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私と司令官さまのすれ違い
拘束からの投獄①
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───………これは一体どういうことなのだろう。
私は今、施設の警備兵に取り囲まれています。そして皆さん揃いも揃って、大変厳しい顔をなさっております。
ちなみに警備兵というのは、この軍事施設内の警備・警護を専任としている軍人さんのこと。いわば施設内のお巡りさんのようなもの。
その数、ざっと10人ほど。そして、その中には、顔見知りの方もちらほら。
囲まれた警備兵の中で私と向き合っているのは、多分その中で一番偉いと思われる腕章をつけたおじさん。
私の認識では、朝食でたまたま相席になった時にデザートのプリンをくれた、ものすごく良い人。
そして取り囲む警備兵の中には、司令官さまがサインを終えた書類を渡しに行った時に、クッキーをくれた人もいる。
他にも、すれ違った際に、挨拶を交わした人もいるし、転んだ時に手を貸してくれた人もいるし、落としたファイルを拾ってくれた人もいる。……つまり、ちらほらではなく、ほとんどが知っている人達なのだ。
だけれども、いつものように柔和な笑みを浮かべていない。石のような硬い表情を浮かべている。まかり間違っても、私になにか食べ物を施してくれるようではないようだ。
じゃあ、何?まったくもって、この状況、意味が分からない。
さて、なぜ、こんな状況になってしまったかというと───。
時は少し遡って、30分程前のこと。
私はウィルさんと一緒に実家から持ち帰った種を薬草園に届けた。そして、そこでウィルさんとお別れして、一人、宿舎の自分の部屋へと戻ったのだ。
それから、夕飯を食べようと再び部屋を出た途端、突然、背後から声を掛けられ、あれよあれよという間に、警備兵の皆さんに取り囲まれてしまった次第なのである。
もちろん、食事でも一緒にどう?的な雰囲気は皆無。でも、私はかなりお腹が空いている。警備兵のこげ茶の制服が妙に美味しそうに見えるくらいに。
「あのぉー………」
「シンシア殿、突然ですが君を一晩拘束させていただきます」
「は?………こうそくですか?」
一先ず、無言のままでいられるのが辛いのと、このままだと空服故にお腹がなってしまいそうで、適当に口を開いてみた途端、腕章を付けたおじさんが、私の言葉を遮るようにそう言った。
けれど、私はこれもまた意味が分からない。なぜ、そんなことを言われるのかも、その言葉の意味も。
校則、光速………そして、攻速。
漢字二文字が頭の中をぐるぐる回るけれど、そのどれもじゃないということは、何となくわかる。どうでも良いけれど、一番馴染みがあるのは、校則。でも、ここは学校じゃないから、一番正解から離れているだろう。
そんなことを考えながら、ぽかんと口を開けてしまった私を見て、どうもこいつわかっていないなという気配を感じた腕章のおじさんは、より分かりやすく言ってくれた。
「シンシア殿、あなたの身柄を、拘束させていただきます」
ああ、拘束ですか。って、何で!?ま、まさか………アレのこと!?
身に覚えがない私は、思わず何かの悪戯かとおもったけれど、一つだけ思い当たることがあった。
そして、それに気付いた途端、私は、さぁっと血の気が引く。
「ごめんなさいっ」
「え?な、なにか思い当たることがあったのかい?」
「はいっ」
直角に腰を折ったまま、全力で頷いた私に、腕章のおじさんは、まずは顔を上げなさいという。そして、おずおずと顔を上げた私に詳しく説明するよう促した。
「……実は私、司令官さまにイケメンくそ馬鹿ジジイっていう暴言を吐いてしまいましたっ」
涙目でそう自白すれば、この場に居た全員が固まった。
けれど生きるか死ぬかの瀬戸際にいる私は、それに構う余裕はない。今度は必死に自己弁護を始める。
「だから、私、不敬罪で拘束されるんですよね?……でも、それは話が長くなるんですが、えっと、とにかく色々とあって………私にも言い分があるんです。でも、罪は認めます。もう二度とあんなこと言いませんっ。だから、お願いですっ。処刑だけは、勘弁してくださいっ。どうか死ぬまで私は首と胴体は一緒に居たいって思っているんですっ」
何卒、情状酌量をと縋りつかんばかりに訴えれば、腕章のおじさんは顎に手をあて、渋面を作った。………けれど、その目は、なぜからんらんに輝いている。
いや、はっきり言おう。もっと詳しく教えてと言いたげに興味深々のご様子だ。しかも、警備兵の皆さん全員、同じ顔をしている。
でも、腕章のおじさんは、結局、小さな咳ばらいをして感情を押し込め、頷くだけだった。若干、ぎくしゃくしていたけれど。
「少々……いや、かなり、いやいや、とっても気になる内容で、根掘り葉掘り聞きたいところだが……不敬罪で拘束するわけはない。それと、首は今のところ跳ねる予定はない。君を拘束する理由は───……これだ」
周りの警備兵も、聞きたそうにざわざわしていたけれど、腕章のおじさんが一枚の紙を私の目の前に突き出した途端、しんと静まり返った。
