わぬ顔で私に抱きしめれたいなどと言うなんて、人をコケにするのも程がある。
でもわかっている。二人は私をからかった訳ではないということを。
タツミとヒノエが迎えに来てくれた瞬間、シュウトがついて行くと言っても私は首を縦に振ることはなかっただろう。
そんな頑固な私を除け者にして、あの夜、4人が何を話し合ったのかはわからないし、そこを詳しく聞こうとは思わない。ただ、タツミとヒノエは追加された同行者が邪魔さえしなければ特に構わないということだけは間違いなさそうだ。
あぁ、もう・・・シュウトとナギは、どうしてこう、私の覚悟を嬉しく裏切ってくれるのだろう。私が欲しかったものをあれだけ沢山くれて、もう充分だと思っていたのに、更にお遣いに同行してくれるなんて嬉しい。
幸せ過ぎて目眩がしそうだ───でも、やっぱり腹立だしい。多分この感情は怒りではなくて拗ねているというもの。言葉にするなら【何で言ってくれなかったの?】だ。
もしかしてこれは日本でいうサプライズ的なものかもしれないけれど、人との関わりを避けてきた私にいきなりそれはハードルが高すぎる。
そしてこの感情はちょっと厄介で、嬉しさと怒りと不満とが入り混じり、どうしたって素直に喜べない。
そんな自分に対しての怒りや苛立ちは、どこかにぶつけて良い訳がなく、でも、自分の中で折り合いをつけるのも難しく……結果、黙々と歩くしかできなかった。
【でも】とか【だって】とか湧きあがる不満を踏みつぶすように、交互に足を動かしながら澄み切った春の空を仰ぎ見る。この澄んだ青空とは正反対に、私の心情は曇り空だ。なぜなら、風神さんは、多分このことを知っているから。
えっと先に謝っておきます。
ごめんなさい、再開したお遣いは珍道中になりそうです。聞いてないかもしれないけど、言わせて下さいっ。これは、不可抗力なんです。
だから怒らずに、もう少し待ってて下さいね。
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