18 / 45
寄り道の章
イケメンにハッタリかましてみました①
しおりを挟む
ナギに太刀を突きつけられた私は、呆然とその場に立ち尽くしてしまった。
間抜けに口を開ける私とは反対に、ナギは飄々としている。
この二人の温度差で、蜃気楼が現れてくれないかなと期待したけど、そんな奇跡はもちろん起きなかった。
「あっあの、ナギさん────」
「茶番はこれくらいにしましょう。そろそろ、質問に答えていただきましょうか。───……瑠璃殿、あなたは何者です?」
ナギは、私の言葉を遮って、いつも通りの口調で問いかけた。しかし眼は、返答次第では斬ると、はっきりと言っている。
ナギの目と口のアンバランスさ、無駄に器用だなとか、ナギが手にしている太刀は日本刀そっくりだなとか、ナギの長い髪が風に煽られて光が反射して綺麗だなとか…どうでもいいことを考える。
…………いや今、そんなことを考えている場合ではない。これはただの現実逃避だ。────さて、何と答えよう。
JKです。ダメだ、即、斬られる。日本人です。ダメだ、何だソレと、斬られる。んー…困った。まさか、お遣いで異世界からやって来た人でーす。なんて言っても信じてもらえるはずはない。いや、絶対に口にしないほうが良いだろう。
よりにもよって、一番正確な答えが、最もナギの逆鱗に触れそうだなんて、世の中、矛盾だらけだ。
しかし、この状況で嘘をついても間違いなく見破られる。でも、この世界で私が何者かを説明するのはかなり難しい。何といっても私自身がイマイチ良くわかっていないからだ。
とにかく、誤解を解くのが先決である。
とりあえず、両手を上に挙げて無抵抗の意志を伝えようと思ったら、傷に響いて思わず顔を顰めてしまう。すぐさま【動かないでください】と尖った声が飛んできた。
両手を上にあげるのは、世界共通ではなかったらしい。
これは無抵抗の意志を伝えるためだと説明しようかと悩む。けれど、それを理解してもらうよりも、私がシュウトに対して害を及ぼす存在でないことを伝える方が先決だ。
「まず、誤解してるようですが、私、別にシュウトに何かしようなんて思ってないですよ」
何かされそうになったのは、むしろ私の方である。
「それを、どう信用しろと?」
ナギは表情を変えず、厳しい口調で問いただした。
「信用できないならそれでいい。私、今すぐ、ここを出て行く。このことは絶対に誰にも話さないから安心して」
だから、ぶっちゃけ、なかったことにしてくれませんかね?
腕の傷は塞がっている。あとは、ほっといても、そのうち治るだろう。傷痕が残っても別に構わない。7割位は回復してるから、【傷が癒えるまで屋敷にいる】というシュウトとの約束を破った事にはならないはずだ。
「曲者を、みすみす私が野放しにするとでも?残念ですが、あなたを逃がすつもりはありません」
折衷案としては、なかなのモノだったと思ったが、ナギはピシャリと切り捨てた。なかなか手厳しい。
「契約書、書きます」
「駄目です」
「血判も押します」
「いりません」
「……私、早々にこの世界から消えるから……」
「つまらないことを言わないでください」
私の必死の懇願にもナギは眉一つ動かさない。もちろん、太刀もぴったり私の首に突き立てている。実はしゃべりながら、ちょっとずつ、気付かれないように後退してたが太刀は無情にもくっついて来る。
誰もいない丘で、太刀を向けられているこの状況、もう、いっぱいいっぱいで、うわぁぁぁって言って頭を抱えたい。
どうでもいいけど、きっと風神さんは、既に頭を抱えているだろう。
もしかしたら、今回の一番の被害者は、風神さんなのかもしれない。もし、遠くで見ていたら、きっと今頃『ほれみたことか』と叫んでいるに違いない。
風神さんの懸念を全て現実にしていく私は、ある意味スゴイ。明らかな人選ミスである。でも、私を選んだのは風神さんだ。
