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なぎさくん、なにしたの?
一家
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南向きにあるひとつの窓がいつも私たちに朝を教えてくれたけど、今日は台風のせいで雨戸が閉められていて部屋の豆電球をつけていなければあの日のように闇が現れる。
それが私にとってトラウマでみんなにお願いして豆電球をつけたまま、布団に入らせてもらった。
呼々夏「冷え性でごめんな。」
と、さっきまでお風呂に30分以上浸かっていたはずの呼々夏おじさんの足が一瞬触れ、なんで冬布団が必要なのか理解する。
苺「大丈夫。お姉ちゃんも冷え性だから慣れてる。」
私は自分の体温を分けるように布団の中に引っ込んでしまった呼々夏おじさんの足に自分の足を当てて暖を取ってもらう。
苺「おやすみ。明日は晴れるといいね。」
呼々夏「だな。おやすみ。」
眠る合図を交わした私たちは一緒に目を瞑り、呼々夏おじさんの向こうで静かに息を立てる田中くんと渚くんを耳で感じながら眠りに落ちようとする。
けど、私は思っていたよりも呼々夏おじさんの足が冷たくて私まで寒くなっているとふわっと布団が少し重くなった。
苺「…ありがとう。」
私はいつもみんなに微熱くんといじられる田中くんにお礼を言い、やっと眠りにつけると一瞬で次の日がやってきた。
けど、その部屋には田中くんはいなくて一つの置き手紙が置いてあった。
『俺は帰ります。』
その一言はとても薄い筆圧で書かれていて一度消しゴムを置いたら無くなってしまいそうなほど。
それが昨日突然この家にやってきた田中くんみたいで少し心配していると、起き抜けに携帯をいじっていた呼々夏おじさんは窓へ行き雨戸を開けた。
すると、淡いオレンジ一色の部屋だった部屋に真っ白は太陽光が入ってきて部屋の全てを照らして明るくする。
呼々夏「晴れたなー…。」
苺「だね。この風好き。」
私は呼々夏おじさんの隣に行き、土と葉っぱの匂いが舞い散る外へ顔を出すとだいぶ風が強かったみたいで家の周りにある木の枝が何十本も折れているのが見えた。
呼々夏「こういう日は外に出た方がいい。」
そう言って呼々夏おじさんはそばにあったちゃぶ台からメモを取り、何かを書き出し始めた。
呼々夏「寝坊助の渚と仕入れに行ってほしい。祭りで使うものをまた追加で頼まれたんだがこの台風のせいで甥っ子の車が入れなくなってる。」
苺「…バスは来る?」
呼々夏「あそこは切り開かれてるからそんなに支障はないはず。あと3日で用意してほしい急ぎのものらしいからよろしく。」
と言って呼々夏おじさんは私にメモを渡すと、まだ寝ていた渚くんを起こして朝ごはんを作りに行ってしまった。
私は寝ぼけ眼の渚くんのそばに座り、メモを見せる。
苺「これ、仕入れないといけないみたいだから一緒に向こう行こ?」
私は初めて好きな男の子に対して面と向かってお誘いしたので緊張で唇を噛んでしまう。
すると、渚くんはそのメモよりも私が布団脇に置いてけぼりにしていた田中くんの置き手紙に手を伸ばして取った。
渚「満路、1人で帰ったんだ。」
苺「う、うん…。」
渚「哀川さんはなんで家に帰りたくないの?」
と、昨日の田中くんと同じ質問をしてきた渚くんは私の心を見透かすように目をじっと見てくる。
その真っ黒で鈍い青が少しある目に吸い込まれかけていると、渚くんはもう一度同じ質問をしてきた。
渚「帰りたくない本当の理由は?」
苺「…みんなが怖いから。」
私は漠然とし過ぎていることを言ってしまったと後悔をしたけど、渚くんは納得してくれたみたいで一度小さく頷いた。
渚「そのみんなに僕や呼々夏さんは入ってないの?」
苺「入ってない…、ね。」
無意識に安全な場所へと体が向かっていくのは呼々夏おじさんの家や渚くんのそば。
それは2人のことが好きだからという理由もあるけど、それだけじゃないはず。
渚「他所もんだから?」
…なのかな。
あの町で少し敬遠されている呼々夏おじさんや学校であまり慕われていない渚くんだからなのかな。
苺「きっとそれもある。けど、違う理由もあると思う。」
渚「なにそれ。」
と、渚くんは納得がいってないように声を漏らしたけど、その笑顔は台風が過ぎ去ったこの風よりも優しい。
苺「今は言葉が見つけられないけど、2人のそばにいると安心出来る。だから手伝って。」
私はもう一度仕入れの手伝いをお願いすると渚くんは大きく頷き、布団を片付け始めた。
けれど、安心感の向こうにある違和感が私を一歩渚くんから遠ざける。
なんで渚くんは畳の上にいるのに足音ひとつもさせず、布団を片付けられるんだろう。
その布団も布の擦り切れる音や空気を叩く音をさせずにただ無音の映像が流れるみたいに片付けられる。
渚くんの丁寧な仕草に原因があるのかもしれないけど、どんなに注意しても少しだけ音を出してしまう私はガサツなだけなのかな。
そんなことを自分の音しかしない部屋で考えていると、渚くんが声を漏らして自分の存在を私に教えた。
渚「お姉さんに会いに行こうよ。」
苺「え?」
私は突然の提案に驚き、中途半端に押入れに入れていた布団を落としてしまう。
渚「お父さんが亡くなった訳だし、お母さんに会いたくないなら向こう側にいるお姉さんのところに行って少しお話聞いてみない?」
