悪役令嬢を演じたら、殿下の溺愛が止まらなくなった

平山かすみ

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7.ロイド殿下の違和感(4)

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その後も私は結局何も身に入らず、下校時間になってしまった。

外に行くと、いつものように笑った殿下がいるのだろうか。

いないかもしれない。
そう思うと外に行くことが怖い。

「カリエ様、どうされたのですか?」

鞄をぎゅっと掴んだまま離れられずにいると
マリアが話しかけて来た。

「あ…えっと…」

不意打ちすぎて私は顔を作れず、そのままマリアに目を向けた。

それで察したのかマリアは私の手を掴むと
きょろきょろしたまま向かいの空き部屋に入った。

「どうしたの!?
誰かに何かをされたの!?」

ばんっと勢いよく戸を閉めたと同時にマリアが私の肩を掴み、揺さぶる。

「ま、マリア…目が回るわ…」

「あ、ごめんなさい…。

…昼食の時も教室にいたよね?

殿下と昼食だって嬉しそうにされていたのに
早く戻ってきてるなって思ったのよ」

ぐっ…

心配してくれるマリアには本当に申し訳ない気持ちになる。

しかし何も話すことができない。

私は言えずに口をつぐむと下に視線を向けた。

「カリエらしくないわよ。
いつも外では毅然とふるまっているのに、
あんな表情を見せるなんて…」

「ごめんなさい…ごめん…マリア…。
今は言えないの…」

「…」

きっと私にこう言われてなんでと思っているに違いない。

もしかしたら怒っているかも。

そう思えば思うほど、マリアに目を向けることができなかった。

ふと流れる沈黙が怖い。

冷たくて、ひんやりした空気が私を包み、それだけで心臓が押しつぶされそうになる。

「はあ…カリエとロイド殿下のことだもの。

公にできないこともあるとは思っているわ。大丈夫。

だけど、前も言ったけど、カリエが苦しい思いをして一人で抱えるのは嫌なの」

そう言うとそっとマリアは歩みを進め、私の前に立ったかと思うと、
私の頬に手を添えてゆっくりと持ち上げた。

私も流されるように顔を上げ、視線がマリアとぶつかる。

「私はあなたの味方よ。何があっても。

理由を話せないならそれでいい。だけど、一人で苦しまないで。

泣かないで」

そう言ってマリアは優しく私を包んでくれた。

その瞬間自然と目から熱いものが込み上げ、頬を伝い始めた。

「マリア…ごめっ…」

「もういいよ。しゃべらないで」

マリアの体温は温かくて、
私の不安な思いを全て包んでくれているような、そんな感じがした。




ーーーーーーーーーー………

それからどれくらい泣いたのかは分からない。

けれどずっとマリアは私を抱きしめてくれていて、
自然と私も大丈夫という気持ちになれた。

顔を上げたと同時にマリアは離れると、
いつものように天真爛漫な笑顔を向け、
私たちは空き部屋を後にした。



マリアとは学園を出た後、婚約者のソーラ様と合流し、私たちは別々になることとなった。

「じゃあカリエ、また明日ね」

「ええ、ありがとう」

そう言ってマリアは私に背を向けて歩いて行ってしまった。

私はそれを少しの間見送った後、ゆっくりと正面に目を向ける。

学園を出て少し歩くと学園の正門に当たる。

殿下はいつもそこで場所を停めて待っていてくれているのだが、今日はその姿があるか分からない。

私は変な緊張を感じつつ、ゆっくりと歩みを進めた。

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