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季節外れのリュシオル
メイドの初仕事
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制服というのは不思議なものだ。魔法のアイテムと言っても過言ではない程に。
デザイン的に少々不満があるメイドの制服でも袖を通せば、しゃんと背筋が伸びるものだ。ついでに言うと街の酒場で、ウエイトレスのおねえちゃんに絡み過ぎてビンタされていた王城付きのお医者様は、白衣を着用したら一気に威厳あふれる存在と変化した。
そう、制服さえあれば気持ちを切り替えることができる、いつでも、どんな時でも。……そんなことを、私は現在進行形で改めて痛感することになった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「お!」
「おや?」
食堂の扉を開けた途端、二つの声が重なるように飛び込んできた。声の主は、ケイノフとダーナ。
「朝食をお持ちしました」
私は朝食の乗ったワゴンから手を離して、窓際で立ち話をしていた二人に深々と頭を下げた。
「えっと、これは……」
私が顔を上げると、困惑の表情を浮かべたケイノフがそう呟いた。そのあとすぐに腕を組み、ダーナをちらりと見る。もちろん、ダーナも同じように困惑を浮かべている。
「あのね、姫さまがこれ作ったの!リオンはちゃんと付いてきたの~」
子供の破壊力は凄まじい。リオンは、このもやもやとした空気をものともしないで、得意面々でケイノフとダーナに駆け寄りながら報告した。
「そっ……そうか、偉いなぁリオン」
とりあえずダーナは、褒めて伸ばすの精神でリオンの頭をくしゃくしゃと撫でた。ダーナの大きい手で撫でられたリオンは、満面の笑みでダーナの腕にしがみついた。
「お嬢ちゃんも、な」
纏わりついているリオンを抱え込みながら、ダーナは私に向かって片方の口端を持ち上げた。
「へぇ!?あっはい。あ……ありがとうございます」
お嬢ちゃんですと!?今まで呼ばれたことがない名称で呼ばれて、思わず素っ頓狂な声をだしてしまった私に、リオンは変なの~と無邪気に笑い声を立てた。もちろん絶賛メイド中の私は、これ以上の私語は慎みワゴンからテーブルへと朝食を用意する。
「お待たせいたしました。どうぞお召し上がりください」
再び一礼した私は、一旦テーブルの傍を離れ、彼らの視界に入らないよう部屋の隅に移動する。毎日そうしているような仕草を心掛けたけれど、実は心臓がバクバクしている。
あんな事をしでかしてしまった翌日だ。しかも嘘付きの私が並べた食事ときている。手を付けられず下げろと言われても文句は言えない。部屋が暑くないのに、うなじがすうすうするのは、きっと労働ではない汗をかいているからなのだろう。
そんな私の心中など知らないはずなのに、ケイノフは流れるように席についた。
「いただきます」
躊躇することなくケイノフは静かに匙を取り、スープを一口、口に運んだ。そしておいしいですと目を細めて私に向かって声を掛けてくれる。ダーナも何かを察したらしく、慌てて席に付き匙をとった。
「おう!美味そうだなー」
そういうが早いがダーナは、がつがつとスープを平らげると勢い良く私に皿を差し出した。
「お代わり!大盛りでな!」
皿を突き出され、目を丸くしてしまう。そこそこの身分の者が、お代わりを要求するなど聞いたことがない。けれど長年の修正で差し出されたものを付き返すこともできず歩を進め、そっと皿を受け取とる。そして受け取った瞬間に、ダーナが意としたことを理解した。
彼らは私のことを受け入れてくれたのだ。
そう気付いた途端、思わず笑みが零れてしまう。
「直ぐにお持ちしますね」
言うが早いが直ぐに食堂を飛び出し、ぱたぱたとお皿を持ったまま駆け出してしまった。
