23 / 37
旅の再開
森は危険がいっぱいです
しおりを挟む
翌朝、私達は予定通り出立した。魔法が使えないという不安を抱えたまま。
できればそれは、宿屋に置いていきたかった。希望とやる気だけを持って気持ちを新たに出発したかった。
だけれど、やはり世の中そんなに甘くはない。
でも不安は抱えているけれど、リベリオの役に立ちそうもない助言もしっかり持っていくことにする。
そういえば、クラスで一番頭が良い女の子に勉強を教えてもらったことがあるけれど、てんでわからなかった。最終的に何の教科を教えてもらっているかすらわからなくなってしまったのは、今では懐かしい思い出だ。
そして、その才女から勉強を教えてもらうのもそれっきりだった。
ただ、勉強ができる人が全員教えるのが得意ではないということだけは学習した。つまり、リベリオもそういうタイプの人間だったのだろう。
今度、何か教えてもらえる機会があったら、それを念頭に置いて質問しよう。そう私は心に固く誓う。でも、そうなることがないよう頑張るのが一番だけれど……。
さて、今更だけでも私が療養していたのは、王都とあの惨劇があった洞窟の中間に位置する場所。
そして、これから向かう先は、リーシャンという村。そしてその村の奥にある暁の洞窟に、初代の勇者が残した魔界へと続く鍵が保管されている。
それが魔王を討伐するには絶対に必要なもの。
もちろん、私も以前それを取りに行った。そして、仲間を失ってしまった。
ちなみに暁の洞窟を攻略するまでは、まだ時間がある。物理的な距離のお陰で。
今いる宿屋を出れば草原が続く。そしてリーシャンまでの行き道は2つ。一色線に森を抜けるルートと、迂回して草原を進むルート。
地図を見れば単純にその距離の差は倍。圧倒的に森を進む方が早い。以前は迂回ルートを選んだけれど、今回は、森ルート一択しかない。
ただ、森ルートは危険だ。鬱蒼と木々が生い茂るそこは、すでに魔物に浸食されている。だから、警戒するのはもちろんだけれど、すちゃっと通り抜けるのが一番だ。
ここで、聖獣と魔獣の違いを説明しておくと、魔物は魔界からこの人間界に現れる。とても凶悪で、凶暴で、人間をみたらすぐさま襲い掛かる。
反対に、聖獣は天界の生き物。こちらから危害を与えなければ、理由も無く人間を襲ったりもしない。
ただ、聖獣が本気で攻撃をすれば、それは魔獣の力を凌駕できるもの。
マリモも聖獣だけれど、そうなのだろうか。マリモの本気を見たことがない私は半信半疑だけれど。可愛さは最高の武器的なアレなのか。そうなら、納得せざるを得ない。
という与太話はこれくらいにして、これまでは初代の勇者さまのお陰で、長い間、人間界には魔獣は現れなかった。
聖獣は人間界に時折現れるけれど。まぁ浜辺にリュウグウノツカイか現れるくらいレアな確立で。
そして今でも初代の勇者の護りは残っている。ガッタガタで今にも壊れそうだけれど、ちゃんと役目をはたしている。
だから私は、甘く考えていた。
森を抜ける際に一番気を付けないといけないのは、足場が悪くてこけないようにすることだと。でも、そうじゃない。森にはアレがいる。………そう。虫がいるのだ。
2日間草原を進み、今日は3日目。とうとう森へと足を踏み入れた。
情けないことに、早速、私は危機的状況にある。
「ひゃぁぁー」
肩に何か落ちたと思って、視線を向けた途端、私は自分でも呆れてしまう程、弱々しい悲鳴を上げてしまった。
前を歩いていたクウエットと、カーディルが慌てて振り返る。
「うわっ、どうしたって………お嬢ちゃん、それ普通の虫だぞ」
「………ですね」
そんな会話をしている間にマリモが、前足で私の肩にいたバッタもどきを払い落としてくれた。
ありがとうマリモ。大好き。あと皆さん、お騒がせしてごめんなさい。
そんな気持ちで、へへっと誤魔化し笑いをしてみた。微妙な視線を前と左右から受けたけど、再び誤魔化し笑いでやり過ごす。
けれど、私の心臓はまだバックバックしている。
当たり前だよね。森に虫がいなくて、どこにいる。
でも、こんなにいるなんて、想像してなかった。これは少々……いや、かなり予想外。先が思いやられる。
そして本日もまた4人から、何とも言えない視線を受けている。
