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お隣さんの秘密
2.幼馴染は厨二病!?
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壁ドンとは、男性が女性を壁際まで追い詰め、壁を背にした女性の脇に手をつき行く手を塞ぎ、腕で覆うように顔を接近させる動作のことを言う。
そして迫られた後は、耳元で何かしら口説き文句を囁かれるのが通例らしい。
放課後、自宅までの帰り道というか、自宅はすぐそこというところで、私は隆兄ちゃんに呼び止められた。と思ったら、突然自宅の塀に追い詰められてしまった。次いで、どんと隆兄ちゃんは壁に手をついて私から逃げ場を取り上げた。
キャッこれって壁ドン!?やだー恥ずかしい……なんてこと思えない。女子の胸キュンシチュエーションだというのに私は一向にキュンキュンしない。どちらかというとバクバクとかヒヤヒヤという心境なのだ。甘いシチュエーションとは程遠い。
「お前、一昨日見ただろ」
そして私に向かって低く囁かれた言葉は、予想通り口説き文句ではなかった。
至近距離で迫る隆兄ちゃんは、目が血走っている。スウェット姿にボサボサの髪。でも、イケメンだからそんな姿でも許される。
あと何を見たとは具体的に言ってないけれど、何を指しているのかはわかる。一昨日のアレのことだ。気まずい。気まず過ぎる。だからわざわざ昨日も今日も遠回りして、西崎家の前を通らないようにしていたのにと心の中で悪態をつく。でも、そんなことを口に出せない私は、ついーと目を逸らして口を開く。
「…………み、……見てない…よ」
「嘘付け。カーテンが閉まる音してたじゃねえか」
そっと閉めたつもりだったから、絶対に気付かれていないと思っていた。けれど、やはりバレていたのか。
「……知らない。風だったんじゃないの?」
「しっかりお前のシルエット写ってたぞ」
「あー幽霊だったんじゃないの?」
「お前、自分の部屋に幽霊いて平気なのかよ」
「……嫌だ。それ困るっ。怖い!!」
自分の部屋に幽霊がいるところを想像したら、かなり怖かった。それが例え自分であっても嫌だ。っていうか、自分だったらアレだ。見たらもうすぐ死んじゃうヤツじゃないか。それ、もっと嫌だ。
私は状況を忘れて隆兄ちゃんの腕に巻きついた。
「隆兄ちゃん、追い払ってよ!」
「……幽霊なんていねえよ。ってか、お前が自分で言い出したんだろ」
隆兄ちゃんは呆れた顔で、私を見下ろしていた。───やっぱり壁ドンされても私たちは様にならない。所詮は幼馴染、すぐにその場にしゃがみ込んで視線を同じにする。あ、隆兄ちゃん髪の毛、黒色に戻っている。染め直したんだね。あと足元を見たら、おじさんのサンダル履いていた。よっぽど慌てて出てきたんだ。
そんな取るに足らないことをつらつらと考えていたら、隆兄ちゃんがひどく言いにくそうに口を開いた。
「昨日の俺の格好についてだが……」
ああ隆兄ちゃん、一応、自分から趣味について弁解をするつもりなのだろう。
でも、そんなこと言わなくても良いよ、隆兄ちゃん。私は生暖かい笑みを浮かべながら、隆兄ちゃんの望む言葉を口にする。
「大丈夫、よく似合っていたよ」
「そうか?」
隆兄ちゃんは、ちょっと嬉しそうに顔を上げた。
そっか、やっぱり今ので正解だったか。一度は隆兄ちゃんコスプレに引いてしまった私だったけど、これからは少しずつでも理解を示していこうと心に誓う。でも、釘を指すのも忘れない。
「うん、絶対ファンがつくと思うよ。でも、おじさんとおばさんは、隆兄ちゃんの趣味、知ってるのかな?やっぱり社会人になるまでには卒業したほうが良いよ」
瞬間、隆兄ちゃんはがっくりと項垂れた。いや私だって複雑な心境だよ。初恋のお兄ちゃんに、こんな諭すようなこと言うなんて。
「…………二人とも知ってる」
隆兄ちゃんはうなだれたまま、そう絞り出した。
そうかと頷くことしかできない。両親公認のコスプレイヤーなら私はもう何も言うことはない。これは西崎家の問題だ。
「……なぁ、水樹」
「なあに?」
「アレが、コスプレじゃなくって、本当の俺だと言ったらどうする?」
