司令官さま、絶賛失恋中の私を口説くのはやめてください!

茂栖 もす

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私と司令官さまの攻防戦

お給料日はウキウキルンルン…一時、雨①

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 さて、それから数日が経ちました。薬草園の苗は枯れることなく、すくすくと育っています。そして私の懐はホクホクです。

 なにせ、昨日、給料日だったもんで。

 ただ、支給された額はあり得ないものだった。少ない?いやいやいや、その逆。多すぎ、貰いすぎっ。思わず明細書を2度…いや3度見してしまった。

 それでも納得できず貰いすぎですっ。返金しますっ。と喚く私に、経理課のおじさんは、それはそれは綺麗な無視をかましてくれた。さすが経理課、ザ・クール。銀縁メガネもお似合いでした。

 ということがあったりもしたけれど、今日は私は商店街に来ている。ケイティ先生のお遣いで。あ、ちゃんと仕事で使うガーゼとか備品の買い出しなのだ。まかり間違っても、お酒ではない。

 最近知ったことなんだけれど、私が働くこの軍事施設では、年に2回、春と秋に大きなイベントがある。といっても、学園祭のようなものではない。軍人さんらしく、剣術大会が催されるのだ。

 で、それが来月。そして、教官さんはいつも以上にしごきに力が入るし、軍人の皆さんも、いつも以上に稽古に激しい稽古を強いられる。そんでもって、怪我人がいっぱい出てしまう。
 
 その結果、医務室はてんてこ舞いになり備品が足りなくなってしまい、こうして私がお遣いに駆り出された始末。

 でも、ケイティ先生はとっても優しくて、ついでにお買い物してきて良いよと言ってくれた。そして、私は、お言葉に甘えて、現在、色んなお店を覗いている。

 え?司令官さまから外出許可を貰ったかって?

 安心してください。今日は司令官さまは、一日、みっちり会議なのです。なので、内緒。でも、ちゃんと言われた通りに馬車で移動もしているし、護衛……らしき人もいる。

「シンシアさん、何か良いものありましたか?」

 隣を歩く護衛兼、おさぼり仲間のウィルさんが、のんびりとした声で私に問いかけた。

「そうですねぇ。お買い物なんて久しぶりなんで、なんか目移りしちゃって。でも、見てるだけでも楽しいですね」

 お菓子に帽子。アクセサリーに、文房具。今日は市が立つ日ではなけれど、店先に並べられた商品は彩り豊かで、購買心をくすぐってくれる。 

 でも、いまいち買いたいものが見つからない。

 まぁ今まで、給料もらっても、右から左にマーカスの元に流れていってしまったので、自分のお給料で好きなものを買うという経験がほとんどないのだ。

 だから、見るだけで満足………というか、尻込みしてしまっている。

 でも、少しは買った。顔を見れば、飴をくれるロイ中尉とタナトフ少尉にふかふかのタオルを。そして、酒豪のケイティ先生とアジェーレさんには、お酒のおつまみ用にチーズを。

 あと、先輩のウィルさんにも、お菓子を。軍人さん皆で食べてもらったら嬉しいので、富豪よろしく箱買いさせていただきました。

 でも、司令官さまには、何も買っていない。というか、何を贈って良いのかわからないのだ。

 だって、つい先日、はっきりと【好きになりません宣言】をしたのに、どの面下げて、贈り物を渡せというのか。それに 司令官さまはあまりご自身のものに頓着はないようで、全て軍の支給品で済ましている。

 高給取りなのに成金色は皆無なのは、さすが司令官さまと言いたいところ。だけれど、好みがわからないから、変なものを渡して困らせてしまうかもしれない。

 でも、一つくらい私物を持っていても良いのに………と思う私はお節介なのだろうか。───と、そこで綺麗な色の万年筆を見付けた。 

 吸い寄せられるように、とあるお店のショーウィンドウに飾られたそれを見る。

 綺麗な深緑色の万年筆は、値段は少々お高いけれど、シンプルなデザインで男性向けのそれ。そして、何とはなしに司令官さまが胸のポケットに差すのを想像した途端、買いたい気持ちがむくむく湧き上がる。

 うん、やっぱり司令官さまに贈ろう。そして、これは日ごろのお礼だと言おう。それに、花束と小物の贈り物も攻撃も続いているから、貰いっぱなしは、やっぱり性に合わない。

 でも、司令官さま、これ気に入ってくれるかな、そして使ってくれるかなぁ。…………使ってくれたら、嬉しいな。
 
 そう思った時には、私はもうウィルさんに向かって口を開いていた。

「ウィルさん、ちょっと待っててください。すぐ戻ります」
「はぁーい。じゃあ、荷物は預かっておきますよ。ん?これ、絶対、司令官さま、喜ぶと思いますよ。なんなら、シンシアさんも自分にリボンくっつけて渡してあげたらどうですか?もっと司令官さま喜びますよ。ああ、そうそう、結婚式の余興なんですが───……ええー最後まで聞いてくださいよぉ」

 ウィルさんの暴走を止めることより、無視することを選んだ私は、すたすたとお店に入る。

 でも、中は無人。多分、奥に引っ込んでいるだけだろう。

「すいませぇーん。これ下さぁー────……げっ」

 大声でそう叫んだけれど、途中で私は顔を思いっきり顰めてしまった。

 だって、余所行きの笑みを浮かべて出てきた売り子さんは、まさかのジェーンだったから。 
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