メイドとしての出だしは上場。そして【廊下を走らないっ】とユズリに怒られてしまったけれど、それもいつもの私のメイドとしての日常だったので、やっぱり上場だったのだ。
デザイン的に少々不満があるメイドの制服でも袖を通せば、しゃんと背筋が伸びるものだ。ついでに言うと街の酒場で、ウエイトレスのおねえちゃんに絡み過ぎてビンタされていた王城付きのお医者様は、白衣を着用したら一気に威厳あふれる存在と変化した。
そう、制服さえあれば気持ちを切り替えることができる、いつでも、どんな時でも。……そんなことを、私は現在進行形で改めて痛感することになった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「お!」
「おや?」
食堂の扉を開けた途端、二つの声が重なるように飛び込んできた。声の主は、ケイノフとダーナ。
「朝食をお持ちしました」
私は朝食の乗ったワゴンから手を離して、窓際で立ち話をしていた二人に深々と頭を下げた。
「えっと、これは……」
私が顔を上げると、困惑の表情を浮かべたケイノフがそう呟いた。そのあとすぐに腕を組み、ダーナをちらりと見る。もちろん、ダーナも同じように困惑を浮かべている。
「あのね、姫さまがこれ作ったの!リオンはちゃんと付いてきたの~」
子供の破壊力は凄まじい。リオンは、このもやもやとした空気をものともしないで、得意面々でケイノフとダーナに駆け寄りながら報告した。
「そっ……そうか、偉いなぁリオン」
とりあえずダーナは、褒めて伸ばすの精神でリオンの頭をくしゃくしゃと撫でた。ダーナの大きい手で撫でられたリオンは、満面の笑みでダーナの腕にしがみついた。
「お嬢ちゃんも、な」
纏わりついているリオンを抱え込みながら、ダーナは私に向かって片方の口端を持ち上げた。
「へぇ!?あっはい。あ……ありがとうございます」
お嬢ちゃんですと!?今まで呼ばれたことがない名称で呼ばれて、思わず素っ頓狂な声をだしてしまった私に、リオンは変なの~と無邪気に笑い声を立てた。もちろん絶賛メイド中の私は、これ以上の私語は慎みワゴンからテーブルへと朝食を用意する。
「お待たせいたしました。どうぞお召し上がりください」
再び一礼した私は、一旦テーブルの傍を離れ、彼らの視界に入らないよう部屋の隅に移動する。毎日そうしているような仕草を心掛けたけれど、実は心臓がバクバクしている。
あんな事をしでかしてしまった翌日だ。しかも嘘付きの私が並べた食事ときている。手を付けられず下げろと言われても文句は言えない。部屋が暑くないのに、うなじがすうすうするのは、きっと労働ではない汗をかいているからなのだろう。
そんな私の心中など知らないはずなのに、ケイノフは流れるように席についた。
「いただきます」
躊躇することなくケイノフは静かに匙を取り、スープを一口、口に運んだ。そしておいしいですと目を細めて私に向かって声を掛けてくれる。ダーナも何かを察したらしく、慌てて席に付き匙をとった。
「おう!美味そうだなー」
そういうが早いがダーナは、がつがつとスープを平らげると勢い良く私に皿を差し出した。
「お代わり!大盛りでな!」
皿を突き出され、目を丸くしてしまう。そこそこの身分の者が、お代わりを要求するなど聞いたことがない。けれど長年の修正で差し出されたものを付き返すこともできず歩を進め、そっと皿を受け取とる。そして受け取った瞬間に、ダーナが意としたことを理解した。
彼らは私のことを受け入れてくれたのだ。
そう気付いた途端、思わず笑みが零れてしまう。
「直ぐにお持ちしますね」
言うが早いが直ぐに食堂を飛び出し、ぱたぱたとお皿を持ったまま駆け出してしまった。
メイドとしての出だしは上場。そして【廊下を走らないっ】とユズリに怒られてしまったけれど、それもいつもの私のメイドとしての日常だったので、やっぱり上場だったのだ。
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