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運命の分岐
ぎこちない晩餐
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リーシャンという村は、そもそも、暁の洞窟を監視する為に作られた村。村人も殆どが自警団に関わる人とその家族のみ。
そして村の光景も、のどかとは言い難く、こじんまりとした要塞という表現の方が似合う。スローライフはちょっと出来なさそう。
だから、これといった特産品もなければ、農業や機織りなどと言った生産が得意な村でもない。
なので、目の前にある食事を見て、私は色々思うところがある。
質素とは真逆の位置にあるそれは、テーブルにはみ出んばかりの品数だ。
お肉のソテーに、魚の香草焼き。それからキッシュにポタージュ。5種類の形も色も違うパン。あと野菜のチーズ焼きと、平べったい花瓶に綺麗に盛り付けられた果物。
最後に、ご丁寧にもワインまで用意されてある。
何ていうか、夕食というよりは晩餐という言葉のほうが似あうし、食欲をそそるジューシーなお肉の香りとは別に『これで一つ、洞窟の管理を怠っていたこと、ご内密にしてね』的な匂いも漂ってくる。
でも、食べ物には罪はない。そして私はお腹が空いている。
もっと言うならば、ずっと硬いパンを食べていたので、すぐ目の前にあるふんわりとした柔らかいパンを口に入れたくて仕方がない。
でも、今日も寂しい食事を取らないといけないのだろうか……。
さっきも伝えたけれど、皆と合流してリーシャンの村に到着するまで、2回野宿をした。でも、全員揃って食事をすることはなかった。
カーディルとクウエットは、見張りという名目で食事の席には付くことは無かったし、ファレンセガもリジェンテも妙に食べるのが早くて、向き合って同じタイミングで食べ始めても、すぐに居なくなってしまった。
まぁ……確かに、あんなことがあった後だから、気まずいよね。
実は、皆と合流してからも、あの池に飛び込んでしまった一件について誰も口に出すことはしないのだ。
もちろん私からも、その話題に触れることはしない。だって、どうやって伝えれば良いのかわからないから。
そもそも、平行世界について私がきちんと理解していないから、うまく説明できる自信がない。それに運命の回廊がぁー……とか言っても、誰が信じるというのだろうか。
それこそファンタジーの世界だし、もし仮に頑張って伝えた結果『お前マジ大丈夫?』と聞かれた日には、私の心は間違いなく死ぬだろう。
という、自己防衛から言えないのもあるけれど、何より、もう一人の私が死んでしまった事を伝えるのがとても辛いのだ。
そこまで考えて、ふぅっと溜息が出る。
この食堂は私一人しか居ない。
自分から打ち明けられないことがあるくせに、私は馬鹿の一つ覚えみたいに、皆と食事を取りたくてここで待っている。毎回毎回、今日こそはと期待してしまう自分に呆れてしまう。
けれどここに来て、やっぱり諦めなくて良かったと思ってしまった。なぜなら───。
「ね、せっかくのごちそうだし、たまには、皆でご飯でも食べよっか」
ぞろぞろと4人が食堂に足を踏み入れた途端、ファレンセガが突然そう言ってくれたから。
そしてクウエットが笑顔で頷いてくれたのをきっかけに、私は念願かなって、皆で夕食を食べることができたのだ。
でもね、やっぱり……いきなり和気あいあいとした雰囲気にはならなかった。
「クウエット、これ取って」
「ああ。リジェンテはいるか?」
「はい。ファレンセガさんと同じくらいで」
「りょーかい。お、お嬢ちゃんも、食べるか?」
「……あ、は、はいっ。お願いいたしますっ」
「カーディル、お前は自分で取ってくれよ」
「当たり前です。あなたから給仕を受けたら味が半減します」
「………」
以上。
席に付いた途端、ある程度クウエットから取り分けて貰った後は、全員が黙々と食べる。ひたすら食べる、食べる。
そして賑やかなのはテーブルの上だけで、会話はゼロ。微かにナイフとフォークが食器にあたる音だけが無駄に食堂に響いている。
きっとこういうのを、ぎこちないというのだろう。辞書を引くよりわかりやすい。
でも、私は嬉しかった。こうして皆とまた食卓を囲むことができて。会話は弾まないけれど、私の心はそこそこ弾んでいる。
思わず調子に乗って、ワインに手を伸ばしたくなるくらいに。
「明日は、どうする?日の出と共に出発にするか?」
沈黙に耐え切れなくなったクウエットが思い出したかのように、カーディルに問いかける。
「そうですね。そのほうが良いでしょう」
「んじゃ、それで決まりっと。───……で、良いよな?」
クウエットは、最終確認で会話に参加していない私とリジェンテとファレンセガに同意を求めた。
もちろん異を唱えるものはいない。
ただ、こっそりワインを飲もうとした私のグラスをそっと取り上げたファレンセガに対しては異を唱えたい。そして水のように一気飲みしたことに対しても。
でも、そこで私は子供みたいに不貞腐れたりはしない。
だって思わず指パッチンをしたくなる程の名案が閃いてしまったから。
私にはもう一人の私から貰った魔力がある。そして私だけがあの洞窟に足を踏み入れたことがある。
───そう……そうなのだ。なにも洞窟へ行くのは全員じゃなくても良いのだ。