ちなみに虫を見て悲鳴を上げるのは、4回目。今日だけで。そしてまだ午前中ときたものだ。
いい加減、慣れるべきだ。そう自分に言い聞かせても、生理的に受け付けないものに対して、そう簡単には平常心を持つことができない。
……もう一人の私は、虫は平気だったのだろうか。ふと疑問が浮かぶ。
思わず、この4人の誰かに聞いてみたい。ま、聞かないけど。
そんなことを心の中でぶつぶつ呟く。必死こいて呟く。だってそんなふうに、意識をよそに向けていないと、視界の至る所から虫さんがこんにちはをしてくれるのだ。
虫だって、好き好んでこんな容姿で生まれた訳ではないのはわかっている。それに虫にとったら、ただひたすら無視して欲しいのもわかっている。ムシだけにね。
───……なんていう氷結魔法を使ってもいないのに、一人心の中がブリザード状態になった瞬間、カーディルの鋭い声が耳朶をさした。
「姫さま、お下がりくださいっ」
緊迫した声で、魔物が現れたことを知る。
でも、カーディルのマントの隙間からチラリと見てしまった。そして私はぶんっと音がする程の勢いで顔を背けた。
だって、その魔物は虫だったから。しかもソレ……私より身長が高かった。
できればそれは、宿屋に置いていきたかった。希望とやる気だけを持って気持ちを新たに出発したかった。
だけれど、やはり世の中そんなに甘くはない。
でも不安は抱えているけれど、リベリオの役に立ちそうもない助言もしっかり持っていくことにする。
そういえば、クラスで一番頭が良い女の子に勉強を教えてもらったことがあるけれど、てんでわからなかった。最終的に何の教科を教えてもらっているかすらわからなくなってしまったのは、今では懐かしい思い出だ。
そして、その才女から勉強を教えてもらうのもそれっきりだった。
ただ、勉強ができる人が全員教えるのが得意ではないということだけは学習した。つまり、リベリオもそういうタイプの人間だったのだろう。
今度、何か教えてもらえる機会があったら、それを念頭に置いて質問しよう。そう私は心に固く誓う。でも、そうなることがないよう頑張るのが一番だけれど……。
さて、今更だけでも私が療養していたのは、王都とあの惨劇があった洞窟の中間に位置する場所。
そして、これから向かう先は、リーシャンという村。そしてその村の奥にある暁の洞窟に、初代の勇者が残した魔界へと続く鍵が保管されている。
それが魔王を討伐するには絶対に必要なもの。
もちろん、私も以前それを取りに行った。そして、仲間を失ってしまった。
ちなみに暁の洞窟を攻略するまでは、まだ時間がある。物理的な距離のお陰で。
今いる宿屋を出れば草原が続く。そしてリーシャンまでの行き道は2つ。一色線に森を抜けるルートと、迂回して草原を進むルート。
地図を見れば単純にその距離の差は倍。圧倒的に森を進む方が早い。以前は迂回ルートを選んだけれど、今回は、森ルート一択しかない。
ただ、森ルートは危険だ。鬱蒼と木々が生い茂るそこは、すでに魔物に浸食されている。だから、警戒するのはもちろんだけれど、すちゃっと通り抜けるのが一番だ。
ここで、聖獣と魔獣の違いを説明しておくと、魔物は魔界からこの人間界に現れる。とても凶悪で、凶暴で、人間をみたらすぐさま襲い掛かる。
反対に、聖獣は天界の生き物。こちらから危害を与えなければ、理由も無く人間を襲ったりもしない。
ただ、聖獣が本気で攻撃をすれば、それは魔獣の力を凌駕できるもの。
マリモも聖獣だけれど、そうなのだろうか。マリモの本気を見たことがない私は半信半疑だけれど。可愛さは最高の武器的なアレなのか。そうなら、納得せざるを得ない。
という与太話はこれくらいにして、これまでは初代の勇者さまのお陰で、長い間、人間界には魔獣は現れなかった。
聖獣は人間界に時折現れるけれど。まぁ浜辺にリュウグウノツカイか現れるくらいレアな確立で。
そして今でも初代の勇者の護りは残っている。ガッタガタで今にも壊れそうだけれど、ちゃんと役目をはたしている。
だから私は、甘く考えていた。
森を抜ける際に一番気を付けないといけないのは、足場が悪くてこけないようにすることだと。でも、そうじゃない。森にはアレがいる。………そう。虫がいるのだ。
2日間草原を進み、今日は3日目。とうとう森へと足を踏み入れた。
