アルトリーネさんのいけない修行の日々

すずめのおやど

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アルトのアメリカ大冒険 - Route 69 - 8

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みなさま。

この室見理恵、みなさまにお聞きしたいことがあるのです。

試験運行中とはいえど、旅客も載せている郵便航路の機材を乗っ取る人間、世間ではハイジャック犯人とは言わないのでしょうか。

そうです。

私の目の前に、その銀色の巨体を無理からに地面に繋いで停泊しておりますツェッペリン級大型飛行船RMS-LZ810、通称「野獣号」。
https://ncode.syosetu.com/n6615gx/231/

なぜ私がこの野獣号を乗っ取られた云々と言っておるのか。

それは、この巨大飛行船の元来の運行予定であれば、連邦世界に当てはめますとモンタナ州はロッキー山脈の麓にあるヘレナという街に該当する、この地に来ているはずがないのです。

現在は試験的に欧州とアメリカ大陸東岸を結んでの郵便や小荷物の輸送と、これまた実験的な旅客輸送のために週1便で大西洋を跨いで往復する行程が組まれている野獣号、本当ならここから東に3,000kmは離れているニュージャージー州レイクハーストにあるこの飛行船用の格納庫に一旦は仕舞い込まれていなければならないのです。

そして、格納庫内に固定された状態で、今度は英国に向かう飛行に備えて各部の点検や整備、そして客室ゴンドラの清掃や必要物資の交換補充をされているはずなのです。

しかも、私がぷりぷりと怒っている理由はまだ、あるのです…。

なぜならば、本来であれば飛行船というもの、、その巨体からすると異様に軽く、風に流されやすい性質があります。

地面に完全に降ろした場合であっても、きちんとした係留設備に固定しておかないと、こんな巨体であっても簡単にその船体は風で吹き飛ばされて周囲の何かに衝突してしまうのです。

で、最低でも係留塔という飛行船の先端を繋ぐための塔に船首を接続した上で、水に浮かぶ船同様に船と大地を繋ぐ係留索を張り巡らせておくことが望ましいのです。

例えば、連邦世界でのヒンデンブルグ号やツェッペリン2世号の場合、水素を充填して浮き上がらせた際の浮揚重量という単位で表しますと、わずか10tしかないそうです。

そりゃ、地上では大勢の人で押し引きして移動させるという発想も出て来ようというもの。

では、係留設備が存在しないモンタナの大地に、どうやって野獣号の巨体を停泊させているのか。

重さはともかく、サイズ的には大型フェリーくらいは余裕…テンプレス級コンテナ船空母には劣りますが、テンプレスを若干スケールダウンしたイタリアのザラ級航空宇宙空母とは、大体同じくらいに大きいのですから。

この野獣号、意図しない浮揚を止めるため、船体側から何本もの緊急係留用のアンカーワイアを打ち出せる仕掛けを装備しているのですが、あくまでもこれは緊急時に使うものです。

しかし、まさにそれを使用して無理からに、このモンタナ州の大地にヒンデンブルグ号を全長で少しばかり上回る巨体を停泊させるよう、指示した女が私の目の前におります。

いえ、本当ならレイクハーストからだと、この飛行船の巡航速度である時速300キロで飛んでも10時間はかかる行程…通常推進モードだと1日半は要する行程で、連邦世界だとイエローストーン国立公園が存在するアメリカ西部まで無理やり飛ばして来たのです、自分のアシとして使うためだけに。

「テレーズちゃんとフラメンシアちゃんとティーチも乗せて来たんだってば!…それに、アルトもこっちに戻せっていうから、乗せたんだよ…?それに船長にもさ、ちゃんと断ってレイクハーストまで飛んだついでに、ちょっとイエローストーンまで足を伸ばしてくれって頼んだだけじゃんか…」

「直線距離で片道3,000キロをちょっととは言わんわい!」

ええ、地図をご覧いただければお分かりの通り、モンタナ州というのは、シアトルまであともう一息の場所なのです。
<i897682|38087>
https://x.com/725578cc/status/1847410024873939420

