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私と司令官さまの攻防戦
★近況報告という名の取り調べ※司令官さま視点①
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触れたい。抱きしめたい。自分だけのものにしたい。
暗く狭い部屋に押し込めて、誰の目にも触れさせず、ずっとずっと自分だけをみてくれたら良いのに。
そんな願望が日に日に強くなる。餓えた獣のように、ちょっとでも気を抜けば、彼女を力づくで押し倒し、思うがまま触れたくなってしまう。
これは………所謂、片想いの末期症状だ。
そう思っていても、どうすることもできない。彼女への想いは止まらない。
「司令官さま、今日の書類はこれでおしまいです」
可愛らしい声で思考が遮断され、はっと見上げれば、執務机を挟んで絶賛片想い中の彼女がいた。
そして、片手で持てるほどの書類の束なのに、彼女は丁寧に両手で手渡そうとしている。
その書類の両端に見える小さくて華奢な手を、思わず掴んで指先に口付けをしてしまいたくなる。
「……あ、ああ。……ご……ごくろうさま。では本日の業務は以上だ」
よこしまな想像は放っておくと、どんどん膨れ上がってしまうため、無理矢理、表情を引き締め、そちら側の意識を散らす。
そして、いささか乱暴に受け取れば、彼女は一瞬、小動物を思わせる瞳を見開き、しゅんと肩を落としてしまった。
……怖がらせて、しまったのだろうか。それとも、自分の態度をつれない、などと思ってくれるのだろうか。
後者であれば、万々歳であるが、多分、それは違うだろう。その証拠に、彼女は素っ気ない程、こちらに背を向け淡々と自分の机を片付けている。
思わず、ため息が出る。そして、吐いた息を吸い込めば、ふわりと漂う甘い香り。
毎日、かかさず彼女に花束を送っているので、この部屋には数多くの花で埋め尽くされている。
ふんわりとした雰囲気の彼女に似合うよう選んだ花の色は、柔らかい色彩のピンクや藤色。そして刺し色にはライムのように瑞々しい黄緑色。
その中にいる彼女は、とても可愛らしい。まるで天使のようだ。そのまま振り返って自分に向かって笑いかけてくれたら、国中の花を捧げてしまいたくなるほどに。
そんなふうに、自分は彼女の事を愛おしく想っている。
けれど彼女は、そんなふうに自分のことを想ってない。
これが今、自分が分かっていること。そして、もう一つ。わかっていることがある。───ここ最近の彼女の様子がおかしいということを。
妙によそよそしい。それでいて、何かひどく怯えている。
原因はわかっている。彼女は先日、ケイティの遣いで街に出た。そこで何かがあった。いや、はっきり言うなら暴力を振るわれた。
だが詳細はわからない。なぜなら、護衛として傍にいるはずの部下が、あろうことか、その瞬間を目撃していないからだ。
報告された内容は『何かがあって、店の外に突き飛ばされました。以上』だ。
こんなふざけた話があって良いのだろうか。ったく、何の為の護衛なのか。くそっ、マジでアイツは使えないっ。……失敬。少し感情が乱れてしまった。
「……お疲れ様でした。お先に失礼します」
苦々しい思いで指を組み、額を当てていたら、頭上から彼女の小さな声が聞こえてきた。
弾かれたように顔を上げれば、今まさに、彼女は退出の為に扉を開けようとしていた。
「ま、待ちなさい。シンシア殿」
咄嗟に呼び止めれば、彼女の顔がみるみるうちに強張ってしまった。
よほど自分は、きつい口調になってしまっていたのだろうか。
冷静沈着。鉄の心臓の持ち主と言われている自分ではあるが、彼女にそんな顔をされてしまえば、すぐさま土下座をして許しを乞いたくなる衝動にかられる。
……などと考えているうちに、彼女はこそっと廊下へ出ようとしているのが視界に写る。
「ま、待て。最近……何か……あったか?いや、こちら側に、何か要望があるか?」
誰かに殴られたこと。報復を望んでいること。
