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アルトのアメリカ大冒険 - Route 69 - 7

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で、黒く短いベールのついた帽子から、服装に合わせた桃色の帽子を被り直すと、今度はフラメンシアと握手し合う貴婦人様。

(桃色の人造薔薇の飾りが帽子と上着の胸元についておりますでしょう…痴女皇国の国花です…つまり、痴女皇国の仲介や介入がなければ会ってないぞ、というサインです…)

密かに、心話で送られる解説。

紫薔薇騎士団のサリアン団長ですね、このご注進…。

ええ、私は確信しました。

密談の必要があるとはいえど、バッキンガム宮殿を会談の場にしなかった理由。

あくまでも公式には、私たち…スペインとフランスの王族をあそこに入れたくないようです、まだまだ。

そして、御用商人であるとは言えど、商人のティーチ氏が同席しているということは、あくまでも商売の話であることにしたい。

更には、ドレイク氏の紹介です。

「このフランシス、元々は海の男で商売人だった者ですわ…お嬢様たちとは商いの話も出来ようと思い立ちましてね…」

ええ、まんざら間違ってもいないようです。

商人の前に、海賊って単語がつくような御仁だというのを私が知らなかったままなら、ですが。

そして、机ですよ机。

ティーテーブルとやらの卓上に敷かれた敷物の模様、思いっきり北米大陸と大西洋じゃないですか。

でまぁ、私たちと貴婦人の合計3名が茶卓を囲み、その周りに他の人が立つことに。

あくまでも、周囲の人物はこの貴婦人の侍従扱い。

そういうことにしたいようです。

で、これは本物の給仕らしい方々が、茶を淹れの菓子を置きのしてくれますが。

「あらあら、この飴が転がってしまったわ」と、わざとらしく赤白青の飴を卓上に落とされる貴婦人。

ところが、その飴を拾わせるどころか、ご自身でお拾いになると、変な形をした湖の北東のあたりに置かれるのです。

「そうね…お嬢様のお一人にとっては、この辺の土地は是が非にもフランスのものにしたいご様子ですわね…」

その場所を見た瞬間、そして何気ないひと言を聞いた瞬間の私は、素手で心臓を掴まれたと申しますか、氷を当てられたような気分になりました。

ええ、我が母が隠棲しておる修道院。
https://ncode.syosetu.com/n6615gx/223/

まさに、その辺りをおおよそながらも、示す位置だったからなのです…飴が置かれた場所。

もちろん、この情報は痴女皇国の中でも厳しい情報管制の下にありまして、愚母の実娘たるこのテレーズにすら、正確な場所は伝えられておりません。

何をどんだけ握っとんねん、このおばはん。

痴女種…それも駆け出しの私はまだしも、憎たらしいのですが遥かに上の階級を与えられておるフラメンシアを前にしてすら、臆する気配がなく、堂々とこの世の女王の如く振る舞う御仁。

痴女種化も女官種化もされておられぬようですが、何という大物にして難関の気配を漂わせるのか。

一方で、赤白緑の飴がそこからかなり離れた…女裂振珍めきしこのすぐ上辺りに置かれます。

「赤と黄色に縁が深いお嬢様にとっては、その色でこの辺りを染めずとも色々と捗るようですわね」

今度は、フラメンシアが動揺する番でした。

ええ、北米西岸、メキシコ…すなわち、フランシスカ局長が所望しておられるのを伺っています。

そして、メキシコに利潤があるということは、スペインが進出しやすくなる話でもあると。

ええ、淹れられたお茶に手をつけるつけないの作法以前に、ずばずばと切り出され、こちらの手の内を明らかにされていく段取り、正に交渉術というものなのでしょうか。

つまり、この卓子に置かれた敷き布と飴。

正に、利権を取り合う話のためなのでしょう。

「で、フランシスや…私たちは既にこうであると思うのですけど」

と、今度は赤白十字の模様の飴を置かれる、貴婦人様。

その模様、イングランドの国旗であること、もはや疑いようもありません。

で、飴が置かれた位置は、確かマンハッタン島とか言われる場所。

「現に桜の木を切って現地の大統領とかいう身分に選ばれた男、我が国の血筋でもあるとか…」

「左様でございます、奥様」

つまり、アメリカ合国は英国系の国やで。

そう、我々に釘を刺したいようなのです。

しかし、今の段階での合州国、西側沿岸…フロリダ半島とか呼ばれる辺りの手前までが領地であり、そこから内陸に向けては未だ、原住民である嘘つかない族ですら完全に我が物とは出来ていない大自然が広がっているはずなのです。

