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アルトのアメリカ大冒険 - Route 69 - 6.9

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まぁつまり、田舎の出の若者が都に出てきて名を挙げるには、兵隊になるか学校に行くか、はたまた職人に師事するか、商売人の下働きとなるか。

ともかく、百姓以外の職を得て、自分の力で身を立てる必要がある若者には事欠かなかった部類なのですよ、我がフランス王国。

(フランス革命の時に、そうやって軍人として志願して勲功を挙げたのも多かったのよね…その代わり、ナポレオンの指揮下で死ぬ人も多数出ちゃったんだけど…テレーズちゃん、フランス王国は聖院の恩恵にあまり預かってなかったからよく知っていらっしゃるかも知れませんが、産まれてもちゃんと大人になるまでに育つ可能性はよくて5割なのよ…実際に、お母様はあなたがた4人をお産みになられたでしょ…)

ええ、マサミさんいわく、子沢山はこの時代にありがちなのだそうです。

とにかく産んでも育つかどうかはわからないから、とりあえず産む。

ええ、マダム・マサミが申された通りでして、我が母たるアントワネットがまさにこの多産を実践しておりました結果、私の他に弟2人妹1人の弟や妹がおります。

そして問題は、私が一番、年上なのです…。

(テレーズちゃんは弟さんや妹さんのために、即成栽培や即位立候補をしたようなものなのよね…)

(あたしもそれがあっから、なるべくテレーズちゃんを推してあげたいんだけどさ…)

うむ、少なくとも妹や弟たちの居場所を作る私の思いに嘘はありません。

そして、マサミさんやマリアリーゼ陛下も、私の今の境遇を維持もしくは改善する意思、おありの様子。

ふふふ、か弱い乙女たるこのテレーズ、同情票を得ることもしませんと。

何せ正直、あのフラメンシアと来た日にはですね、腹立たしいまでに邪魔な女です。

しかし、それなりに頭が切れる部類でしょう事は毎日のように顔を合わせておれば自ずと悟れようもの。

ちょっとでも隙を見せたならば、確実にフランスはスペイン…いえ、ヴァロワ王家の手に戻ってしまうでしょう。

しかも、奴めにはカタリナとクララという異父姉妹…二人の姉がおりますし、王子も別に2人ずつ。

劣勢やんけ…我がブルボン王家!

というわけで、私は裏工作に邁進まいしんしました。

同情が効果的だと知ったこの私は、まだまだ幼い妹や弟をダシにしてすまぬと思いつつも、幼い姉妹兄弟で途方に暮れているということで各方面への援助をそれとはなしに働きかけたのです。

ええ、何がなんでもフランスの王位と未来を我が手にせねば、弟や妹たちの未来も、ないのです。

それはもう、必死になりましたよ。

で、決然たる決意のもとで私が頼ったのはまず、プロフェスール・マリーすなわちマリーセンセイの異名を持つ、マリアンヌ・ド・ロレーヌ殿下。

地元ストラスブールでは暴力公女の異名でも知られているとか、突進公女のブリュントレーネ様、そしてジョスリーヌ団長と3人で界隈を震え上がらせたとか色々聞こえておりますが、実際のご本人は至って話の出来るお方という印象です。

そして、これが大事なのですが、私とは割と利害が一致するのです。

つまり、このテレーズ…ブルボン王家を支援する方が、マリアンヌ殿下には大変にお得らしいのです。

(しかしテレーズ殿下、となりますとアメリカでの行動について、味方を作っておく方がいいかも知れませんわねぇ…よろしい、ちょいとばかり心当たりの人物に依頼しておきましょう)

で、マリアンヌ殿下とのお話から数日後、私はベルサイユ宮殿で、フラメンシアと二人してマリアンヌ殿下に申し渡されます。

1ヶ月ばかり、大西洋の向こうの新大陸に行って来て欲しい、と。

しかもこの要請、痴女皇国欧州地区本部のマイレーネという方の名義の文書で来ておるそうです。

「これを断るという選択は、あるのでしょうか」

私は、試しに聞いてみました。

(断ってもいいですよ…ただ、その時はフランス王国の王女の立場から降りて頂くことになります…そればかりか、アメリカ大陸におけるフランスの利益が喪失しかねません…)

ええ、血相変えたとおぼしきマリアヴェッラ陛下からの心話、速攻で飛んできました。

更には、この要請たるや痴女皇国に2人、いらっしゃる現役の後見役1人たるマイレーネという方だけでなく、もう1人の看視役でもあるアレーゼ米大陸統括本部長が出しておられること。

