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私と司令官様の日常

まさかの告白①

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 ─────翌日。

「本日はここで終了だ。ご苦労だったな。この書類は私の方で片付けておく」

 司令官さまは、最後の書類にサインを終えると、私に向かってそう言った。

「はい。では、失礼します。お疲れさまでした」

 いつも通り礼を取ると、そそくさと部屋を出ようとした。けれど、ドアノブに手を掛けた途端────。

「待ちなさい」

 不機嫌ではないけれど、否とは言わせない口調で司令官さまに止められてしまった。

「な、何でしょう」

 ギシギシと音がしそうな程、ぎこちなく振り返った私に、司令官さまは顎で長椅子に座るよう促した。

 ちなみに司令官さまの執務室は広い。ソファもあれば、私専用の机も用意されているのに、まだまだ広い。しかも隣の部屋に仮眠室も付いてるしバスルームだってあるときたものだ。

 そのくせ、まだこのイケメン、自室を持っていたりもする。ったく、そんなに自分専用の占有面積広げてどうするんだろう。身体は一個しかないというのに。

 って、思わず関係ないことで悪態を付いてしまった。いかんいかん、イケメンというだけで『こんちきしょう』的なことを言わずにはいられない私は、もうかなりの角度で、性格がひん曲がっているのだろう。

 …………いや、違うわ。単に、現実逃避したかっただけだ。
 
「シンシア殿、そこに座りなさい」

 ええーっ、マジで嫌だぁー。私、帰るぅーっ。

 なんてことを言って、ダッシュを決める私の姿が脳裏にチラつく。

 が、現実は、悪あがきと知りながら、ふるふると小さく首を振ってみる私がいるだけだ。

 もちろんた司令官さまも同じように首を横に振る。ついでに言うと司令官さまの目力は今日も絶好調だ。

 うっうう……。逃げられそうもない。

 精一杯の抵抗で、のろのろとソファに着席をすれば、司令官さまも執務机から席を立ち、流れるように向かいの独り掛けのソファに腰を下ろした。

 向かい合わせになれば、硬い表情の司令官さまの顔が否が応でも視界に入る。

 ああ、きっとこんなに強く引き留められたということ、且つ、司令官さまのこの表情。推測するに、私は何か失態をしてしまったのだろう。思い当たることはないけれど。

 でも、まぁぶっちゃけ、失態してクビになるのは致し方無い。

 というか、別に構わない。むしろ大賛成。即刻、山に引き籠るだけだ。もう誰にも文句は言わせない。私は言われた通り働いた。その結果の行動なのだから。

 ただ、クビになるなら、さっさとして欲しいと切望する自分がいる。あと首を跳ねられるのは御免こうむりたい。

 長々と説教された挙句、解雇通告を受けるのはお断りしたいし、私は首と胴体がくっついたまま息を引き取りたい…………できればあと80年後くらいに。
 
「────………絵にかいたような挙動不審だな。まるで飼いたての小動物のようだ」
「も、申し訳ありません」

 あ゛?お前のせいだろうがっ。ってうか小動物って何?ぶっ飛ばすよ?

 謝罪の言葉とは裏腹に私は心の中で悪態を付く。でも、表情筋を総動員して、しおらしい顔は作る。

 そうすれば、司令官さまはくすりと笑った。
 
 もう言わなくても良いかもしれないけれど、イケメンが笑うと5割増しになる。ウザい。

 そんな私の心情など無視して、このウザいイケメンは再び口を開いた。

「別に君に何か説教をしようなどとは思っていない。君は実に優秀だ。

 ん?何やら含みのある言い方だ。

 そして司令官さまの表情も、部下を褒める上司の表情ではない。

 所謂、これは前置きというものだろう。と、なると、この後メガトン級の何かを、ぶっ込んでくるということか。ならば、退避するしかない。

「さようですか。私には、身に余るお言葉です。ありがとうございます。では、失礼します」
「待ちたまえ。話はまだ終わっていない」

 ですよねぇー。

 そして中途半端に腰を浮かせた私を、司令官さまは眼力だけで着席させた。次いで、静かに口を開いた。

「今日、話をするのは至極プライベートなことだ。だから、君は私にタメ口で会話して構わない」
「……………はあ」
「ただ、プライベートなことで君を拘束することに対してまずは謝罪をしよう」
「はあ」
「………『はあ』は、確かにタメ口だ。しかし、この言葉は会話をする上で理解できたがどうか、判断に迷うものでもある。今後は『はい』か『いいえ』。又は『うん』か『ううん』でお願いしたい。もっというなら、私は後者での会話を望んでいる」
「はい………あ、いいえ、うん、です」

 眼力が益々冴える司令官さまに対してタメ口を求めるのは、はっきり言って無茶ぶりだ。

 なんだろうこの人、遠回しに私に死ねと言っているのだろうか。

 でも、これも命令、命令と自分に言い聞かせ彼の要求を必死に呑む。

 そうすれば、司令官さまは『です、は要らない』とまた無茶なことを言ったけれど、表情をほんの少し緩めてこう言った。

「ここまでで、君は何か思うところがあるか?」
「え、えっとぉ、前置きが少々長い気がします」
「なるほど」
 
 恐る恐る本音を伝えれば、これまた間髪入れずに司令官さまは、しっかりと頷いた。

「では、単刀直入に言おう」
「………う、うん」
 
 頷いた後、ごくりと唾を呑む。解雇通告以外、思い浮かばない私は、次の言葉がとても恐ろしい。そして、それは本当に恐ろしいものだった。

「私は、君に惚れている」

 ────…………しーん。

 あれ?おっかしぃなぁ。何か、今、耳にノイズが走った。と、同時に私は間の抜けた声を出す。

「………はあ?」

 すかさず『はあ』ではなく『うん』か『ううん』で答えろと、司令官さまが口を開く。

 でも、ちょっと待って、この会話『はあ?』以外、私、思い浮かばない。
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