で、実のところ、私は全力で後悔しておりました。

何故ならば、こんな席にうってつけの人物、我が王国に在籍しておるからです。

シャルル=モーリス・ド・タレーラン=ペリゴール。

あの男ならば、確実に我らの利となる話を持ち帰ってくれた事でしょう。

(それを嫌がってたから、こないな話し合いになったんですわ…)

と、耳打ち心話を入れられたのは痴女皇国から英国に派遣されているクライファーネ支部長。

なんでも、アルトリーゼ閣下の同期でしたからしら。

(あの暴力アマの同期という認識はともかく…テレーズ殿下、タレーランを英国に来させると絶対に我が国に不利な話をねじ込んで来るって事で揉めてたんですわ、英国側も…)

(いや、本当にタレーラン氏を同行させていた場合、英国側も閣僚総出でバッキンガムに通して囲むって話になってたのですよ…ええ、マリアンヌ殿下がなぜ、お二人だけを英国に寄越したか…英国側でも、タレーラン氏を最大限に警戒していたからに他ならないのです…)

ああ、やっぱり。

しかし、タレーランは狸といえば狸な男。

ある意味ではフランスの外交を、自分の保身とみなして行動しているような人物です。

わたくしども姉妹兄弟が唖然としてしまうような、とんでもない交渉結果を持ち帰ってくる可能性も考えられたのです。

ですが。

「そうそう、奥様…フランスから逓信が入っておりました。私が読み上げてもよろしいですか」

と、明らかに英国有利と思われた会談に介入する人物…紫薔薇のサリアン嬢です。

「ミス・サリアン…差出人はどなた?」

「フランス王国外務局長タレーラン氏…いえ、痴女皇国外務局のクレーゼ様との連名名義ですね」

「何と書かれておりますのやら」

「フランスの地はそもそも肥沃で自国民を食べさせるだけの食べ物を何とかできる土地柄、むしろ耕作地を欲するのは英国ではないか。訪問中の某国令嬢との会談時に、貴国が主張なさるべきはまず、麦や芋や綿などが採れる大地の確保が急務かと助言申し上げますと」

「ふむ…厄介な話ではありますわね。と申しますのも、私どもは燃料も木材も、欲しいのですよ」

と、金田と呼ばれる土地…アメリカ大陸の北側に、いくつかの赤白十字の飴を置かれます。

これまた、私にとっては困る話なのです…。

我が母、まさにその燃料用木材を金田奥地から切り出して米大陸南部に送り込む事業の展開地にいるはずなのです。

しかも、林業荘園の運営に当たっている聖母教会の監督者として赴任しているというのも。

つまり、たった今、英国が出してきた要求のカードたるや、痴女皇国本国はまだしも、フランスとは利害が真っ向、対立することになるのです…。

「へ…奥様、恐れながら申し上げさせて頂きますと、そこいら辺りは冬は髪の毛すら凍りつき、土着の原住民すら生肉を喰らうしかないほどに火が起こせぬ辺境と伺っております。マリアリーゼ陛下にすがらねば、我らだけで開拓は困難ではなき話かと…」

「奥様、わたくしからも。その北の大地、熊や鹿もちょっとした馬車ほどもある大きさの猛獣であると伝わっております…」

で、女給仕というには何やら色気のある女性と目配せをしたサリアン女史、聖環からその、鹿とか熊の動いておる姿を私たちに見せてくださいます。

なんですかこの怪獣。

隣の小屋より身が高いじゃないですか。

下手な人の倍…いえ、3倍はありそうな巨大な鹿が、立派な角を振り振り、街道を闊歩しております。
<i897001|38087>
https://x.com/725578cc/status/1845592872462254455

