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不完全な婚約

♪お仕置き②

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 レイディックは私の胸を痛い程揉みしだいた後、くしゃりと顔を歪めたまま、私の足を更に大きく広げた。

 そしてそこに視線を注ぎながら、ぞっとするようなことを口にした。

「ねえアスティア。痛いと言いながらも、ここはしっかりと咥え込んでるよ。そうだ、もう1本入れてみようかな?」

 そう言うが早いが、淫具が入れられているそこに、レイディックが自分の指を力任せにねじ込んだ。

 瞬間、身体の中心部が引き裂かれるような痛みが走った。

「いやぁぁっ、痛いっ」

 圧迫感を超えた痛みに、涙がぽろぽろと止まらない。

「レイ、お願いっ。やめて、壊れちゃうっ」 

 悲鳴混じりの懇願と共に、とうとうしゃっくりを上げながら本格的に泣き始めた私を見て、レイディックはやっと淫具を私の中から引き抜いた。

 そして、労わるように私の秘部の入り口にそっと触れる。

「………うん、さすがにこれは、きつかったね。それに今日はあんまり濡れていないね。これじゃあ、本当に痛かったか………ごめんね」

 眉を下げ、申しわけなさそうに言いながら、再びは私の中に指を入れる。
 
 けれど、中の状態を確認すると、すぐに指を引き抜いた。

「でもね、僕はもっと痛いよ。苦しいよ」

 仰向けになっている私に覆いかぶさるように両手を付き、顔を近づけたレイディックは、その言葉をぽつりと落とした。

 そして泣きそうな顔をして、私の頬に手を伸ばす。
 
「ねぇ、大切な人から手を伸ばされない虚しさを君は知ってる?どれだけ想っても、それが届かない辛さを知ってる?」

 涙で濡れた私の頬を何度も擦りながら、レイデリックは優しい問い掛ける。

 でもそれは私に答えを求めるものじゃなかった。その証拠に彼はすぐに続きの言葉を紡いだ。水色の瞳を揺らしながら。

「いっそ死んだ方がマシだとすら思うよ。好きなのに………愛しているのに、その相手すら憎んでしまうものなんだよ」

 まるで睦言のように囁くそれは、甘く掠れている。けれど彼の心の奥にある苦悩が痛い程に伝わってくる。

「でもね、やっぱり好きなんだ。どうしようもなく飢えが止まらない。どれだけ抱いても、もっともっと君に触れたくなるんだ」

 そう言った後、レイデリックはかすめるような口付けを私に落とす。

 瞼に頬に、こめかみに───そして、唇に。

 そして唇が触れ合った途端、レイデリックは私を掻き抱いて深い口付けをした。言葉にできない思いを伝えるかのように、それは激しく私の口内を蹂躙する。

 けれどふいにレイデリックは唇を離した。

「僕はおかしいよね?笑って良いよ。アスティア」

 自嘲気味に笑うレイデリックは、どこか切羽詰まっていて、そして何かに怯えているようだった。

「………………レイ」

 おずおずと名を呼べは、私を拘束する腕が少し緩んだ。そして、顔を背け私から離れようとする。

 それが無性に腹立だしかった。言葉にできないイライラが体中から溢れてくる。

 何でそう勝手に決めつけるのだろう。何で勝手に傷付いてしまうのだろう。

 ………ああ、そっか。レイディックも私と同じように不安だったのだ。でも、それなら私だけ一方的にお仕置きを受けるのは間違っている。

 そう思ったら───気付けば私は、彼の腕を掴んでいた。

「レイの………………馬鹿」
「え?」

 自分でもびっくりするほど低い声で、彼を罵倒すれば、間の抜けた声が返ってくる。

 今の私には、それすらも腹が立つ。

「レイの馬鹿っ」

 今度は自分でもびっくりするくらいの大声で、彼を罵倒していた。

 そしてレイディックが何か言う前に、私は空いている反対の手も伸ばして彼の腕を掴む。
 
「頼ってくれないって、レイは言うけど、じゃあ、どうして急に居なくなっちゃったの!?どうして、手紙一つ書いてくれなかったの!?」

 感情が爆発した途端、堰を切ったかのように、これまでの想いが溢れ出してきた。そしてそれはもう止まらなかった。 

「私、ずっと待っていたわっ。あなたのお屋敷を訪ねたこともあったわ。でも、冷たく追い返されてしまったわ」
「アスティア…………それは…………」
「言い訳なんか聞きたくないっ」

 悲鳴のような声を上げて、私はレイディックの言葉を遮った。

 そして肘を付いて半身を起こすと、乱れた髪を手櫛で整えながら、こう言った。

「………あなたはね、忘れていると思うけど、あなたはね、昔、私にプロポーズをしてくれたのよ」

 瞬間、レイディックは信じられないといった感じで目を大きく見開いた。

 そっか。こんなに驚くということは、まったく覚えてなかったということか。

 覚悟をしてたし、何度も自分に言い聞かせてきた。でもやはり、現実を突きつけられると、とても胸が痛い。

 だから私は辛くて悲しくて、再び溢れ出した涙をレイディックに見られたくなくて、顔を背けながら言葉を続けた。

「レイ、そんな昔の事なんか覚えてないって笑っていいわよ。…………そうよ、笑えばいいじゃないっ。でもね、私にとって、その約束が全てだったわ。だから、私はどこにも行けなかった。この村を出て行ってしまったら、もう二度と会えないような気がして…………」

 言葉に詰まったのは、レイディックに強く抱きしめられ、息が詰まってしまったから。

 それでも、無理矢理、肺に息を送り込んで、私は続きの言葉を吐いた。

「レイだって、大事な約束を忘れたくせにっ。なのに、私にこんなことをするレイなんて嫌いよ。大っ嫌いっ」
「………………アスティア」
「嫌っ。嫌いっ。レイなんて大っ嫌い」

 嫌いなんて本当は嘘。こんな酷いことをされても、根っこにある彼への想いは変わらない。大好きだ。

 でも、子供みたいに泣きじゃくる自分が恥ずかしくて、勢いでこんなことを言ってしまって引っ込みがつかなくて、私はじたばたと彼の腕のなかで暴れる。

 けれど、レイディックの腕はびくともしなかった。
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