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旅の再開

森は危険がいっぱいです

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 翌朝、私達は予定通り出立した。魔法が使えないという不安を抱えたまま。

 できればそれは、宿屋に置いていきたかった。希望とやる気だけを持って気持ちを新たに出発したかった。

 だけれど、やはり世の中そんなに甘くはない。

 でも不安は抱えているけれど、リベリオの役に立ちそうもない助言もしっかり持っていくことにする。

 そういえば、クラスで一番頭が良い女の子に勉強を教えてもらったことがあるけれど、てんでわからなかった。最終的に何の教科を教えてもらっているかすらわからなくなってしまったのは、今では懐かしい思い出だ。

 そして、その才女から勉強を教えてもらうのもそれっきりだった。

 ただ、勉強ができる人が全員教えるのが得意ではないということだけは学習した。つまり、リベリオもそういうタイプの人間だったのだろう。

 今度、何か教えてもらえる機会があったら、それを念頭に置いて質問しよう。そう私は心に固く誓う。でも、そうなることがないよう頑張るのが一番だけれど……。




 さて、今更だけでも私が療養していたのは、王都と惨劇があった洞窟の中間に位置する場所。

 そして、これから向かう先は、リーシャンという村。そしてその村の奥にある暁の洞窟に、初代の勇者が残した魔界へと続く鍵が保管されている。

 それが魔王を討伐するには絶対に必要なもの。

 もちろん、私も以前それを取りに行った。そして、仲間を失ってしまった。

 ちなみに暁の洞窟を攻略するまでは、まだ時間がある。物理的な距離のお陰で。

 今いる宿屋を出れば草原が続く。そしてリーシャンまでの行き道は2つ。一色線に森を抜けるルートと、迂回して草原を進むルート。

 地図を見れば単純にその距離の差は倍。圧倒的に森を進む方が早い。以前は迂回ルートを選んだけれど、今回は、森ルート一択しかない。

 ただ、森ルートは危険だ。鬱蒼と木々が生い茂るそこは、すでに魔物に浸食されている。だから、警戒するのはもちろんだけれど、すちゃっと通り抜けるのが一番だ。

 ここで、聖獣と魔獣の違いを説明しておくと、魔物は魔界からこの人間界に現れる。とても凶悪で、凶暴で、人間をみたらすぐさま襲い掛かる。

 反対に、聖獣は天界の生き物。こちらから危害を与えなければ、理由も無く人間を襲ったりもしない。

 ただ、聖獣が本気で攻撃をすれば、それは魔獣の力を凌駕できるもの。

 マリモも聖獣だけれど、そうなのだろうか。マリモの本気を見たことがない私は半信半疑だけれど。可愛さは最高の武器的なアレなのか。そうなら、納得せざるを得ない。

 という与太話はこれくらいにして、これまでは初代の勇者さまのお陰で、長い間、人間界には魔獣は現れなかった。

 聖獣は人間界に時折現れるけれど。まぁ浜辺にリュウグウノツカイか現れるくらいレアな確立で。

 そして今でも初代の勇者の護りは残っている。ガッタガタで今にも壊れそうだけれど、ちゃんと役目をはたしている。

 だから私は、甘く考えていた。

 森を抜ける際に一番気を付けないといけないのは、足場が悪くてこけないようにすることだと。でも、そうじゃない。森にはアレがいる。………そう。虫がいるのだ。





 2日間草原を進み、今日は3日目。とうとう森へと足を踏み入れた。

 情けないことに、早速、私は危機的状況にある。

「ひゃぁぁー」

 肩に何か落ちたと思って、視線を向けた途端、私は自分でも呆れてしまう程、弱々しい悲鳴を上げてしまった。

 前を歩いていたクウエットと、カーディルが慌てて振り返る。

「うわっ、どうしたって………お嬢ちゃん、それ普通の虫だぞ」
「………ですね」

 そんな会話をしている間にマリモが、前足で私の肩にいたバッタもどきを払い落としてくれた。

 ありがとうマリモ。大好き。あと皆さん、お騒がせしてごめんなさい。

 そんな気持ちで、へへっと誤魔化し笑いをしてみた。微妙な視線を前と左右から受けたけど、再び誤魔化し笑いでやり過ごす。

 けれど、私の心臓はまだバックバックしている。

 当たり前だよね。森に虫がいなくて、どこにいる。
 
 でも、こんなにいるなんて、想像してなかった。これは少々……いや、かなり予想外。先が思いやられる。

 そして本日もまた4人から、何とも言えない視線を受けている。

 ちなみに虫を見て悲鳴を上げるのは、4回目。今日だけで。そしてまだ午前中ときたものだ。

 いい加減、慣れるべきだ。そう自分に言い聞かせても、生理的に受け付けないものに対して、そう簡単には平常心を持つことができない。

 ……もう一人の私は、虫は平気だったのだろうか。ふと疑問が浮かぶ。

 思わず、この4人の誰かに聞いてみたい。ま、聞かないけど。

 そんなことを心の中でぶつぶつ呟く。必死こいて呟く。だってそんなふうに、意識をよそに向けていないと、視界の至る所から虫さんがこんにちはをしてくれるのだ。

 虫だって、好き好んでこんな容姿で生まれた訳ではないのはわかっている。それに虫にとったら、ただひたすら無視して欲しいのもわかっている。だけにね。

 ───……なんていう氷結魔法を使ってもいないのに、一人心の中がブリザード状態になった瞬間、カーディルの鋭い声が耳朶をさした。

「姫さま、お下がりくださいっ」

 緊迫した声で、魔物が現れたことを知る。

 でも、カーディルのマントの隙間からチラリと見てしまった。そして私はぶんっと音がする程の勢いで顔を背けた。

 だって、その魔物は虫だったから。しかもソレ……私より身長が高かった。
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