北米大陸東部、ほぼ大西洋岸といっていい場所に所在するレイクハースト飛行場からだと、ほとんどアメリカ大陸横断に等しい距離があるのです…。

「だから行程の大半、転送で時間を稼いだのに…」

ええ、国土局交通部に運行を委託されている飛行船、野獣号。

レイクハースト空港に着陸した後にですね「予定通りに荷物と乗客を降ろした後で、船長よりマリアリーゼ陛下から臨時の飛行を依頼されたためであるという通告を受けて再度飛び立ってしまったのたが、こちらに事前の連絡は一切なかった。一体何がどうなっているのか」という問い合わせが現地の聖母記念郵便逓信公社事務所から国土局交通部に寄せられたのです。

で、現地にいる国土局長の私にも、連絡が飛んで来たのですが、単に国土局のトップの私への連絡が理由なだけじゃないのです、泡を食った本宮の交通部職員が血相変えて心話を入れて来た理由。

なにせ、このツェッペリン級飛行船、現時点ではこの痴女皇国世界にこの1隻しか存在しない貴重品なのです。

連邦世界の月に本社が所在していて、異星由来の超技術も密かに保有管理しているという宇宙航空産業のルナテックス社の有する技術はおろか、まりりとクリスさんの会社であるファインテック社の半生体複合素材までふんだんに投入している代物ではあります。

しかし、それはあくまでも安全性を担保したり、利便性を上げるための採用。

基本はその外観の通りに古い設計の飛行船、そのものです。

(当時の設計まんまで飛ばせねぇ以前に、当時と同じようにして組み立てるんならさ、製造工程の大半が職人の手作業になるんだよ…それも鳶職とびしょくまで必要なんだぞ…リベット打ちで組み上げるなら何本鋲打する必要があるんだよ…)

そして…重ねて申し上げますが、目下のところはこれ一隻しかないという、貴重な代物なのですから…。

しかも、この飛行船。

英国の王立郵便局の御用船を示すRMSが冠せられていることでお分かりかと思いますが、欧州側の始発が英国、それもロンドンのハイドパークの北側の王立公園区画を更に拡大した空き地から出発させとるのです。

この出発点の設定、英国王がバッキンガムから迅速に乗り込めるための配慮でこうなったとまりりは言いよりますがね、どう考えても危険が危ないことこの上ない水素満載の飛行船、王宮の近くに置いて万一の火事にでもなったらどうすんのよっ。

(それがために水素気嚢と外殻の間も気密気嚢化して窒素かヘリウムを充填してるんだよ?)

(普通にヘリウム使えば安全でしょうに…)

(それがだねりええ君、三河監獄社と太田社で開発中の小型電動飛行機技術を試したいということもあってだね、監獄社の燃料電池技術を採用したがために大量の水素を積んでおく方が都合がよくなってだね)

このまりりにハインリッヒの法則を教え込むという以前に、まず普通の人間が水素の爆発…それもヒンデンブルグ号があっという間に全焼するような部類の火災に巻き込まれたらどうなるか、教える方法はないものか。

いくらまりりが太陽に放り込まれても「あー日焼けしたー」とか言ってガングロになって帰ってくるような非常識生物だと言っても、一般の人間だとそもそも太陽に近づくだけでまずいのです。

木星のガリレオ衛星、それも一番木星に近くて硫黄で表面が覆われている上に火山活動が全力で全域にわたって旺盛で、しかもジーナさんいわく「ガリレオ衛星に近づくこと自体が超危険なんや…木星の有害電磁波帯域や放射能汚染粒子浮遊地帯まっただ中やぞ、あの辺」という場所です。

そこから数万トンの金を調達したり、エウロパの表面をかき氷よろしく削り倒して水を調達するような芸当…しかもドカヘルに肉体労働者スタイルで気密服の部類も着込まずにえんやこーらと土木作業をしてくる非常識な女と、か弱い一般女性を一緒にするべきではないのです。

