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私と司令官さまの攻防戦
お酒は大人になってから①
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とはいえ2人の美人さんからしたら、小娘の恋愛なんて、おもちゃのようなものなのだろう。だって、私がこんなにむっとしていても、2人はニヤニヤと生温い笑みを浮かべているし。
「っていうか、シンシアちゃん、もしかして他に好きな人いるの?」
「ちょ、アジェーレっ、駄目でしょ。この娘つい先日、失恋したばっかりなんだからっ」
デリカシーゼロのアジェーレさんの質問に、慌てて止めに入ったケイティ先生に感謝……するわけもなく、逆に、さっくり私の個人情報を流してくれたことに、恨みの視線を向ける。
あと、私に関する個人情報は、きっと、こんなふうに伝言ゲームで施設内に伝わってしまったんだろうと推測する。
軍人さん達は、身体は鋼鉄のように硬いけれど、口は随分柔らかいのでございますね。お口の方もきちんと鍛錬してください。
そんなことを考えながら、黙秘しますアピールの為に、私はテーブルに並べられているお菓子を一つ口に放り込む。
アジェーレさんは、そんな私を見て、ちょっと不満そうに口を尖らせた。
「えーっもう、一ヶ月近く経っているでしょ?なら、もう他の人に目を向けたっていいじゃない」
なんでもないことのように言うアジェーレさんに、怒りを覚えるより、純粋に驚いてしまう。というか、いい機会だからこの流れで聞いてみたいことがある。
「……あの…………そういうもんなんでしょうか?」
「え?」
「失恋って、一ヶ月もあれば忘れることができるんですか?次の人を好きになれば、失恋って終わりになるんですか?じゃあ、次の人を好きになるって、どうすれば良いんですか?」
急に真顔になって矢継ぎ早に問いかけた私に、アジェーレさんは難題を前にした子供のように渋面を作る。
ああ、そんな顔しなくて良いのに。私はただ、恋愛経験がないから、ちょっと立ち直るためのサンプルが欲しかっただけなのに。
そう思っても、なんだか口を開くのが辛くて、私までしゅんと肩を落としてしまう。
「あのね、そんなの人それぞれなのっ。無理にああすれば良い、こうすれば正解ってもんじゃないの。それに、未だに辛い気持ちでいるのは、それだけシンシアちゃんは真剣に恋愛をしていたのっ。だから焦る必要はないっ。恋なんてしたいときにすればいいんだからっ!」
部屋に落ちた沈黙を打ち砕くように、ケイティ先生がきっぱりと言い切った。
…………なるほど。つまり、そういうことは自分で考えろということか。期待していた答えではないのが、残念だけれど、これ以上の答えは、やっぱりないんだろうな。
ただ私、真剣に恋愛をしていたのかなぁ。あんな一方的な思い込みだけで形成されていた時間を恋と呼んで良いのかわからない。
そして美人さんでも、失恋を終わりにするやり方がわからないものなら、私は一体、いつわかるのだろう。………このままじゃ、一生終わらないような気がする。
そんなことを考えれば、ふぅっと思わずため息を付いてしまう。
そして、沈黙再び。
ちなみにアジェーレさんは、ヤベッっと呟いた後、バツの悪い顔を浮かべ席を立ってしまった。
「あっ、えっとぉー………とにかく、ごめんっ。これ、お詫びにあげる。じゃ、私そろそろ仕事戻ろっかなぁ」
「え?ちょっと、アジェーレさんっ………───あー……行っちゃったぁ」
アジェーレさんは、引き留める間もなく、高級チョコレートを無理矢理、私の手にねじ込んで、ひらりと医務室から姿を消してしまった。
その言い逃げする姿がとある人と重なったけれど、私は敢えてそれ以上考えるのをやめにした。
───それから数時間後。
や、や、やっと終わった。
私は、完璧に整えた薬草園を見て、ぐっと拳を握りガッツポーズを決める。
でも、ふと窓を見れば、もうすっかり夜だ。そりゃ、まぁそうだろう。でも、時間の経過を忘れるぐらい無心で動かしていた身体は、しっかりと疲労を訴えてくる。
そして、やるべきことをやったら、帰らなければならない。ただ、女性の宿舎は無駄に遠い。なぜなら、男性宿舎から一番遠い距離にあるので。
ああ、これから自分の部屋に戻って、お風呂に入って、明日の洋服選んで、寝間着に着替えて………うわぁ、考えるだけで、ものすごく面倒くさい。
どうせ明日もここで仕事するんだし、泊まっちゃおっかなぁ。と狡い考えが脳裏をよぎる。そして、ちらりと視界に入るアジェーレさんから貰ったチョコレート。
うん。まずは栄養補給の為にこれを食べよう。問題の先送り感は否めないけれど、頑張りすぎたせいで夕食食べてないし。
そう自分に言い訳をしながら、チョコレートの包みを開けて、ぱくりと頬張る。ちなみに4個入。
うわっ、めっさ美味しい。
今まで食べたことのない味にびっくり仰天しながら、4個全部をあっという間に完食する。
ただ、もぐもぐしながら何とはなしに、このパッケージを見たところ、お酒の絵が描いてある。え?これ、未成年でも食べて良いものなのかな?………て言ってるそばから、なんか頭が、ぐらんぐらん揺れる。
ヤバイっ。身体の重心がおかしい。立っていられない。
────ドサッ。
そう思った瞬間、ものすごい物音がした。
と思ったけれど、ぐるりと回った視界と、冷たい床の感触を頬に覚えたので、どうやらそれは私がひっくり返ってしまった音のようで…………。
「……ふっ……あはっ…」
