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旅の再開

魔力と武器①

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 カーテンの隙間から差し込む陽の光で朝が来たことを知る。

 脇腹の傷は痛まないけれど、そぉっと起き出した私は、裸足のまま窓へ近づきカーテンを開ける。雲は大きけれど、おおむね晴天だ。このまま天気を維持して欲しい。

 なにせ、明日からまた旅が始まるから。

 あらあら、いつの間に1ヶ月も経過したの?なんて聞かないで欲しい。経過した時間は、10日だけ。

 リジェンテは、傷の完治までに1ヶ月は必要だと言っていた。けれど、そんな悠長なことはいっていられない。少しでも、時間を稼がないと。

 もう、もう一人の私の過去は教えてもらった。皆んなと壁があることも知った。

 そして、たった30分という時間のズレでこんなにも運命が大きく分かれてしまったのだから、これ以上無駄な時間を使いたくはない。

 だから、無理矢理、出立することにした。

 もちろん、4人はそろって大反対をした。

 その気遣いは嬉しかった。でも、傷は塞がったし、痛みもない。足腰は少々萎えてしまっているけれど、リハビリも兼ねて歩いていれば、すぐに元に戻るだろう。

 そう力説した。必死に説得した。その結果、渋々ながらも全員、出立に同意してくれた。

 ……揃いも揃って、こりゃ言っても無駄だなと、5歳児を見る表情をしていたことは気にしないことにする。




 さて、以前にもいったけれど、この世界は魔法が使える不思議なところ。

 そして、この世界で生まれた人間は、大なり小なり魔力を持っている。ただ、魔法を使う職に就くかどうかは、本人の意志による。

 例えば、クウエットは魔力はあるけれど剣士になったし、カーディルは魔法は使えるけれど、聖騎士になった。

 もちろん、あまり魔法を使わないパン屋さんになる人もいれば、メイドさんになる人もいれば、農業を営む人だっている。

 ちなみに魔力を必要とする人は、10歳に満たない頃に精霊に祈りを捧げる。そして精霊たちに選んでもらうのだ。そして、自分を選んでくれた精霊によって使える魔法の属性が決まる。

 それは一生変わることがなく、自分の属性にあった魔法を極めていくことになる。

 と、まぁ、なんだかんだと説明をしたけれど、私も魔法が使える…………らしい。しかも高位の氷結魔法が。

 フィスオーレ国は、もともと魔法都市から発展した国。だから強い魔力を持って生まれてくる子供が多い。

 そして、王族ともなればかなり高い魔力を持って生まれてくる。忘れているかもしれないが、私も王族なのだ。だから魔力自体はそこそこある……らしい。

 ただ悲しいことに、以前の私は、まったく魔法を使うことができなかった。そしてそれで良いという言葉に甘えていた。





 寝間着からローブ以外の旅服に着替えた私は、宿屋の裏庭に移動する。

 そして人気がないのを確認して、左手を前に突き出してみる。中指には少々ごっつい指輪がはめられている。
 
 これはもう一人の私が身に付けていたもの。魔法を補助してくれる装飾品。ちなみに私も同じものを指にはめていた。

 目を閉じて意識を集中させる。そして念じる。愛用の武器の形を。

 そうすれば、左手にひんやりとした物体を感じて、すぐさま握りしめる。目を開ければ、以前使ってものと同じ形の武器──クリスタルでできた弓が目の前にあった。

「良かった。とりあえず、ここまではできるか」

 ほっと肩をなでおろしながら独り言ちる。

 手にした武器は、芸術品のような美しさはあるけれど、繊細過ぎていささか戦闘向きではない。床の間に飾っておくほうが向いている一品だ。

 でも、これを召喚するだけで私は3ケ月もかかった。ちなみに、武器を召喚させるのは、魔法ではない。もっと基礎的なもの。

 だた、私は基礎すら満足にできない。この武器召喚すら中途半端なのだ。

「弓矢をどうするかだよねぇ」

 そう言いながら右手をかざしてみる。

 案の定、手のひらには何の感触もない。ただ厨二病かぶれのポーズをとる私がいるだけ。虚しい……というより、恥ずかしい。

 すぐさま、武器を指輪に戻して溜息を付く。でもすぐに気を取り直して、軽く跳ねてみる。

「さぁーって、練習するかぁ」

 実はここ数日前から、特訓しているのだ。弓矢を召喚させる練習を。でも、毎回失敗に終わっている。

 なので本日は、氷結魔法にチャレンジしてみようと思っている。難易度はこっちのほうが上だけれど、もしかして的な何かを期待して。

「氷をイメージしてぇー、凍った背景をイメージしてぇー、えっとそれからかき氷……じゃないわ」

 以前、ファレンセガから教えてもらった魔法のコツを思い出しながら地面に両手を付いたいれば、みゅーっと馴染みのある小動物が視界に飛び込んで来た。

 しっぽをゆらゆらと揺らすマリモが可愛くて練習を中断して、思わず抱き上げる。

「マリモ、皆んな起きた?」
「みゅー」
「そっかぁ、じゃあ、まだ練習できるね」
「みゅっ」

 鳴き声としっぽの動きでなんとなく聞き取った私は、マリモを肩に乗せる。そして、ぱんっと両手を頬に当てて気合を入れた。 

「大丈夫、マリモ。見ててね。今日こそ成功させるから。だって私、やればできる子だからっ」 

 自分を鼓舞するようにそう言えば、マリモはなぜか遠い目をした。
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