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寄り道の章

イケメンに告白します②

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 出逢ってすぐ、シュウトは私のことを好きだと言ってくれた。でも私のどこに惹かれたのか未だにわからない。

 私はこれといって人より秀でているものなんてないし、容姿だって中途半端に赤茶色の髪に、角度によって色味が変わる気味が悪い瞳。もう少し謙虚に小さい瞳だったらマシだったかもしれないけど無駄に大きい瞳は薄気味悪さをより一層際立たせている。

 おまけにこの可愛げのない性格だ。そしてこれから話すことは、きっとシュウトを幻滅させること。

 このまま都合良く自分が受けた辛い話だけをして、ただ可愛そうな自分を演じて、この屋敷を去るまでシュウトやナギに甘え続けたいと思う自分がいる。そしてそのズルさを二人は甘受してくれる確信がある。

 でもそれはまっすぐに向き合おうとしてくれたシュウトを裏切ることになる。

 人とまっすぐ向き合うのはとても怖い。拒絶されたら途方も無く胸が痛む。そう、私はその痛みを怖さを知っている。だから、だからこそシュウトには偽ってはいけないのだ。

 

「シュウト、私、可哀相なんかじゃないんです。私、嫌な子です。だって私、今ね───ざまあみろって思ってます」

 心の奥底にしまってあった箱の中身は、これだった。誰にも見せれない、見せたくないと思っていた、醜くてドロドロとしたもの。

 わざと唇を歪ませて笑う。今の私は、シュウトにはとても醜くく写っているだろう。

 それでも止めることができない。堰を切ったかのように、私は胸の内の一番汚い部分をさらけ出す。

「風神さんに取引を持ち掛けられた時、決めたんです。神結家に復讐してやるって。最悪の形で裏切ってやろう、私にしかできないことで、皆が一番、困る復讐をしようって決めたんです。私も絢桜爛花も消えたら、皆、慌てると。もう、風神さんに縋ることができない、家は衰退するって」

 シュウトは、何も言わない。罪を償うどころか、復讐に走った私の醜い吐露をただ聞いてくれている。

「ざまあみろって今も思ってます。後悔なんてこれっぽっちもしてないです。罪悪感なんて欠片も持ち合わせてないです。私の母さまと父さまを殺した人達が、今度は不幸になればいいって思ってます。あんな家、消えてなくなっちゃえばいいとさえ思ってます」

 そんなことをしても、母さまも父さまも戻ってこない、虚しいだけってわかっている。でも、どうしても、許せなかった。

 私は覚えてる、母さまの葬儀の時のことを───やれやれ厄介事が片付いたと言った叔父は、飼ってた猫が病気になった時は、この世の終わりのような悲壮な表情を浮かべてた。自業自得と嘲笑った叔母は、息子が怪我をした時には、さめざめと泣き崩れていた。

 それなのに、母さまが死んだ時には、誰も泣いてはくれなかった。今でもあの人達に聞いてみたい。私達は、モノですか?と。

 私を叩いたその手で、私を口汚く罵ったその唇で、あの人達は自分にとって大切なものだけを愛でて慈しんでいた。それを横目で見ていた私の胸は傷まないとでも思っていたのだろうか。

 命というのはかけがえのないもの。だから、大切にしなさい。
 人の嫌がることはしてはいけません。人を傷付けるような言葉を吐いてはいけません。そしてもし、悪いことをしたらすぐに謝りなさい。

 そう学校で教えられてきた。いや、外の世界ではそれが当たり前だった。

 けれど、一歩、屋敷に戻れば、それは通じない。その矛盾をどう受け止めればよかったのだろう。どうして一族の誰もがそれを正しいと信じて疑わなかったのだろう。

 そしてその答えが見いだせないまま、たった一人の大切な肉親は息絶えてしまった。一度も私の名を呼ぶことなく。

 大切なものが壊されたら、人はきっと自分を責めるだろう。もっと、ああすれば良かった。もっとこうしていれば良かったと、後悔するだろう。

 ────その先は、どうするのか。
 全てを受け止め、そのまま生きようとするのか。それとも、絶望のまま生きていこうとするのか。

 でも私は違った。復讐することを選んだのだ。
 
 神様だって何だって利用できるものは利用する。私に差し出せるものがあるなら、何だって差し出す。だから、神結家を潰して欲しい、潰したいと切望していたのだ。

 そして、今だってそうだ。
 私が消えて慌てふためく一族を想像して、一人ほくそ笑む私がいる。ざまあみろって嘲笑う私が居る。

 結局のところ私だって、あの人たちと同じだったのだ。誰一人許すことなんてできない。自分の両親と同じように苦しめばいいと思っている。

「シュウト、私は汚いんです」

 吐き捨てるように呟いて、シュウトを見つめる。きっとシュウトは、私を軽蔑してるだろうと思っていたけど─── 

「そうか」

 一つ頷いて、シュウトは微笑を湛えた。

「なら、私も汚い、な」
「え!?」

 目を丸くする私に、シュウトは屈託なく笑って口を開いた。

「私もざまあみろと思ってる。あぁ、私は、瑠璃より醜い人間かもしれない。今すぐその家にいって跡形もなく壊してやりたいと、瑠璃を傷付けた人間に地獄を味合わせたいとも思ってる」
「ええ!?」

 からりと笑いながらシュウトは、物騒なことを言う。そして私は、その物騒な言葉を聞いても、窘めるどころか、胸が高なってしまう。それはとどのつまり───

「お揃い、ですね」
「ああ、私と瑠璃は、似たもの同士だな」

 悪戯を共有するような、ちょっと悪い笑みがこぼれる。何となく可笑しくて、二人でクスクスと笑いあう。

 ひとしきり笑った後、シュウトは両手で私の頬を包み、目を合わせる。そして、静かに口を開いた。

「瑠璃。それで良かったんだ。誰かの犠牲の上で成り立つ繁栄などあってはならぬのだ。いつかは誰かが断ち切らなければならなかった負の連鎖だったのだ。復讐?大いに結構。…瑠璃、そなたは何も間違っていない」

 シュウトの言葉は、私がずっと誰かに言われたかった言葉。

 それが例えシュウトが心から放った言葉ではなくても、その場しのぎの言葉だったとしても、それでもずっと欲していた言葉で、シュウトからそれを貰えたことを心から嬉しく思う。




 だから私は、絶対に言わないでおこうと思っていた、最後の真実さえ聞いて欲しいという衝動を抑えきることができなかった。
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