反対に私は、失礼しますと一言断りを入れ、それを手に取り文字を追った。
瞬間、私は怒りのあまり、それを破りそうになってしまった。
私は今、施設の警備兵に取り囲まれています。そして皆さん揃いも揃って、大変厳しい顔をなさっております。
ちなみに警備兵というのは、この軍事施設内の警備・警護を専任としている軍人さんのこと。いわば施設内のお巡りさんのようなもの。
その数、ざっと10人ほど。そして、その中には、顔見知りの方もちらほら。
囲まれた警備兵の中で私と向き合っているのは、多分その中で一番偉いと思われる腕章をつけたおじさん。
私の認識では、朝食でたまたま相席になった時にデザートのプリンをくれた、ものすごく良い人。
そして取り囲む警備兵の中には、司令官さまがサインを終えた書類を渡しに行った時に、クッキーをくれた人もいる。
他にも、すれ違った際に、挨拶を交わした人もいるし、転んだ時に手を貸してくれた人もいるし、落としたファイルを拾ってくれた人もいる。……つまり、ちらほらではなく、ほとんどが知っている人達なのだ。
だけれども、いつものように柔和な笑みを浮かべていない。石のような硬い表情を浮かべている。まかり間違っても、私になにか食べ物を施してくれるようではないようだ。
じゃあ、何?まったくもって、この状況、意味が分からない。
さて、なぜ、こんな状況になってしまったかというと───。
時は少し遡って、30分程前のこと。
私はウィルさんと一緒に実家から持ち帰った種を薬草園に届けた。そして、そこでウィルさんとお別れして、一人、宿舎の自分の部屋へと戻ったのだ。
それから、夕飯を食べようと再び部屋を出た途端、突然、背後から声を掛けられ、あれよあれよという間に、警備兵の皆さんに取り囲まれてしまった次第なのである。
もちろん、食事でも一緒にどう?的な雰囲気は皆無。でも、私はかなりお腹が空いている。警備兵のこげ茶の制服が妙に美味しそうに見えるくらいに。
「あのぉー………」
「シンシア殿、突然ですが君を一晩拘束させていただきます」
「は?………こうそくですか?」
一先ず、無言のままでいられるのが辛いのと、このままだと空服故にお腹がなってしまいそうで、適当に口を開いてみた途端、腕章を付けたおじさんが、私の言葉を遮るようにそう言った。
けれど、私はこれもまた意味が分からない。なぜ、そんなことを言われるのかも、その言葉の意味も。
校則、光速………そして、攻速。
漢字二文字が頭の中をぐるぐる回るけれど、そのどれもじゃないということは、何となくわかる。どうでも良いけれど、一番馴染みがあるのは、校則。でも、ここは学校じゃないから、一番正解から離れているだろう。
そんなことを考えながら、ぽかんと口を開けてしまった私を見て、どうもこいつわかっていないなという気配を感じた腕章のおじさんは、より分かりやすく言ってくれた。
「シンシア殿、あなたの身柄を、拘束させていただきます」
ああ、拘束ですか。って、何で!?ま、まさか………アレのこと!?
身に覚えがない私は、思わず何かの悪戯かとおもったけれど、一つだけ思い当たることがあった。
そして、それに気付いた途端、私は、さぁっと血の気が引く。
「ごめんなさいっ」
「え?な、なにか思い当たることがあったのかい?」
「はいっ」
直角に腰を折ったまま、全力で頷いた私に、腕章のおじさんは、まずは顔を上げなさいという。そして、おずおずと顔を上げた私に詳しく説明するよう促した。
「……実は私、司令官さまにイケメンくそ馬鹿ジジイっていう暴言を吐いてしまいましたっ」
涙目でそう自白すれば、この場に居た全員が固まった。
けれど生きるか死ぬかの瀬戸際にいる私は、それに構う余裕はない。今度は必死に自己弁護を始める。
「だから、私、不敬罪で拘束されるんですよね?……でも、それは話が長くなるんですが、えっと、とにかく色々とあって………私にも言い分があるんです。でも、罪は認めます。もう二度とあんなこと言いませんっ。だから、お願いですっ。処刑だけは、勘弁してくださいっ。どうか死ぬまで私は首と胴体は一緒に居たいって思っているんですっ」
何卒、情状酌量をと縋りつかんばかりに訴えれば、腕章のおじさんは顎に手をあて、渋面を作った。………けれど、その目は、なぜからんらんに輝いている。
いや、はっきり言おう。もっと詳しく教えてと言いたげに興味深々のご様子だ。しかも、警備兵の皆さん全員、同じ顔をしている。
でも、腕章のおじさんは、結局、小さな咳ばらいをして感情を押し込め、頷くだけだった。若干、ぎくしゃくしていたけれど。
「少々……いや、かなり、いやいや、とっても気になる内容で、根掘り葉掘り聞きたいところだが……不敬罪で拘束するわけはない。それと、首は今のところ跳ねる予定はない。君を拘束する理由は───……これだ」
周りの警備兵も、聞きたそうにざわざわしていたけれど、腕章のおじさんが一枚の紙を私の目の前に突き出した途端、しんと静まり返った。
反対に私は、失礼しますと一言断りを入れ、それを手に取り文字を追った。
瞬間、私は怒りのあまり、それを破りそうになってしまった。
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