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女同士の仁義なき争い

36.月曜日は日曜日の続きです①

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 当たり前のことだけど、学生にとって月曜日は一週間の始まり。金曜日までがっつり授業が続く、ちょっぴり憂鬱な始まり日。

 でも、カレンダーで見ると日曜日の続きになる。

 だから月曜日の学校は、皆んな、お休みを引きずっている。あーまた一週間始まるのかぁという気怠さと、週末を挟んでの友達と過ごす楽しさでざわめいていて、何だか色んな空気がごちゃ混ぜになっている。

 そんな落ち着かない空気のまま一日が過ぎて行く。それがいつもの月曜日。でも、私といえば、今日の月曜日は、いつもと違う。違うというか.........ほとんど記憶が無いのだ。

 いや、正確に言うと授業を受けた記憶がない。あ、あとお弁当を食べた記憶も。

 なにせこの週末は、人生最大級と言えるほど色んなことがあったのだ。そのことを思い出して、きゃーとか、ひゃぁとか、教科書で顔を隠しながら百面相をしていたら、いつの間にか、帰りのチャイムが鳴っていた。あ、レイムさんがチャラ男だったことは……どうでも良いことだったから、今、思い出した。

 そんなことを考えながら、帰宅の為にせっせとほとんど使われる事のなかった教科書とか諸々を鞄に詰め込む。

 ついでにお弁当箱を振って見たら中身は空だった。朝、おばさんからお弁当を受け取った時には、しっかりと中身が詰まっていたのを覚えている。ってことは、間違いなく食べたんだね、私。

 お弁当のおかずすら満足に覚えていないなんて、末期症状だ。今日は隆兄ちゃんとお城に行くのに、大丈夫かなぁ。気を引き締めないと、何かやらかしてしまいそうだ。

 と、不安と気合いもしっかり鞄に詰め込んで、教室を出ようとしたその時。

「ちょっと水樹、待ちな」

 ヤンキー口調で私を呼び止めたのは、親友の里沙。そしてその後ろには、いつもお弁当を食べるメンバーがいる。

 でも何かおかしい。皆んな顔が真顔だ。いつも、しょうもないことと、エロいことと、馬鹿な話しかしない私達は基本的に顔は緩んでいる。こんな真面目な顔なんて、先生に怒られている時だってしないのに。私何かしちゃったんだろうか。

 思い当たることと言えば……。

「ごめんっ。私、今日一日ぼーっとしてて、みんなとお弁当食べなかった?」

 おずおずと問い掛ければ、瞬間、そこに居た全員が、ぽかんとしか顔をした。けれどすぐに、あぁーという残念な子供を見る目になった。

「あんた、しっかり食べてたよ」
「水樹のお弁当の唐揚げ掻っ攫おうとしたら、あんた全力で阻止したじゃん」
「しかも、自分のお弁当食べた後、足りないって言って、私のおにぎりまで食べたでしょ!?」

 ……そっか。しっかり食べてたんだ。記憶はないけれど、空腹感もないから、皆んなの言ってることは嘘じゃない。っていうか、恋すると食欲不振になるっていうけれど、なぜしっかりご飯は食べれるんだ私!?

「っていうか、この様子だと全然覚えてないんだね」
「え?」

 間抜けた声を出した途端、全員からぎゅっと抱きしめられてしまった。そして───。

「水樹、初チューおめでとう!」

 と、友人一同から賛辞を頂戴してしまった。

 友達からのハグは、理由があっても無くても嬉しいし、おめでとうと言われるのも、めったにないことだから、素直に嬉しい。でも、でもね。

「何で皆んな、知ってるの!?」

 という驚きは隠せなかった。すかさず里沙から一言。

「あんた、自分から言ったよ」

 本当に!?と驚愕したまま、そこにいる全員を見つめたら、息ピッタリに頷かれてしまった。途端に、首まで真っ赤になってしまう。羞恥で固まった私に、里沙はおもむろに問い掛けた。

「ところで、今日、水樹、あの幼馴染のお兄ちゃんと会うんでしょ?」
「うん」
「オッケー。じゃ、10分で終わらせるから、大人しく座ってな」

 へ?何でとこてんと首を倒した私に、里沙達は満面の笑みでこう言った。

「ささやかなお祝いをしてあげるっ」

 という声と同時に、ほぼ強制的に自分の机に着席させられてしまった。

 そして、里沙達の鞄から出てきたのは、化粧ポーチに、ヘアアイロン。それから大きな鏡に、ヘアワックス。女子力高めのアイテムがどんどん出てくる。教科書以外といえばお菓子とマンガしか入っていない私のカバンとは雲泥の違いだ。