で、そもそも、まりりが何で北米大陸視察中の我々に合流してきたのか。

簡単に申し上げますと、英国も参加したがったのです、北米開発。

そして、ルイ16世陛下の実子であるテレーズ王女と、これまたイザベル陛下の実子であるフラメンシア王女の二人について、英国は「テレーズ王女をブルボン王家の後継とみなすにやぶさかにあらず。ただし、北米大陸の利権については英国も噛ませてくれ」と実質的に言っているも同じ要求、突きつけて来られたのです。

ただ、北米開発については痴女皇国の米大陸地区本部主導案件。

まりりですら、勝手には進められません。

そこで、英国側としては「アメリカ大陸にいっちょ噛みさせて欲しいんだけど利害調整が面倒だから、双方にコネとツテのあるに視察と利権の区割りをお願いしたい。ついでにフランス王女とスペイン王女、現地に送ってくれたら大変に嬉しい」という話をしたようなのです…。
https://ncode.syosetu.com/n6615gx/230/

ええ、テレーズ殿下とフラメンシア殿下、元来ならレイクハーストからここまで、延々と陸路を旅するか、はたまたまりりに転送で送ってもらうか等、チート技に頼るかの二択だったのです。

しかし、のマリアリーゼ・ワーズワース子爵にしてスコットランド貴族のマリアリーゼ・ワーズワース卿は自分も横着をこきたかったようなのです。

ええ、痴女皇国世界の英国王室、まりりの連邦世界でのグレートブリテン及び北部アイルランド及びNB連合王国における貴族の位をこっちでも認める方向です。

それをされると、痴女皇国が英国の傘下に入ってしまう逆転現象が起きてしまうのですが、そこで、まりりの実の妹であるベラちゃんがイタリア国籍持ちで貴族で聖母教会の聖母だということが生きるそうです。

「とりあえず、野獣号はすぐにレイクハーストへ返してあげなさい…」

ええ、こっちはそろそろお昼ですが、転送すれば恐らくニュージャージーだと午前10時くらいのはず。

で、野獣号の船長や一部クルー、私とも顔見知りですので、まりりを平謝りに謝らせておきます。

全くもって、困ったまりりです。

でまぁ、テレーズ殿下とフラメンシア殿下。

なんでまた、こっちへ。

いえ、事情は若干ですがお聞きしております。

要は、主にストラスブールを含むアルザス・ロレーヌを従来からの守備範囲としていた中仏支部と、南米支部のみならず尻出支部との交易で潤っているせいか…ポルトガルもスペインが隣の関係で傘下なのです…最近の躍進著しい南欧行政支局、つまりはスペインとの間でフランス支部のイスの取り合いが始まっておるのです。

ええ、うちの娘のジニアの同期で白薔薇三銃士のアンヌマリーちゃん、あの子が茸島の聖院学院神学部所属でなかったら、速攻でパリに送り込まれていたと聞いております。

同様に、イザベル陛下もティアラちゃんを灸場から呼び戻してまでパリに行かせようとか画策していたという話も。

しかし、白薔薇三銃士は3人とも、それなりの要職…それも聖母教会関係の職務についています。

で、次善の策としてイザベルさん、実の娘のフラメンシアちゃんをパリに送り込んでます。

この子はなんと、変態小説家で變態男爵の悪名も高いジョルジュ・バタイユ男爵とイザベルさんの子供なのです。

つまり、人種的にはフランス人として分類されます。

そう…庶子とは言えど、ヴァロワ朝フランス王家の王女様だったイザベルさんの娘さんですから、スペイン王国のみならずヴァロワ朝の王位継承権までもをお持ちの御仁。

しかし、今のフランスにはテレーズ王女を筆頭に、ルイ16世とアントワネット王妃との間のお子様、合計4名が存命中ですので、少なくともテレーズ殿下から王権を禅譲してもらわなくてはイザベルさんがフランス王家の人だと名乗れないようになっているそうです。

