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弥助の大冒険 -少年は巴里を目指す- 7

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さて、このTGV-M編成、元来ならば特急ミストラル号など、ごく限られた列車専用で運転される代物です。

しかし、その内装の仕上げと…個室の窓の大きさはともかく、室内の座席配置は実のところ、比丘尼国仕様のTGV-HK型の個室とほぼ、類似だったりします。

違いといえば、オリエント急行のクラシックな車内に近づけるためにも窓は原型のTGVとほぼ同寸だったり、あるいは木材に見える素材や、網棚だの車内の照明の装飾金具だの、果ては座席のベロア張り表地だのと、敢えて古臭く薄暗く見えるようにしているくらいですか。

無論、室内の照明は敢えて白熱電球風の色味です。

読書灯や間接照明に至るまでが、ろうそくや石油ランプ、あるいは電球のような飴色の光を放つようにさせて頂きました。

床も、一等車は板張り風味の上に要所要所にタイルカーペット仕上げ、この特等車に至っては業務区画とトイレの床とデッキの赤マット以外は全てウール風味のカーペット仕上げです。

つまり、客として歩く足元は、フローリングですらないのです。

もっとも、冬場のパリは雪が積もりますので、その時は廊下のカーペットの上に敷く防汚マットを用意していますけどね…。

(冬場だと雪と泥で靴が汚れてる事があるんですよ。連邦世界でも国鉄の2等以上の客車は内地仕様だと通路に赤カーペットだったのが、北海道用はあえて長尺リノリウムや木材仕上げだったりしましたから…)

ともかく、およそ人の手が触れる場所はなるべく天然素材風味、それも温かみのあるものか、衛生的に感じるものをというコンセプトです。

(まぁ高級車や馬車がそうだよな、人の手が触れる場所から極力プラスチックの部品を廃した設計のメーカーやコーチビルダーも存在したし)

(食堂車にシャンデリアつけたかったんだけど、各席供食が基本だからねぇ…灯具カバーはバカラ風のガラスに見えるものにしたけど)

そう、場所によってはゴージャス、な輝きを見せるあれになるべく近い印象を与えたかったのです。

そして特等開放席は、個室車から一転して明るめの内装を採用しておったりします。

(肘掛けが敢えて可倒式にしてあるとかね、自席でおめこしやすいようにですね)

(まぁなんとなく、そうぞうはつくのです…)

で、アルトさんと私、それからフランス支部の独自騎士団の長であるオスカーさん、プラウファーネさんや弥助くんたちのお部屋の隣の個室に案内されました。

「なるほど、おめこするためにもおへやはひろめ」

身も蓋もないアルトさんの話ですが、事実ですから仕方ありません。

事実、隣のお部屋では、アレを始めておる気配なのです。

そして、このTGV-M型車両を投入した定期列車では、本当ならば乗客係が1両に最低でも2人は乗ることになっております。

(予約者の個人情報は聖環で取れますからね…)

(で、特別奉仕も行うと…)

そうですよ、比丘尼国のおかみ様用御料車でも元来はそういう内装にするはずだったのですが、ある意味では自動清掃仕様とでもいうべき半生体素材を多用しているのです、この個室や…一等車でも。

もちろん、食堂車を兼ねているからでもありますが、それ以前に人間とあまり変わらない体液分泌を行う奉仕偽女種の乗車も配慮しておるのです…つまりRFEことスペイン王立鉄道と同じでCFRF…フランス王立鉄道でも車内の姦淫は犯罪になりません…それどころか、女をあてがったり偽女種を当てがう車内サービスが存在するのです!

(あたしが決めたんじゃないですからね…)

(そりゃ、痴女皇国の列車だし、おめこ仕様の車内にするのがマリアちゃんからのオーダーでしょ…)

(あのですねぇ雅美さん、パリからマドリード行きの夜行タルゴ列車なんてもっとあれですよあれ…)

(逆はスペイン持ちだっけ?女官…)

(どっちもどっちです…)

ええ、現在、オーステルリッツ駅とリヨン駅から出ているのです、スペインやポルトガル方面への夜行列車。

そして、この夜行列車ではもっと、とんでもない事態が起きております。

ですが、ちょっと今はその件、詳細を言及するわけにはいかないのです…。

という訳で、フランス王立鉄道の「そっち方面の利用」を喚起する戦略についての状況、オスカー親衛隊長を通じてテレーズ殿下とお話をしてみることにします。

(確か、サラ・ベルナールさんでしたっけ…主演が…)

(ですわね…ルネ・バタイユ夫人はその演技力を買っておりまして、コメディ・フランセーズの一員に推挙しております。オペラ座オペラ・ガルニエでは伝統歌劇やバレエの上演を致しておりますが、オペラ・ガルニエの上演にかけるほどの集客が見込めぬ新興劇作家の作品についてはコンデ館…オデオン座にて上演と致しておりますが、評判は上々ですわね…)

そう…鉄道利用を促進するという建前で、とんでもない題名の映画が撮影されたのです。

題名はProstituée ferroviaire…直訳すると「鉄道売春婦」となる映画です。

そして、同名の舞台演劇では映画のシーンを要所要所で舞台の背景に掲げたスクリーンに映しながら、本当に「迫真の演技」で話が進んで行くのです…。

んで、この映画の内容なのですが、主演のサラさんは高級売春婦であったものの、例の革命騒動によって顧客を失い、更には体を壊してサン=ドニの片隅にひっそりと暮らす母親の面倒を見ながら、聖母教会併設の学校に通う苦学生を演じています。

(実は、本人の生い立ちとあまり違わないのは内緒で)

(お母さんが高級売春婦だったのは事実ですしね…)

しかし、サラさんのバレエの才能に着目した尼僧によって、オペラ・ガルニエ併設の王立バレエ学校への奨学が勧められたのです。

しかし、そうなると母娘の生活を支える元手、母親の年金だけとなってしまいます。

(これもあながち間違ってません。もっとも、実際にはサラも母親のユールも、遊撃騎ふらんすのはにとら兵隊せんもんぐんだんの一員としての活動に伴う報償金を渡しておりますが…)

つまり、サラさんにはアルバイトが勧められたのです。

これも、映画の通りと申し上げるべきか。

そして、鉄道売春婦の仕事を斡旋されたサラさん、TGVや夜行列車に乗り込む女性乗務員としてのお仕事を始めますが、そこで知り合った若い男性と衝撃の出会いを…というのが、映画のあらすじです。

ええ、列車内での撮影ということで、この室見の元にも話が舞い込んで来ていたのです。

そして、試写会で見ました、完成した映画。

ですから、映画の結末も存じておりますが、今はちょっと明かせないのです…。

ただ、痴女皇国世界の鉄道、わけても南欧行政局の要衝であるスペインとフランスの王立鉄道では、車内でおめこができる。

そして、フランスに至っては鉄道売春婦というべき職業が確立されていることを記憶頂きたいのです…。

(まぁ、元々、サラは遊撃騎兵隊の一員として、わたくしの弟たちであるシャルルやジョセフともへそから下でよく知り合っておる仲ではありますけど…ただ、あやつら、室見様もご存知の通りでタレーランの妻であったドロテアとその娘ポーリーヌと良い仲なのですよね…それにサラは今や、パリの女優としては引っ張りだこ…そちらの舞台に出す方がフランス王国としては都合が良い子なのですよ…)
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