 それからあれよあれよという間に髪の毛を巻かれ、お化粧をされていく。

 ちなみに皆んな、テキパキと手を動かすと同時に、口も忙しなく動いている。お化粧中で喋れない私の頭上では、隆兄ちゃんネタで盛り上がっている。

「っていうか、私てっきり水樹の好きな隆兄ちゃんって、乙女ゲームのキャラだと思ってたわ」
「ごめん。実は私も。ファンタジーの世界の二次元キャラだと思ってた」
「うんうん。本当の名前はリュー王子とか言っちゃって」
「あーありそう、ありそう。本当マジ水樹を現実世界に連れ戻すそうって、合コン計画してたんだよー」

 当たらずとも、遠からず。っていうか、隆兄ちゃんが二次元キャラという以外はほとんど当たっている。恐るべし。でも、合コンは契約違反になるから、行かないけど。

 校則なんて平気で無視するというか、そもそも覚えていない私だけれど、隆兄ちゃんとの約束は全力で守る。これは片思いしてるからというよりは、もっと根本的な気持ちから。

 そんなことを考えている間に、どんどん顔と頭が変わっていく。───そしてきっちり10分後には、いつもと違う私が鏡の中に居た。

「これ、私?」

 手渡された鏡を両手で持って、食い入るように見つめていたら、全員から呆れた笑いが降ってきた。

「何、ベタなリアクションしてるの。普通過ぎるわっ」
「うちらにかかれば、こんなもんよ」
「っていうか、水樹は素材は良いんだから、もっとおしゃれしなよ」

 と、口々に言いながら、おしゃれ道具をテキパキと片付ける。そして、大きな鏡を鞄に納めたところで、りさが一言。

「あのさぁ、見間違いかも知れないけど、ついさっき窓見たら、校門に隆兄ちゃんいたよ」
「うそ!?」

 目を見開いた私に、里沙が顎で窓の外を示す。

「あーでも、違うかも。自分で確認してみな。隆兄ちゃん、黒髪だったよね?校門にいる人の髪の毛、ブラウンアッシュだわ────って、水樹、せっかく髪の毛巻いたのに走るな!」

 確認する必要なんてない。イケメンとブラウンアッシュの髪色なら間違いなく隆兄ちゃんだ。ということで、鞄を持って教室を飛び出した私は、後半の里沙の言葉は廊下で返事をすることになった。





 猛ダッシュで校門の前に到着すれば、間違いなく隆兄ちゃんがそこにいた。

「水樹、遅い」

 腕を組んでじろりと私を睨む隆兄ちゃんは、里沙の言った通り髪色がブラウンアッシュだった。ついさっきまでお城にいたらしい。

「隆兄ちゃん何でここに!?」
「お前が帰ってくるのが遅いからだろ」

 不機嫌さを隠すことをせず、隆兄ちゃんはぶっきらぼうにそう言い放った。でも遅くなったとはいえ、たったの10分だけだ。ついでに言えば掃除当番の日はもっと遅いし、追試や補習の日はもっともっと遅い。

「そんなに遅くなってないと思うけど……」
「ふぅーん」

 そこで隆兄ちゃんは、ちょっとふて腐れた顔をしてこう言った。

「てっきり、俺に会いたくないんだと思った」
「んなわけないじゃん!」
 
 食い気味に否定した私に、隆兄ちゃんはふっと鼻で笑った。

「まぁいいや。ほら、あっちに車停めてあるから。いくぞ」

 そこそこに機嫌を直してくれた隆兄ちゃんは、当たり前のように私の手を掴んで歩き出した。しかも、いわゆる恋人繋ぎと呼ばれる指を絡ませる繋ぎかたで。


 さて今日は月曜日。そして日曜日の次の日。

 隆兄ちゃんは気付いていないと思うけれど、手を繋ぐのってキスをした日以来なんだよ。わかってる?何事もなかったかのようにそうする隆兄ちゃんが恨めしい。今すぐ気持ちを聞きたくなる。

 でも隆兄ちゃん、お願いだから、こっち向かないで。今、私、顔が真っ赤になってるから。どうした?なんて聞かれても答えられないよ。
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