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私と彼のお見舞い【心構え編】②

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 悲鳴と共に飛び起きた私の視界には、ティリカが目を丸くしてこちらを見ている。ただすぐに驚きを通り越して、3歩後ろに下がってしまった。そして、怯えた様子で私に声をかけた。

「フ、フリーディア様、大丈夫ですか?」
「………え、ええ」

 大丈夫と聞かれれば、すぐさま大丈夫だと返してしまう自分にほとほと嫌になる。

うなされていましたが、何か悪い夢でも見たのですか?」
「……………………」

 悪い夢なんてものじゃない。過去最大級の悪夢だった。詳細を口にすることすら、おぞましく私は無言で察して欲しいというアピールを前面に出す。そしてできれば一人になりたいという空気も付け加える。

 けれど、そんな私の心情に気付かないのか、あえての無視なのかわからないが、ティリカは【ああ、驚いた】と、わざとらしく胸をさすりながら呑気に口を開いた。

「もう、心配しましたよ。風邪なんていつぶりでしょうね」
「え?風邪?」
「え!?覚えてないんですか?フリーディア様、昨日、お屋敷に戻られた後すぐ、ぶっ倒れたじゃないですか」
「私が倒れた!?」
「そうですよ。もう大騒ぎだったんですから。まぁお医者のお見立てでは、ただの風邪だそうですので、2~3日寝てれば回復するそうですよ」
「そ、そうだったのね」

 確かに、ダブルデートの帰り道、ルディロークの馬車の中、喉が痛かったし悪寒もした。てっきりあの症状はルディロークの奇怪な行動のせいだと思ったけれど、ただ単に風邪を引いていただけだったのだ。

 ひとまず現状を理解することができてほっとする。けれど、ティリカはやっと落ち着きを取り戻した私にこう言った。

「あ、そうそう。あと、1時間後に、ルディローク様がお見舞いにみえるそうですよ」



 悪夢、再び。



 いや、気を落とすのはまだ早い。今更だが私は熱がある。そう、風邪をひいている、いわゆる病の身だ。そしてそれを自覚した途端、頭痛、悪寒、喉の痛み等々、身体が不調を訴えている。耳鳴りまでしている状況だ。

 ということで、あっけらかんとのたまってくれたティリカに、何ですと!?と詰め寄る前に、まずは耳鳴りが激しい自分の耳を疑うことにした。

「ごめんなさい、ティリカ。私、ちょっと熱で朦朧としてて、良く聞き取れなかったけれど、もう一度言ってくれる?」
「え?ですから、1時間後にお見舞いにみえるそうですよ」

 幻聴を期待していたが、ものの見事にティリカは裏切ってくれた。けれど、まだ認められない私は悪あがきと分かりつつ、質問を重ねてしまった。

「誰が来るの?」
「ですから、ルディローク様が、ですよ」
「使いの者ではなくて?」
「嫌ですねー、ルディローク様、本人に決まってるじゃないですか」
「……………そう」

 ティリカは真顔で、ことごとく私の期待を打ち砕いていく。いっそこれも悪夢の続きであることを祈ってしまう。

「あれ?もしかして、フリーディア様、恥ずかしいんですか?」
「え?」

 ティリカの意味ありげな視線の意味が分からない。と、いうか、今、私は恥ずかしいなどという可愛らしい表現など程遠い、動揺と混乱で発狂寸前だ。

 呆然としたまま動けない私に、ティリカはしたり顔で頷いた。

「確かに寝間着じゃ、貧乳ごまかせないですもんね。でも大丈夫です。キスした仲なんですから、もう誤魔化さなくても大丈夫ですよー」

 さらりと貧乳を指摘されたことと、さらりとキスを目撃されたこと。今、私はどちらについて、感情を動かせば良いのかわからない。

 立ちくらみを起こしてベッドに崩れ落ちた私に、ティリカは両手を叩いて嬉しそうに声を上げた。

「さぁ、フリーディア様、準備しましょう。今日は、男性が持つ【庇護欲心】を刺激するチャンスです!」

 気合の入りまくった眼差しでこちらを見るティリカの目には、私の体調を気遣う様子は微塵もない。あるのは、僅かなチャンスを無駄にするなという激励だけだ。

 思わず引きつった笑みを浮かべた私に、更にティリアは追い打ちをかける。 

「フリーディア様は無駄に丈夫ですからね。こんなチャンス滅多にないですよ。しっかり病弱なところをアピールして、俺が守らないとって思わせましょう。これ、結構、使えますよ」

 可憐なウィンクまで頂戴してしまったけれど、一つ言いたいことがある。

 お見舞いされる側に何の準備が必要だというのだ。必要なのは、未だに不可解な行動ばかりするルディロークと向き合う心構えだけだ。
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感想 6

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みんなの感想(6件)

にゃ
2019.10.08 にゃ

一気に読んでしまいました~!
更新楽しみにしています(*^^*)

解除
涼翔
2019.05.30 涼翔

連載中「これは未来に続く婚約破棄」からきました。
そちらの作品もヒロインキャラがとても魅力的で毎度更新楽しみにしておりますが、
こちらも不憫ヒロインに胃薬を、つい差し入れたくなる愛着を感じますw
現在更新止まっているようですが、今後のお互いのすれ違いがいつ正されるのか?とか、
まったく反省の色もなかったカロリーナの「ぎゃふん」はあるの?とか、
同じく不憫キャラのカイはきっとこのまま流されていくのだろうな~とか、
まだまだ続きを楽しめそうなので、いつか読めるだろうと楽しみにお気に入りして待っておきます。
是非ヒーローがヘタレるだけでないとこも見せてくださいw

茂栖 もす
2019.05.30 茂栖 もす

涼翔 さま

この度はコメントありがとうございました(*‘ω‘ *)

トラウマのほうの更新が止まってしまっていて、申し訳ありません(o*。_。)oペコッ

このままフェードアウトする予定はなく、現在進行形で時間を見つけて、ちまちま書き進めています(`・ω・´)ゞ

更新は再開する予定ですので、もう少々お待ちくださいm(_ _"m)

さて、余談ではありますが、古い作品なのに、こうしてコメントをいただけるのは本当に嬉しいかったです!

不憫なヒロインもきっと喜んでいると思いますヾ(≧▽≦)ノ

最後は『随分遠回りしたなぁ~。やっとハッピーエンドかいっ』っと言ってもらえるようなお話にしたいと思っていますので、お暇な時にでも覗いてみてくださいm(_ _"m)

それでは、また再開した際にお会いできれば幸いです。
この度は本当に、コメントありがとうございました!!

解除
ルナ
2018.12.18 ルナ

フリーディア
フローディア
クローディア
ヒロインの名前が増えてます。

茂栖 もす
2018.12.19 茂栖 もす

ルナさま

この度はご指摘ありがとうございました。

フリーディア
フローディア
クローディア

……いっぱいヒロインがいますね(;^ω^)

さて、ただいま修正完了しました(`・ω・´)ゞ
次回からはこのようなことがないよう気を付けます。

解除

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