再びそんな現実逃避という名の他事を考えていたら、一か八かの策を思いついた。名付けて、『逆ギレと論点無視の虚偽のコラボ作戦』である。
私の従妹は事あるごとにコレをしていた。突然キレて喚き、そして論点をずらすという高度な技を。その手法は賞賛に値するものであったが、私にできるだろうか。
でも、これで失敗したら、もう後がない。玉砕覚悟で行くしかない。
「ねぇ、ナギさん、疑っているのはナギさんだけだと思ってるの?」
唐突に口を開いた私に、ナギの眉がぴくりと動いた。私は、それを無視して大声で叫んだ。
「私だってシュウトのことも、ナギさんのことも信じてないっ!ずっと怪しんでいますっ!!」
「……どういうことですか?」
有難いことにナギは食いついてきてくれた。思わずほっと息を付きたくなるが、それを押しとどめて、勢いよく叫ぶ。
「二人とも私を追って来たんでしょ!?」
「はぁ!?」
ナギは目をむいて叫んだ。それはそうだろう。いわれもない嫌疑を向けられたのだから。少し罪悪感を覚えるが、もっと食いつけと私は更に加速して叫び続けた。
「本当のこと言ってよ、ナギさん。婚儀の前日に、家を飛び出してきちゃった私を、追って来たんでしょ。お願い、私を見逃して!!」
「…………………………」
───…………………しーん。
勢いよく言いきった私の台詞を最後に、二人の間に沈黙が落ちる。
この沈黙の意味はどちらなのだろうか。息を呑む私にナギは冷たい視線のまま何も言わない。
やれることは全てやった……はず。後は運を天にまかせるしかなさそうだ。
間抜けに口を開ける私とは反対に、ナギは飄々としている。
この二人の温度差で、蜃気楼が現れてくれないかなと期待したけど、そんな奇跡はもちろん起きなかった。
「あっあの、ナギさん────」
「茶番はこれくらいにしましょう。そろそろ、質問に答えていただきましょうか。───……瑠璃殿、あなたは何者です?」
ナギは、私の言葉を遮って、いつも通りの口調で問いかけた。しかし眼は、返答次第では斬ると、はっきりと言っている。
ナギの目と口のアンバランスさ、無駄に器用だなとか、ナギが手にしている太刀は日本刀そっくりだなとか、ナギの長い髪が風に煽られて光が反射して綺麗だなとか…どうでもいいことを考える。
…………いや今、そんなことを考えている場合ではない。これはただの現実逃避だ。────さて、何と答えよう。
JKです。ダメだ、即、斬られる。日本人です。ダメだ、何だソレと、斬られる。んー…困った。まさか、お遣いで異世界からやって来た人でーす。なんて言っても信じてもらえるはずはない。いや、絶対に口にしないほうが良いだろう。
よりにもよって、一番正確な答えが、最もナギの逆鱗に触れそうだなんて、世の中、矛盾だらけだ。
しかし、この状況で嘘をついても間違いなく見破られる。でも、この世界で私が何者かを説明するのはかなり難しい。何といっても私自身がイマイチ良くわかっていないからだ。
とにかく、誤解を解くのが先決である。
とりあえず、両手を上に挙げて無抵抗の意志を伝えようと思ったら、傷に響いて思わず顔を顰めてしまう。すぐさま【動かないでください】と尖った声が飛んできた。
両手を上にあげるのは、世界共通ではなかったらしい。
これは無抵抗の意志を伝えるためだと説明しようかと悩む。けれど、それを理解してもらうよりも、私がシュウトに対して害を及ぼす存在でないことを伝える方が先決だ。
「まず、誤解してるようですが、私、別にシュウトに何かしようなんて思ってないですよ」
何かされそうになったのは、むしろ私の方である。
「それを、どう信用しろと?」
ナギは表情を変えず、厳しい口調で問いただした。
「信用できないならそれでいい。私、今すぐ、ここを出て行く。このことは絶対に誰にも話さないから安心して」
だから、ぶっちゃけ、なかったことにしてくれませんかね?