そうと決まれば、腹が減っては何とやら。私は、もう一つパンを手に取った。そして名案をより確実なものにすべく、頭の中でしっかり段取りを組み立てる。
そして完璧なプランを考えたら、今夜がとても長い夜になることがわかった。
そして村の光景も、のどかとは言い難く、こじんまりとした要塞という表現の方が似合う。スローライフはちょっと出来なさそう。
だから、これといった特産品もなければ、農業や機織りなどと言った生産が得意な村でもない。
なので、目の前にある食事を見て、私は色々思うところがある。
質素とは真逆の位置にあるそれは、テーブルにはみ出んばかりの品数だ。
お肉のソテーに、魚の香草焼き。それからキッシュにポタージュ。5種類の形も色も違うパン。あと野菜のチーズ焼きと、平べったい花瓶に綺麗に盛り付けられた果物。
最後に、ご丁寧にもワインまで用意されてある。
何ていうか、夕食というよりは晩餐という言葉のほうが似あうし、食欲をそそるジューシーなお肉の香りとは別に『これで一つ、洞窟の管理を怠っていたこと、ご内密にしてね』的な匂いも漂ってくる。
でも、食べ物には罪はない。そして私はお腹が空いている。
もっと言うならば、ずっと硬いパンを食べていたので、すぐ目の前にあるふんわりとした柔らかいパンを口に入れたくて仕方がない。
でも、今日も寂しい食事を取らないといけないのだろうか……。
さっきも伝えたけれど、皆と合流してリーシャンの村に到着するまで、2回野宿をした。でも、全員揃って食事をすることはなかった。
カーディルとクウエットは、見張りという名目で食事の席には付くことは無かったし、ファレンセガもリジェンテも妙に食べるのが早くて、向き合って同じタイミングで食べ始めても、すぐに居なくなってしまった。
まぁ……確かに、あんなことがあった後だから、気まずいよね。
実は、皆と合流してからも、あの池に飛び込んでしまった一件について誰も口に出すことはしないのだ。
もちろん私からも、その話題に触れることはしない。だって、どうやって伝えれば良いのかわからないから。
そもそも、平行世界について私がきちんと理解していないから、うまく説明できる自信がない。それに運命の回廊がぁー……とか言っても、誰が信じるというのだろうか。
それこそファンタジーの世界だし、もし仮に頑張って伝えた結果『お前マジ大丈夫?』と聞かれた日には、私の心は間違いなく死ぬだろう。
という、自己防衛から言えないのもあるけれど、何より、もう一人の私が死んでしまった事を伝えるのがとても辛いのだ。
そこまで考えて、ふぅっと溜息が出る。
この食堂は私一人しか居ない。
自分から打ち明けられないことがあるくせに、私は馬鹿の一つ覚えみたいに、皆と食事を取りたくてここで待っている。毎回毎回、今日こそはと期待してしまう自分に呆れてしまう。
けれどここに来て、やっぱり諦めなくて良かったと思ってしまった。なぜなら───。
「ね、せっかくのごちそうだし、たまには、皆でご飯でも食べよっか」
ぞろぞろと4人が食堂に足を踏み入れた途端、ファレンセガが突然そう言ってくれたから。
そしてクウエットが笑顔で頷いてくれたのをきっかけに、私は念願かなって、皆で夕食を食べることができたのだ。
でもね、やっぱり……いきなり和気あいあいとした雰囲気にはならなかった。
「クウエット、これ取って」
「ああ。リジェンテはいるか?」
「はい。ファレンセガさんと同じくらいで」
「りょーかい。お、お嬢ちゃんも、食べるか?」
「……あ、は、はいっ。お願いいたしますっ」
「カーディル、お前は自分で取ってくれよ」
「当たり前です。あなたから給仕を受けたら味が半減します」
「………」
以上。
席に付いた途端、ある程度クウエットから取り分けて貰った後は、全員が黙々と食べる。ひたすら食べる、食べる。
そして賑やかなのはテーブルの上だけで、会話はゼロ。微かにナイフとフォークが食器にあたる音だけが無駄に食堂に響いている。
きっとこういうのを、ぎこちないというのだろう。辞書を引くよりわかりやすい。
でも、私は嬉しかった。こうして皆とまた食卓を囲むことができて。会話は弾まないけれど、私の心はそこそこ弾んでいる。
思わず調子に乗って、ワインに手を伸ばしたくなるくらいに。
「明日は、どうする?日の出と共に出発にするか?」
沈黙に耐え切れなくなったクウエットが思い出したかのように、カーディルに問いかける。
「そうですね。そのほうが良いでしょう」
「んじゃ、それで決まりっと。───……で、良いよな?」
クウエットは、最終確認で会話に参加していない私とリジェンテとファレンセガに同意を求めた。
もちろん異を唱えるものはいない。
ただ、こっそりワインを飲もうとした私のグラスをそっと取り上げたファレンセガに対しては異を唱えたい。そして水のように一気飲みしたことに対しても。
でも、そこで私は子供みたいに不貞腐れたりはしない。
だって思わず指パッチンをしたくなる程の名案が閃いてしまったから。
私にはもう一人の私から貰った魔力がある。そして私だけがあの洞窟に足を踏み入れたことがある。
───そう……そうなのだ。なにも洞窟へ行くのは全員じゃなくても良いのだ。
そうと決まれば、腹が減っては何とやら。私は、もう一つパンを手に取った。そして名案をより確実なものにすべく、頭の中でしっかり段取りを組み立てる。
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