鹿も…いえ、鹿はその1頭だけでなく、何頭もの鹿が歩いておるのです。

そこに、街道の木陰から熊が姿を現すのです。

その熊も、鹿の身の背丈に見合った大きさ。

つまり、退治には鉄砲どころか大砲を持ち込むことすら考える体格なのです。

で、熊も一頭だけなのか。

吼え猛る熊に、一瞬、動きを止めた鹿たち。

その横手から、別の熊が何頭か突進してくるのです。

しかし、鹿は慌てずに最初に現れた熊の方へ集団で突進するのです。

で、形成不利とみた最初の熊、木立の中へ逃れます。

ところが、最初の熊が道を避けたと見た鹿たち、なんとその巨体を街道の上で翻すと、追いすがろうとする熊たちの群れに立派な角を振り立て、反転突撃するではありませんか。

ですが、熊もさるもの。

その鹿の角をひっぱたくと、横っ飛びに鹿の突進を避けます。

そして、鹿の巨体が入れぬであろう森の中に逃げ込むのです。

あの巨大さで、信じられぬ身のこなし。

(これ、実はでしてね…アレーゼ様が、金田を含む北米を探検する場合、こういうものが出てくることを欧州に教えておくべきだと、向こうの熊と鹿に迫真の演技をさせた際の撮影なのです…)

と、サリアン様からは内幕を教えてもらいましたが、それにしても熊の一撃はもちろん、鹿の突進も人が食らえばただでは済まないでしょう。

いえ、馬車ですら砕かれるのでは。

「即ち、この熊も鹿もただの愚鈍な獣ではないのです…相応に知能を有しております上に、私の所属する上位組織…北米大陸統括本部からは、当本部の管轄において、不殺の掟をお守り頂きたく、とも…」

つまり、この鹿や熊を害獣として駆除するような事は認めないという宣言なのでしょう。

(軍隊や大砲のようなものを持ち出してまで追い払うのは駄目、というだけではないのです…軍隊を編成できるほどの兵器を北米に持ち込むべからず、という意味もあるのですよ…)

「なるほど…サリアン,この辺りはあなたの上の位の方々と話をしなくてはならないようですね…。では、あなたの独断ですと、どの辺がお薦めかしら?」

と、しれっとお聞きになる貴婦人。

その問いかけに…誰も、何もしていないのに、卓上に置かれた飴が勝手に滑っていきます。

シンシナシティ、セントルイス、カンザス、ナッシュビル、アトランタといった名前の上に、飴が置かれていきます。

つまり、北米と呼ばれる土地の中南部。

飴は、テキサスと呼ばれた辺りで置かれる動きを止めました。

つまり…とりあえずは北米の東岸から中南部で、手を打て、という事なのでしょう。

そして、フロリダ半島とかいう場所には、緑と黄色と黒の飴が置かれます。

(あそこ、海賊共和国の領土ではあるのですよね…)

(ただ、代替利権を確保させてくれるならば、オマリー陛下は話に応じるとも…)

(フラメンシアです。海賊共和国は我がイスパニアと英国双方を相手にして利潤を上げておる海洋国家と伺っております。しかし、その所轄はフランシスカ中米行政局長にありますので、領土割譲については北米の他の地域の開拓が進んでからでも決して遅くはないかと)

(要は、フロリダの開発が進んでいる中で今よこせと言っても貰えない可能性が高い、と…)

(それに、北米内陸部の開発のためにはその拠点となる港湾の運営が欠かせません…フロリダからメキシコにかけての良港、現状では中米行政局の管轄にあるのです…ですので、英国としてはアメリカ合州国にマンハッタンから下、ジャクソンビル付近までの間に港を作らせるか、はたまた海賊共和国と連携して沿岸の港を使って荷揚げするかの二択となりますかと…)

そう、ドレイク閣下はもちろん、クロムウェル閣下と、サリアン団長を通じた具体的な利権の折衝も行われているのです。

まぁしかし、フランシスカ局長や海賊共和国の面子が、いち早く北米南部の海岸だけでも押さえにかかっておられたのはある意味では、僥倖ぎょうこう

「フランシス。聞けばかの大地に古くからおった原住民ども、互いに争い合い、領土を奪い人を奴隷として狩る蛮族ばかりであったとか」

と、いきなり切り出される貴婦人。

「恐れながら奥様、そのような野蛮な者どもたるや、天罰やら神罰の部類にあって女ばかりにされたとか伺いましてございます…即ち、蛮族は蛮族で野蛮なことを取り止めて痴女皇国にすがらねば、自らの築いた諸々を子々孫々に伝え続けることがままならぬ様子。ですかな、サリアン殿」

無言で頷く、サリアン団長。

「なるほど…では、こうしましょう。我が英国の王が望むであろう現地のことども、女王に代わって調べる者の同行があれば、北米へと渡る手段の提供やぶさかにあらず。この条件で、大英帝国は年若き少女とも言える婦人お二人を北米へ送り届けるというのは、いかが?」
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