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縮まる距離 縮まらない距離

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彼とのやり取りは日増しに増えていった
夜の寝る前のやり取りだけだったのが
お帰り お疲れさまの挨拶
昼休みの挨拶
出勤前の挨拶
おはようの挨拶
少しずつ時間が早く、そして増えていった
身近な友達に近況報告しているような錯覚を覚える

ある日出勤前に「出勤前の今の姿を見せて」とメールが届く
今まで顔無しの裸の写真(ただし局所的にはモザイク処理がなされている)しか投稿サイトで見ていない彼に
今更服をきた写真なんて と笑いたくなったが
出勤前のスーツ姿を送信
「似合っているよ いってらっしゃい」と返信が来た

帰ってきたら「今撮りみせてー」とメール
部屋着を写して送信

そんなやり取りをしているとき、お休み連絡をしたあと、ふと動画を取って送信した
顔は写していないがお休み~と手を振る動画だ
すると翌朝
「動画みたよ!うれしかった!」と連絡がきた
かわいい人だな、と思った
感想が嬉しかった

ある日彼から「もう少しカメラの右をずらして」「上を撮って」と
?と思って写していたら「もう少し もう少し」と
「あと少しで顔が見える」
「えー それはだめ」
「少しだけ 少しだけ」
せがむ彼に右目だけ写したり(笑) 目から下を両手やぬいぐるみで隠して撮影した画像を送信した

その頃はメールではなくラインでのやり取りを開始していた
ある日、休日に外出する用事があり、夕刻街のイルミネーションを撮って送ってあげようとしたところ
風景画像とともに顔が映った画像も間違って送信してしまった
その時は気づかなかったのだが寝る前に送信したラインを確認したところ
送るはずの顔を隠した画像ではなく写った画像を送信していた
私はパニックになりとにかくラインで言い訳連絡を何度もしたが
彼からは「今日は何を言っても聞いてもらえないからもう寝てください」と言われて通信終了
その時の画像の顔があまりにもひどかったので彼に嫌われたくなくあれこれ言い繕っていたのだ

翌日ごめんなさいラインをしたが彼からは「顔をみれてうれしい」と返信
それからの画像は、といってもやはり自分に自信がないかた顔半分隠したり写さない画像を送信していた

だがある日彼から体調不良の連絡が入る
仕事の多忙さもあるのだが、彼は在宅で介護をしていた、その介護疲れも相まって
倒れる寸前まで陥っていたのだった
その連絡を受けたのは昼休み
私はパニックになり、でもどうすることもできずにただただ早く終業時間がくることを祈り
時間が来たとたん、会議室に入り連絡を入れた
でも書き込んでいくうちに涙で画面が見えなくなってしまった
送信したあと、よろよろと立ち上がって帰宅
帰宅後再度書き込もうとしたが励まし動画を送ろうと口元を手で隠し撮影を開始したが
すぐに泣いてしまって言葉にならなかった
送信後「泣かせてごめん」と連絡が来た
彼の体調も心配だが、それにより連絡が取れなくなることの不安が私の精神を壊れさせた
もう彼とのやり取りがないと生きていけなくなっていた

彼からは以前から「東京にきて」と言われていた
そんなに真剣になる前には「感染が~」「雪で欠航しちゃうかも」「その時期は仕事が立て込んで」と
緩やかにずらしていた
はっきり断るともう連絡が途絶えそうだったので怖かった
「そんなに会いたいなら会いに来て」と連絡したこともあったが
彼は1年360日仕事をしている人、さらに自宅で介護していることもあって東京から離れることはできないと
「旅費は出すから東京に来て」と言われたときには、なんだか円交するみたいで少しがっかりした
私だって働いているから行こうと思えば自分のお金で行けるから
でも後日調べたら会社の出張経費でしか東京へ行ったことがなかった私は実際の航空券の値段を知り
ますます東京へは行けないと思った
だが彼が倒れてしまったら、と思ったら今すぐにでも会いに行かなければならないと思った
でもできない、だって私はまだ 既婚者 だから
彼に会いたい、でも今は会いに行けない と伝え
彼からは会いたい、でも会いに行けない と伝えられる

心の距離が縮まる分 だが 現実の距離はむなしく離れたままだった
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