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それからすぐに長期休みも終え、いつもの毎日が戻ってきた。
みぃたちが帰ってから2回ゲームをする機会があり、地元へ帰って来たみぃたちから色んな旅行の話も聞いて楽しかったのだが、休み明けですぐに現実に戻される。
朝、仕事に行くために起きた私は、どっとめんどくさい気持ちでいっぱいになった。
長期休みというのは嬉しいのだが、明けた時に感じるこういうだるさが結構辛いものだ。
私は重い体を動かしながら準備をしていると、ふと宮島君のことを思い出した。
みぃたちと会ったあの日以来、宮島君とは会っていない。
ゲームは一緒にしたが、特に変わった話もしていないし、いつもと変わらなかったが故に、仕事先で会うのが何だか気まずい気もする。
きっと宮島君は何も思っていないだろうし、私も宮島君がコウ君だったからと、何か大きく変わるわけではないのだが、正直仕事がしづらい部分はあった。
朝会ったら、挨拶するべきかな…
いや、でも今まで職場で声をかけたこともなかったしな…
なんて仕事に向かう道中考えるも、どう行動するべきか全く答えが出ない。
こうなるなら正体知りたくなかったなとさえ思うが、今となってはどうしようもないし、もうこうなれば考えても仕方がない。
私は、今まで通り過ごすことにした。
そして会社に着くと、いつも見ていた光景が広がる。
「佐山さん、これ分かんないんですけど…」
仕事が始まると、悠生さんが唇を尖らせてひとつの資料を持ってきた。
どれどれ、と確認するも、初心者かと言いたくなるような内容だ。
「あのさ、悠生さん」
「はい…」
呆れて、何度も教えたことを言おうと思い、悠生さんに目を向けると、うるうるした瞳と、キラキラした唇が目に入る。
あー、ダメだ。
これ言ったら、また他の男共から言われる。
瞬時にそう感じた私は口を閉じ、どうしたものか考え、結論何も言わないということにした。
「私やるからもういいよ」
「えぇ、いいんですか?なんかすみません…私、佐山さんの負担にしかならないですよね」
面倒事を回避するために取った選択なのに、悠生さんはまた顔を手で覆いはじめる。
なんだよ!
なんでそうなるんだよ!
心の中でツッコミながらも、私は大きく溜息をつく。
「おい、またいじめてんのかよ。新入社員イビリもいい加減にしろよな。」
「悠生さん、気にしなくていいんだよ?ほら、悠生さんが若くて可愛いから僻んでんだよ」
ほら見た事か。
どこで見てたのか知らないが、またしても悠生見守り隊が出てきた。
しかも、何を言っても私が傷つかないと思っているのか、余計なことまで言いやがる。
「おはようございます」
もういい加減にしてくれと思い、イライラがピークを迎えた時、宮島君が部署に入ってきた。
その声を聞いてすぐに他の男共を押し退け、悠生さんが宮島君に駆け寄って行く。
こんな豹変ぶりを目の当たりにしても、悠生見守り隊は変わらず悠生さんのことを想っているので頭が沸いてるんだなと感じる。
「宮島くーん、おはよぉ。長いお休みで会えなかったから、佳奈、寂しかったぁ」
「…はぁ。あ、リノさん、おはようございます」
ベタっとくっつく悠生さんに、宮島君はいつものごとくかわすと、すぐに私に声をかけてきた。
「え、あ…おはようございます…」
「え!?宮島君、佐山さんのこと下の名前で呼んでるの!?」
咄嗟のことで戸惑ってしまった私は気づかなかったのだが、悠生さんの言葉でハッとした。
確かに私の下の名前は莉乃で、ゲーム内でも同じ名前を使っているため、宮島君がゲーム内の名前で呼べば、私のことを名前で呼んでいると勘違いする人はいるだろう。
しかし職場でリノはダメだ。
いくら間違えて呼んだとしても、訂正しなければ。
「いや、違くて」
「そうですけど、ダメですか?」
また面倒になると思った私は訂正しようとしたが、宮島君は表情を変えることなく悠生さんに言った。
それに私は固まり、言葉が出ない。
「えぇ!じゃぁ佐山さんも宮島君のこと下の名前で呼んでるの?」
んな訳ないじゃん。
「はい。リノさんは僕のこと煌大って呼んでくれます」
んな訳ないじゃん!!!
何をとち狂ったのか、ありもしないことを真顔で言う宮島君に心の中で勢いよくつっこむ。
「いつから2人はそんな関係に…」
「休みの間に。ね、リノさん」
何を勘違いしているのか、顔を真っ青にした悠生さんに宮島君も容赦なくトドメを刺していく。
「そんな…佐山さん!酷いですよ!興味なさそうなフリして大学生捕まえるとか!」
「あのさ…そんな関係じゃないから…」
頼むからこれ以上面倒なことにしないで…。
そう思いながら大きく溜息をつき、宮島君を睨むと、ふと宮島君の口角が上がった気がした。
悠生さんは私の声が聞こえていないのか、何やらブツブツ言いながら私たちの前から去り、自分のデスクにストンと座り込む。
そして、周囲に集まる男性陣に目もくれず、魂が抜けたかのように天を仰ぎ出した。
「ちょっと…やめてくれる?変な誤解生むような発言」
何事も無かったかのようにまた荷物を確認し出す宮島君にこそっと私が言うと、宮島君は私を見た後、悠生さんに目を向けた。
「ダメでしたか?」
「ダメでしょ。どうすんのよ…これで変な噂がたったら…」
「別に僕は気にしませんけど」
あんたが気にしなくても私が気になるんだよ。
何食わぬ顔で作業を続ける宮島君に、私は頭を抱えた。
「あ、そうだ。今日仕事が終わったら駐輪場で待っててください」
作業を淡々とこなす宮島君を見て、もう話にならんと思った私は、仕事に戻ろうと体勢を戻した時、宮島君が思い出したかのように言ってきた。
みぃたちが帰ってから2回ゲームをする機会があり、地元へ帰って来たみぃたちから色んな旅行の話も聞いて楽しかったのだが、休み明けですぐに現実に戻される。
朝、仕事に行くために起きた私は、どっとめんどくさい気持ちでいっぱいになった。
長期休みというのは嬉しいのだが、明けた時に感じるこういうだるさが結構辛いものだ。
私は重い体を動かしながら準備をしていると、ふと宮島君のことを思い出した。
みぃたちと会ったあの日以来、宮島君とは会っていない。
ゲームは一緒にしたが、特に変わった話もしていないし、いつもと変わらなかったが故に、仕事先で会うのが何だか気まずい気もする。
きっと宮島君は何も思っていないだろうし、私も宮島君がコウ君だったからと、何か大きく変わるわけではないのだが、正直仕事がしづらい部分はあった。
朝会ったら、挨拶するべきかな…
いや、でも今まで職場で声をかけたこともなかったしな…
なんて仕事に向かう道中考えるも、どう行動するべきか全く答えが出ない。
こうなるなら正体知りたくなかったなとさえ思うが、今となってはどうしようもないし、もうこうなれば考えても仕方がない。
私は、今まで通り過ごすことにした。
そして会社に着くと、いつも見ていた光景が広がる。
「佐山さん、これ分かんないんですけど…」
仕事が始まると、悠生さんが唇を尖らせてひとつの資料を持ってきた。
どれどれ、と確認するも、初心者かと言いたくなるような内容だ。
「あのさ、悠生さん」
「はい…」
呆れて、何度も教えたことを言おうと思い、悠生さんに目を向けると、うるうるした瞳と、キラキラした唇が目に入る。
あー、ダメだ。
これ言ったら、また他の男共から言われる。
瞬時にそう感じた私は口を閉じ、どうしたものか考え、結論何も言わないということにした。
「私やるからもういいよ」
「えぇ、いいんですか?なんかすみません…私、佐山さんの負担にしかならないですよね」
面倒事を回避するために取った選択なのに、悠生さんはまた顔を手で覆いはじめる。
なんだよ!
なんでそうなるんだよ!
心の中でツッコミながらも、私は大きく溜息をつく。
「おい、またいじめてんのかよ。新入社員イビリもいい加減にしろよな。」
「悠生さん、気にしなくていいんだよ?ほら、悠生さんが若くて可愛いから僻んでんだよ」
ほら見た事か。
どこで見てたのか知らないが、またしても悠生見守り隊が出てきた。
しかも、何を言っても私が傷つかないと思っているのか、余計なことまで言いやがる。
「おはようございます」
もういい加減にしてくれと思い、イライラがピークを迎えた時、宮島君が部署に入ってきた。
その声を聞いてすぐに他の男共を押し退け、悠生さんが宮島君に駆け寄って行く。
こんな豹変ぶりを目の当たりにしても、悠生見守り隊は変わらず悠生さんのことを想っているので頭が沸いてるんだなと感じる。
「宮島くーん、おはよぉ。長いお休みで会えなかったから、佳奈、寂しかったぁ」
「…はぁ。あ、リノさん、おはようございます」
ベタっとくっつく悠生さんに、宮島君はいつものごとくかわすと、すぐに私に声をかけてきた。
「え、あ…おはようございます…」
「え!?宮島君、佐山さんのこと下の名前で呼んでるの!?」
咄嗟のことで戸惑ってしまった私は気づかなかったのだが、悠生さんの言葉でハッとした。
確かに私の下の名前は莉乃で、ゲーム内でも同じ名前を使っているため、宮島君がゲーム内の名前で呼べば、私のことを名前で呼んでいると勘違いする人はいるだろう。
しかし職場でリノはダメだ。
いくら間違えて呼んだとしても、訂正しなければ。
「いや、違くて」
「そうですけど、ダメですか?」
また面倒になると思った私は訂正しようとしたが、宮島君は表情を変えることなく悠生さんに言った。
それに私は固まり、言葉が出ない。
「えぇ!じゃぁ佐山さんも宮島君のこと下の名前で呼んでるの?」
んな訳ないじゃん。
「はい。リノさんは僕のこと煌大って呼んでくれます」
んな訳ないじゃん!!!
何をとち狂ったのか、ありもしないことを真顔で言う宮島君に心の中で勢いよくつっこむ。
「いつから2人はそんな関係に…」
「休みの間に。ね、リノさん」
何を勘違いしているのか、顔を真っ青にした悠生さんに宮島君も容赦なくトドメを刺していく。
「そんな…佐山さん!酷いですよ!興味なさそうなフリして大学生捕まえるとか!」
「あのさ…そんな関係じゃないから…」
頼むからこれ以上面倒なことにしないで…。
そう思いながら大きく溜息をつき、宮島君を睨むと、ふと宮島君の口角が上がった気がした。
悠生さんは私の声が聞こえていないのか、何やらブツブツ言いながら私たちの前から去り、自分のデスクにストンと座り込む。
そして、周囲に集まる男性陣に目もくれず、魂が抜けたかのように天を仰ぎ出した。
「ちょっと…やめてくれる?変な誤解生むような発言」
何事も無かったかのようにまた荷物を確認し出す宮島君にこそっと私が言うと、宮島君は私を見た後、悠生さんに目を向けた。
「ダメでしたか?」
「ダメでしょ。どうすんのよ…これで変な噂がたったら…」
「別に僕は気にしませんけど」
あんたが気にしなくても私が気になるんだよ。
何食わぬ顔で作業を続ける宮島君に、私は頭を抱えた。
「あ、そうだ。今日仕事が終わったら駐輪場で待っててください」
作業を淡々とこなす宮島君を見て、もう話にならんと思った私は、仕事に戻ろうと体勢を戻した時、宮島君が思い出したかのように言ってきた。
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