なぜだかわからないけれど、そんな自分が可笑しくて堪らなかった。
まぁ、つまり私はお酒の入ったチョコレートを食べて酔っぱらってしまったというわけです。
「っていうか、シンシアちゃん、もしかして他に好きな人いるの?」
「ちょ、アジェーレっ、駄目でしょ。この娘つい先日、失恋したばっかりなんだからっ」
デリカシーゼロのアジェーレさんの質問に、慌てて止めに入ったケイティ先生に感謝……するわけもなく、逆に、さっくり私の個人情報を流してくれたことに、恨みの視線を向ける。
あと、私に関する個人情報は、きっと、こんなふうに伝言ゲームで施設内に伝わってしまったんだろうと推測する。
軍人さん達は、身体は鋼鉄のように硬いけれど、口は随分柔らかいのでございますね。お口の方もきちんと鍛錬してください。
そんなことを考えながら、黙秘しますアピールの為に、私はテーブルに並べられているお菓子を一つ口に放り込む。
アジェーレさんは、そんな私を見て、ちょっと不満そうに口を尖らせた。
「えーっもう、一ヶ月近く経っているでしょ?なら、もう他の人に目を向けたっていいじゃない」
なんでもないことのように言うアジェーレさんに、怒りを覚えるより、純粋に驚いてしまう。というか、いい機会だからこの流れで聞いてみたいことがある。
「……あの…………そういうもんなんでしょうか?」
「え?」
「失恋って、一ヶ月もあれば忘れることができるんですか?次の人を好きになれば、失恋って終わりになるんですか?じゃあ、次の人を好きになるって、どうすれば良いんですか?」
急に真顔になって矢継ぎ早に問いかけた私に、アジェーレさんは難題を前にした子供のように渋面を作る。
ああ、そんな顔しなくて良いのに。私はただ、恋愛経験がないから、ちょっと立ち直るためのサンプルが欲しかっただけなのに。
そう思っても、なんだか口を開くのが辛くて、私までしゅんと肩を落としてしまう。
「あのね、そんなの人それぞれなのっ。無理にああすれば良い、こうすれば正解ってもんじゃないの。それに、未だに辛い気持ちでいるのは、それだけシンシアちゃんは真剣に恋愛をしていたのっ。だから焦る必要はないっ。恋なんてしたいときにすればいいんだからっ!」
部屋に落ちた沈黙を打ち砕くように、ケイティ先生がきっぱりと言い切った。
…………なるほど。つまり、そういうことは自分で考えろということか。期待していた答えではないのが、残念だけれど、これ以上の答えは、やっぱりないんだろうな。
ただ私、真剣に恋愛をしていたのかなぁ。あんな一方的な思い込みだけで形成されていた時間を恋と呼んで良いのかわからない。
そして美人さんでも、失恋を終わりにするやり方がわからないものなら、私は一体、いつわかるのだろう。………このままじゃ、一生終わらないような気がする。
そんなことを考えれば、ふぅっと思わずため息を付いてしまう。
そして、沈黙再び。
ちなみにアジェーレさんは、ヤベッっと呟いた後、バツの悪い顔を浮かべ席を立ってしまった。
「あっ、えっとぉー………とにかく、ごめんっ。これ、お詫びにあげる。じゃ、私そろそろ仕事戻ろっかなぁ」
「え?ちょっと、アジェーレさんっ………───あー……行っちゃったぁ」
アジェーレさんは、引き留める間もなく、高級チョコレートを無理矢理、私の手にねじ込んで、ひらりと医務室から姿を消してしまった。
その言い逃げする姿がとある人と重なったけれど、私は敢えてそれ以上考えるのをやめにした。
───それから数時間後。
や、や、やっと終わった。
私は、完璧に整えた薬草園を見て、ぐっと拳を握りガッツポーズを決める。
でも、ふと窓を見れば、もうすっかり夜だ。そりゃ、まぁそうだろう。でも、時間の経過を忘れるぐらい無心で動かしていた身体は、しっかりと疲労を訴えてくる。
そして、やるべきことをやったら、帰らなければならない。ただ、女性の宿舎は無駄に遠い。なぜなら、男性宿舎から一番遠い距離にあるので。
ああ、これから自分の部屋に戻って、お風呂に入って、明日の洋服選んで、寝間着に着替えて………うわぁ、考えるだけで、ものすごく面倒くさい。
どうせ明日もここで仕事するんだし、泊まっちゃおっかなぁ。と狡い考えが脳裏をよぎる。そして、ちらりと視界に入るアジェーレさんから貰ったチョコレート。
うん。まずは栄養補給の為にこれを食べよう。問題の先送り感は否めないけれど、頑張りすぎたせいで夕食食べてないし。
そう自分に言い訳をしながら、チョコレートの包みを開けて、ぱくりと頬張る。ちなみに4個入。
うわっ、めっさ美味しい。
今まで食べたことのない味にびっくり仰天しながら、4個全部をあっという間に完食する。
ただ、もぐもぐしながら何とはなしに、このパッケージを見たところ、お酒の絵が描いてある。え?これ、未成年でも食べて良いものなのかな?………て言ってるそばから、なんか頭が、ぐらんぐらん揺れる。
ヤバイっ。身体の重心がおかしい。立っていられない。
────ドサッ。
そう思った瞬間、ものすごい物音がした。
と思ったけれど、ぐるりと回った視界と、冷たい床の感触を頬に覚えたので、どうやらそれは私がひっくり返ってしまった音のようで…………。
「……ふっ……あはっ…」
なぜだかわからないけれど、そんな自分が可笑しくて堪らなかった。
まぁ、つまり私はお酒の入ったチョコレートを食べて酔っぱらってしまったというわけです。
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