渚くんからの遠出デートのお誘いに私はすぐに頷き、週2の町内会で集まる町の人の目をかいくぐってもう一度光ねぇのところへと向かった。
待永 晄愛/なぎさくん。
それが私にとってトラウマでみんなにお願いして豆電球をつけたまま、布団に入らせてもらった。
呼々夏「冷え性でごめんな。」
と、さっきまでお風呂に30分以上浸かっていたはずの呼々夏おじさんの足が一瞬触れ、なんで冬布団が必要なのか理解する。
苺「大丈夫。お姉ちゃんも冷え性だから慣れてる。」
私は自分の体温を分けるように布団の中に引っ込んでしまった呼々夏おじさんの足に自分の足を当てて暖を取ってもらう。
苺「おやすみ。明日は晴れるといいね。」
呼々夏「だな。おやすみ。」
眠る合図を交わした私たちは一緒に目を瞑り、呼々夏おじさんの向こうで静かに息を立てる田中くんと渚くんを耳で感じながら眠りに落ちようとする。
けど、私は思っていたよりも呼々夏おじさんの足が冷たくて私まで寒くなっているとふわっと布団が少し重くなった。
苺「…ありがとう。」
私はいつもみんなに微熱くんといじられる田中くんにお礼を言い、やっと眠りにつけると一瞬で次の日がやってきた。
けど、その部屋には田中くんはいなくて一つの置き手紙が置いてあった。
『俺は帰ります。』
その一言はとても薄い筆圧で書かれていて一度消しゴムを置いたら無くなってしまいそうなほど。
それが昨日突然この家にやってきた田中くんみたいで少し心配していると、起き抜けに携帯をいじっていた呼々夏おじさんは窓へ行き雨戸を開けた。
すると、淡いオレンジ一色の部屋だった部屋に真っ白は太陽光が入ってきて部屋の全てを照らして明るくする。
呼々夏「晴れたなー…。」
苺「だね。この風好き。」
私は呼々夏おじさんの隣に行き、土と葉っぱの匂いが舞い散る外へ顔を出すとだいぶ風が強かったみたいで家の周りにある木の枝が何十本も折れているのが見えた。
呼々夏「こういう日は外に出た方がいい。」
そう言って呼々夏おじさんはそばにあったちゃぶ台からメモを取り、何かを書き出し始めた。
呼々夏「寝坊助の渚と仕入れに行ってほしい。祭りで使うものをまた追加で頼まれたんだがこの台風のせいで甥っ子の車が入れなくなってる。」
苺「…バスは来る?」
呼々夏「あそこは切り開かれてるからそんなに支障はないはず。あと3日で用意してほしい急ぎのものらしいからよろしく。」
と言って呼々夏おじさんは私にメモを渡すと、まだ寝ていた渚くんを起こして朝ごはんを作りに行ってしまった。
私は寝ぼけ眼の渚くんのそばに座り、メモを見せる。
苺「これ、仕入れないといけないみたいだから一緒に向こう行こ?」
私は初めて好きな男の子に対して面と向かってお誘いしたので緊張で唇を噛んでしまう。
すると、渚くんはそのメモよりも私が布団脇に置いてけぼりにしていた田中くんの置き手紙に手を伸ばして取った。
渚「満路、1人で帰ったんだ。」
苺「う、うん…。」
渚「哀川さんはなんで家に帰りたくないの?」
と、昨日の田中くんと同じ質問をしてきた渚くんは私の心を見透かすように目をじっと見てくる。
その真っ黒で鈍い青が少しある目に吸い込まれかけていると、渚くんはもう一度同じ質問をしてきた。
渚「帰りたくない本当の理由は?」
苺「…みんなが怖いから。」
私は漠然とし過ぎていることを言ってしまったと後悔をしたけど、渚くんは納得してくれたみたいで一度小さく頷いた。
渚「そのみんなに僕や呼々夏さんは入ってないの?」
苺「入ってない…、ね。」
無意識に安全な場所へと体が向かっていくのは呼々夏おじさんの家や渚くんのそば。
それは2人のことが好きだからという理由もあるけど、それだけじゃないはず。
渚「他所もんだから?」
…なのかな。
あの町で少し敬遠されている呼々夏おじさんや学校であまり慕われていない渚くんだからなのかな。
苺「きっとそれもある。けど、違う理由もあると思う。」
渚「なにそれ。」
と、渚くんは納得がいってないように声を漏らしたけど、その笑顔は台風が過ぎ去ったこの風よりも優しい。
苺「今は言葉が見つけられないけど、2人のそばにいると安心出来る。だから手伝って。」
私はもう一度仕入れの手伝いをお願いすると渚くんは大きく頷き、布団を片付け始めた。
けれど、安心感の向こうにある違和感が私を一歩渚くんから遠ざける。
なんで渚くんは畳の上にいるのに足音ひとつもさせず、布団を片付けられるんだろう。
その布団も布の擦り切れる音や空気を叩く音をさせずにただ無音の映像が流れるみたいに片付けられる。
渚くんの丁寧な仕草に原因があるのかもしれないけど、どんなに注意しても少しだけ音を出してしまう私はガサツなだけなのかな。
そんなことを自分の音しかしない部屋で考えていると、渚くんが声を漏らして自分の存在を私に教えた。
渚「お姉さんに会いに行こうよ。」
苺「え?」
私は突然の提案に驚き、中途半端に押入れに入れていた布団を落としてしまう。
渚「お父さんが亡くなった訳だし、お母さんに会いたくないなら向こう側にいるお姉さんのところに行って少しお話聞いてみない?」
渚くんからの遠出デートのお誘いに私はすぐに頷き、週2の町内会で集まる町の人の目をかいくぐってもう一度光ねぇのところへと向かった。
待永 晄愛/なぎさくん。
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