そして、建国して間もないアメリカ合州国の領土と受け持ち後見支部国家を定める重要な会合にも出席してもらうための下準備的な視察でもあるから、何がなんでも参加した方が良いであろうと、釘を刺されます。

で、同様に「行きたくない」と考えていたフラメンシアめも、イザベル陛下から「んな選択肢はあんたに許されてはおらん。何がなんでもアメリカ大陸に渡り、スペインの利権を確保するまでは帰ってくんな」的説教を食らっております。

ここまで言われては、行く以外の選択はないようです。

いえ、恐らくはフラメンシアめも同様の思いであろうとは容易に推測できるのですが、要は私もあいつも「あれと一緒に行きたくない」のです。

そして、指定された日までに旅支度を終えた私、フラメンシアと二人してパリ北東駅からロンドンに向かうという「黄金の矢」号なるれっしゃに乗り込みまして、ワーテルロー駅に到着しましたが。

一等客車から降り立ったわたくしたち二人の前に現れたのは、身なりはよいものの、細身の髭面にどこかしら堅気ではなさげな男。

しかし、その男が元・海賊の超大物で、今では国際的な大商人であるとの触れ込みのエドワード・ティーチという男であるのを知っていた私とフラメンシア。

更にそのティーチの横には、紫薔薇騎士団の英国駐在分団長と言われる女性と、英国支部長のクライファーネという女騎士様がいらっしゃいます。

「王族の方のご訪問というのにこんな身元怪しげな男の出迎えで、誠に申し訳ありませんな、王女様方…で、ミス・サリアン…王女様方のお忍びだってのは聞いてたけどよ…」

「まぁまぁティーチ、とりあえず王宮にお連れしますよ…」

つまり、我々は公式のフランスやイスパニアの王室の人間としては英国に来ておらぬ立場を貫かねらばならないのです。

何せ、この国と我らの祖国、長年に亘る確執があります。

特にイスパニアなんざ、ついこの間まで戦争の相手でした。

しかし、痴女皇国の介入と仲介によって、「戦争やるより商売がお得」という方向に、両国ともに舵を切らされたのです…。

で、イスパニアではカリブ海から中南米に至る地域で採れる諸々はもとより、英国本島では貴重な資源である木材を英国に供給。

その代償に、英国では造船技術や操船術をイスパニアに教え、海運や海事の取り決めごとの共通化に協力することとなったそうです。

その影響たるや、私どもフランスの造船にも及び、向こうの規格で船をこさえておかないと諸々困る羽目になったとも伺っております。

とりあえず、そんなこんながあって、今ではイスパニア人やフランス人が「わしはフランスやスペインから来たんやけど」と言ってもよほど乱暴狼藉に及ばない限りは襲われることはない程度に三国の仲は改善しておる模様。

(仲良くしとかねぇと、海賊共和国から持ち込むものの儲け話が聞けなくなるって脅してるしな…ま、おかげで我らが女王陛下も、あんたたちとの会談に及ばねぇと損する話になっちまうって事で、こうして非公式ながらお招きせざるを得なくなってよ…)

そう、我々は英国女王との面談に及ぶのです。

話を聞けば、英国も新大陸たるアメリカへの利権参画を強く主張しており、利害の関係が発生する立場であるとも。

しかし、英国王室のみならず向こうの軍人やら閣僚を交えて話をすれば、いかに長年の確執の相手である我がフランス、そしてイスパニアの王家の者であるとはいえど、少女二人に何をしとるのかということで密談面会となったようなのです。

(で、苦肉の策ってのが、ドレイク元帥閣下の書いた紹介状を携えた王室認定商人かつ、ロイヤルメール配達人の認定状を与えられた俺が、儲け話を持ち込んで来た外国の要人を陛下にお目通りさせるって三文芝居なんだよ…王女様方は匿名の貴人ではあるけど、痴女皇国が身元を保証するって話でな…)

(ですから人払いをした上で、限られた者だけのお話となりますよ…ご安心を)

(まぁ、フラメンシア殿下は黒薔薇資格者ですから、いざとなれば逃げ出せるとは思いますが…ほほほ)

で、わたくしたちを乗せたダンケ号、テムズ川であろう太い川を橋で越えますと、バッキンガムではなくその北側手前に所在する小さめの宮殿の裏手にある、馬車やくるまが何台か駐められた広場に入り、車を寄せられる入り口の前に停まります。

