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季節外れのリュシオル
スミレから始まる強制尋問②
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ついさっきまで朝の澄み渡った空気の中、お土産で貰ったスミレの花を手にして喜んでいた私だったが、今はぴんと張り詰めた空気の中一人慄いている。
思わずごくりとつばを飲んだ私に、ケイノフは静かな口調で私に問いかけた。
「もう一度聞きますが、カイルとはどなたですか?」
「……アスラリア国の王城の庭師です」
ケイノフの口調は穏やかだけれど、眼光は鋭い。レナザードの視線が心を刺す間接的なものならば、ケイノフのは物理的な痛みを伴いそうなもの。そんな視線に耐え切れず、私は後ずさりながらそう答えた。けれど………
「ふぅーん」
「そうですか」
と、ご不満そうな二人の返事が返ってきた。説明不足だったのだろうか。でもカイルと話すことと言えば花の種類や育て方ぐらいだったので、彼の年齢も知らなければ、食べ物の好みも兄弟の有無すら知らない。
つまり私はこれ以上、彼について説明はできない。そんなまごつく私に、ダーナは補足を求めてきた。
「なぁ、スラリス、そいつとどういう関係だったんだ?」
「え?」
半目になっているダーナに思わず間の抜けた声を出してしまった。そう聞かれても困る。どうもこうもない、カイルとはただのメイドと庭師の関係だ。
「どういう関係だったんだ?そいつと」
目を瞬かせる私に、ダーナは同じ質問を繰り返した。……その視線が痛いし怖い。とりあえず、私が知っている彼の全てを並べ立ててみよう。
「えっと彼は王城の専属庭師でした。年齢は私と同じくらいだったのでしょうか、ちゃんと聞いたことはなかったのですが、多分それくらいです。あと、とても植物に詳しくて、色々教えてもらってたんです。……以上です」
そう、カイルは本当に植物に詳しかった。
いつから彼が王城へ上がったのかは知らないけれど、1年前、桜の花を見ていた私に、彼が声をかけてくれたのが知り合ったきっかけだった。アスラリアの王城は至る所に花を飾るので、それから度々、彼に花の育て方を聞くようになった。……そう、それだけだ。
だから彼があの襲撃の時にどこにいたのかも知らないし、無事に生き延びたのかもわからない。生きてくれていたらすごく嬉しいけれど。
「……それだけか?」
かつての仲間のことでよそに思考を飛ばしていた私だったけれど、ダーナの言葉で引き戻された。慌てて、もちろんですと頷けは、二人は若干疑惑の念を残しながらも納得してくれた様子だ。眉間の皺も取れてくれたので、ほっとする。
それからケイノフとダーナは、二人だけがわかる視線のやり取り、つまりアイコンタクトというものを取っていたけれど、私にはどんな内容なのか理解ができなかった。
そんな二人のやり取りを横目で見ながら、かなり時間が経過していることに気付く。
そろそろ屋敷に戻りたい。掃除は一通り終わっているけれど、メイドの仕事に終わりはない。在庫用の雑巾を縫いたいし、銀食器も磨いておきたい。
一度仕事のことを考え出すと、そこから次から次へと思い付いたり思い出したりと、そわそわしてしまう。今すぐにここを離れたいけれど、二人は了承してくれるだろうか。
切り出す言葉を見つけられずにいる私だったが、その間にケイノフとダーナもアイコンタクトを終えたようで視線は再び私に戻ってしまった。……間違いなく、切り出すタイミングを逃してしまったようだ。
「カイルのことはわかりました。で、ときにスラリス、一度ちゃんと聞こうと思っていたことがあるんです」
「………な、なんでしょう」
改めて聞きたいことがあると言われると身構えてしまう。ただ、ここ最近、ケイノフには胸の内をさらけ出してきた。それなのにまだ他に聞きたいことがあるということに驚きを隠せない。
けれど、一体何を聞きたいのだろうか。予想しようにも何も思い浮かばない。そして分からないほど怖いものはない。
思わずごくりとつばを飲んだ私に、ケイノフは静かな口調で私に問いかけた。
「もう一度聞きますが、カイルとはどなたですか?」
「……アスラリア国の王城の庭師です」
ケイノフの口調は穏やかだけれど、眼光は鋭い。レナザードの視線が心を刺す間接的なものならば、ケイノフのは物理的な痛みを伴いそうなもの。そんな視線に耐え切れず、私は後ずさりながらそう答えた。けれど………
「ふぅーん」
「そうですか」
と、ご不満そうな二人の返事が返ってきた。説明不足だったのだろうか。でもカイルと話すことと言えば花の種類や育て方ぐらいだったので、彼の年齢も知らなければ、食べ物の好みも兄弟の有無すら知らない。
つまり私はこれ以上、彼について説明はできない。そんなまごつく私に、ダーナは補足を求めてきた。
「なぁ、スラリス、そいつとどういう関係だったんだ?」
「え?」
半目になっているダーナに思わず間の抜けた声を出してしまった。そう聞かれても困る。どうもこうもない、カイルとはただのメイドと庭師の関係だ。
「どういう関係だったんだ?そいつと」
目を瞬かせる私に、ダーナは同じ質問を繰り返した。……その視線が痛いし怖い。とりあえず、私が知っている彼の全てを並べ立ててみよう。
「えっと彼は王城の専属庭師でした。年齢は私と同じくらいだったのでしょうか、ちゃんと聞いたことはなかったのですが、多分それくらいです。あと、とても植物に詳しくて、色々教えてもらってたんです。……以上です」
そう、カイルは本当に植物に詳しかった。
いつから彼が王城へ上がったのかは知らないけれど、1年前、桜の花を見ていた私に、彼が声をかけてくれたのが知り合ったきっかけだった。アスラリアの王城は至る所に花を飾るので、それから度々、彼に花の育て方を聞くようになった。……そう、それだけだ。
だから彼があの襲撃の時にどこにいたのかも知らないし、無事に生き延びたのかもわからない。生きてくれていたらすごく嬉しいけれど。
「……それだけか?」
かつての仲間のことでよそに思考を飛ばしていた私だったけれど、ダーナの言葉で引き戻された。慌てて、もちろんですと頷けは、二人は若干疑惑の念を残しながらも納得してくれた様子だ。眉間の皺も取れてくれたので、ほっとする。
それからケイノフとダーナは、二人だけがわかる視線のやり取り、つまりアイコンタクトというものを取っていたけれど、私にはどんな内容なのか理解ができなかった。
そんな二人のやり取りを横目で見ながら、かなり時間が経過していることに気付く。
そろそろ屋敷に戻りたい。掃除は一通り終わっているけれど、メイドの仕事に終わりはない。在庫用の雑巾を縫いたいし、銀食器も磨いておきたい。
一度仕事のことを考え出すと、そこから次から次へと思い付いたり思い出したりと、そわそわしてしまう。今すぐにここを離れたいけれど、二人は了承してくれるだろうか。
切り出す言葉を見つけられずにいる私だったが、その間にケイノフとダーナもアイコンタクトを終えたようで視線は再び私に戻ってしまった。……間違いなく、切り出すタイミングを逃してしまったようだ。
「カイルのことはわかりました。で、ときにスラリス、一度ちゃんと聞こうと思っていたことがあるんです」
「………な、なんでしょう」
改めて聞きたいことがあると言われると身構えてしまう。ただ、ここ最近、ケイノフには胸の内をさらけ出してきた。それなのにまだ他に聞きたいことがあるということに驚きを隠せない。
けれど、一体何を聞きたいのだろうか。予想しようにも何も思い浮かばない。そして分からないほど怖いものはない。
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