その言葉が聞きたくて、じっと彼女を見る。が、返ってきた言葉は、ひどく落胆するものであった。
「……お花を飾る花瓶がもうないので、もう、花束は受け取れません」
くそっ。聞くんじゃなかった。
一先ず却下と短い言葉を返し、急ぎ花瓶を入手しなければと考える。───ちなみに、いつの間にか彼女は姿を消していた。
独りになった部屋で、自分は未処理の書類を端に寄せ、背もたれに身体を預ける。そして、手の甲を目元に当て、深い溜息を付く。
あの日───自分が終日会議に参加していた日、彼女の身になにがあったのだろうか。
肝心の護衛をしていたウィルは、そこを目撃していないのだ。彼曰く、荷物を馬車に戻していたということで。
本当に、使えない奴だ。何に為に、毎日訓練をしているのだろうか。
それでもわかることだけでも良いから話せと尋問すれば、『守秘義務契約をしているので話せません』の一点張り。
ったく。まだまだひよっこのくせに、いっぱしの口をきく。
とはいえ、彼女を傷付けたのだ。ここは持てる権力と財力を駆使して、真相を付きとめなければ、自分の気持ちが収まらない。
まかり間違っても、その後、彼女のお礼の言葉を期待しているわけではない。あくまでこれは、自己満足の世界である。
……嘘を付いた。ものすごく下心ありありだ。もっというなら、お礼の言葉の他に、熱い抱擁などいただけたら恐悦至極である。本音はそれが欲しい。
と、だんだん思考が、彼女と過ごす甘い時間の妄想へと変化をしていれば、突然、扉が開いた。
ちなみにノックも無しに扉を開けるのは、この施設で2人しかいない。
「やっほーちょっと、報告がてらどう?ケイティもいるわよ」
扉から顔を覗かせたのは、予想通りアジェーレだった。
そしてアジェーレは、こちらがむっとした表情を浮かべているのを丸々無視して、手にしていた酒瓶を少し持ち上げた。
「いただこう」
あっさりと首肯した自分が情けない。
が、最近、アジェーレと彼女。そしてケイティは、女子会と称して一緒にいる時間が多い。
つまり、アジェーレ達なら、彼女のことについて詳しく知っているのかもしれない。
そう思ったら自分は、仕事を放り投げ、アジェーレと共に廊下を歩いていた。
暗く狭い部屋に押し込めて、誰の目にも触れさせず、ずっとずっと自分だけをみてくれたら良いのに。
そんな願望が日に日に強くなる。餓えた獣のように、ちょっとでも気を抜けば、彼女を力づくで押し倒し、思うがまま触れたくなってしまう。
これは………所謂、片想いの末期症状だ。
そう思っていても、どうすることもできない。彼女への想いは止まらない。
「司令官さま、今日の書類はこれでおしまいです」
可愛らしい声で思考が遮断され、はっと見上げれば、執務机を挟んで絶賛片想い中の彼女がいた。
そして、片手で持てるほどの書類の束なのに、彼女は丁寧に両手で手渡そうとしている。
その書類の両端に見える小さくて華奢な手を、思わず掴んで指先に口付けをしてしまいたくなる。
「……あ、ああ。……ご……ごくろうさま。では本日の業務は以上だ」
よこしまな想像は放っておくと、どんどん膨れ上がってしまうため、無理矢理、表情を引き締め、そちら側の意識を散らす。
そして、いささか乱暴に受け取れば、彼女は一瞬、小動物を思わせる瞳を見開き、しゅんと肩を落としてしまった。
……怖がらせて、しまったのだろうか。それとも、自分の態度をつれない、などと思ってくれるのだろうか。
後者であれば、万々歳であるが、多分、それは違うだろう。その証拠に、彼女は素っ気ない程、こちらに背を向け淡々と自分の机を片付けている。
思わず、ため息が出る。そして、吐いた息を吸い込めば、ふわりと漂う甘い香り。
毎日、かかさず彼女に花束を送っているので、この部屋には数多くの花で埋め尽くされている。
ふんわりとした雰囲気の彼女に似合うよう選んだ花の色は、柔らかい色彩のピンクや藤色。そして刺し色にはライムのように瑞々しい黄緑色。
その中にいる彼女は、とても可愛らしい。まるで天使のようだ。そのまま振り返って自分に向かって笑いかけてくれたら、国中の花を捧げてしまいたくなるほどに。
そんなふうに、自分は彼女の事を愛おしく想っている。
けれど彼女は、そんなふうに自分のことを想ってない。
これが今、自分が分かっていること。そして、もう一つ。わかっていることがある。───ここ最近の彼女の様子がおかしいということを。
妙によそよそしい。それでいて、何かひどく怯えている。
原因はわかっている。彼女は先日、ケイティの遣いで街に出た。そこで何かがあった。いや、はっきり言うなら暴力を振るわれた。
だが詳細はわからない。なぜなら、護衛として傍にいるはずの部下が、あろうことか、その瞬間を目撃していないからだ。
報告された内容は『何かがあって、店の外に突き飛ばされました。以上』だ。
こんなふざけた話があって良いのだろうか。ったく、何の為の護衛なのか。くそっ、マジでアイツは使えないっ。……失敬。少し感情が乱れてしまった。
「……お疲れ様でした。お先に失礼します」
苦々しい思いで指を組み、額を当てていたら、頭上から彼女の小さな声が聞こえてきた。
弾かれたように顔を上げれば、今まさに、彼女は退出の為に扉を開けようとしていた。
「ま、待ちなさい。シンシア殿」
咄嗟に呼び止めれば、彼女の顔がみるみるうちに強張ってしまった。
よほど自分は、きつい口調になってしまっていたのだろうか。
冷静沈着。鉄の心臓の持ち主と言われている自分ではあるが、彼女にそんな顔をされてしまえば、すぐさま土下座をして許しを乞いたくなる衝動にかられる。
……などと考えているうちに、彼女はこそっと廊下へ出ようとしているのが視界に写る。
「ま、待て。最近……何か……あったか?いや、こちら側に、何か要望があるか?」
誰かに殴られたこと。報復を望んでいること。
その言葉が聞きたくて、じっと彼女を見る。が、返ってきた言葉は、ひどく落胆するものであった。
「……お花を飾る花瓶がもうないので、もう、花束は受け取れません」
くそっ。聞くんじゃなかった。
一先ず却下と短い言葉を返し、急ぎ花瓶を入手しなければと考える。───ちなみに、いつの間にか彼女は姿を消していた。
独りになった部屋で、自分は未処理の書類を端に寄せ、背もたれに身体を預ける。そして、手の甲を目元に当て、深い溜息を付く。
あの日───自分が終日会議に参加していた日、彼女の身になにがあったのだろうか。
肝心の護衛をしていたウィルは、そこを目撃していないのだ。彼曰く、荷物を馬車に戻していたということで。
本当に、使えない奴だ。何に為に、毎日訓練をしているのだろうか。
それでもわかることだけでも良いから話せと尋問すれば、『守秘義務契約をしているので話せません』の一点張り。
ったく。まだまだひよっこのくせに、いっぱしの口をきく。
とはいえ、彼女を傷付けたのだ。ここは持てる権力と財力を駆使して、真相を付きとめなければ、自分の気持ちが収まらない。
まかり間違っても、その後、彼女のお礼の言葉を期待しているわけではない。あくまでこれは、自己満足の世界である。
……嘘を付いた。ものすごく下心ありありだ。もっというなら、お礼の言葉の他に、熱い抱擁などいただけたら恐悦至極である。本音はそれが欲しい。
と、だんだん思考が、彼女と過ごす甘い時間の妄想へと変化をしていれば、突然、扉が開いた。
ちなみにノックも無しに扉を開けるのは、この施設で2人しかいない。
「やっほーちょっと、報告がてらどう?ケイティもいるわよ」
扉から顔を覗かせたのは、予想通りアジェーレだった。
そしてアジェーレは、こちらがむっとした表情を浮かべているのを丸々無視して、手にしていた酒瓶を少し持ち上げた。
「いただこう」
あっさりと首肯した自分が情けない。
が、最近、アジェーレと彼女。そしてケイティは、女子会と称して一緒にいる時間が多い。
つまり、アジェーレ達なら、彼女のことについて詳しく知っているのかもしれない。
そう思ったら自分は、仕事を放り投げ、アジェーレと共に廊下を歩いていた。
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