48 / 61
私と司令官さまのすれ違い
拘束からの投獄①
しおりを挟む
───………これは一体どういうことなのだろう。
私は今、施設の警備兵に取り囲まれています。そして皆さん揃いも揃って、大変厳しい顔をなさっております。
ちなみに警備兵というのは、この軍事施設内の警備・警護を専任としている軍人さんのこと。いわば施設内のお巡りさんのようなもの。
その数、ざっと10人ほど。そして、その中には、顔見知りの方もちらほら。
囲まれた警備兵の中で私と向き合っているのは、多分その中で一番偉いと思われる腕章をつけたおじさん。
私の認識では、朝食でたまたま相席になった時にデザートのプリンをくれた、ものすごく良い人。
そして取り囲む警備兵の中には、司令官さまがサインを終えた書類を渡しに行った時に、クッキーをくれた人もいる。
他にも、すれ違った際に、挨拶を交わした人もいるし、転んだ時に手を貸してくれた人もいるし、落としたファイルを拾ってくれた人もいる。……つまり、ちらほらではなく、ほとんどが知っている人達なのだ。
だけれども、いつものように柔和な笑みを浮かべていない。石のような硬い表情を浮かべている。まかり間違っても、私になにか食べ物を施してくれるようではないようだ。
じゃあ、何?まったくもって、この状況、意味が分からない。
さて、なぜ、こんな状況になってしまったかというと───。
時は少し遡って、30分程前のこと。
私はウィルさんと一緒に実家から持ち帰った種を薬草園に届けた。そして、そこでウィルさんとお別れして、一人、宿舎の自分の部屋へと戻ったのだ。
それから、夕飯を食べようと再び部屋を出た途端、突然、背後から声を掛けられ、あれよあれよという間に、警備兵の皆さんに取り囲まれてしまった次第なのである。
もちろん、食事でも一緒にどう?的な雰囲気は皆無。でも、私はかなりお腹が空いている。警備兵のこげ茶の制服が妙に美味しそうに見えるくらいに。
「あのぉー………」
「シンシア殿、突然ですが君を一晩拘束させていただきます」
「は?………こうそくですか?」
一先ず、無言のままでいられるのが辛いのと、このままだと空服故にお腹がなってしまいそうで、適当に口を開いてみた途端、腕章を付けたおじさんが、私の言葉を遮るようにそう言った。
けれど、私はこれもまた意味が分からない。なぜ、そんなことを言われるのかも、その言葉の意味も。
校則、光速………そして、攻速。
漢字二文字が頭の中をぐるぐる回るけれど、そのどれもじゃないということは、何となくわかる。どうでも良いけれど、一番馴染みがあるのは、校則。でも、ここは学校じゃないから、一番正解から離れているだろう。
そんなことを考えながら、ぽかんと口を開けてしまった私を見て、どうもこいつわかっていないなという気配を感じた腕章のおじさんは、より分かりやすく言ってくれた。
「シンシア殿、あなたの身柄を、拘束させていただきます」
ああ、拘束ですか。って、何で!?ま、まさか………アレのこと!?
身に覚えがない私は、思わず何かの悪戯かとおもったけれど、一つだけ思い当たることがあった。
そして、それに気付いた途端、私は、さぁっと血の気が引く。
「ごめんなさいっ」
「え?な、なにか思い当たることがあったのかい?」
「はいっ」
直角に腰を折ったまま、全力で頷いた私に、腕章のおじさんは、まずは顔を上げなさいという。そして、おずおずと顔を上げた私に詳しく説明するよう促した。
「……実は私、司令官さまにイケメンくそ馬鹿ジジイっていう暴言を吐いてしまいましたっ」
涙目でそう自白すれば、この場に居た全員が固まった。
けれど生きるか死ぬかの瀬戸際にいる私は、それに構う余裕はない。今度は必死に自己弁護を始める。
「だから、私、不敬罪で拘束されるんですよね?……でも、それは話が長くなるんですが、えっと、とにかく色々とあって………私にも言い分があるんです。でも、罪は認めます。もう二度とあんなこと言いませんっ。だから、お願いですっ。処刑だけは、勘弁してくださいっ。どうか死ぬまで私は首と胴体は一緒に居たいって思っているんですっ」
何卒、情状酌量をと縋りつかんばかりに訴えれば、腕章のおじさんは顎に手をあて、渋面を作った。………けれど、その目は、なぜからんらんに輝いている。
いや、はっきり言おう。もっと詳しく教えてと言いたげに興味深々のご様子だ。しかも、警備兵の皆さん全員、同じ顔をしている。
でも、腕章のおじさんは、結局、小さな咳ばらいをして感情を押し込め、頷くだけだった。若干、ぎくしゃくしていたけれど。
「少々……いや、かなり、いやいや、とっても気になる内容で、根掘り葉掘り聞きたいところだが……不敬罪で拘束するわけはない。それと、首は今のところ跳ねる予定はない。君を拘束する理由は───……これだ」
周りの警備兵も、聞きたそうにざわざわしていたけれど、腕章のおじさんが一枚の紙を私の目の前に突き出した途端、しんと静まり返った。
反対に私は、失礼しますと一言断りを入れ、それを手に取り文字を追った。
瞬間、私は怒りのあまり、それを破りそうになってしまった。
私は今、施設の警備兵に取り囲まれています。そして皆さん揃いも揃って、大変厳しい顔をなさっております。
ちなみに警備兵というのは、この軍事施設内の警備・警護を専任としている軍人さんのこと。いわば施設内のお巡りさんのようなもの。
その数、ざっと10人ほど。そして、その中には、顔見知りの方もちらほら。
囲まれた警備兵の中で私と向き合っているのは、多分その中で一番偉いと思われる腕章をつけたおじさん。
私の認識では、朝食でたまたま相席になった時にデザートのプリンをくれた、ものすごく良い人。
そして取り囲む警備兵の中には、司令官さまがサインを終えた書類を渡しに行った時に、クッキーをくれた人もいる。
他にも、すれ違った際に、挨拶を交わした人もいるし、転んだ時に手を貸してくれた人もいるし、落としたファイルを拾ってくれた人もいる。……つまり、ちらほらではなく、ほとんどが知っている人達なのだ。
だけれども、いつものように柔和な笑みを浮かべていない。石のような硬い表情を浮かべている。まかり間違っても、私になにか食べ物を施してくれるようではないようだ。
じゃあ、何?まったくもって、この状況、意味が分からない。
さて、なぜ、こんな状況になってしまったかというと───。
時は少し遡って、30分程前のこと。
私はウィルさんと一緒に実家から持ち帰った種を薬草園に届けた。そして、そこでウィルさんとお別れして、一人、宿舎の自分の部屋へと戻ったのだ。
それから、夕飯を食べようと再び部屋を出た途端、突然、背後から声を掛けられ、あれよあれよという間に、警備兵の皆さんに取り囲まれてしまった次第なのである。
もちろん、食事でも一緒にどう?的な雰囲気は皆無。でも、私はかなりお腹が空いている。警備兵のこげ茶の制服が妙に美味しそうに見えるくらいに。
「あのぉー………」
「シンシア殿、突然ですが君を一晩拘束させていただきます」
「は?………こうそくですか?」
一先ず、無言のままでいられるのが辛いのと、このままだと空服故にお腹がなってしまいそうで、適当に口を開いてみた途端、腕章を付けたおじさんが、私の言葉を遮るようにそう言った。
けれど、私はこれもまた意味が分からない。なぜ、そんなことを言われるのかも、その言葉の意味も。
校則、光速………そして、攻速。
漢字二文字が頭の中をぐるぐる回るけれど、そのどれもじゃないということは、何となくわかる。どうでも良いけれど、一番馴染みがあるのは、校則。でも、ここは学校じゃないから、一番正解から離れているだろう。
そんなことを考えながら、ぽかんと口を開けてしまった私を見て、どうもこいつわかっていないなという気配を感じた腕章のおじさんは、より分かりやすく言ってくれた。
「シンシア殿、あなたの身柄を、拘束させていただきます」
ああ、拘束ですか。って、何で!?ま、まさか………アレのこと!?
身に覚えがない私は、思わず何かの悪戯かとおもったけれど、一つだけ思い当たることがあった。
そして、それに気付いた途端、私は、さぁっと血の気が引く。
「ごめんなさいっ」
「え?な、なにか思い当たることがあったのかい?」
「はいっ」
直角に腰を折ったまま、全力で頷いた私に、腕章のおじさんは、まずは顔を上げなさいという。そして、おずおずと顔を上げた私に詳しく説明するよう促した。
「……実は私、司令官さまにイケメンくそ馬鹿ジジイっていう暴言を吐いてしまいましたっ」
涙目でそう自白すれば、この場に居た全員が固まった。
けれど生きるか死ぬかの瀬戸際にいる私は、それに構う余裕はない。今度は必死に自己弁護を始める。
「だから、私、不敬罪で拘束されるんですよね?……でも、それは話が長くなるんですが、えっと、とにかく色々とあって………私にも言い分があるんです。でも、罪は認めます。もう二度とあんなこと言いませんっ。だから、お願いですっ。処刑だけは、勘弁してくださいっ。どうか死ぬまで私は首と胴体は一緒に居たいって思っているんですっ」
何卒、情状酌量をと縋りつかんばかりに訴えれば、腕章のおじさんは顎に手をあて、渋面を作った。………けれど、その目は、なぜからんらんに輝いている。
いや、はっきり言おう。もっと詳しく教えてと言いたげに興味深々のご様子だ。しかも、警備兵の皆さん全員、同じ顔をしている。
でも、腕章のおじさんは、結局、小さな咳ばらいをして感情を押し込め、頷くだけだった。若干、ぎくしゃくしていたけれど。
「少々……いや、かなり、いやいや、とっても気になる内容で、根掘り葉掘り聞きたいところだが……不敬罪で拘束するわけはない。それと、首は今のところ跳ねる予定はない。君を拘束する理由は───……これだ」
周りの警備兵も、聞きたそうにざわざわしていたけれど、腕章のおじさんが一枚の紙を私の目の前に突き出した途端、しんと静まり返った。
反対に私は、失礼しますと一言断りを入れ、それを手に取り文字を追った。
瞬間、私は怒りのあまり、それを破りそうになってしまった。
0
お気に入りに追加
2,132
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
入れ替わった花嫁は元団長騎士様の溺愛に溺れまくる
九日
恋愛
仕事に行こうとして階段から落ちた『かな』。
病院かと思ったそこは、物語の中のような煌びやかな貴族世界だった。
——って、いきなり結婚式を挙げるって言われても、私もう新婚だし16歳どころかアラサーですけど……
転んで目覚めたら外見は同じ別人になっていた!?
しかも相手は国宝級イケメンの領主様!?
アラサーに16歳演じろとか、どんな羞恥プレイですかぁぁぁ———
猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました
あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。
どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
サラシがちぎれた男装騎士の私、初恋の陛下に【女体化の呪い】だと勘違いされました。
ゆちば
恋愛
ビリビリッ!
「む……、胸がぁぁぁッ!!」
「陛下、声がでかいです!」
◆
フェルナン陛下に密かに想いを寄せる私こと、護衛騎士アルヴァロ。
私は女嫌いの陛下のお傍にいるため、男のフリをしていた。
だがある日、黒魔術師の呪いを防いだ際にサラシがちぎれてしまう。
たわわなたわわの存在が顕になり、絶対絶命の私に陛下がかけた言葉は……。
「【女体化の呪い】だ!」
勘違いした陛下と、今度は男→女になったと偽る私の恋の行き着く先は――?!
勢い強めの3万字ラブコメです。
全18話、5/5の昼には完結します。
他のサイトでも公開しています。
モブの私がなぜかヒロインを押し退けて王太子殿下に選ばれました
みゅー
恋愛
その国では婚約者候補を集め、その中から王太子殿下が自分の婚約者を選ぶ。
ケイトは自分がそんな乙女ゲームの世界に、転生してしまったことを知った。
だが、ケイトはそのゲームには登場しておらず、気にせずそのままその世界で自分の身の丈にあった普通の生活をするつもりでいた。だが、ある日宮廷から使者が訪れ、婚約者候補となってしまい……
そんなお話です。
【完結】生贄として育てられた少女は、魔術師団長に溺愛される
未知香
恋愛
【完結まで毎日1話~数話投稿します・最初はおおめ】
ミシェラは生贄として育てられている。
彼女が生まれた時から白い髪をしているという理由だけで。
生贄であるミシェラは、同じ人間として扱われず虐げ続けられてきた。
繰り返される苦痛の生活の中でミシェラは、次第に生贄になる時を心待ちにするようになった。
そんな時ミシェラが出会ったのは、村では竜神様と呼ばれるドラゴンの調査に来た魔術師団長だった。
生贄として育てられたミシェラが、魔術師団長に愛され、自分の生い立ちと決別するお話。
ハッピーエンドです!
※※※
他サイト様にものせてます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる