悪役令嬢を演じたら、殿下の溺愛が止まらなくなった

平山かすみ

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1.ロイド殿下は婚約破棄を望んでいる!?(1)

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「聞きまして?ジニー様」

「なあに?サファーリ様」

いつものように学園内の廊下を歩き、次の教室へ移動している時、ふと噂好き令嬢たちの声が聞こえた。

また言っていらっしゃるわ…

噂好きというのはいいのだけれど、こうやって公の場で大きな声で話始めるのもどうかと思う。
私は気にならないふりをしてその場を去ろうとしたのだが、ふと、気になるワードが入って来た。

「シェアニヤ殿下とイファルジャー公爵令嬢のことよ」

「まあ!サファーリ様、私も耳にしましたのよ」

何!?私と殿下のこと!?

シェアニヤ殿下とは、私の二つ下の可愛い愛しの婚約者、ロイド・シェアニヤ殿下のことだ。
そして、もう一人のイファルジャー公爵令嬢とは私のこと。

私は、気にしないように角を曲がると、聞こえる範囲で足を止め、壁に寄り添って耳を大きくした。

「もうすぐ婚約破棄されるとか」

「ええ、シェアニヤ殿下はサマンモナス子爵令嬢にご執心とか」

サマンモナス子爵令嬢!?

サマンモナス嬢は、殿下と一緒にご入学された、可愛い系のご令嬢のことだ。

私のくりくり赤毛の髪の毛とは異なり、金髪の綺麗なサラッサラの髪の毛をなびかせ、大きな瞳はグリーンサファイアを思わすほど綺麗で輝いていた。
私も始めて彼女を見た時は、心臓を打たれたような衝撃を感じたものだ。

確かに殿下はサマンモナス嬢とかなり仲がいいとお見受けしている。
もちろん憶測で言っているわけではなくて、この前も一緒に笑い合いながら昼食を取っている姿を見た。
他にも、殿下に呼ばれて魔法図書室へ伺った時は、眠っているサマンモナス嬢の横で、可愛い物を見るかのように愛おしそうな瞳を向けていた。

「…婚約破棄か…」

別にたかが噂だろうと言われればそうなのだけれど、婚約破棄を言い渡されないという自信もなければ、保障もない。
きっと、この噂は真実に近いだろう。
それは、近くで殿下を見ていた私だって分かっていたことだ。
でも、ここでそんな噂に振り回されるわけにもいかない。

私は、壁に貼り付けていた体を剥がすと、ピンっと背筋を伸ばし直し、教室へ向かった。

「カリエー!!!カリエ!カリエ!カリエー!!」

もうすぐ教室へ着くという時、ふと私を呼ぶ声に足を止める。
声のする方を向くと、そこには私の幼馴染で親友のマリア・フローレンス伯爵令嬢が大股を開いて駆けてきた。

「マリア、女性がそんなはしたなく廊下を走るものではありませんわよ」

マリアは私に辿り着くと、大きく息をして辛そうにしゃがみこんだ。
そんなマリアの首筋には微かに汗が伝っている。
よほどの距離を走ったのだろう。
私は制服のポケットからハンカチを取り出すと、マリアの首筋に当て、少し面白くて口元が緩んでしまう。
彼女を見ると、今まで張り詰めていた糸がふわっと緩むように癒される。

「そ、そんなことより!どういうこと!?」

私がマリアの横から落ちそうになる汗を拭うと、マリアは鬼のような形相になり私の手を払いのけた。
本来であれば、令嬢としてあるまじき行為だけれど、マリアと私の関係だからこそ許される。

「どういうことって?」

「どういうことって?(ニコ)じゃないわよ!い、今そこの庭園でシェアニヤ殿下と、あの、あのサマンモナス子爵令嬢が「うふふ」「あはは」って笑い合ってたわよ!あの噂、本当じゃないよね!?」

マリアは本当に愉快だ。

見た光景を言葉だけではなく、身振り手振りを使い、まるで演劇をするかのように動いてくれるので、面白みがある。

「あらあら、そんな令嬢らしからぬ動きをして、ソーラ様が驚くわよ」

「ソーラなんて今はいいわよ!どういうことよ!殿下、なんであんな子と仲良くしているの!?ま、まさかカリエが今までしてきたことを無下にして、あの女に乗り換える気なのかしら!?そんなこと許さない!あいつ!!」

殿下を「あいつ」呼ばわりなんてしていることがバレたら、不敬罪で捕まりかねない。
私は興奮するマリアを掴むと、近くの空き教室に入った。
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