「………………………」
どうするもこうするも、新たに厨二病という要素が加わるだけである。
人に説明するときは、私の幼なじみは初恋だった人でコスプレイヤーで厨ニ病を患っている残念なイケメンな大学生です、という風になるのか……うん、長いね。初恋とイケメンのワードはできれば外したくないから、できればコスプレイヤーか厨ニ病は外してもらいたい。
「現実はつらいかもしれないけど、目をそらさないで、隆兄ちゃん。リアルだって良いこといっぱいあるよ。でもさぁ……隆兄ちゃんしょちゅう彼女変わってて、そこそこイイ大学行ってて、結構リア充してるじゃん?そんで、現実辛いって言ってたら生きていけないよ」
幼馴染として苦言を呈してみた。大切な隆兄ちゃんのことを思えば嫌われ役立って買って出よう。と正論を言ってカッコつけてみたたけど、単純にコスプレイヤーか厨ニ病のどちらかにしてほしいだけだ。両方はちょっとキツイ。
けれど、隆兄ちゃんは私の言葉を聞いた途端、半目になった。
「お前が俺のことをどう見ていたのか良くわかった」
正確に言うと、見る目が変わったのは一昨日からだよという細かい補足は今は必要ないだろう。とりあえず沈黙を貫こう。隆兄ちゃんはというと、片手で顔を覆って深いため息をついたと思ったら、いきなりがばりと身を起こした。
「……いつか話そうと思ってたし、良い機会だっ。全部知ってもらう」
「まだ隠してることがあるの!?」
目をむいて叫んだ私に、隆兄ちゃんはそうだと頷く。
怒濤のカミングアウトが続いて、戦いた私は3歩後ずさりした。もちろんそのままダッシュで逃げようとした私を、隆兄ちゃんが見逃すはずもない。
「ついて来い!」
ついて来いも何も隆兄ちゃんは私の腕をつかんで、無理矢理、西崎家へと引っ張り込もうとする。
「ちょちょちょちょ、ちょっと待って!心の準備ができていないっ」
「うるさいっ。こういうのは、ノリと勢いが大事なんだよ!」
「隆兄ちゃん、先週、ノリと勢いだけじゃ生きていけないっていってたじゃん!」
「黙れ、水樹っ。今、それを言うな!」
わぁわぁ叫ぶ私達を犬を連れた近所のおじさんが、今日も仲が良いねとほのぼのと笑う。私と隆兄ちゃん以外は今日も平和な町内だ。
そして迫られた後は、耳元で何かしら口説き文句を囁かれるのが通例らしい。
放課後、自宅までの帰り道というか、自宅はすぐそこというところで、私は隆兄ちゃんに呼び止められた。と思ったら、突然自宅の塀に追い詰められてしまった。次いで、どんと隆兄ちゃんは壁に手をついて私から逃げ場を取り上げた。
キャッこれって壁ドン!?やだー恥ずかしい……なんてこと思えない。女子の胸キュンシチュエーションだというのに私は一向にキュンキュンしない。どちらかというとバクバクとかヒヤヒヤという心境なのだ。甘いシチュエーションとは程遠い。
「お前、一昨日見ただろ」
そして私に向かって低く囁かれた言葉は、予想通り口説き文句ではなかった。
至近距離で迫る隆兄ちゃんは、目が血走っている。スウェット姿にボサボサの髪。でも、イケメンだからそんな姿でも許される。
あと何を見たとは具体的に言ってないけれど、何を指しているのかはわかる。一昨日のアレのことだ。気まずい。気まず過ぎる。だからわざわざ昨日も今日も遠回りして、西崎家の前を通らないようにしていたのにと心の中で悪態をつく。でも、そんなことを口に出せない私は、ついーと目を逸らして口を開く。
「…………み、……見てない…よ」
「嘘付け。カーテンが閉まる音してたじゃねえか」
そっと閉めたつもりだったから、絶対に気付かれていないと思っていた。けれど、やはりバレていたのか。
「……知らない。風だったんじゃないの?」
「しっかりお前のシルエット写ってたぞ」
「あー幽霊だったんじゃないの?」
「お前、自分の部屋に幽霊いて平気なのかよ」
「……嫌だ。それ困るっ。怖い!!」
自分の部屋に幽霊がいるところを想像したら、かなり怖かった。それが例え自分であっても嫌だ。っていうか、自分だったらアレだ。見たらもうすぐ死んじゃうヤツじゃないか。それ、もっと嫌だ。
私は状況を忘れて隆兄ちゃんの腕に巻きついた。
「隆兄ちゃん、追い払ってよ!」
「……幽霊なんていねえよ。ってか、お前が自分で言い出したんだろ」
隆兄ちゃんは呆れた顔で、私を見下ろしていた。───やっぱり壁ドンされても私たちは様にならない。所詮は幼馴染、すぐにその場にしゃがみ込んで視線を同じにする。あ、隆兄ちゃん髪の毛、黒色に戻っている。染め直したんだね。あと足元を見たら、おじさんのサンダル履いていた。よっぽど慌てて出てきたんだ。
そんな取るに足らないことをつらつらと考えていたら、隆兄ちゃんがひどく言いにくそうに口を開いた。
「昨日の俺の格好についてだが……」
ああ隆兄ちゃん、一応、自分から趣味について弁解をするつもりなのだろう。
でも、そんなこと言わなくても良いよ、隆兄ちゃん。私は生暖かい笑みを浮かべながら、隆兄ちゃんの望む言葉を口にする。
「大丈夫、よく似合っていたよ」
「そうか?」
隆兄ちゃんは、ちょっと嬉しそうに顔を上げた。
そっか、やっぱり今ので正解だったか。一度は隆兄ちゃんコスプレに引いてしまった私だったけど、これからは少しずつでも理解を示していこうと心に誓う。でも、釘を指すのも忘れない。
「うん、絶対ファンがつくと思うよ。でも、おじさんとおばさんは、隆兄ちゃんの趣味、知ってるのかな?やっぱり社会人になるまでには卒業したほうが良いよ」
瞬間、隆兄ちゃんはがっくりと項垂れた。いや私だって複雑な心境だよ。初恋のお兄ちゃんに、こんな諭すようなこと言うなんて。
「…………二人とも知ってる」
隆兄ちゃんはうなだれたまま、そう絞り出した。
そうかと頷くことしかできない。両親公認のコスプレイヤーなら私はもう何も言うことはない。これは西崎家の問題だ。
「……なぁ、水樹」
「なあに?」
「アレが、コスプレじゃなくって、本当の俺だと言ったらどうする?」
「………………………」
どうするもこうするも、新たに厨二病という要素が加わるだけである。
人に説明するときは、私の幼なじみは初恋だった人でコスプレイヤーで厨ニ病を患っている残念なイケメンな大学生です、という風になるのか……うん、長いね。初恋とイケメンのワードはできれば外したくないから、できればコスプレイヤーか厨ニ病は外してもらいたい。
「現実はつらいかもしれないけど、目をそらさないで、隆兄ちゃん。リアルだって良いこといっぱいあるよ。でもさぁ……隆兄ちゃんしょちゅう彼女変わってて、そこそこイイ大学行ってて、結構リア充してるじゃん?そんで、現実辛いって言ってたら生きていけないよ」
幼馴染として苦言を呈してみた。大切な隆兄ちゃんのことを思えば嫌われ役立って買って出よう。と正論を言ってカッコつけてみたたけど、単純にコスプレイヤーか厨ニ病のどちらかにしてほしいだけだ。両方はちょっとキツイ。
けれど、隆兄ちゃんは私の言葉を聞いた途端、半目になった。
「お前が俺のことをどう見ていたのか良くわかった」
正確に言うと、見る目が変わったのは一昨日からだよという細かい補足は今は必要ないだろう。とりあえず沈黙を貫こう。隆兄ちゃんはというと、片手で顔を覆って深いため息をついたと思ったら、いきなりがばりと身を起こした。
「……いつか話そうと思ってたし、良い機会だっ。全部知ってもらう」
「まだ隠してることがあるの!?」
目をむいて叫んだ私に、隆兄ちゃんはそうだと頷く。
怒濤のカミングアウトが続いて、戦いた私は3歩後ずさりした。もちろんそのままダッシュで逃げようとした私を、隆兄ちゃんが見逃すはずもない。
「ついて来い!」
ついて来いも何も隆兄ちゃんは私の腕をつかんで、無理矢理、西崎家へと引っ張り込もうとする。
「ちょちょちょちょ、ちょっと待って!心の準備ができていないっ」
「うるさいっ。こういうのは、ノリと勢いが大事なんだよ!」
「隆兄ちゃん、先週、ノリと勢いだけじゃ生きていけないっていってたじゃん!」
「黙れ、水樹っ。今、それを言うな!」
わぁわぁ叫ぶ私達を犬を連れた近所のおじさんが、今日も仲が良いねとほのぼのと笑う。私と隆兄ちゃん以外は今日も平和な町内だ。
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