腕の傷は塞がっている。あとは、ほっといても、そのうち治るだろう。傷痕が残っても別に構わない。7割位は回復してるから、【傷が癒えるまで屋敷にいる】というシュウトとの約束を破った事にはならないはずだ。
「曲者を、みすみす私が野放しにするとでも?残念ですが、あなたを逃がすつもりはありません」
折衷案としては、なかなのモノだったと思ったが、ナギはピシャリと切り捨てた。なかなか手厳しい。
「契約書、書きます」
「駄目です」
「血判も押します」
「いりません」
「……私、早々にこの世界から消えるから……」
「つまらないことを言わないでください」
私の必死の懇願にもナギは眉一つ動かさない。もちろん、太刀もぴったり私の首に突き立てている。実はしゃべりながら、ちょっとずつ、気付かれないように後退してたが太刀は無情にもくっついて来る。
誰もいない丘で、太刀を向けられているこの状況、もう、いっぱいいっぱいで、うわぁぁぁって言って頭を抱えたい。
どうでもいいけど、きっと風神さんは、既に頭を抱えているだろう。
もしかしたら、今回の一番の被害者は、風神さんなのかもしれない。もし、遠くで見ていたら、きっと今頃『ほれみたことか』と叫んでいるに違いない。
風神さんの懸念を全て現実にしていく私は、ある意味スゴイ。明らかな人選ミスである。でも、私を選んだのは風神さんだ。
再びそんな現実逃避という名の他事を考えていたら、一か八かの策を思いついた。名付けて、『逆ギレと論点無視の虚偽のコラボ作戦』である。
私の従妹は事あるごとにコレをしていた。突然キレて喚き、そして論点をずらすという高度な技を。その手法は賞賛に値するものであったが、私にできるだろうか。
でも、これで失敗したら、もう後がない。玉砕覚悟で行くしかない。
「ねぇ、ナギさん、疑っているのはナギさんだけだと思ってるの?」
唐突に口を開いた私に、ナギの眉がぴくりと動いた。私は、それを無視して大声で叫んだ。
「私だってシュウトのことも、ナギさんのことも信じてないっ!ずっと怪しんでいますっ!!」
「……どういうことですか?」
有難いことにナギは食いついてきてくれた。思わずほっと息を付きたくなるが、それを押しとどめて、勢いよく叫ぶ。
「二人とも私を追って来たんでしょ!?」
「はぁ!?」
ナギは目をむいて叫んだ。それはそうだろう。いわれもない嫌疑を向けられたのだから。少し罪悪感を覚えるが、もっと食いつけと私は更に加速して叫び続けた。
「本当のこと言ってよ、ナギさん。婚儀の前日に、家を飛び出してきちゃった私を、追って来たんでしょ。お願い、私を見逃して!!」
「…………………………」
───…………………しーん。
勢いよく言いきった私の台詞を最後に、二人の間に沈黙が落ちる。
この沈黙の意味はどちらなのだろうか。息を呑む私にナギは冷たい視線のまま何も言わない。
やれることは全てやった……はず。後は運を天にまかせるしかなさそうだ。
0
お気に入りに追加
269
あなたにおすすめの小説
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
新婚なのに旦那様と会えません〜公爵夫人は宮廷魔術師〜
秋月乃衣
恋愛
ルクセイア公爵家の美形当主アレクセルの元に、嫁ぐこととなった宮廷魔術師シルヴィア。
宮廷魔術師を辞めたくないシルヴィアにとって、仕事は続けたままで良いとの好条件。
だけど新婚なのに旦那様に中々会えず、すれ違い結婚生活。旦那様には愛人がいるという噂も!?
※魔法のある特殊な世界なので公爵夫人がお仕事しています。
決めたのはあなたでしょう?
みおな
恋愛
ずっと好きだった人がいた。
だけど、その人は私の気持ちに応えてくれなかった。
どれだけ求めても手に入らないなら、とやっと全てを捨てる決心がつきました。
なのに、今さら好きなのは私だと?
捨てたのはあなたでしょう。
みんながみんな「あの子の方がお似合いだ」というので、婚約の白紙化を提案してみようと思います
下菊みこと
恋愛
ちょっとどころかだいぶ天然の入ったお嬢さんが、なんとか頑張って婚約の白紙化を狙った結果のお話。
御都合主義のハッピーエンドです。
元鞘に戻ります。
ざまぁはうるさい外野に添えるだけ。
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】どうして殺されたのですか?貴方達の愛はもう要りません
たろ
恋愛
処刑されたエリーゼ。
何もしていないのに冤罪で……
死んだと思ったら6歳に戻った。
さっき処刑されたばかりなので、悔しさも怖さも痛さも残ったまま巻き戻った。
絶対に許さない!
今更わたしに優しくしても遅い!
恨みしかない、父親と殿下!
絶対に復讐してやる!
★設定はかなりゆるめです
★あまりシリアスではありません
★よくある話を書いてみたかったんです!!
探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?
雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。
最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。
ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。
もう限界です。
探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる