13 / 61
私と司令官様の日常
まさかの告白①
しおりを挟む
─────翌日。
「本日はここで終了だ。ご苦労だったな。この書類は私の方で片付けておく」
司令官さまは、最後の書類にサインを終えると、私に向かってそう言った。
「はい。では、失礼します。お疲れさまでした」
いつも通り礼を取ると、そそくさと部屋を出ようとした。けれど、ドアノブに手を掛けた途端────。
「待ちなさい」
不機嫌ではないけれど、否とは言わせない口調で司令官さまに止められてしまった。
「な、何でしょう」
ギシギシと音がしそうな程、ぎこちなく振り返った私に、司令官さまは顎で長椅子に座るよう促した。
ちなみに司令官さまの執務室は広い。ソファもあれば、私専用の机も用意されているのに、まだまだ広い。しかも隣の部屋に仮眠室も付いてるしバスルームだってあるときたものだ。
そのくせ、まだこのイケメン、自室を持っていたりもする。ったく、そんなに自分専用の占有面積広げてどうするんだろう。身体は一個しかないというのに。
って、思わず関係ないことで悪態を付いてしまった。いかんいかん、イケメンというだけで『こんちきしょう』的なことを言わずにはいられない私は、もうかなりの角度で、性格がひん曲がっているのだろう。
…………いや、違うわ。単に、現実逃避したかっただけだ。
「シンシア殿、そこに座りなさい」
ええーっ、マジで嫌だぁー。私、帰るぅーっ。
なんてことを言って、ダッシュを決める私の姿が脳裏にチラつく。
が、現実は、悪あがきと知りながら、ふるふると小さく首を振ってみる私がいるだけだ。
もちろんた司令官さまも同じように首を横に振る。ついでに言うと司令官さまの目力は今日も絶好調だ。
うっうう……。逃げられそうもない。
精一杯の抵抗で、のろのろとソファに着席をすれば、司令官さまも執務机から席を立ち、流れるように向かいの独り掛けのソファに腰を下ろした。
向かい合わせになれば、硬い表情の司令官さまの顔が否が応でも視界に入る。
ああ、きっとこんなに強く引き留められたということ、且つ、司令官さまのこの表情。推測するに、私は何か失態をしてしまったのだろう。思い当たることはないけれど。
でも、まぁぶっちゃけ、失態してクビになるのは致し方無い。
というか、別に構わない。むしろ大賛成。即刻、山に引き籠るだけだ。もう誰にも文句は言わせない。私は言われた通り働いた。その結果の行動なのだから。
ただ、クビになるなら、さっさとして欲しいと切望する自分がいる。あと首を跳ねられるのは御免こうむりたい。
長々と説教された挙句、解雇通告を受けるのはお断りしたいし、私は首と胴体がくっついたまま息を引き取りたい…………できればあと80年後くらいに。
「────………絵にかいたような挙動不審だな。まるで飼いたての小動物のようだ」
「も、申し訳ありません」
あ゛?お前のせいだろうがっ。ってうか小動物って何?ぶっ飛ばすよ?
謝罪の言葉とは裏腹に私は心の中で悪態を付く。でも、表情筋を総動員して、しおらしい顔は作る。
そうすれば、司令官さまはくすりと笑った。
もう言わなくても良いかもしれないけれど、イケメンが笑うと5割増しになる。ウザい。
そんな私の心情など無視して、このウザいイケメンは再び口を開いた。
「別に君に何か説教をしようなどとは思っていない。君は実に優秀だ。仕事面では」
ん?何やら含みのある言い方だ。
そして司令官さまの表情も、部下を褒める上司の表情ではない。
所謂、これは前置きというものだろう。と、なると、この後メガトン級の何かを、ぶっ込んでくるということか。ならば、退避するしかない。
「さようですか。私には、身に余るお言葉です。ありがとうございます。では、失礼します」
「待ちたまえ。話はまだ終わっていない」
ですよねぇー。
そして中途半端に腰を浮かせた私を、司令官さまは眼力だけで着席させた。次いで、静かに口を開いた。
「今日、話をするのは至極プライベートなことだ。だから、君は私にタメ口で会話して構わない」
「……………はあ」
「ただ、プライベートなことで君を拘束することに対してまずは謝罪をしよう」
「はあ」
「………『はあ』は、確かにタメ口だ。しかし、この言葉は会話をする上で理解できたがどうか、判断に迷うものでもある。今後は『はい』か『いいえ』。又は『うん』か『ううん』でお願いしたい。もっというなら、私は後者での会話を望んでいる」
「はい………あ、いいえ、うん、です」
眼力が益々冴える司令官さまに対してタメ口を求めるのは、はっきり言って無茶ぶりだ。
なんだろうこの人、遠回しに私に死ねと言っているのだろうか。
でも、これも命令、命令と自分に言い聞かせ彼の要求を必死に呑む。
そうすれば、司令官さまは『です、は要らない』とまた無茶なことを言ったけれど、表情をほんの少し緩めてこう言った。
「ここまでで、君は何か思うところがあるか?」
「え、えっとぉ、前置きが少々長い気がします」
「なるほど」
恐る恐る本音を伝えれば、これまた間髪入れずに司令官さまは、しっかりと頷いた。
「では、単刀直入に言おう」
「………う、うん」
頷いた後、ごくりと唾を呑む。解雇通告以外、思い浮かばない私は、次の言葉がとても恐ろしい。そして、それは本当に恐ろしいものだった。
「私は、君に惚れている」
────…………しーん。
あれ?おっかしぃなぁ。何か、今、耳にノイズが走った。と、同時に私は間の抜けた声を出す。
「………はあ?」
すかさず『はあ』ではなく『うん』か『ううん』で答えろと、司令官さまが口を開く。
でも、ちょっと待って、この会話『はあ?』以外、私、思い浮かばない。
「本日はここで終了だ。ご苦労だったな。この書類は私の方で片付けておく」
司令官さまは、最後の書類にサインを終えると、私に向かってそう言った。
「はい。では、失礼します。お疲れさまでした」
いつも通り礼を取ると、そそくさと部屋を出ようとした。けれど、ドアノブに手を掛けた途端────。
「待ちなさい」
不機嫌ではないけれど、否とは言わせない口調で司令官さまに止められてしまった。
「な、何でしょう」
ギシギシと音がしそうな程、ぎこちなく振り返った私に、司令官さまは顎で長椅子に座るよう促した。
ちなみに司令官さまの執務室は広い。ソファもあれば、私専用の机も用意されているのに、まだまだ広い。しかも隣の部屋に仮眠室も付いてるしバスルームだってあるときたものだ。
そのくせ、まだこのイケメン、自室を持っていたりもする。ったく、そんなに自分専用の占有面積広げてどうするんだろう。身体は一個しかないというのに。
って、思わず関係ないことで悪態を付いてしまった。いかんいかん、イケメンというだけで『こんちきしょう』的なことを言わずにはいられない私は、もうかなりの角度で、性格がひん曲がっているのだろう。
…………いや、違うわ。単に、現実逃避したかっただけだ。
「シンシア殿、そこに座りなさい」
ええーっ、マジで嫌だぁー。私、帰るぅーっ。
なんてことを言って、ダッシュを決める私の姿が脳裏にチラつく。
が、現実は、悪あがきと知りながら、ふるふると小さく首を振ってみる私がいるだけだ。
もちろんた司令官さまも同じように首を横に振る。ついでに言うと司令官さまの目力は今日も絶好調だ。
うっうう……。逃げられそうもない。
精一杯の抵抗で、のろのろとソファに着席をすれば、司令官さまも執務机から席を立ち、流れるように向かいの独り掛けのソファに腰を下ろした。
向かい合わせになれば、硬い表情の司令官さまの顔が否が応でも視界に入る。
ああ、きっとこんなに強く引き留められたということ、且つ、司令官さまのこの表情。推測するに、私は何か失態をしてしまったのだろう。思い当たることはないけれど。
でも、まぁぶっちゃけ、失態してクビになるのは致し方無い。
というか、別に構わない。むしろ大賛成。即刻、山に引き籠るだけだ。もう誰にも文句は言わせない。私は言われた通り働いた。その結果の行動なのだから。
ただ、クビになるなら、さっさとして欲しいと切望する自分がいる。あと首を跳ねられるのは御免こうむりたい。
長々と説教された挙句、解雇通告を受けるのはお断りしたいし、私は首と胴体がくっついたまま息を引き取りたい…………できればあと80年後くらいに。
「────………絵にかいたような挙動不審だな。まるで飼いたての小動物のようだ」
「も、申し訳ありません」
あ゛?お前のせいだろうがっ。ってうか小動物って何?ぶっ飛ばすよ?
謝罪の言葉とは裏腹に私は心の中で悪態を付く。でも、表情筋を総動員して、しおらしい顔は作る。
そうすれば、司令官さまはくすりと笑った。
もう言わなくても良いかもしれないけれど、イケメンが笑うと5割増しになる。ウザい。
そんな私の心情など無視して、このウザいイケメンは再び口を開いた。
「別に君に何か説教をしようなどとは思っていない。君は実に優秀だ。仕事面では」
ん?何やら含みのある言い方だ。
そして司令官さまの表情も、部下を褒める上司の表情ではない。
所謂、これは前置きというものだろう。と、なると、この後メガトン級の何かを、ぶっ込んでくるということか。ならば、退避するしかない。
「さようですか。私には、身に余るお言葉です。ありがとうございます。では、失礼します」
「待ちたまえ。話はまだ終わっていない」
ですよねぇー。
そして中途半端に腰を浮かせた私を、司令官さまは眼力だけで着席させた。次いで、静かに口を開いた。
「今日、話をするのは至極プライベートなことだ。だから、君は私にタメ口で会話して構わない」
「……………はあ」
「ただ、プライベートなことで君を拘束することに対してまずは謝罪をしよう」
「はあ」
「………『はあ』は、確かにタメ口だ。しかし、この言葉は会話をする上で理解できたがどうか、判断に迷うものでもある。今後は『はい』か『いいえ』。又は『うん』か『ううん』でお願いしたい。もっというなら、私は後者での会話を望んでいる」
「はい………あ、いいえ、うん、です」
眼力が益々冴える司令官さまに対してタメ口を求めるのは、はっきり言って無茶ぶりだ。
なんだろうこの人、遠回しに私に死ねと言っているのだろうか。
でも、これも命令、命令と自分に言い聞かせ彼の要求を必死に呑む。
そうすれば、司令官さまは『です、は要らない』とまた無茶なことを言ったけれど、表情をほんの少し緩めてこう言った。
「ここまでで、君は何か思うところがあるか?」
「え、えっとぉ、前置きが少々長い気がします」
「なるほど」
恐る恐る本音を伝えれば、これまた間髪入れずに司令官さまは、しっかりと頷いた。
「では、単刀直入に言おう」
「………う、うん」
頷いた後、ごくりと唾を呑む。解雇通告以外、思い浮かばない私は、次の言葉がとても恐ろしい。そして、それは本当に恐ろしいものだった。
「私は、君に惚れている」
────…………しーん。
あれ?おっかしぃなぁ。何か、今、耳にノイズが走った。と、同時に私は間の抜けた声を出す。
「………はあ?」
すかさず『はあ』ではなく『うん』か『ううん』で答えろと、司令官さまが口を開く。
でも、ちょっと待って、この会話『はあ?』以外、私、思い浮かばない。
0
お気に入りに追加
2,138
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。
私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。
処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。
魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。
婚約者の幼馴染?それが何か?
仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた
「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」
目の前にいる私の事はガン無視である
「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」
リカルドにそう言われたマリサは
「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」
ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・
「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」
「そんな!リカルド酷い!」
マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している
この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ
タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」
「まってくれタバサ!誤解なんだ」
リカルドを置いて、タバサは席を立った

君に愛は囁けない
しーしび
恋愛
姉が亡くなり、かつて姉の婚約者だったジルベールと婚約したセシル。
彼は社交界で引く手数多の美しい青年で、令嬢たちはこぞって彼に夢中。
愛らしいと噂の公爵令嬢だって彼への好意を隠そうとはしない。
けれど、彼はセシルに愛を囁く事はない。
セシルも彼に愛を囁けない。
だから、セシルは決めた。
*****
※ゆるゆる設定
※誤字脱字を何故か見つけられない病なので、ご容赦ください。努力はします。
※日本語の勘違いもよくあります。方言もよく分かっていない田舎っぺです。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

欲に負けた婚約者は代償を払う
京月
恋愛
偶然通りかかった空き教室。
そこにいたのは親友のシレラと私の婚約者のベルグだった。
「シレラ、ず、ずっと前から…好きでした」
気が付くと私はゼン先生の前にいた。
起きたことが理解できず、涙を流す私を優しく包み込んだゼン先生は膝をつく。
「私と結婚を前提に付き合ってはもらえないだろうか?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる