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なぎさくん、どこにいるの?
瀬々
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渚くんが行ったと言っていた蜜溜山から流れている蜜流川と言う川は下流に行くほど大きくなって海へと繋がっているらしいけど、山が見えるほど近いこの場所は深くても膝が隠れる程度の深さで幅は私の大股20歩で届く距離。
そんな浅い川で高校生だった光ねぇが流されるだなんてあるんだろうかとぼんやり考えながら涼んでいると、向こうの方で魚を掴もうとしていた田中くんが大きな水しぶきを上げ、足を滑らして転んだ。
中学2年生でもまあまあ身長がある田中くんの体が一瞬なくなるほどの水位はあるから、流されてしまうこともあるんだろう。
そうひとりで納得して水浸しになった田中くんに駆け寄り、タオルを渡しに行くと田中くんは顔を腕で豪快にぬぐいながらタオルを受け取った。
満路「着替え持ってくんの忘れた。」
苺「川遊び提案したくせに?」
久しぶりに見た満路くんの笑顔はみんながカッコいいと言うだけあって、水も滴る美男子って感じ。
けど、やっぱり渚くんの笑顔には数億倍敵わないやと思っていると田中くんはさらに口角を上げて私の背後に手を振った。
私はその視線の先を見てみると、遊ぶ約束をしていない渚くんがズボンの裾を捲り上げながらこっちに手を振っていた。
苺「仲直りしたの…?」
満路「別に喧嘩なんかしてないし、遊べんの今日くらいしかないから。」
ふーん…。
なんか2人してパチパチ火花散らしてたから喧嘩してるんだと思ってた。
満路「ここら辺はあっちの奴ら来たがらないし、周りに家ないからあんま人いなくて好き。」
苺「よく来るの?」
満路「むかーしのむかーし、ね。」
そう言って田中くんは私にタオルを返す手を伸ばしてきた。
私は自分で片付けてと思ったけど、そのまま受け取るために手を出すとその手を引かれ私も川の中に引き込まれた。
苺「…さいあくぅ。」
満路「着替え持ってきてるんだろ?」
苺「短パンだけだよ…。シャツ持ってきてない。」
満路「昔はパンイチで遊んでたし、いいんじゃん?」
苺「それは小さい時でしょー…。」
今は着てる水着違うんだからそれくらい考えてよ。
いつまで経っても子ども気分な田中くんに呆れてると横から真っ白な雪のような手が伸びてきた。
渚「ここは泳ぐような場所じゃないでしょ。」
と、渚くんも呆れた顔をしているとその手を田中くんが掴み、道連れにした。
満路「光ねぇも来なよー!」
ジリジリと照らす太陽を避けるために小さなテントを張っていた光ねぇに田中くんが声をかけると、光ねぇは半端なテントを置いてパシャパシャと走り寄ってきてダイナミックに私たちのそばに飛び込んできた。
苺「もー、光ねぇもマヒロくんも制服なのに。」
私は顔にかかった水を脱ぐいながら1番大人な光ねぇにも呆れる。
けど、一瞬で我に返り自分が吐いた言葉を思い出す。
…マヒロくん?
しかもみんな私服で遊びに来てるのちゃんと見たのになんでそんなこと言ったの?
顔を拭っていた手をそっと離すと3人して呆気に取られた顔をして私を見ていた。
苺「…なんか、まちがえた。」
なんとなく思ったことを口に出しただけだったけど、なんでそれを思ったのか分からなすぎて3人よりも困惑してしまう。
すると、1番驚いていた光ねぇが私の髪をかきあげるように撫でた。
光「ここ、ずっとおハゲだね。」
と、私の後頭部を人差し指でトントンと叩いた光ねぇは私の手を取ってそこを触らせてた。
いつもお風呂に入る時にはなかったはずなのに。
なんで…?
光「川遊びしてた時に苺が頭打って流されたの思い出した?」
苺「…え?」
光「流されたのは私じゃなくて苺だよ。」
あれ…。
なんか…、水の音がさっきより大きく聞こえる。
けど、周りから聞こえるんじゃなくて見えない記憶の音がだんだんと大きくなってく感じ。
脳みその中心から音が溢れてくる感じ。
何か思い出せそうなのにどうしてもその景色が真っ黒な感じ。
ずっと感じてた私の違和感はその暗闇の向こうにあるはずなのにどうしても“なにか”が邪魔をして思い出せない。
自分の真っ暗な記憶を彷徨う中、突然肩を押されて冷えた川と火照った体が纏わりつくように私の体を包んであと少しで思い出せそうな記憶を目の前で見せてくれる。
歪む入道雲。
上へ登る泡。
暗くなってくる青空。
息苦しい冷たい場所。
私の足を掴む何か。
あの何も出来なかった日に私はこの川に引きずりこまれて、高校生になる時にここから逃げた光ねぇと真尋くんに助けてもらったんだった。
私はこの川であった出来事を全て思い出し、一緒に水中へ潜った満路くんと外へ出る。
苺「おもいだした…。」
光ねぇがこの町が嫌いな理由。
光ねぇが高校生の頃から一人暮らししてる理由。
光ねぇと仲が良かった津田 真尋くんが今いない理由。
それなら次は満路くんがいなくなる。
光「私のこの傷はなんで出来た?」
と、光ねぇはジャバジャバと水を落としながら立ち上がり、太ももに出来た深い傷を見せてきた。
苺「喪雨月山行った時にこけちゃったやつ。」
光「そう。一緒に行った人は覚えてる?」
苺「真尋くん。だけど、何しに行ったかはまだ…」
私がそう答えていると、みんなの後ろから大きく手を振っている男性がこちらに向かって光ねぇの名前を呼んだ。
その声にみんなは一斉に振り向き、みんなして目尻をあげ口角を下げた。
「おーい、光ちゃん。明日の準備があるんだからこんなとこ来ちゃいけないよ。」
と、明日お母さんと結婚式をする乙武 財さんがわざわざあっちから車で1時間かかるこの場所に何故か来ていて私は一気に鳥肌が立つ。
光「…行かないと。」
苺「なんで?光ねぇにはもう関係ないじゃん。」
そう私が言うと光ねぇは少し不思議そうな顔をして首を傾げた。
苺「私、明日の結婚式行きたくない。」
光「来なくていいよ。」
と、光ねぇは私の濡れた髪を優しく絞るように撫でると、自分のシャツの裾を絞って体を財さんの方へ向けた。
光「今行きます。」
苺「行かないで。」
私は1人でまたどこかに行ってしまいそうな光ねぇに手を伸ばすけれど、また届かなくて光ねぇはどんどん離れてしまう。
苺「…もう、盗らないで。」
誰かに締め上げられるように苦しい喉から声を出したけど、財さんにはどうしても届かなくて川から上がろうとする光ねぇに手を伸ばし始めた。
それが昔、玄関先でお母さんの体を支えるために伸ばした手と同じで気持ちが悪い。
けど、見えない首輪がきつすぎてどうにも出せない。
誰か、あいつを消して。
そう心の中で唱えるとあの沼のような冷気が私の隣にいた渚くんから川を通して流れてきた。
待永 晄愛/なぎさくん。
そんな浅い川で高校生だった光ねぇが流されるだなんてあるんだろうかとぼんやり考えながら涼んでいると、向こうの方で魚を掴もうとしていた田中くんが大きな水しぶきを上げ、足を滑らして転んだ。
中学2年生でもまあまあ身長がある田中くんの体が一瞬なくなるほどの水位はあるから、流されてしまうこともあるんだろう。
そうひとりで納得して水浸しになった田中くんに駆け寄り、タオルを渡しに行くと田中くんは顔を腕で豪快にぬぐいながらタオルを受け取った。
満路「着替え持ってくんの忘れた。」
苺「川遊び提案したくせに?」
久しぶりに見た満路くんの笑顔はみんながカッコいいと言うだけあって、水も滴る美男子って感じ。
けど、やっぱり渚くんの笑顔には数億倍敵わないやと思っていると田中くんはさらに口角を上げて私の背後に手を振った。
私はその視線の先を見てみると、遊ぶ約束をしていない渚くんがズボンの裾を捲り上げながらこっちに手を振っていた。
苺「仲直りしたの…?」
満路「別に喧嘩なんかしてないし、遊べんの今日くらいしかないから。」
ふーん…。
なんか2人してパチパチ火花散らしてたから喧嘩してるんだと思ってた。
満路「ここら辺はあっちの奴ら来たがらないし、周りに家ないからあんま人いなくて好き。」
苺「よく来るの?」
満路「むかーしのむかーし、ね。」
そう言って田中くんは私にタオルを返す手を伸ばしてきた。
私は自分で片付けてと思ったけど、そのまま受け取るために手を出すとその手を引かれ私も川の中に引き込まれた。
苺「…さいあくぅ。」
満路「着替え持ってきてるんだろ?」
苺「短パンだけだよ…。シャツ持ってきてない。」
満路「昔はパンイチで遊んでたし、いいんじゃん?」
苺「それは小さい時でしょー…。」
今は着てる水着違うんだからそれくらい考えてよ。
いつまで経っても子ども気分な田中くんに呆れてると横から真っ白な雪のような手が伸びてきた。
渚「ここは泳ぐような場所じゃないでしょ。」
と、渚くんも呆れた顔をしているとその手を田中くんが掴み、道連れにした。
満路「光ねぇも来なよー!」
ジリジリと照らす太陽を避けるために小さなテントを張っていた光ねぇに田中くんが声をかけると、光ねぇは半端なテントを置いてパシャパシャと走り寄ってきてダイナミックに私たちのそばに飛び込んできた。
苺「もー、光ねぇもマヒロくんも制服なのに。」
私は顔にかかった水を脱ぐいながら1番大人な光ねぇにも呆れる。
けど、一瞬で我に返り自分が吐いた言葉を思い出す。
…マヒロくん?