(このセント・ジェームズ宮殿は英国王室開闢の記念すべき宮殿。フランスからの公使をご案内する場所が例えバッキンガムであったとしても、名目はこのセント・ジェームスへの招待となります…英国王室も公的な住所はこのセント・ジェームスに居住するとしております…)

つまりまぁ、秘密のお話をするにも好適ということなのでしょう。

すなわち、私もフラメンシアも、ついこの間まではこの国と戦争けんかをするか、揉めていた立場の国の王家の人間です。

公式の訪問や謁見の手順を踏むと、色々と揉めるからこの古ぼけた宮殿に連れて来られた。

そして、説明によれば歴史と由緒があり、諸国の公使や大使と面会したり信任状を授ける場所としても使われるということで、決して失礼な扱いはしていないという意味合いの場所として、私たちを招いたようなのです。

(この車にしてもそうですよ…一応は要人輸送用の仕立てになっております…)

ええ、私たちを運んでくれたダンケ号、見た目こそ普通の荷車のようですが、重厚そうな椅子が中に4つほど置かれておりますね。

つまりは、英国としてはこうした秘密の来客に対する謁見面談の手順が確立されておるということ。

この辺は今後の我が国の統治の参考にしてもよいかも知れません。

(我がフランスではエリゼー宮に招くか、側のマリニー宮殿に滞在頂くのが一般的なお取り扱いとなりますね…英国王室であれば、恐らくはオルリーの客間をご用意させて頂く事になるとは存じますが…)

うちスペインならオリエンテ一択。もっとも、本当に重要な賓客は山中のサルスエラに招くのはテレーズもご存知でしょ…)

(なんであんなめんどくさい場所にと思ったけど、イザベル叔母様の性格と行動ならわからなくもないわね…)

そして、出迎えて頂いた人物がどなたかを知って、私は大いに驚きました。

「Bienvenue, princesses...失礼、フランス語はあまり得意ではないのですよ、失礼をお許しください」

呵呵大笑なさる髭の紳士たるや、今や英国宰相の地位にあるとされるサー・フランシス・ドレイクその人だったからです。

「いえいえ、私は単にこの、ぼろ館の執事のようなもんでして…では、我らが女主人と面会をば頂きましょう。これ、筆頭若執事と給仕頭、お嬢様方をご案内致そうではないか…」

で、その髭のおじさま執事頭(自称)の後に続くのは、これまた当代の英国で流行であるという紳士服や給仕服姿の見た目は若い男女です。

でまぁ、私たちが通された客間。

老婆ではありませんが、おばちゃんが一人おります。

ええ、大陸風のドレスとかではなく、足首が見える…これまた英国の婦人連中と一目でわかる、活動的な昨今の島流行りのすーつとかいう服装の中年婦人が、その中に。

んで、わたしらの格好。

あくまでも国籍不明を装うべし、と言われて送りつけられた服装だったのです。

何ですかこの、水兵服まがい。

なんでこの国、そういう持って回った衣装とか場所とか、とにかく何かにつけて捻ろうひねろうとするのか。

とにもかくにも、そのご婦人は立ち上がると、ようこそと私たちの手を順番に握られるのです。

で、その際に注意事項を聞かされておりました。

こっちからは絶対に先に握りに行くな。

それと、握る順番で、英国がどっちを優先するかを伝えてくるからと。

「ええと、お父様とお母様がこの間お亡くなりになった方は…貴女ですのね。なるほど…まずは、とある国の女王と王配もその死を嘆き悲しんでおったこと、お伝えさせて頂きますわ」

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ふらめ「なんであたしが後回しなんすか、ドレイク卿っ」

どれいく「まぁまぁフラメンシア殿下…うちの陛…我らが淑女様の服装やベールの色の話がこの後に出るそうですので…」

ふらめ「弔意をお示しだけならいいんですけど…それと、若い執事様と女中様、潮の匂いがかすかに」

めいど「亭主…いえ、執事様と船に乗ることもありまして…ふほほ」

てれーず「あと、何やら下賤の踊りが得意そうな足さばき。私とフラメンシアもバレエを習わされておりましたからね…」

しつじ「わわわわわわ私もエま…いえいえ女給仕とは長年の不倫関係にあったとかそういう事はぁっ」

どれいく「というわけで、既に茶番甚だしい面子ではありますがな、一つ英国流の茶の時間をお楽しみ頂ければと」

ふらめ(お菓子の甘さが感じられない茶会になりそうね…)

てれーず(うちの国のお菓子、持ち込んだ方が良かったかしら…)
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