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お遣いの章

お遣いが始まりました

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 出発の朝、シュウトとナギの手を握って、お別れの言葉を口にした。胸の痛みと、離れたくないという言葉を胸に隠して。二人に会えて、本当に良かった。

 予想外の出来事から始まった、この偶然という出会いは、私を大きく変えて、小さなあるものを芽生えさせてくれた。

 それは本当だったら、だんだん育って恋と呼ばれるものになっていたと思う。だけど、未完成のそれは、まだ名前をつけることすらできない、曖昧なもの。

 それはとても小さくて、脆いものだけど、これからの私を導く尊きもの。

 例え、二度と会えなくても───この想いは、必ず日本に持って帰ろう。これは時空を超えても残るものだから。

 『さようなら』

 もう一度、二人を見つめ、感謝の意を込めて、別れの言葉を口にした。



 ───でも、二人は頷くことはしなかった。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






「いや~マジで、瑠璃様が良い返事をしていただけて、本当に良かったっす。返事次第では、手段を選ばず無傷でつれて来い、なんて言うんで本当に困ってたんですよぉ~」

 ポックリポックリ

「そうなんですか?今だから言えるんですが、実はちょっと困らしてみようかなーなんて思ってたんです。でも……手段を選ばずって、ちょっと怖いですよね?あ~素直に行くって言って良かったです~。ふふっ、あははっ」

 ポックリポックリ

「あっはは~、そりゃ~良かったっす。手段選ばない方法なんて、とりあえず死なない程度に毒を盛って気絶させて麻袋に詰めて運ぼうって、ヒノエと決めてたんですよ~」

 ポックリポックリ

「………え……………あの…………死なない程度って……何を盛る気だったんですか?」

 ポックリポックリ

「あぁ~…………さー~せん、それは、わかんないっす。毒物はヒノエが担当なんで。今、聞いてみましょっかぁ?」

 ポックリポックリ

「あっ良いです良いです。大丈夫っ」

 ポックリポックリ

「そぉっすか。まぁ、気が向いたら聞いてみてやって下さいっすよ。ヒノエも喜びますっから」

 ポックリポックリ

「…………はい、わかりました」

 私とタツミは、こんな調子に道中ずっと軽~い口調で会話を交わしている。内容は軽いとは言い難いけれど。人と接することがあまり上手ではない私だけど、タツミはすごくノリが良くて、とても話しやすい。

 例えは悪いけれど、何ていうかクラスに一人はいる犬的存在。いつもニコニコしていて性別関係なく、誰からも好かれるそんな感じ。タツミが一緒にシュスイの秘境まで同行してくれて素直に嬉しい。

 それにタツミは旅慣れているので、旅初心者かつ異世界から来た私でも安全な道を選んでくれているので、遠足気分で目的地に到着できそうだ。………ただ一つのことを除けば。

 その不安要素というのは、さっきから会話の合いの手のようにポックリポックリと聞こえているのは馬の蹄の音。そう、私の後ろにはタツミ以外の同行者、3人と一頭が少し距離を置いて、私達の後を追っている。つまり、計5人でシュスイの秘境を目指していることになる。

 …………おかしい、絶対におかしい、数が合わない。当初の予定より、明らかに人数が増えている。

 これはこのまま無視して進むべきなのだろうか、それとも何かしらの対応を考えたほうが良いのだろうか。
 ちなみに隣にいるタツミはまったく気にしてる様子はない。そして後ろを歩く人達も気にしている様子はなく自然に歩みを進めている。

 そう、私さえ気にしなければ、このまま【そういうもの】として進んでいく流れだ。けれど、気にするなと言われても、はいそうですかと頷ける程私は図太い神経は持ち合わせておらず………結局、見て見ぬふりをするのは3歩が限界だった。

 ということで、私はくるりと振り返って、つかつかと後ろにいる3人の中で一番大柄な男を睨みつけた。

「あの……なんで、いるんですか?」

 私に睨み付けられた大柄な男は、信じられないというかのように目を見開いた。私にそう言われる理由は分かりきっているはずなのに。間違いなく彼は私を煽っている。



 ちなみに私が睨みつけているその男とは───シュウトである。

 長年、人目を避けナギと二人っきり人里離れた屋敷で身を隠し続けていた、やんごとなき身分の人間かもしれない、あのシュウトである。

 もちろん、ナギとカザハもセットなのは、推して知るべしということで。
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