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過去と未来の間の蜜月

花祭り②

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 露骨に嫌な顔をして威圧的な態度を取るレイディックと、あからさまに狼狽えるレイジーを交互に見つめながら、私はただただオロオロすることしかできない。

 だって、今ここで私が割って入るのは、あまり良い判断だとは思えない。でも、レイディックに、この人は私の従妹だと伝えた方が良いだろう。彼は知らないはずだから。

 そう思って空いている方の手で彼の袖を引こうと思った。けれど、それより先にレイディックは溜息を付きながら、すっと目を細めて再び口を開いてしまった。

「あのさぁ、僕が誰と一緒に居るのか見えないの?君。せっかくの夜なのに、邪魔しないでもらえるかな?」

 横にいる私がぞっとすれ程、底冷えのする声でそう言ったレイディックは、繋いでいた私の手を持ち上げると、そっとそこに口づけをした。まるで私達の関係を行動で示すかのように。

 ハンダにレイジーは蒼白になりながらも、悔し気に私を睨みつける。

 覚えておきなさい。ただじゃ済まないわよ。絶対に許さないから───そんな憎悪のこもった声が聞こえてくるようだ。

 けれどレイディックは、気付いているはずなのに、それを無視して私の手を軽く引いた。

「さあ、アスティア、行こう。待たせて悪かったね」

 その声は柔らかく、しっとりとした夜に似合うもの。ついさっきまでの声音とは、まったく別のものだった。

 そしてレイディックは再び会場に向かう人の流れに沿って、ゆっくりと歩き出す。まるで何事もなかったかのように。

 とはいえ私はやっぱり不安を覚えている。

 あれから私は、一度も外出をしていない。つまり叔母と、ジャンとの婚約をしないという意志をきちんと伝えていないのだ。

 もし仮に……いや、間違いなく、レイジーのあの様子では、叔母に告げ口をするだろう。そうすれば、面倒なことになってしまう。

 何があってもレイディックのことは信じている。でも、信じていることと、そのことで彼の手を煩わせて申し訳ないと思う気持ちは別もの。

 そんな気持ちから私は、背後から突き刺さるレイジーの視線が、消えたのと同時に口を開いた。

「ねえ、レイ。さっきのね………」
「誰かなんてわかっている。でも、そんなのアスティアが気にすることじゃないよ」

 レイディックがレイジーの存在を知っていたことに純粋に驚いてしまう。彼の前で私は従妹の名前まで出した記憶はないけれど………。

 ただ、その経緯はわからないけれど、レイジーと私がどういう関係なのかも知っていて、彼はあんな態度を取ったのだ。つまり、叔母にそれが伝わることも覚悟してのこと。

「…………レイ、あの」
「もうっ、アスティア。今日はお祭りなんだよ。そんな顔しないで。さっきみたいに笑ってよ」 

 なんと言葉にすれば良いかわからない。けれど、とにかく口を開いた私に、レイディックは少し不機嫌そうな顔をした。

 けれど、すぐにニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。

「今すぐ笑ってくれないと、ここで口付けするよ。見ている人がびっくりしするくらいの、すっごいヤツをね」
「…………っ!?」

 思わぬ提案というか脅しに、ぎょっと目を剥いて固まってしまった私に、レイディックは堪えきれず噴き出した。つられれ私も、噴き出してしまう。

「そうそう、アスティアは笑顔が一番似合うよ。さぁ、もうすぐ会場だよ」 

 レイディックは前方を見ながら弾んだ声を出す。私も視線を前に戻せば、前を歩く人の隙間から篝火に照らされた女神像が見えてきた。

 



 花祭りの会場となっている村の中央広場には、たくさんの人が溢れかえっていた。そして、広場の端には今日の為に即席で作られた屋台や、ベンチ。それから子供の為の遊具などがある。

 それらをレイディックと一緒に一つ一つゆっくりと見て回る。

「ねえ、アスティア、あれは何?」
「射的よ。弓を使って、欲しい景品を倒すのよ。そうしたら、その景品が貰えるの」
「へぇー。面白そうだね。じゃあ、あれは?」
「千本釣りよ。お金を払って、箱の中に出ている紐をどれか1本引くの。そうすると、引いた紐の先に景品が付いていて、それが貰えるのよ」
「ふぅーん。運次第ってことか。それも面白そうだね」

 篝火に照らされた広場は昼間のように明るい。そんな中、とりとめもない会話をすれば、自然と視線が絡み合う。けれど、それと同時に、周りの人達の視線も感じずにはいられない。

 それはレイディックも同じのようで、彼はさっきから会話をしながらも、チラチラと周囲に視線を向けている。

「………レイ、何か心配事でもあるの?」

 彼の顔を覗き込みながら、気付けば私はそんなふうに問いかけてしまっていた。

 でも、いつも心配いらないと口にする彼に向かって、その言葉は失礼なのかもしれない。と、いうことは口にしてから気付いてしまったこと。

 はっと慌てて口元に手を当てれば、レイディックは、気を悪くするどころか、とんでもないと言った感じで慌てて首を振った。

「ごめん、ごめん。初めて見るものばっかりだったから、ちょっと驚いてしまってね」

 恥ずかしそうに眉を下げるレイディックは本心のようだけれど、何となく何かを隠しているような気がする。………今、口にした言葉は嘘ではないと思うけれど。それ以外にも何かありそうだった。
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