しかもみんな私服で遊びに来てるのちゃんと見たのになんでそんなこと言ったの?
顔を拭っていた手をそっと離すと3人して呆気に取られた顔をして私を見ていた。
苺「…なんか、まちがえた。」
なんとなく思ったことを口に出しただけだったけど、なんでそれを思ったのか分からなすぎて3人よりも困惑してしまう。
すると、1番驚いていた光ねぇが私の髪をかきあげるように撫でた。
光「ここ、ずっとおハゲだね。」
と、私の後頭部を人差し指でトントンと叩いた光ねぇは私の手を取ってそこを触らせてた。
いつもお風呂に入る時にはなかったはずなのに。
なんで…?
光「川遊びしてた時に苺が頭打って流されたの思い出した?」
苺「…え?」
光「流されたのは私じゃなくて苺だよ。」
あれ…。
なんか…、水の音がさっきより大きく聞こえる。
けど、周りから聞こえるんじゃなくて見えない記憶の音がだんだんと大きくなってく感じ。
脳みその中心から音が溢れてくる感じ。
何か思い出せそうなのにどうしてもその景色が真っ黒な感じ。
ずっと感じてた私の違和感はその暗闇の向こうにあるはずなのにどうしても“なにか”が邪魔をして思い出せない。
自分の真っ暗な記憶を彷徨う中、突然肩を押されて冷えた川と火照った体が纏わりつくように私の体を包んであと少しで思い出せそうな記憶を目の前で見せてくれる。
歪む入道雲。
上へ登る泡。
暗くなってくる青空。
息苦しい冷たい場所。
私の足を掴む何か。
あの何も出来なかった日に私はこの川に引きずりこまれて、高校生になる時にここから逃げた光ねぇと真尋くんに助けてもらったんだった。
私はこの川であった出来事を全て思い出し、一緒に水中へ潜った満路くんと外へ出る。
苺「おもいだした…。」
光ねぇがこの町が嫌いな理由。
光ねぇが高校生の頃から一人暮らししてる理由。
光ねぇと仲が良かった津田 真尋くんが今いない理由。
それなら次は満路くんがいなくなる。
光「私のこの傷はなんで出来た?」
と、光ねぇはジャバジャバと水を落としながら立ち上がり、太ももに出来た深い傷を見せてきた。
苺「喪雨月山行った時にこけちゃったやつ。」
光「そう。一緒に行った人は覚えてる?」
苺「真尋くん。だけど、何しに行ったかはまだ…」
私がそう答えていると、みんなの後ろから大きく手を振っている男性がこちらに向かって光ねぇの名前を呼んだ。
その声にみんなは一斉に振り向き、みんなして目尻をあげ口角を下げた。
「おーい、光ちゃん。明日の準備があるんだからこんなとこ来ちゃいけないよ。」
と、明日お母さんと結婚式をする乙武 財さんがわざわざあっちから車で1時間かかるこの場所に何故か来ていて私は一気に鳥肌が立つ。
光「…行かないと。」
苺「なんで?光ねぇにはもう関係ないじゃん。」
そう私が言うと光ねぇは少し不思議そうな顔をして首を傾げた。
苺「私、明日の結婚式行きたくない。」
光「来なくていいよ。」
と、光ねぇは私の濡れた髪を優しく絞るように撫でると、自分のシャツの裾を絞って体を財さんの方へ向けた。
光「今行きます。」
苺「行かないで。」
私は1人でまたどこかに行ってしまいそうな光ねぇに手を伸ばすけれど、また届かなくて光ねぇはどんどん離れてしまう。
苺「…もう、盗らないで。」
誰かに締め上げられるように苦しい喉から声を出したけど、財さんにはどうしても届かなくて川から上がろうとする光ねぇに手を伸ばし始めた。
それが昔、玄関先でお母さんの体を支えるために伸ばした手と同じで気持ちが悪い。
けど、見えない首輪がきつすぎてどうにも出せない。
誰か、あいつを消して。
そう心の中で唱えるとあの沼のような冷気が私の隣にいた渚くんから川を通して流れてきた。
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