そして、テレーズちゃんはテレーズちゃんで、なかなかに頭の切れるしっかり者。

ストラスブール支部のマリーさんと仲良くなって、後見人の立場についてもらっています。

マリーさんも、その出身地や支配地の関係上、強姦作戦実施前からフランスに対する痴女皇国の工作拠点の長を務めておられましたから、後から来られたイザベルさんに対して素直に「じゃあフランスをお任せしますわ」と言いたくない事情があるのです。

そりゃ、散々苦労してフランス王国の屋台骨を揺すって来たのに…という思いは理解できます。

でまぁ、フランス王国、実のところは連邦世界ほどにはアメリカに深く浸透していませんでした。

連邦世界では戦費調達のためにナポレオンがアメリカのフランス領土を売り飛ばせるほどの大規模な領有を果たしておりました。

ですが、痴女皇国世界ではそもそもフランス革命が不発に終始しておりますので、ナポレオン・ボナパルト氏は皇帝を名乗るに至っておりません。

それどころか目下、痴女宮で罪人頭を名乗っている立場です。

それはともかく、フランスも英国もスペインも北米大陸に覇権を唱えるに至らなかった理由ですけどね。

痴女皇国開国直後から、アレーゼ本部長がアメリカ担当として現地に行っておられたのですから…。

しかし、カナダに該当する金田の地を含めた北米大陸。

痴女皇国本国単独での開発もまた、困難ということで、進出に意欲的な支部または支部支配地の国家を募っていたのも事実です。

既に、英国・フランス…そして海賊共和国こと中米行政支局時代からの絡みでメキシコも、沿岸部を中心に進出を開始していました。

ワシントンを中心とした米大陸東岸にアメリカ合国を建国したのも、英国支部の強い後押しがあったからであると伺っておりますし。

「で、本当ならさ、あたしも視察に同行すべきなんだけど…ちょっと、あたしに思惑があってね…フランス革命派の首魁の処分の件だけどさ、既にロベスピエールさんはワシントンでワシントンさんに預かってもらったじゃんか」

ですねぇ。

それで揉めたせいで、アルトさんとアレーゼ局長、合州国の首都の方のワシントンに急行して、ジョージ・ワシントン大統領と緊急会談に及んだそうですから。

「で、フーシェさんについてもさ、正直なところ、金田の首長を務めるには不向きだっていう結論が出てたでしょう。たださぁ、あの人は使い道があるっていうか、思うところがあるんで、あたしがここで引き取ってレイクハーストに連れ帰っていいかな」

ふむ…まりりの事ですから何かを考えておるのかも知れませんが、差し当たっては別にどうでも良くはないのですがどうでも良い事案です。

何せ、本人が嘘つかない族や北米大陸の野獣を相手にしてワイルドに開発を推進するには全くもって不向きな人材だということ、既にアメリカへ来させる前から半ば判明しているも同然。

このまま行けば、無理からに総督なり知事なりに任命して故意に失策させ、位打ちも同然の未来となるのを避けて通れないだろうと、誰もが思っていたからなのです。

ですので、ここでまりりが下手な手さえ打たないならば、どっかに引っ張って行ってもらっても問題ないでしょう。

「でさ、あの人って連邦世界だと裏切り者だの変節漢だの冷血カメレオンだの、晩年以外はひっでぇ言われようだったじゃんか」

この、まりりの話には私も深く合意しておきましょう。

何せ、フーシェさんについて見聞きしたり資料を漁っても、それに相応しいことをやってきた秘密警察の首魁って印象しかありませんでしたし。

「でさ、ある意味ではフーシェさん以上に二枚舌三枚舌だの密約だのが大好きな外交を繰り広げてきた国があるじゃんか。あそこでなら使い道があると思うんだよね。ただ…英国、わけても女王陛下には絶対の忠誠を誓ってもらう必要はあるんだけどさぁ…」
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