上 下
3 / 27

私と彼の始まり②

しおりを挟む
 さてこの沢山のギャラリーを巻き込んだ、破天荒かつ前代未聞の婚約破棄には、後日談があった。

 誰もいないと思っていた、あの破局現場にまさかの目撃者がいたのだ。


 目撃者の名は、ルディローク・ディメルグ。


 彼のことを簡単に説明するなら、今回の一件の一番の被害者なのだ。

 そしてこのルディロークは少々厄介な家庭環境にあった。

 ディメルグ家は公爵家であり、ルディロークはその長男である。ただ、長男といえど姉2人と妹が2人。ものの見事にディメルグ家は女系であった。

 そんな女性ばかりに囲まれて育った彼は、少々、女性不信気味であった。そう、まだ彼は多少、女性に幻想を抱いていたのだ────あの、現場を目撃するまでは。

 彼が目にしたのは、鬼の形相で男の襟元を掴み、池に蹴り飛ばす女性の姿だった。そして、池に落ちた男に向かって『死になさい』と冷笑を浮かべていたらしい。

 そして気が済んだとばかりに、その女性は晴れ晴れとした表情で、颯爽と公園を後にしたそうだった。

 その瞬間、彼は完璧な女性不信になってしまったそうなのだ。


 他人事のように言ってはいるが、彼の心に心的外傷トラウマを与えてしまったのは、他でもない私である。


 時既に遅しとわかってはいるが、本当に申し訳ないことをしてしまったと反省している。謝って済むなら、地に頭を擦り付けてでも謝罪しよう。

 しかもあろうことか、貴族の頂点に立つ公爵家の一人息子に対して多大な損害を与えたのだ。一体、どう償えば良いのだろう。皆目検討もつかない。そして両親は再び寝込み、私は途方に暮れた。


 いっそ早々に屋敷を売払い、田舎へと移住することで誠意を示そうかと悩む中、ディメルグ家からは、意外な申し出があった。

 私、フリーディア・ノヴェルを婚約者として迎えたい、と。



 公爵家からの申し出を断ることなどできない。断った瞬間、私達一家は路頭に迷うこととなる。

 と、いう訳で私に与えられた選択肢は一つしかなかった。結論から言うと、私とルディロークは、めでたく(!?)婚約する運びとなったのだ。





 ………というのが表向の話だけど。本当の理由は、こうであった。

 ディメルグ家から届いた仰々しい文箱の中にあったのは、簡素な便箋が一枚。そしてそこにはこう書かれていた。

【(心的外傷トラウマを植え付けた)私、フリーディア・ノヴェルを(ルディロークの女性不振が治るまで)婚約者として迎えたい】

 つまり責任取って、ルディロークの女性不信を治せということであった。



 そんな無茶苦茶なと、おののく私をよそに、自分の意思とは関係なく私と彼の物語は始まってしまったのだ。



 ということで、この物語は仮の婚約者であるルディロークが心的外傷トラウマを克服するまでの長く険しい恋のお話である。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

もう、いいのです。

千 遊雲
恋愛
婚約者の王子殿下に、好かれていないと分かっていました。 けれど、嫌われていても構わない。そう思い、放置していた私が悪かったのでしょうか?

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

そんなに優しいメイドが恋しいなら、どうぞ彼女の元に行ってください。私は、弟達と幸せに暮らしますので。

木山楽斗
恋愛
アルムナ・メルスードは、レバデイン王国に暮らす公爵令嬢である。 彼女は、王国の第三王子であるスルーガと婚約していた。しかし、彼は自身に仕えているメイドに思いを寄せていた。 スルーガは、ことあるごとにメイドと比較して、アルムナを罵倒してくる。そんな日々に耐えられなくなったアルムナは、彼と婚約破棄することにした。 婚約破棄したアルムナは、義弟達の誰かと婚約することになった。新しい婚約者が見つからなかったため、身内と結ばれることになったのである。 父親の計らいで、選択権はアルムナに与えられた。こうして、アルムナは弟の内誰と婚約するか、悩むことになるのだった。 ※下記の関連作品を読むと、より楽しめると思います。

別に要りませんけど?

ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」 そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。 「……別に要りませんけど?」 ※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。 ※なろうでも掲載中

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

処理中です...