情けないことに、早速、私は危機的状況にある。
「ひゃぁぁー」
肩に何か落ちたと思って、視線を向けた途端、私は自分でも呆れてしまう程、弱々しい悲鳴を上げてしまった。
前を歩いていたクウエットと、カーディルが慌てて振り返る。
「うわっ、どうしたって………お嬢ちゃん、それ普通の虫だぞ」
「………ですね」
そんな会話をしている間にマリモが、前足で私の肩にいたバッタもどきを払い落としてくれた。
ありがとうマリモ。大好き。あと皆さん、お騒がせしてごめんなさい。
そんな気持ちで、へへっと誤魔化し笑いをしてみた。微妙な視線を前と左右から受けたけど、再び誤魔化し笑いでやり過ごす。
けれど、私の心臓はまだバックバックしている。
当たり前だよね。森に虫がいなくて、どこにいる。
でも、こんなにいるなんて、想像してなかった。これは少々……いや、かなり予想外。先が思いやられる。
そして本日もまた4人から、何とも言えない視線を受けている。
ちなみに虫を見て悲鳴を上げるのは、4回目。今日だけで。そしてまだ午前中ときたものだ。
いい加減、慣れるべきだ。そう自分に言い聞かせても、生理的に受け付けないものに対して、そう簡単には平常心を持つことができない。
……もう一人の私は、虫は平気だったのだろうか。ふと疑問が浮かぶ。
思わず、この4人の誰かに聞いてみたい。ま、聞かないけど。
そんなことを心の中でぶつぶつ呟く。必死こいて呟く。だってそんなふうに、意識をよそに向けていないと、視界の至る所から虫さんがこんにちはをしてくれるのだ。
虫だって、好き好んでこんな容姿で生まれた訳ではないのはわかっている。それに虫にとったら、ただひたすら無視して欲しいのもわかっている。ムシだけにね。
───……なんていう氷結魔法を使ってもいないのに、一人心の中がブリザード状態になった瞬間、カーディルの鋭い声が耳朶をさした。
「姫さま、お下がりくださいっ」
緊迫した声で、魔物が現れたことを知る。
でも、カーディルのマントの隙間からチラリと見てしまった。そして私はぶんっと音がする程の勢いで顔を背けた。
だって、その魔物は虫だったから。しかもソレ……私より身長が高かった。
10
あなたにおすすめの小説
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
勇者様がお望みなのはどうやら王女様ではないようです
ララ
恋愛
大好きな幼馴染で恋人のアレン。
彼は5年ほど前に神託によって勇者に選ばれた。
先日、ようやく魔王討伐を終えて帰ってきた。
帰還を祝うパーティーで見た彼は以前よりもさらにかっこよく、魅力的になっていた。
ずっと待ってた。
帰ってくるって言った言葉を信じて。
あの日のプロポーズを信じて。
でも帰ってきた彼からはなんの連絡もない。
それどころか街中勇者と王女の密やかな恋の話で大盛り上がり。
なんで‥‥どうして?
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり
鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。
でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。
背徳の恋のあとで
ひかり芽衣
恋愛
『愛人を作ることは、家族を維持するために必要なことなのかもしれない』
恋愛小説が好きで純愛を夢見ていた男爵家の一人娘アリーナは、いつの間にかそう考えるようになっていた。
自分が子供を産むまでは……
物心ついた時から愛人に現を抜かす父にかわり、父の仕事までこなす母。母のことを尊敬し真っ直ぐに育ったアリーナは、完璧な母にも唯一弱音を吐ける人物がいることを知る。
母の恋に衝撃を受ける中、予期せぬ相手とのアリーナの初恋。
そして、ずっとアリーナのよき相談相手である図書館管理者との距離も次第に近づいていき……
不倫が身近な存在の今、結婚を、夫婦を、子どもの存在を……あなたはどう考えていますか?
※アリーナの幸せを一緒に見届けて下さると嬉しいです。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる